こんな小説なかなかない。自由奔放。恩田陸本人(のナレーション!)が出てきて、主人公の行動や時代背景を解説してくれる。もちろん同時に本人(主人公のほう)の告白もある。語り部がそのふたりなのだ。そこにはひとりの女の子が生まれたところから23年間が丁寧に描かれていく。というか、丁寧というより、思いつくまま好き勝手に、という感じ。
ほんとうは1冊で完結するはずだったのに、作者が寄り道ばかりするから話がどんどん長くなり収集がつかなくなったため、今回は大学を卒業するまでで終わらせたようだ。この後、立志編(たぶん、そんな感じ)が書かれる予定(らしい)いやはや。
朝ドラみたい。15分ずつ毎朝読んでいくともっと楽しめるはず。でも、楽しいからどんどん読み進めてしまいたった2日で読み終わらせてしまうという大失態を犯す。もったいないことをした。「これは、梯結子の問題解決及びその調達人生の記録である。」とある。何なんだ、この客観的記述は。まるで中身とそぐわない。でも、そこがまた楽しい。なんだか気取ったタッチだけど、作者が読者と共に楽しむそんな小説になっている。作者のくせにこの先がどうなるのかなんてまるでわからないのだ。迷走に次ぐ迷走。でも大丈夫、梯結子は実に見事に問題を解決していくのだ。そしてこの先1993年から2022年までも生きている。そしてその先もまだ生きていくはずだ。これはそんな現在進行形の小説なのだ。
大学に入りなんと城郭サークルに入部。そこから延々とクラブ活動の話が続くのだが、これがまた面白い。マニアックでわけのわからない蘊蓄のはずなのにそれがこんなにも興味深く描かれる。(僕も最近なぜか城によく行くからか)でもそのおかげでお話は全然先に進まないけど、そんなこともどうでもいい。気にならない。だって人生なんてこんなもんだから。何があるかわからないから面白い。
これは高校生の時に夢中になって読んだ五木寛之『青春の門』を思わせるビルドゥングスロマンだ。でも、あんな真面目な小説ではない。なんとなくふざけている。でもそれは作者だけで主人公は至って真面目。彼女を見ているだけで楽しい。と作者も思っていることだろう。そうか、これはさくらももこの『ちびまる子ちゃん』のナレーションだ。この小説の恩田陸はあの漫画(アニメ)を想起させた。
それにしても梯結子。この子は実に面白い。この先大人になった彼女が何をしでかしてくれるのか、楽しみだ。それからあの先輩。彼女がどういうふうにこの先結子の人生と絡んでくるのかも楽しみ。