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マスコミ諸氏をはじめ、全ての人に捧ぐ、アントニオ・タブッキ”供述によるとペレイラは・・・”

2011-08-18 23:47:26 | 本たち
イタリアの作家アントニオ・タブッキは、ポルトガルの詩人フェルナンド・ペソアを信奉する所以で、ポルトガルを舞台にした作品を数点書いている。
以前読んだ”レクイエム”もそうだが、”供述によるとペレイラは・・・”もポルトガルが舞台だ。
ある調書に書かれている設定で、文章のいたるところに「供述によるとペレイラは・・・」のフレーズがちりばめられている。
それだけで、何か不穏な雰囲気が読み手に伝わるのだ。

以前は、一流新聞紙で社会面の優れた記者をしていたペレイラも、いまではしがない大衆紙の文化面編集長兼たった一人の記者として、自分の好みで紙面を作る、社会情勢の圏外にいる存在として過ごしていた。
さすがに一人で何もかもこなすのは無理があるので、安く使える見習い探していた矢先に、大学を卒業したばかりの男が書いた”死”についての論文の批評に目を留めた。
そこから、彼の人生が、徐々に大きく変わっていく、劇的なまでにも。
はじめは、なにやらただならぬことに巻き込まれているとおぼろげに感じつつも、自分はカトリック教徒ではあるがノンポリだ、だから、困ったことになるはずはないと高をくくっていた。
ドイツのナチズムや、スペインのフランコ政権、イタリアのムッソリーニの影が、ポルトガルにも及んできた時代設定。
狂気が、市井の人々の暮らしにも暗い影を投げかけていたリスボン。
マスコミの第一線を退き、社会情勢に興味を持たなくなったペレイラの心に、若い男との出会いは、小さな小石を投げ入れたのだ。
自分の心に現れた変化に戸惑い、名誉ある大学教授をしている旧友にあって相談をしてみるが、それにきな臭い匂いを嗅ぎ取った友の事なかれ主義的反応に、大きく失望するペレイラ。
そんな折に、心臓に負担をかける極度な肥満を解消すべくいった療養所でであった医師が、彼に決定的変化をもたらすことになる。
それからは、ペレイラを取り巻く環境が、ペレイラ自身の意思が、大きく変化していくのだ。
魂の、崇高な真の自由を求めて。
そして、ペレイラは、本当の意味でのジャーナリストになった。

この世の中に、言論統制、思想統制が行われないところがあるのだろうか。
大なり小なり、それはいたるところで行われている。
理想としてマスコミは、厳正中立な立場を持って、政治権力・企業を監視して、報道しなくてならない。
だが、それはありえないのが現実だ。
しかし、度が過ぎると、もうその時代は、国は、末期状態にあるといっても過言ではないだろう。
真実は、いつも闇の中。
片鱗を垣間見ることが出来れば、運が良いといわなくてはならない。
さて、今の日本、世界は、どこへ向かおうとしているのだろうか。
何によらず、真の自由な立場で、人々が安寧に暮らせる未来を、人として正しい生き方を、見据える者が一人でも多く現れんことを、強く、強く願うのであった。

※この作品は、1995年にロベルト・ファエンツァ監督で映画化されているという。主人公ペレイラにマルチェロ・マストロヤンニ、迷うペレイラの背中を押すきっかけとなったカルドーゾ医師をダニエル・オートゥイユが演じた。
大好きな俳優マストロヤンニのペレイラを見てみたいが、日本では未公開のようだ。DVDも無いようで、残念至極であった。