大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルベスト『日中首脳怪談』

2018-05-12 06:41:44 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト『日中首脳怪談』


 日中両国民は固唾をのんでテレビに食い入るようにして、その時を待った。

 かと言って日中首脳会談ではない。日中首脳怪談である。「会」と「怪」が違う。と言ってホラー話の競い合いでもない。
 怪しげな怪談、インチキくさい会談という意味である。

 代表は、中国は孫悟空。これは党の統一見解により選ばれた代表であり、三国志や水滸伝の登場人物よりも当たりが柔らかく、周辺諸国に警戒心を与えないための思惑であり、国際的な認知度でも、国民的な人気も高く、珍しく民主派と政府の意向も一致した。

 対する日本はトトロが一番人気であったが、人語を解しないことから却下され、伝統的な桃太郎が選ばれた。

 二人の会談は、後ろに国旗もなく、笑顔もない握手から始まった。
「日本人は、中国のこと、よくパクリって言うけど、オレ何回日本にパクられたか分からないぜ」
 孫悟空はいきなり核心をついてきた。
「それは著作権を知らない言いがかりだ。『西遊記は』元の時代には成立が確認されてる。誰が、どうアレンジしようが国際的な自由だ!」
「しかしな、日本はひどすぎる。なんで玄奘三蔵が女の子なんだ。これは中国人民の心をひどく傷つける。謝罪と補償を求める!」
 悟空は赤い顔を、さらに赤くしていきまいた。そして如意棒で自分の頭を叩くと、五つの星が出てきた。怒っていると見せかけて顔面で五星紅旗を作って喝采を浴びた。視聴者のかなりが、コントローラーの赤ボタンを押した。

「そのアイデアは、手塚治虫の『ぼくの孫悟空』から始まったんだけど、むろん手塚さんは男として書いている。ただ、衣の下にスリップを着せたんで間違われた。でも、その後、これが意図的に誤解されて、西遊記のシリーズとしては夏目雅子以来大成功して、日本における中国の好感度をどれだけ上げたか分からないくらいだ」
 視聴者は青のボタンを押すものが多かった。
「とにかくパクリであることには間違いない。本来なら謝罪と補償を要求するところだが、日本のキャラを自由に使わせることで勘弁してやる」
「あ、問題のすり替えだ。西遊記なんて著作権なんて無かった時代のしろものだし、日本のキャラは立派に著作権の対象だ。そっちこそロイヤリティー払えよな!」
「あのな、動画サイトで中国がアップロードして、日本人が、どれだけ観てるか知ってんのかよ!」
「それって違法なアップロードだ!」
「日本人だって観てる!」
「だいたい、桃太郎の話ってケチくさいんだよ。食い物ったらキビ団子しか出てこねえし、鬼から奪った宝物だって、荷車にたった一杯しかねえじゃねえか」

 赤ボタンが増えた。

「西遊記なんて、もう酒池肉林よ。妖怪やっつけても、もう山ごと宝物だったりするからな。桁が違うぜ」
「日本人は、質素倹約を旨とするんだ。そっちの価値判断でものを言うな!」

 青ボタンが増えた。

 中国は、太っ腹なところを見せようと満漢全席なんか用意したが、厨房に紛れ込んだ猪八戒が酢豚にされたり、ややもめた。しかし、猪八戒の代わりなどいくらもいるので、気が付くと、新しい猪八戒や沙悟浄、ほかに牛魔王や金角、銀角、羅刹女や有象無象のキャストが出てきて、大賑わいになった。

 赤ボタンが増えた。

 桃太郎は頑張ったが、しばらくメディアに顔を出していないので、犬、猿、キジもオリジナルが集まらない。犬なんか、ようく見ると昭和の匂いがふんぷんたるビクターの犬なんかになってしまっていた。その他大勢も痩せさらばえた村人や、元気だけがいい後期高齢者のジジババに、満身創痍の鬼たち。意気が上がらないことおびただしい。

 また赤ボタンが増えた。

 桃太郎は、最後の札をきった!
「人海戦術で大勢出せばいいってもんじゃないぜ。いまパソコンで検索したら、三蔵法師がいないじゃないか!?」
「そ、それは……」
 悟空がうろたえた。赤ボタンの勢いが弱った。
「日本の文献学を見損なっちゃ困るなあ……天竺にたどり着いたとき底のない船に乗って、三蔵法師は溺死したんだ!」
「そんなカチカチ山みたいな姑息なことはしない!」
「オレは、権力闘争のあげくだとにらんだぜ。お前ら三蔵法師を粛清したな!」
「なにを、日本の修正主義者どもめが。こっちは全人代で決定しているんだ。三蔵法師は凡体を脱することができたと喜び、その後釈迦と謁見して大団円で終わるんだ!」
「白髪三千丈だ!」
「なにを、この大東亜共栄圏め!」

 視聴者たちは赤ボタン青ボタンの乱れ押しになった。

「ちょっと待て、おまえらこそ、鬼の親玉が居ないじゃないか。鬼の人数も少ない。大虐殺をやったんじゃないのか!?」
 
 すると、そこに鬼の親玉が現れた。よく見ると、額に桃のマークがほのかに見える。
「あ、あ、お前は出てくるなって!」
「桃太郎、もう本当のことを言った方がいい」
「それは……」

 桃太郎は親玉の一睨みで黙ってしまった。

「日本国民のみなさん。これから桃太郎の本質について語ります……実は、わたしは昔の桃太郎なんです。宝物を鬼ヶ島から持ち帰って、村の暮らしを一時はよくしましたが、長続きはしません。村人たちは、それを、どこにあるか分からない鬼ヶ島の鬼のせいにします。わたしは村人を納得させるために、もう一度出かけます。桃太郎? とんでもない。オッサンになってしまっては桃太郎は務まりません。鬼の親玉をやりにいくんです。代わりに新しい少年が桃太郎としてやってきます。桃太郎の話は、こうやって繋いできたんです」
「マ、マジかよ。オレもいつか鬼にならなきゃならねえのかよ!」
 桃太郎は叫びました。

 この中継を見ていた日本のゲーム屋が、アイデアをいただき『ファインファンタジー』というRPGをつくりアイテムをネット販売して大儲けをしましたとさ。


コメント
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