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映画・演劇のレビュー

正直者の会『箱男』

2022-12-22 12:41:11 | 演劇

いやぁ、これには驚いた。こんな芝居を作るんだ、という衝撃がある。しかもただの思い付きではない。実に考えられている。安部公房の『箱男』(これはとても異常なお話だ。まぁ、それがいつもの安部公房なんだけど)をそのまま朗読劇にした。舞台上で箱を被った男がこの小説を読むだけ。それだけ。なんなんだ、それって、と思う。でも、それだけではない。(自分がそれだけと勝手に書いたくせに!)なんと観客である我々も箱を被り箱男になる。でもそれは観客参加型演劇、ではない。あくまでも観客は観客。だけど、やはり観客はこの芝居に参加しているかも。

僕たちは箱を被って前面の狭い覗き窓から芝居を見る。箱の右上にはマイクが仕掛けられていてそこから作、演出、主演の田中遊の声を聞く。生の声ではなく音声で聞く。舞台上の田中さんは大きな箱を被っていてその姿は見えない。というか、箱男の姿は見えるのだけど。

スクリーンには新聞記事や川の映像が投影される。マネキン人形も登場する。それを段ボールの箱の狭い窓から見る。僕は時々目を閉じる。するとラジオドラマを聞いているような気になる。田中さんの声は心地よく眠りに誘う。やばい、居眠りしてしまうぞ、と思い段ボールの中で目を開ける。この狭い世界が実に心地よい。やはり僕も箱男化してきた。そんなこと気に見しないで田中さんは安部公房の小説を淡々と読む。終盤には女の声も入る。舞台上のマネキン(下半分だけ)が発しているわけではないけど。

1時間10分ほどの芝居は唐突に終わる。小説全体を6つに区切って上演しているようだ。今回が「その2」。6つコンプリートすれば全貌が見えてくるというわけでもない。単体で十分楽しめるアトラクション演劇だ。お話を楽しむというよりも、この異常な状況を楽しむ。でも、このままでは飽きるかも。だからきっと毎回手を変え品を変えいろんな体験をこの先も用意してくれるのだろう。いろんな試みがあるんだな、と感心した。

 


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