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映画・演劇のレビュー

乾緑郎『浅草蜃気楼オペラ』

2024-06-25 07:30:00 | その他

大正浪漫の歌劇物語。女学校を卒業して東京にやって来た妙子、16歳。女優を夢見て帝国歌劇団(帝国劇場洋楽部)に入るが、まるで役は付かない大部屋暮らし。叔母の家で暮らすが、彼女も売れない作家で生活はカツカツ。そんなある日、街頭バイオリン弾きで生計を立てていたハルと知り合う。ふたりの友情物語のようにも見えるが、必ずしもそうではない。ふたりは一緒に夢に向かうのではない。一緒に暮らしてもお互いはひとりひとりだ。

これはそんなひとりの少女が駆け抜けた時代。オペラを日本に根付かせるために奮闘した人たちの群像劇にもなっている。朝ドラになりそうなお話。関東大震災で浅草が壊滅状態になるところがクライマックス。必死になってオペラをこの国で育てようとしたこと。妙子が夢にまで見たカルメンの主役を演じたこと。それで彼女の夢は叶ったのか?

ひとつの夢に向かって邁進して砕け散った人たちのドラマを大正時代という日本が夢見る時代を背景にして描いた。それをドラマチックに描くのではなく、わりと淡々としたタッチでクールに描いたのは意外だった。主人公に感情移入して一喜一憂するのではなく、客観的に時代や彼女たちの置かれた現実を記述する。浅草オペラを夢見た一時の日々を描いた大正浪漫の世界に浸るそんな小説。実在した人たちのドラマを下敷きにして、フィクションとして仕立てた。もちろん主人公の妙子は架空の存在だが、彼女のような少女たちは確かにいたのだろう。


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