毎日新聞日曜版に連載されていて時々読んではいたけど、できることなら早く全体を通して読みたいと待ち望んでいた山田詠美の新刊。あまりに楽しくてほぼ一気読みしてしまった。(2日で前半後半にして読んだ)
彼女の自伝エッセイ。帯には「本格自伝小説」とあるけど小説ではない。フィクションではなく実名でたくさんの人たちが登場する。作家だけではなく、彼女の知り合いまで登場する。仮名とは書いていないから本名で書いてあるのかもしれない。いろんなことがかなり赤裸々に書かれていて、いいのか、ここまで書いて、と読むこちらが心配するほど。彼女を虐めた人、中傷した人への怒りも含めて、プライベートがこんなにもあからさまに描かれているのだ。そしてそれが痛快で、切ない。作家デビューからの日々や、結婚のこと、離婚のことも、ちゃんと書く。誤解のないように(これまでいろんなところであることないこと、いいかげんなことを散々書かれてきたから)ほんとうのことを自分で書く。
時間は前後する。シリアスタッチではなく、ユーモラスに。思いつくまま、とでもいうような感じ。その軽やかさが心地よい。1話完結なのもいい。新聞連載小説は細切れだからふだんはリアルタイムでは読まないけど、これなら連載当時も毎回読めた。でも、毎回欠かさずというわけにはいかないし、できるなら通して単刊本で読みたかったから、今日まで我慢していた。読みながら彼女と一緒に怒っていたし、笑ってた。そして、共感し、感動した。
ひとりの素晴らしい女性の生きざまがここにはある。それはもちろん山田詠美という作家だ。でも作家になる前のお話もまた楽しいし、心にしみる。何者でもない彼女が、何者かになるため試行錯誤していく姿がここにはきちんと描かれてある。有名作家の成功譚ではない。ひとりの女の子の人生の旅が描かれてある。彼女は才能があり小説家になれたけど、もしなれてなかったとしても彼女は彼女で、素敵だ。きっと。
でも、彼女が作家になってくれてよかった。『放課後の音符』と『僕は勉強ができない』は僕が受け持った高校生には必ず紹介している。あの2冊は青春文学のバイブルだ。