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映画・演劇のレビュー

『(500)日のサマー』

2010-10-20 20:54:20 | 映画
 久々に心ときめく映画に出会った。こういうラブストーリーが好きだった。でも、最近はこの手の映画にもときめかない、と思っていた。先日『君に届け』を見て、あんなにも乗れなかった自分が悔しかったのだが、それは必ずしも僕のせいだけではない。今日、この『(500)日のサマー』を見て、最初からワクワクしたし、ずっとスクリーンから(DVDなので、厳密に言えば「ブラウン管から」なのだが)目が離せなかった。トムとサマーの500日の恋物語を固唾をのんで見守ることになった。

 この設定がまず大好きだ。うまく自分の気持ちが伝えられない弱気な男の子と、誰にも期待しない意固地な女の子。2人の子ども時代のスケッチから始まり、出会った日から500日後までが、時間を自在に前後させて描かれていく。500日のすべてがたった96分の映画の中にしっかりと収められている。短いシーンを断片のまま積み重ねたり、ショートストーリーとして、きちんと見せたり、様々な方法で大切な「あの日、あの時」が綴られていく。楽しかった日、悲しかった日、徐々に心を開いた頃、だんだん上手くいかなくなった日々。

 恋をすれば毎日が一喜一憂だ。つまらないことに悩んだり、些細なことに喜んだり。この映画はそんななんでもない時間をきちんと捉えていく。映画はトムの視点に統一される。だから、彼女の本心は謎のままだ。サマーという、とても面倒くさい女の子の内面は、トムの前で彼女が見せたところからしかわからない。何が彼女をそうさせたのかは、トムと同様、僕たちにもわからない。彼女がひとりでどんなふうに生きてきたのか、そして、今、何を思うのか。想像するしかない。彼女は、恋人になるのは嫌、と言う。でも、彼は、自分たちは充分恋人同士だと、思う。心を割ってお互いにひとつになって愛しあいたいと願うのは、我がままなのか。彼女が心を開かないのはなぜか。何を恐れているのか。トムには理解できない。だから、寂しい。こんなにも好きなのに、と思うのも、独り善がりのわがままだと言うのか。

 彼には仲のいい友達が2人いる。(映画によくある男の子3人組だ!)彼らはいつもトムのことを心配してくれる。一緒に遊び、恋の話を聞いてくれて、アドバイスをし、冷やかしをくれる。歳の離れたおしゃまな妹は真剣に恋の相談に乗ってくれる。仕事は順調で、会社では社長からも期待されている。ただし、本当はポストカードのコピーライターではなく、建築の仕事に就きたかった。でも、今の仕事には不満はない。

 何度となく繰り返されるデート、仕事場でのやりとり。(サマーは同じ会社の社長秘書だ! この映画は、彼女がこの職場にやってきた日から500日のお話である)そんなささやかな日常のあれこれが、短い描写で、テンポよく、切り取られていく。誰もが心当たりのあるようなエピソードが満載されている。それはきっと誰のものでもある「特別」である。

 終盤、サマーと別れた後の場面が悲しい。彼女に新しい恋人が出来たことを知り、失意の日々を送る。自暴自棄に陥り、会社も辞める。でも、人生は続く。ラストの再会と、新しい旅立ちのシーンがすばらしい。これだって、ありきたりだと言えば、ありきたりかもしれないが、こんなふうにして、人は生きていく。なんだか、見終えて元気が湧いてくる。久々に素直に好きだ、と言える映画を見た。うれしい。

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