直木賞受賞後、第1作らしい。あの受賞作は彼女の小説らしくない作品(傑作だけど)だった。でも今回は『透明な夜の香り』の続編。彼女らしい作品だ。だから安心して読める。前作は誤って2回読んだ。途中まで読んで「これ読んでるやん」とすぐに気づいた。だけど心地よいからしばらくそのまま読んでいた。
香りを巡るお話は淡くさりげなく、消えていく。だから、すぐ忘れてしまうけど、癖になるから止まらない。タイトルもあっ . . . 本文を読む
劇団大阪シニア演劇大学10周年記念公演第2弾。先月の『楽園終着駅』に続いて2か月連続の上演となる。今回はかわいい猫たちの冒険を描く井上ひさし作品。児童劇のようなお話をシニアたちが無邪気に演じていく音楽劇。歌って踊る(無理のないくらいに少しだけ、ね)2時間に及ぶ作品。(さすがに途中10分の休憩が入る)メイン・キャストのふたりを除いて9人は8ステージを演じる。僕が見たのは藤田由貴子が主役を演じる「ねこ . . . 本文を読む
兵庫・武庫川にオープンしたKCスタジオのオープニング・プログラム。本当なら昨年夏、和歌山のアートキューブで上演された外輪演出、きのくにプロジェクト『いつわりの漆器』がオープニング・プログラムとなるはずだったのだが、コロナのせいで中止になった。今回再び外輪さんの作品で仕切り直しする。
今回取り上げた『売り言葉』は2017年に大阪、2019年に東京で上演された作品だ。evkkとしては今回が3度目の公 . . . 本文を読む
奇想天外のエンターテイメント会話劇、ということらしい。作、演出は山崎洋平。東京から来る初見の劇団を見るのはなかなかドキドキして楽しい。事前の情報は一切入れないけど、きっと期待できる。わざわざ大阪まで来てくれるのだから、きっとしっかりしたメッセージを発信してくれるはず。ドタバタコメディは苦手だから、これは少し見ていて苦しい。だけど、客席はとても素直な反応をしていて、ほっとする。わかりやすい単純なお話 . . . 本文を読む
ようやく最後まで見た。ラスト二回は怒濤の展開、ではない。あくまでもマイペースを最後まで貫く。これはそんな強い意志のもと、作られた映画なのだ。(Netflixのオリジナルドラマだけど、ちゃんと映画仕様になっている)
監督はクレジットでは西浦正記と中田秀夫の共同監督作品となっているが実質は西浦作品である。見る前は4話ずつの分担だと思っていたのに中田は5話のみしか手掛けていなかった。全 . . . 本文を読む
まさかの傑作だった。初めての作家だから、ドキドキして読み始めたが、最初は「安物の原田マハか」なんて失礼な感想を抱きつつ舐めて読んでいた。だが、これはとても誠実な生き方を巡る作品で、この普遍性と独自性に魅了された。80歳になる女性画家の個展を開催することになった地方の美術館のまだ若いキュレーター(31歳の女性)が、作家と向き合い、展覧会に向けて準備をしていく過程を追う長編小説だ。主人公はキュレーター . . . 本文を読む
『私の頭の中の消しゴム』のイ・ジェハン監督が撮った日本映画。山下智久、新木優子が主演したラブストーリーなのだけれど、こんないいかげんな映画を作っていいのだろうか。この台本でGOサインを出したのは、誰だ? 繊細な描写で特異なラブストーリーを生き生き描いた彼ならこの企画はピッタリかもしれないと思ったが、台本があまりに酷いからちゃんとした映画にはならない。それにしても山下智久は作品に恵まれない。不運とし . . . 本文を読む
全8話。前半の4本は西浦正記、後半の4話は中田秀夫が監督した。企画・脚本・プロデュースは増本 淳。役所広司主演。1話約1時間、合計8時間に及ぶ大作。3.11から1週間の福島第1原発を描く。とても丁寧にあの日からの7日間をドキュメントする。東日本大震災の映画ではなく、福島原発限定のドラマだ。4話まで見て感想を書くつもりだったが、6話まで見てしまった。後半は中田秀夫監督にバトンタッチかと思ったら、6話 . . . 本文を読む
これは柚木麻子の『らんたん』に続く大作。だけど彼女の小説は大作より中作(なんてあるか?)の方が好きだけど、今回は大作と中作の間くらいのスケールで、ある嘘つきおばさん四葉の一代記。のはずだったのに、彼女はすぐに姿を消す。彼女のことを描く第1章がすごくいいから、彼女の過去が描かれる2章はパワーダウンする。貧乏学生だった真央が主人公。出会ったかつて栄華を誇った山戸家の生き残りのおばさんが四葉。第1章はふ . . . 本文を読む
光石研、12年ぶりの映画単独主演作ということだが、そんなことより定年退職前の高校教師が鬱になり、退職する話、ということに心ひかれた。数年前の僕と同じじゃん、と思い、とても気になっていた映画なのだ。(まぁ、鬱だけでなく認知症だけど)映画は禁欲的で、安直な答えを出さない。だけど、あまりに禁欲的すぎてイライラさせられる。お前は何がしたいのだ、とツッコミを入れたくなるけど、まるで動じない。定年 . . . 本文を読む
ソクーロフの新作はまさかの映画。冗談ではない。ヒトラー主演。共演はスターリン、チャーチル、ムッソリーニたち。本人が堂々出演している。実在した人物たちのアーカイブ映像を素材として使用して映画として構成した。CGによるバーチャルではない。冒頭のところでキリストも出ているが、あれは実在の彼ではありません。実在の人物が本人たちの出演でフィクションの映画に本人役で出る。こんな不謹慎で冗談のような映画を作れる . . . 本文を読む
全10話の短編連作。シリーズの第2作らしい。前作はたぶん読んでいないはず。だから設定がイマイチわからないままのスタートになったけど、大丈夫。あまり親切じゃないけど、そっけなく作品世界に誘われるのがいい。一見さん歓迎。ここはカフェだし。
カフェ・ルーズは円さんのお店。世界中のさまざまな料理やスウィーツを用意する。瑛子は円のかつての同僚で、その店の常連。ここにはいろんな事情を抱えたお客さ . . . 本文を読む
3話からなるオムニバス。作、演出は昔からよく知っている栗山勲さんの息子である栗山拓。こんなことはこの芝居とも劇団とも関係ないからここに書く必要はないのだが、栗山くん(お父さん、ね)とは大竹野正典の芝居で出会い、大竹野の息子である春生くんが父親と同じように芝居をしている今、栗山家も親子二代で芝居をしているのか、という感慨をここにも書いておきたかった。そんなことは私信でしかないから、個人的に書いたら充 . . . 本文を読む
「第44回大阪春の演劇まつり」前半最後のプログラムだ。今年から新たに参加された団体である「アートひかり」の公演。素敵なチラシに心惹かれて劇場に向かう。難波のサザンシアターだ。ここは小さくて、でも、とてもゆったりしていて、なんとも素敵な劇場である。小劇場なのに映画館仕様の椅子に座ってのんびり芝居を楽しむ。
『オズの魔法使い』を下敷きにした優しい芝居だと想像していたけど、なかなかシビ . . . 本文を読む
湾岸エリアのタワマンで暮らす3組の夫婦。誰もが羨むような暮らしのはずなのに、彼らにも憂鬱がある。ここでは住人は3つの階級に分類される。最上階、中層階、最低辺。住む住人の生活レベルからの身分差は歴然。資産家、サラリーマン、地権者。あからさまな生活力の違いは、住む階に明らかに象徴される。そんな息が詰まる場所で暮らす人たちの1年を綴る。息子たちは6年になり、中学受験を目指す。過酷な戦いは彼らだけでなく、 . . . 本文を読む