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映画・演劇のレビュー

『ネバー・ゴーイング・バック』

2022-12-23 08:41:28 | 映画

別に特にこれを見たかったわけではない。この日、芝居と芝居の間の空き時間でちょうど見られる映画がこれしかなかったから見ることにしただけだ。いつものようにたまたま。それにしてもいくら平日の夕方の回とはいえ、公開1週目の上映なのに観客は5人しかいないのはなんだか、だ。しかもなんばのTOHOシネマズでの上映なのに。きっと2週目からは1日1回上映にされてしまうことだろう。

今流行りの「A24映画」である。ただし2018年作品。どうして今頃公開したのか、そのわけが気になる。しかもA24お得意のホラーではなくこれは青春映画だ。しかも恋愛ものではなく女の子同士の友情を扱うガールズムービー。『グリーンナイト』のデヴィッド・ロウリー監督の奥さんだというオーガスティン・フリッゼルが作ったデビュー作らしい。もしかしたら、これは思いもしない拾い物かも、と少しだけ期待した。

だが、見始めてゲッと思う。なんなんだこの下品な映画は、と。冒頭からなんだか嫌な予感がした。安物で安易な映画の予感。少女二人(アンジェラとジェシー)が目覚めるシーンから始まる。ダブルベッドでふたりでだらしなく寝ている。目覚ましが鳴る。なかなか起きれない。むき出しのお尻がスクリーン一杯に映る。さらに彼女たちが部屋を出て同居している兄とその友達たちと会話するシーンやバイト先のダイナーに行くシーンへとつながるのを見ながら、もしかしたら大失敗したかも、と不安になる。エロ動画、ドラック、わけのわからないパーティの日々。こんな映画に貴重な時間とお金をつぎ込んだおバカさん。

うんざりしながら、見守るしかない。高校を中退して、ダイナーで生計を立てバイト暮らしのふたり。家賃もちゃんと払えない。ルームシェアしているふたりは、狭い家でドラッグの売人をしている兄とも同居している。(といってもまるでお互い関知しないで暮らす。家賃を折半するためだけの関係)治安の悪い地区での刹那的な生活。この先どうなるかなんてまるで見えない。でも、ジェシーの誕生日にアンジェラはあこがれの(でも客観的には、しょぼい)リゾートビーチへの小旅行を計画する。それだけが今は最大の楽しみ。だが、ある朝、突然の強盗騒ぎからそんな予定が狂い始めむちゃくちゃになる。

うんざりしながら見始めたのに、だんだん彼女たちのどうしようもないおバカな時間に引き込まれ、気が付くと応援している。ほんとにうんざりするような毎日だけど、それでもここで生きていくしかなし、これはこれで楽しい(かも)と思うしかない。そして至福の(とんでもない)ラストが訪れる。

思い余って(でも半分冗談から)友人の働く店に強盗に入り、しっちゃかめっちゃかがあり、金庫から大金を盗み出す。これって犯罪じゃん、と思うけど、この店のオーナーはスーパーで出会ったあの不快な男で変態野郎。彼からならお金を盗んでみてもいい(わけはないけど)と思う。ゲロ吐いてうんこして大笑い。こんな映画有りなのか、とあきれるしかないけど、なんだか爽快。

ラストのビーチでの幸せそうなふたりを見守りつつ、こんな映画だって十分あり、だと思う。これはオーガスティン・フリッゼル監督の自伝的映画だという。こんな笑えるような悲惨からスタートしたのだ。そんな彼女が映画監督になり、この作品を作る、という現実がこの主人公たちふたりの未来にもつながるのか、と思うとさらに幸せな気分になる。

 


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