習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

椎名誠『失踪願望。』

2022-12-26 10:08:10 | その他

これは椎名さんによるコロナ感染体験記。最近この手の本がどんどん出ているが彼が手掛けるものなので他とは一味違う。「シーナ、78歳。よろよろと生還す」と宣伝文句にはある。「コロナふらふら格闘編」とサブタイトルをつけている。いかにも、なネーミングだが、メインタイトルの『失踪願望。』とはそぐわない。そこに今の彼の立ち位置が窺われる。なんともまた微妙なのだ。

2021年、77歳、椎名誠は早々にコロナに感染する。いつものようにみんなでお酒を飲んで大騒ぎしているから、クラスターが発生し、仲間も一緒に感染。なんだかシーナさんらしい。椎名さんは変わらない。もう40年くらいずっと彼の本を読んでいる。文庫で手にした『わしらは怪しい探検隊』をスタート地点にして膨大な数の本を読んできた。20代のころ、夢中で読んだ。『岳物語』は高校の教科書にも採用されていてそれだけでその本を採択したこともある。これは昨年の『遺書未満、』の続編のような作品だ。人生の最晩年に至るも、シーナさんは変わらない。あきれるくらいにマイペースだ。これは日記だけど、日記だからこそ語れることがある。

それだけに後半に同時掲載されたなんだか真面目な(でも、やってることは日記部分と同じだけど)『新型コロナ感染記』と盟友・野田知佑氏をはじめとする自らの人生に大きな影響を与えた男たちへ捧ぐ『三人の兄たち』の2編はなんだかつまらない。シーナらしくないからだ。しかも、それをコロナと絡めたのはなんだかなぁ、と思う。ふざけた行為や文体を駆使して、椎名さんは自由に自分らしく生きる姿を描いてきた。晩年になり、思うところも多々あるはずだけど、そんな心の揺れも含めて実は彼ほど自分に誠実な人はいないと思う。心が揺れている。そのことに戸惑いながらでもきちんと向き合う。だから僕は彼が好きなのだ。77歳から78歳になり、体も心も少し弱くなってきた老人シーナの冒険はこの先もまだまだ続く。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« よるべ『深呼吸』 | トップ | 『かがみの孤城』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。