大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・51『栞の大感動』

2018-05-05 11:54:22 | 小説3

通学道中膝栗毛・51

『栞の大感動

 

 

 わたしは感動しすぎると表情が無くなる。

 

 小心者でもあるわたしは、今の高校に入る時もビビりまくっていた。

 競争率1.34倍。

 十四人受けたら一人が落ちる確率なので、落ちるかもしれない……落ちるだろうか……落ちるかも……落ちる……落ちるに違いない! 

 合格発表のため学校に近づくに従って悲観的になってしまい。講堂前の合格者一覧表を覆っている白布が取り払われるころには、ほとんどマネキン人形のようにカチコチになっていた。

 キャーーー!

 白布が取り払われて合格者の受験番号が露わになると、目ざとい夏鈴などは兎みたくピョンピョン撥ねながら歓声を上げて、わたしにしがみ付いてきた。

「あんた、チョー自信があったんだ……」

 わたしの無表情に夏鈴は一気に冷めてしまい――つまらん女だ――という顔になった。

 親友の夏鈴にも、そう思われてしまうほどに、わたしは無感動女に見える。

「もー、帰るよ」

 そう言って取った手が震えているので、わたしの感動ぶりが分かって笑い転げてくれた夏鈴。

 親友にしてこれなのだから、それ以外の人や場所では――愛想のない奴――感動の薄い奴――と誤解される。

 

 そして、わたしと並んでプリンセス モナミのデッキに立ちって、モナミが閉口している。

――やっぱ、東京湾クルーズなんてつまらないんだ――

 モナミは、そう誤解している。

 

 誤解なんだよ! 

 わたしは生まれて初めてのプレジャーボートクルーズに言葉が出ないほど感動しまくっている。

 濃密な潮の香、ハタハタと頬を嬲っていく潮風、行き交う大小の船たち、羽田を発した飛行機も驚くほどの低さで頭上を過ぎていく、その一つ一つが生まれて初めてで、合格発表以来の大感動を発するわたしなのだ。

 この一見無表情に見えるわたしに、モナミは落ち着かなかったんだろう、傍らのアケミさんに何か話しかけている。

 大感動を発したわたしは金縛りにも似た状態で、瞬間的な反応が出来ない。

 

 アケミさんが小さく頷いたところまでは視界の端で捉えることができたが、その次に起こる風景は……心臓が止まりそうなので、次回お知らせいたします。

 

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高校ライトノベル・ライトノベルベスト[お姉ちゃんは未来人・2]

2018-05-05 06:46:18 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト
[お姉ちゃんは未来人・2]



 お姉ちゃんがうちにやってきたのは半年前の始業式。

 一学期最初の日で、たまたま持ち上がりでクラスが一緒になったヨッコと「前のクラスで一緒なの、あんただけね!」と互いに喜んだのは束の間。
 始業式で、演劇部の顧問の吉田先生が転勤になったことを知ると、同じ演劇部のマコと泣きの涙。二人はクラブでは仲が良くなかったけど、演劇部は吉田先生でもっていた。おまけに新三年生の部員はゼロ。演劇部は二人の双肩にかかってきたので、その心細さは良く分かる。で、以前のいきさつかなぐり捨てて互いにクラス一番のお友だちになった。

 で、ホームルーム終わると、することも無いので、さっさと帰ってきた。

「I,m home!」

 元気良さげには玄関を開けた。新学年の学校は、あまり面白くなさそうだったけど、顔に出して文句言うほど浅はかでもない。たった半日の印象だし、学校は学校、家は家。あたし、そういう空気は切り替える方。
「ああ、腹減った!」
 と、パンのバスケットを物色。
「お姉ちゃん帰ってきたら、お昼にしてあげるから下卑たこと言わないの」
 お母さんの言葉に「あれ?」っと思った。

 あたしは一人っ子で、姉妹なんかいない……親類のイトコの顔を思い浮かべる。でもイトコの中で女の子はあたしが一番の年長だ。お姉ちゃんと呼ぶような存在はいない。近所にも気安く昼ご飯を食べにくるようなオネエチャンもいない。すると……。

「ただいま!」

 元気でしっかりした声が聞こえた。親しみの有りすぎる声だ。
「お帰り、ちょうどいいタイミングね、三人でお昼にしよう。松子、着替えたらパスタ作んの手伝って。さ、竹子も着替えといで」
「う、うん……」
 そう言って二階に上がって、びっくりした。部屋のドアを開けると6畳の部屋が12畳ほどに広くなり、あたしが全然知らない「お姉ちゃん」が着替え終わって下に降りるところだった。
「竹子、早くしな。パスタはスピードが命なんだから」
「う、うん……」
 有無を言わせぬ上から松子。ごく自然な姉としての親しみとしっかり者のお姉ちゃんの威厳があった。

「いったい、どーなってんの?」

 不思議に思ったけど、階下の明るく自然な母子の会話に流されて、あたしは「妹」を演じていた。これはテレビのドッキリかなんかで、みんなで、よってたかって、あたしのことを担いでいるんだろう……最初はそう確信した。
 夕方になってお父さんが帰ってきて、ふつ-に松子を娘として相手をしているのを見て、あたしの確信は揺らいできた。
 お父さんは、お芝居なんかできない。良くも悪くも嘘の言えないオッサンだ。それが、自然に学校の話とか、昔ばなしなんかして盛り上がってる。

 これは悪夢だ。なんかの間違いだ!

 破綻は日付が変わるころになってやってきた。
 いつもだったら、新学年の始業式の夜なんて、宿題も何にもないから、テレビ観たり、コミック読んだり、チャットをしたり。でも、この長いドッキリに、あたしはくたびれて、お風呂入るとさっさとベッドに潜った。
「そうだ!」
 あたしは、思いついてヨッコにメールを打った。
――遅くにごめん。変なこと聞くけど、あたしって一人っ子だったよね?――
――なに言ってんの、松子姉さんいるじゃんか。それよりクラブがさ――
――ごめん、それ明日聞くね――
 他にも五人の友達とイトコにメールを打った。みんな松子のことを知っている。おかしいのは、あたしだけだ……。

 もう頭がスクランブルエッグ! こういうときは直接当たるに限る。

 鼻歌まじりに風呂からあがってきた「お姉ちゃん」に聞いてみた。

「ねえ、あなたって、誰なのよ……!?」

  鼻歌が止まり、松子姉は、無機質な顔で振り返った。

「インストールエラー……かな」

 松子が、あたしの上に覆いかぶさってきた……!

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