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映画・演劇のレビュー

片川優子『動物学科空手道部1年、高田トモ!』

2010-10-27 20:36:32 | 映画
 こういう青春小説を読んで、こんなにも素直に感動できてうれしい。作者が現役女子大生で、自分の体験を生なまま小説として描いていくことが結果的に上手く機能したからだろう。主人公が等身大であるのがいい。大人が頭で作った嘘くさい女子大生ではない。こんなふうにどこにでもいるような普通の女の子のありきたりな日常がこんなにもキラキラ描かれるって、ちょっとした奇跡だ。お話に無理がない。退屈になりそうなくらいにさりげない。だが、そこにリアルを感じる。

 友だちを作ること、ひとり暮らしを始めること。大学で学ぶ新しい様々なこと。動物学部というちょっと特殊な環境のこと。高校の時の悲しい恋の顛末から、恋愛はもういい、と思っていること。なのに、男の子を好きになってしまうこと。「特殊な」(と、言っても彼らにとって、というレベルだが)ドラマの世界にのめり込むことはない。普遍性のある普通の「ありきたり」に終始する。特別だと言えば、すべてが特別になる。人生はひとりひとりにとってかけがえのないものだからだ。そういう次元から話は展開する。

 空手部に入部して、辞めることなく部活を続ける。女子大生の中にあるキャピキャピした私たち女の子です、って感じが嫌で、武道を始めた。それは最初はお姉ちゃんへの反発だったのだが、だんだんそんなこと、どうでもよくなる。空手が好きだったのではない。だが、始めた以上最後までやり通そうとする。それは、自分に課したルールだ。だから、守る。恋より部活を優先させてしまうような女だから、優しい彼と、これ以上はつきあえない、と思ってしまう。真面目すぎて損をする。だが、どうしようもない。それが彼女の性格だから。

 高田トモという女の子がこれから先どんなふうになっていくのか、とても楽しみだ。そこには、何一つ特別なことはないだろう。だから、楽しみなのだ。18歳の女の子が、どんなふうに20歳前後という時代を生きるのか、それを目撃したい。忘れかけていた大切なものがそこには確かに隠されてあるはずだ。もう一度「それ」と向き合いたい。今の自分が失ったものがそこにはある。たとえもう取り戻すことは不可能でもせめて認識はしておきたい。だって、それすら今は忘れてしまっているのだから。


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