おばあちゃんのスカートの中に隠れていたオスカル(ギュンター・グラス『ブリキの太鼓』)をモチーフにして、いつものように自由自在に妄想の翼を広げる「いちびり一家」最新作。前回の〔いちみり☆しあたぁ〕『怪談隣の家』も素晴らしかったけど、今回、大きな舞台を縦横に使い切ったこの作品は最高に素晴らしい。
演劇であることの魅力を最大限に満喫させる。応典院をここまで広い空間にして見せる芝居はなかなかないだろ . . . 本文を読む
放置されたままのクジラの巨大な骨。その強烈なポスターのビジュアルが印象的で、それだけでこの映画が見たい、と思う。もちろん、今ロシアを代表する(というか、世界を代表すると言ってもいい)巨匠アンドレイ・ズビャギンツェフ監督の新作である。今回も実に重い映画だ。しかし、ここからは目が離せない。
壮大な風景の中で描かれる人間の営み、という基本的なコンセプトはいつも変わらない。自然の圧倒的な描写がまずあ . . . 本文を読む
この不気味な小説は、3歳の少女の大人びた視線を通してすべてが語られていく。大人になった今の彼女の視点から、当時の彼女の周囲のドラマが、3歳の時間のリアルタイムとして見せていかれる。「あなた」と語られる新しい母となる女性のことを、「わたし」であるあの頃の自分の目から語るのだ。
事故に(自殺かも)よって母を喪い、そこに新しい母として入ってきた父の愛人だった「あなた」。あなたは別にわたしの義母にな . . . 本文を読む
今週は野心作ばかりが登場するけど、その中で一番楽しみにしたのが、この作品だった。土橋淳志脚本、笠井友仁演出、という布陣だけで期待はマックスになろう。しかも、このタイトルである。パンフにもあるようにテーマは今の「日本」だ。こんな大きな漠然としたテーマを設定して、どこをどう描こうとしたか、気になって仕方なかった。さぁ、「日本」をどう描くのか。お手並み拝見。
「メイド」は、メイド喫茶のメイドのこと . . . 本文を読む
昨年の第一部に続く完結編である。2部構成4時間の大作仕様で作られた壮大な歴史ドラマというスタイルで、ブルーシャトルの魅力を全開させようという試みだ。
確かにそれは第一部では成功した。だが、この第二部ではどうだったのか、というのが今回最大の興味だった。最初から二部構成で作られてあるから、全体の構造は出来ていたはずだ。前篇でばらまいた伏線をすべて収束させることは容易である。だが、広げた風呂敷をた . . . 本文を読む
ワンステージ30名(推定)限定。それ以上観客は入れない。舞台となる狭い空間を四方から観客が取り囲む。客席は一列で設定。4面それぞれ8名程度になる。(ちゃんと数えておけばよかった。一部2列になるが、それは定員を超える観客のせいで、演出家にとっては不本意だ。外輪さんの美意識には反する。)
観客が4人の家族(役者たち)を取り囲む。(途中から外部の人間が入り込むから役者は5名だけど)観客は安全で安心 . . . 本文を読む
この不気味な摑みどころのない芝居を見ながら、単純そうに見えるストーリーを、とてもイビツなものとして提示する作り手のセンスには共鳴しないけど、作者の好む「不条理なナンセンスな設定」には少し心惹かれる。「こいつは一体何を考えているのか?」と、なんだか気が気じゃない。作、演出、ゴン駄駄吉。
彼は『生きものの塊』というなんだか生々しいタイトルに
「喜劇・三匹のこぶた」という軽目のわかりやすいサブタイ . . . 本文を読む
トッド・ヘインズはこの地味な映画をさらりと提示する。50年代アメリカを舞台にして同性愛の女たちを主人公にした(当時としては)センセーショナルな出来事を扱う映画、というよりも、いつの時代でもいい、どこの国でもいい、ただ、ふたりの人間(それが、たまたま女同士だった)を主人公にした「純粋な愛」についての物語。
ひとりの女性を好きになり、そんな自分の気持ちに忠実であろうとしたふたりのお話。女同士であ . . . 本文を読む
昨年、劇場で絶対に見ておきたいと思った1作である。なのに、見逃してしまい、一刻も早く見たいと思っていた。ようやくDVDが出たので、さっそく見た。やはり、劇場で見なくてはいけなかった、と思った。この緊張感がTVでは伝わりきらない。だから、見たものからそれを想像するしかない。
優れた映画はストーリーではないから、劇場でなくては正確に目撃できない。わかっていたけど、ここまでもどかしいことは、久々で . . . 本文を読む
2時間42分の大作である。最近はこのくらいの長さの映画が少なくなった気がする。たぶん興行の関係からだろう。全力投球の超大作自体も少ない。これは作家が渾身の力を込めて挑む作品だ。
だが、スコセッシはまるで気にしないで、そういう汗くさい映画をここに作り上げた。凄まじい映画だ。なのに、それは長さを感じさせない。静かな映画だ。
描かれるのは地獄のような光景である。そこからはスコセッシの執念が伝 . . . 本文を読む
GReeeeNを主人公にした伝記的映画。実話をもとにして、彼らの「軌跡・奇跡」を描く。実在のミュージシャンをモデルにしたフィクションというのはあまりにそのままの設定で、では、先に書いたように彼らの伝記かと言われると、さすがに現役ミュージシャンの伝記というのは、なんだか、と思う。GReeeeN誕生秘話なんていうキワモノ。それもなんだかなぁ、という感じ。なんともおさまりのよくないスタンスなのだが、出来 . . . 本文を読む
またまたマーベルコミックの新作である。今回は医者でヒーロー。魔法を身に付ける。不思議の世界で戦う。とりあえずの新機軸は用意した。あとはそれをどうアレンジして見せるか、そこが監督の腕の振るいどころ。予告編で見た目の前の空間がどんどん位相を変えていくシーン(『インセプション』みたいな)は面白そうで、少し期待した。
しかし、予想に反して、つまらない映画でがっかりした。上から目線の天才医師が、事故に . . . 本文を読む
MONOの土田英生の作品に挑んだ。個性的な役者たちのスタンドプレーが、実に見事なアンサンブルとなるオリジナルを若い劇団がどう自分たちのものにして立ち上げたのかが興味の争点だ。5人の役者たちは健闘している。それぞれのキャラクターをちゃんと表現できているから、見ているぶんには楽しめる。だが、そこまでだ。
この作品が描く不気味な状況を軽妙なタッチの先に提示するまでには至らない。ストーリーを追いかけ . . . 本文を読む