これは2020年に創立25周年を迎えた葛城市の市民劇団「くすのき」の記念公演だ。ほんとうならたくさんの観客を迎えて大々的に上演したであろうはずが、コロナのため関係者のみの無観客での公演になった、らしい。今回の公演は、その3月に公演された作品の映像上演である。「25周年記念公演スクリーン上映会」と銘打たれた改めての一般観客へのお披露目公演だ。
evkkの外輪能隆は、この10年ほど、この市民劇団の公演を支えてきた。毎年連絡は頂いていたけど、土日は仕事が(クラブ活動)あり、見に行くためには活動を終日休みにしなくては遠出できなかったから、行くことができなかったが、この春から仕事をやめているので、今回は大丈夫。残念ながら映像上映だけど、ようやく念願だったくすのきの芝居を見ることができてよかった。
今回の映像上映は、無観客で上演された舞台を、公演と同じ空間である彼らのホームグランドの当麻文化会館で上映した。生の舞台ではないけど、劇場の雰囲気、スクリーンサイズが舞台とほぼ同じサイズであったことも相俟って、ただの配信映像とは全く違ったライブ感があり、編集も的確で、とてもよかった。こういう試みを目撃するのはウイングフィールドでのジャブジャブサーキット映像上演会に続いて2度目になる。
外輪さんはいつものようにひょうひょうと「こんなこともやってます」と話してくださった。evkkとは全く違った外輪作品を目にして、彼のもうひとつの確かな一面を垣間見られたのがうれしい。
椰月美智子の小説もこういう感じだった。外輪さんは原作のよさを丁寧に掬い取って、無理に自分の世界に落とし込むのではなく、市民劇団くすのきの世界として取り込んでいく。その手綱さばきは見事だ。明るくノーテンキな雰囲気の中に椰月作品や外輪作品の持つダークな世界がきちんとスパイス程度に効果的に織り込まれている。
るり姉の病気入院から、屋上で花火大会を見るシーンの不穏な空気から、一気に時間が遡り、彼女を通して3姉妹とその母親であるるり子の姉の4人が、るり姉をどう思ってきたかが描かれていく後半も、それ以前の前半と同じようにサラリとしたタッチでフラットに描かれ、一見単調すぎる展開に「えっ?」って気分にさせられるが、実はそこもまた意図通りなのだ。
ラストでるり姉が再登場してくるオチも含めて何でもない日常が続いていくことの愛おしさがしっかりと伝わってくる。いつも不健康(!)な外輪作品を見て、こんなにも元気をもらえるなんて、なんだか不思議な気分だった。もちろんそれは妥協の産物ではなく、彼の素直で誠実な心持ちが作品に反映された結果である。彼の作品は、表面を彩るそのスタイリッシュな空間だけでなく、その底にある人間に対する確かな目線がぶれることなく提示されるから信用できる。