駅前の中心部にあるにも関わらず建設途中のまま、ほっぽり出されたままのビルがある。工事は中断されたまま月日が経ち、廃墟と化している。5階建てのこのビルの最上階の窓から、女が飛び降り自殺した。
そんな事件の後も、ここは取り壊されることもなく、ましてや工事が再開されることもなく、放置されたまま、今もある。
ここに毎朝集まって来て、ラジオ体操をして去っていく一団の物語である。彼らは死んだ女と生前 . . . 本文を読む
「あぁ、見てしまった」という気分だ。「凄い」とか、「いい芝居だった」とか。そういう月並みな言葉にはしたくない。ずっしりと重いものが、しっかりと手渡される。メッセージなんてものではなく、人がこの世界で生きていくことの重さが、伝わってくる。
「たった一日で、世界が変わるわけではない」しかし、、そのたった一日の体験が人を変えてしまう。その現場にいて、その様子を見て、考え、そして感じたことが、その後 . . . 本文を読む
こんなにも美しいラブストーリーは久しぶりだ。そして、こんなにも愛に満ちた人生の先達への敬意の念を描いたドラマも稀であろう。もしかしたら今まで誰もそんな映画を作ったことがないのではないか。
これは岩井俊二から、市川崑への『Love Letter』である。大好きな師にむけて、とても個人的な想いを、冷静に綴るドキュメンタリーとすら言えない私信。究極のプライベート・フィルム。
かって新藤兼人は師 . . . 本文を読む
たった10分から15分程度の短編映画が5本並んでいる。しかも、8ミリフイルムで撮った映像はきめが粗くあらくて、せつなげだ。映画としてはあまりにか細くて、すぐに消えてしまいそうで、はかない。
御法川修監督のデビュー作である。彼はこの素材を活かすために、敢えて8ミリ撮りを強行した。この試みは見事に成功している。
5人の男女の5つの小さな物語は、ほぼ全てが主人公のモノローグにより綴られていく。 . . . 本文を読む
いじめにあって死んだ男の子の初七日を迎えるまでの教室が舞台だ。彼の不在。彼の残した妄想が書かれたノート。そこに描かれる出来事をクラスメートの女の子が読む。現実と妄想が入り乱れて描かれる。
帰国子女の彼女は、ノートを読みながら、死んだ彼のノートに書かれた出来事と、自分が見てきたこと、感じていたことがごっちゃになっていく。どこにホントがあるのか、よく分からない。彼女は、彼はクラスの人気者だったと . . . 本文を読む
24ステージ。約1ヶ月のロングラン。しかも、この公演の後、1年間は本公演をしない。劇団員のみでの上演。かなり思い切ったことをする。それだけ、今回に賭ける意気込みは強いものと思われる。僕にとっては、久しぶりのデス電所である。彼らの作品はデビューの頃からずっと見ていた。それだけに思い入れも強いから、だから、ここ数年見ていない。なんだか少し違う気がして、少しずつ足が遠のいてしまっていた。嫌いになったの . . . 本文を読む
前半は正直言ってあまり乗れなかった。漫才とか、全く興味ないし、芸人の話というだけでなんか引いてしまうくらいだ。途中で何度かやめようかな、と思うくらいの勢いだったが、途中で投げ出すのは嫌いだし、小山幸久の『幸福ロケット』が好きだったので、このデビュー作を読み出したのだから、やめずに無理して読んで行く。すると、後半2人が成功していくところからは、わりとすいすい読めた。
豆タンクのアカコと、180 . . . 本文を読む
6つの作品からなる短編集。6人の女性作家が、旅をテーマにして紡ぎあげる連作。それぞれ別々の作品だが、日常の延長線上にある旅をとても巧みに捉えてある。主人公が実際に旅をする作品もあるが、そうではなく、ほんの少し旅の気分を味わうことで、生きていく実感を感じさせるものに、心惹かれた。
平田俊子『いとこ、かずん』が僕的にはベスト。これは、大学生になり、東京に出てきた従弟を家に下宿させる話。もちろんこ . . . 本文を読む
けっしてつまらないとは言わないが、この程度の味付けでは、納得いかない。40歳前後の中年男が、もう「男である」ことは棄てたはずなのに、一人の女を好きになり、のめりこんでいく。相手は派遣社員としてやってきた31歳の独身女性。偶然バッティング・センターで必死にバットを振っている彼女と出会い、ノリで仲間と一緒にカラオケに行き、酔いつぶれた彼女を家まで送って行ったところから、交際が始まる。自分には妻子がい . . . 本文を読む
封切り2日目の夜、劇場に行ったら、日曜の夜なのに若い子供たち(高校生くらいの子たちのことです)でいっぱいだった。凄い人気なんだなぁ、と驚く。2時間、ずっと喧嘩ばっかりしてる。まるでヤクザ映画を見てる気分。
鈴蘭男子高校というありえないような暴力高校を舞台にして、ここでの縄張り争いと抗争が繰り返されるだけで、彼らには家族とか、授業とかいう日常生活は一切ない。(まぁ、描かれてないだけで、ないわけ . . . 本文を読む
縦4枚、横9枚の計36枚のパネルが舞台の上を覆いつくす。そこには様々な生き物の絵が描かれてある。動物だけでなく植物もある。そのちょうど中央には地球が描かれてある。その地球のパネルが外れたとき、向こう側には、絵と同じ大きさの地球が浮かんでいる。そして、それがゆっくりと動いていく。ぐるりと回って裏にいくと、そこは文字盤になっている。1から9までの数字が書かれてある。
パネルは次々に外されていき、 . . . 本文を読む
ニール・ジョーダンがなぜ、この手のハリウッド映画を手掛けたのだろうか。別に商業映画がよくないなんて全く思わない。彼の作品はアート系とはいっても、とても解りやすくて、ハリウッドでも通用するスタイルなので、正直言うともっとハリウッド大作を手掛けてもいいくらいだ。だけどもデビット・フィンチャーのようにスタイリッシュなだけでなく、その底に、もう少し気味の悪いドロドロとしたものが流れている。(それがハリウ . . . 本文を読む
11人の作家による短編連作。タイトルが全体のテーマになっている。それぞれが自由にこの課題に対してアプローチをかける。もう「大人だから」というある種のあきらめがテーマになっているものが多い。大人ということを肯定的に捉え、大人だからこんなに凄い片思いができるんだ、なんていうアプローチをする作家は残念ながらいなかった。
片思いというのは、若い子の特権ではない。大人だって片思いをする。ただ、片思いっ . . . 本文を読む
トリスタン・ツァラの『雲のハンカチ』というテキストを使って、前回と同じように、物語を見せていくのではなく、物語の枠踏みを完全に解体してしまう。そのへんは前作以上に徹底している。
一応、「夫に構ってもらえない妻が、詩人に恋をして、彼を追いかける」というストーリーはあるのだが、正直言ってパンフにある<あらすじ紹介マンガ>の内容すら舞台上からは理解できなかった。後で、このマンガを見て、そんな話があ . . . 本文を読む
芝居のタイトルがこんなにも丁寧に内容を説明している芝居を見たのは、初めてではないか。丸尾さんの描きたかったことが、そのまんまこのタイトルには込められてある。
役者として、「挫折」してしまった女が、彼女を慕う劇団員の「思いやり」によって企画された「連続殺人」というショーを見る。このコンセプトをいかに大事に見せるかが、今回の芝居の成否を握っていたはずだ。しかし、いろんな意味で欲張りすぎて失敗して . . . 本文を読む