JUN STORIES・1
《男? それとも、女?》
「あ、女の子なんだ……」
その一言で純はクラブへの入部をためらった。
「調査書に書くとき、やっぱクラブ名があった方がいいな」
三者懇談で担任に言われたので、あたしはほどほどのクラブがいいだろうと演劇部を訪ねた。
演劇部は、先日の県大会で二等賞である優秀賞を獲っていた。で、まあ上り坂のクラブがいいだろうと、演劇部を訪ねたが、顔を見るなり部長の三年生に言われてしまった。
確かに演劇部は女子ばかりだ。男子部員も一人いたが、女装が趣味と噂のあるC組の歌川貴美だった。こいつもややこしい。貴美と書いて「たかみ」と読む。で、れっきとした男子で、貴美だと言われているネットの女装写真を見ると、自分よりも数倍可愛い。
間近で貴美を見て、噂は本物だと思った。
「今日は、優秀賞のビデオ観て反省会やるから。田部さん(あたしの苗字)は、まあ、県下二位のお芝居をゆっくり観てちょうだいよ」
部長が自信ありげにプロジェクターに写した芝居は、正直退屈だった。こんなもので二位が獲れるなんて、わが県の高校演劇ってどうなってるんだ!?
ただ、驚いたのは、歌川貴美が女性役で出て、なんの違和感もないこと。幕間交流で「実は男なんです」と言った時の観客席のどよめき。で、貴美は個人演技賞を獲っていた。そのことだけじゃないんだけど「これでドーヨ!」って、クラブ全体にある自己陶酔が嫌だった。第一舞台には5人の役者が出ている。照明や音響などのスタッフを考えれば、最低でも9人は居なきゃ、この芝居はできないだろうと思った。
「4人は臨時部員よ」
なるほど、稽古場にしている視聴覚室には純を含めて5人しかいない。で、その一人が貴美だ。純は、偏見かもしれないと思ったが、貴美が、自分の女装の演技に恍惚となっていることに違和感を感じた。
で、速攻、演劇部への入部は止めにした。
幼稚園からこっち、時々男と間違われることには慣れていたが、今日ほどの屈辱感はなかった。
ためしにネットで調べてみた。日本の女性で一番多い名前は和子。そのあとに幸子、恵子、洋子とあって、幸子の後に「ジュン」という男女どちらにも点けられる名前」とあった。
「どうして、純なんて名前つけたのよ!?」
「ああ、男女どちらでもいける名前ってことで、生まれる前から決めてた」
お父さんは、カウチに横になりテレビを見ながら答えた。
「もう……」
そう言うと、お父さんはオナラで返事した。
数日後、半端な付き合い方をしていた二年の神崎君に思い切って言った。
「ねえ、もうお互いの関係はっきりしたいんだけど」
「うーん……今のままじゃダメ?」
「なんか半端でさ。あたし、他のカレとかつくってもいいわけ?」
他のカレの予定などなかったが、ハッタリをかましてみた。
「それは……純の自由じゃん」
逃げを打ちやがった。あたしは、そう思った。
あくる日、食堂で昼を食べていると、後ろに神埼と、ヨッコが座ったのが分かった。
「……でもさ、神崎さんて、純のカレじゃないですか」
「おれ、ああいう男だか女だか分かんないのは、苦手でさ。もう、別れる寸前」
純は、振り向きざま、神崎をはり倒した。
「名前なんか、理由にすんなよ!」
神崎は、ひっくり返ったランチをかぶったまま、言った。
「名前じゃなくて……お前の、こういうとこ!」