中江有里は十代の頃から女優として活躍していたが、作家としてのキャリアも確実に積んできた。でも、僕は今まで彼女の小説を読んだことがなかった。ようやく昨年になって初めて『万葉と沙羅』を読んだのだが、なかなか面白くて感心した。でも、今回、これを読んで衝撃を受けた。彼女の本当の実力を思い知らされた気がする。うまいなんてものではない。これは凄い。お話で見せるのではなく、人物の掘り下げが深く、なのに、さらりとしたタッチで、どんどん登場人物それぞれの内面へと引き込まれていく。相互の関係も自然でお話には無理がない。作者は敢えて主人公を「残りもの」というが、そんな謙遜がとてもうまくこのお話の内容や彼の性格、行いと重なる。それが幸せなラストにつながる。
今まで彼女の小説を読まなかった不徳を恥じよう。機会もなかったけど、実をいうと役者の片手間で書いているのではないかと、少しだけ彼女のことを軽く見ていたのかもしれない。すみませんでした。
今回も短編連作という形を取る。6人の結婚式の参列者(新郎新婦も含む)が語る自分自身のこと、新郎新婦のこと。短編としてもとてもよくできているけど、一番遠いはずのところから徐々に近づき、最後の新婦を経て、新郎へと至ることで、彼ら夫婦の物語が完結する。残りものには福がある、に引っ掛けたタイトルはシャレではなく、シリアスだ。47歳独身の肥満体男が、年の離れた(29歳)の美人と結婚する。彼が会社社長だから、玉の輿で、財産狙いで、と揶揄される。だが果たしてそうか? 答えはラストで明らかになる。
1話目の主人公は仕事で(「レンタル友だち」として)この結婚式に出席する女性の話。新婦の友人として式に列席するだけではなく友人代表としての祝辞まですることになった。でも、他人である。だけど、式に臨む彼女を見て、シンパシーを感じる。自分は今不妊治療をしていて、もう諦めたほうがいいのかも、と弱気になっている。夫の気持ちを信じられなくなっている。そんな彼女がこの式を通して変わっていく。
2話目は新郎の友人。3話目は新婦の従姉妹。さらには今回結婚式には呼ばなかった新郎昔好きだった人と続く。そして、新婦、新郎という順番だ。それぞれのエピソードは単純ではない。彼ら、彼女らが抱えている様々な問題がきちんと描かれ、それがこの結婚を通してどう変化していくのかが描かれる。それが「遠くから近くへ」と近づき、核心へと。ひとつひとつのお話が独立しつつも、ちゃんとつながっていき、長編小説として完結する。みんなが彼ら二人の結婚を祝福する。