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映画・演劇のレビュー

baghdad café『トーク・アバウト・ハー・ライフ』

2013-07-08 21:46:46 | 演劇
 あるグループ・カウンセリングの風景がドキュメントされる。これは精神科の治療の一環としてなされているのか、それとももっと別の何かなのか。説明は一切ないから、よくわからない。進行を担当するカウンセラーから、自分の気持ちを客観描写で表現してみんなに語るように言われる。男女6人が、第三者として自分を話す。穏やかな空気で、静かな雰囲気のはずだった。

 ひとりの女性が口火を切るように言われる。「さぁ、しゃべってください」と言われてもなかなかしゃべれない。だが、一瀬尚代さん演じる女は語りだす。自分は主婦で、子供がいる。でも、不倫している。心の中にあるものを、外に出す。だんだん感情的になる。抑えていた気持ちが溢れだす。おかしいのは彼女だけなのか。やがて、そうではないことが明らかになる。

 その日はハーさんがまだ、来ていなかった。彼女はみんなから好かれている。彼女に会いたくてこのセラピーに来ている人も多い。だが、やがて、この不在の彼女の存在が、この劇を突き動かす原動力となる。ハーさんは「her」さんのことで、実態のない「彼女」を巡るドラマが展開する。

 台本にはト書きだけで、一切台詞は存在しないらしい。だから、役者たちが、自分の言葉で語るしかない。今回、作、演出の泉寛介さんは、小空間を舞台にして、純粋な「会話劇」を目指した、らしい。だが、そこには、あらかじめ一切言葉が用意されない。劇場ではなくカフェを会場にして、狭い空間に8つの椅子を置き、円になって座る。(空席はハーさんの席だ)客席は狭いし、アクティングエリアもギリギリだ。息苦しい。そんな中で、自分の心を語る。閉ざされた心を開放する。不在のハーさんを通じていくつもの対立の図式が見えてくる。ぶつかり合い、パニックになる。

 心を病んだ人たち。社会に適応しきれない。でも、自分が病んでいるとは認めたくはない。ナビゲーターであるカウンセラーに食ってかかる。一気に険悪なムードになる。理不尽なことを言い出す人もいる。一触即発の危機感が漂う。ピリピリした空気が充満する。

 休憩時間になる。各々自由に席を離れる。残された2人。ハーさんを巡る対話からとんでもないことになる。それは同じように男3人が彼女の話をしている現場でも起こる。不在の彼女を通して、彼らの現実が明らかになる。自分が作り上げたフィクションをリアルに演じていくうちにそれが現実そのものとなっていく。それは、この芝居自体の仕掛けでもあるし、演じる役者たちに仕掛けられたものでもある。

 落とし所がなくなって、ラストは無理やりまとめてしまったのは、もったいない。その先が見たかった。だから「翼をください」はいらない。しかし、それくらいの逃げ場を作らなくては、作品としてあまりにおさまりが悪いことも事実だろう。見たくもないものを見てしまったような居心地の悪さ、しかし、それと向き合うことは必要だ。



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1 コメント

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ありがとうございました。 (一瀬)
2013-07-18 19:01:56
baghdad cafe'の一瀬です。
改めまして、ご来場ありがとうごさいました。
遅くなりましたが、ご感想ありがとうございます。
久しぶりにお話もさせて頂けて嬉しかったです。
良い作品が作れるよう、これからももがいていきたいと思います。
本当にありがとうございました。
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