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映画・演劇のレビュー

『キセキ あの日のソビト』

2017-02-03 00:42:44 | 映画
GReeeeNを主人公にした伝記的映画。実話をもとにして、彼らの「軌跡・奇跡」を描く。実在のミュージシャンをモデルにしたフィクションというのはあまりにそのままの設定で、では、先に書いたように彼らの伝記かと言われると、さすがに現役ミュージシャンの伝記というのは、なんだか、と思う。GReeeeN誕生秘話なんていうキワモノ。それもなんだかなぁ、という感じ。なんともおさまりのよくないスタンスなのだが、出来上がった作品は意外にも、とても面白い。



GReeeeNであることは、別に意識しなくても構わないし、監督はそこには一切拘らないで、これをとある家族の物語として描いていく。たまたまこの兄弟が音楽にこだわり、成功しただけで、彼らがミュージシャンであることは映画としての優先順位としては2の次、なのだ。



大学受験に失敗して2浪目に突入する弟と、ミュージシャンを目指して父に反発して、家を出ていく兄。そんなふたりを主人公にして、彼らの生き様を描く。是枝裕和監督の助監督をしてきた兼重淳のデビュー作。師匠ゆずりの丁寧でちゃんと人間に寄り添う姿勢が作品にリアリティを与える。淡々としたタッチで2人と彼らの家族(医者で厳格、自分の仕事に対してプライドを持つ父親、子供想いで優しい母親。たぶんもう結婚していて、今では家を出ているけど弟たちが気になる姉)を描いていく。



GReeeeNの4人組のお話はあくまでもサイドストーリーでしかない、というスタンスである。この立ち位置がこの作品を魅力的なものにした。「兄と弟のどこにでもあるようなお話」なのに、それをパターンに落とし込むことなく、彼らの抱える物語として、リアルに描いていくのがいい。兄を演じた松坂桃李、弟の菅田将暉。彼らの自然体の芝居がこの作品を成功に導いた。この奇跡のような物語は単なる有名ミュージシャンの成功譚ではない。



受験勉強のしんどさ、大学生活の楽しさ。勉強と音楽。その両立の困難さ。ここに描かれるそんなことのひとつひとつは、誰にも心当たりのあることばかりだろう。それは、夢をかなえプロのミュージシャンになったのに、上手くいかない兄のお話も同じだ。プロダクションの移行を汲むことで、自分たちの目指す音楽からどんどん離れていくこと。仲間の離脱。才能の限界。みんなが感じることがここでも描かれる。そんな等身大の青春がちゃんと描かれてある。だから感動する。
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