A24の新作だ。最初に見た『ミッドサマー』の不気味さと同じ。これもまた従来の「ホラー映画」という括りにはとうてい収まりきらない作品だ。今回『エクス・マキナ』のアレックス・ガーランドが監督・脚本を手掛けた。彼にとっては初めてのSFではない作品でもある。冒頭は衝撃的。部屋の窓の外を落ちていく男と目が合う。あの恐怖は、心当たりがある。昔僕が書いた(つたない)小説の冒頭と同じだ。あれは高層マンションの屋上からの飛び降り自殺を自室の窓から見てしまった男の話だった。まぁ、そんなのは誰もが思いつくような話なのだけど、そこから始まるドラマという共通項に興味津々。その後は奇を衒って驚かせるのではなく、とても静かにお話を進めていく。これはとても好きなパターンだ。
ただお話の収めどころが曖昧で、観客の想像力に委ねすぎ。もう少し、作り手の理屈を明確にしてもいいのではないかと思った。彼女の内面のドラマ(妄想ね)なのか、実際に起きたことなのか。その線引きを曖昧にしたまま、最後まで引っ張るのなら、それなりの終息のさせ方は必要。終着点ではちゃんと観客を納得させるべきだ。そこまでもが曖昧なままではただ煙に巻かれただけで、気分が悪い。同じ顔の男たちを見ても彼女は驚かない。なぜか。普通ならそこでのリアクションで一呼吸つかすはず。なぜ、みんな同じ顔なのか、という衝撃はお話の要だし。なのにそれはない。それだけではない。あのラストの展開には唖然とするしかない。
迷路のような森の中で迷子になる前半の描写はドキドキする。そこにあの裸の男の登場である。あの唐突さ、その怖さはかなりのもの。休養のためのやってきた静かな村。でも、そこは身寄りもない知らない場所である。安心が崩れていくのは一瞬のことだ。たったひとりで森の中の家で過ごす。彼女は心身が参っている。だから休息が必要だった。目の前で飛び降り自殺を目撃した。窓の外落ちていく男の姿が見えた。目と目が遭う。それが彼女の夫であることが(僕たち観客には)後でわかる。そんな冒頭のお話から緑豊かな森での生活へ、お話は一気に突入する。そして、そこでゆっくりと恐怖と出会う。同じ顔の男は夫ではない。だが、男だ。夫を含む男性一般が恐怖の対象となる。戦うのではなく、逃げるのでもなく、向き合う。裸の男はジェイソンではないから彼女を襲わないし殺すこともない。だが、結果的にゆっくりと彼女を追い詰める。そこには真綿で首を締めるような恐怖がある。
ただ、あの怒濤のラストには驚く。いきなりそれまでのタッチを損なうようなグロテスクな展開が用意される。それまでのこの映画を否定するようなエグさだ。どうしてあんなふうにしたのだろうか。ただのB級ホラーになる。