TVシリーズは見ていない。だから、あまり興味はなかったが、吉岡秀隆の白髪頭が気になっていた。宣材のポスターやチラシのシンプルなデザインにもそそられた。本気でこの作品を作っているという気概が感じられたからだ。(まぁ、冗談で作る映画なんかないだろうけど、でも、なんだか仕方なく作っている気がするようなTVドラマの劇場版はたくさんある、気がする)
TVシリーズ放映から16年の歳月を経て作られた続編らしい。吉岡秀隆は『北の国から』で純を子供のころから大人まで長い歳月演じた。『男はつらいよ』でも満男を寅さんがいなくなったあとまで(最後まで)演じた。当たり役をずっと演じてそれなのに特定のイメージが付かない稀有の役者だ。印象が薄いわけではない。だいたいそれではヒットシリーズとして長い歳月続かないし。変わらないのではなく、成長し年々年を取り変わり続けるのに、その人物をずっと演じられるなんて、そんなこと誰もが成しえなかったことではないか。コトー先生は島の人たちから愛されてきた。ドラマ不在の空白の16年間も同じように彼はこの島で医療を続けてきた。そう信じられるのが吉岡秀隆なのだ。
前半の描写は素晴らしい。彼の日常がさらりとしたタッチで描かれていく。ここからどんなふうにお話は展開していくのか、興味津々だった。なのに、中盤から失速する。この島を出て医者になるため東京に行った男が帰ってくるところからだ。ドラマでは子役だった彼が大人になり登場するのだが、彼を巡るお話にも、彼を演じる役者にもまるで力がない。お話のキーマンなのに、これはまずい。さらにはクライマックスの台風襲来のシーン。いくらなんでもあれはないのではないか。完全に醒めてしまった。だいたいその直前のコトー先生が白血病に倒れるという安物の難病映画みたいな展開にも唖然としたけど、台風のさなかフラフラのコトーが続々と運び込まれてくる患者の対応をして、死にかけている病人の手術までするとか、ありえない。しかも、また途中で倒れてしまうし。すると、誰も彼のもとへは駈け寄らず、がんばれ、とかエール送るし。なんですか、あれは。
どうしてこんな台本になったのか。こんなお話でGOサインを出したのか。わけがわからないし、驚きしかない。この映画が目指したはずのものはそんなものではなかった、はずなのだ。この島に研修医としてやってくる一見ちゃらい感じの青年医師のほうがまだまともだ。映画は彼の視点から作られたほうがよかったのではないか。僻地医療の困難な状況を踏まえたドラマという意味でも興味深かったのに、最後はなんだかわけのわからないドラマへと帰着した。びっくりだ。