通学道中膝栗毛・51
『栞の大感動』
わたしは感動しすぎると表情が無くなる。
小心者でもあるわたしは、今の高校に入る時もビビりまくっていた。
競争率1.34倍。
十四人受けたら一人が落ちる確率なので、落ちるかもしれない……落ちるだろうか……落ちるかも……落ちる……落ちるに違いない!
合格発表のため学校に近づくに従って悲観的になってしまい。講堂前の合格者一覧表を覆っている白布が取り払われるころには、ほとんどマネキン人形のようにカチコチになっていた。
キャーーー!
白布が取り払われて合格者の受験番号が露わになると、目ざとい夏鈴などは兎みたくピョンピョン撥ねながら歓声を上げて、わたしにしがみ付いてきた。
「あんた、チョー自信があったんだ……」
わたしの無表情に夏鈴は一気に冷めてしまい――つまらん女だ――という顔になった。
親友の夏鈴にも、そう思われてしまうほどに、わたしは無感動女に見える。
「もー、帰るよ」
そう言って取った手が震えているので、わたしの感動ぶりが分かって笑い転げてくれた夏鈴。
親友にしてこれなのだから、それ以外の人や場所では――愛想のない奴――感動の薄い奴――と誤解される。
そして、わたしと並んでプリンセス モナミのデッキに立ちって、モナミが閉口している。
――やっぱ、東京湾クルーズなんてつまらないんだ――
モナミは、そう誤解している。
誤解なんだよ!
わたしは生まれて初めてのプレジャーボートクルーズに言葉が出ないほど感動しまくっている。
濃密な潮の香、ハタハタと頬を嬲っていく潮風、行き交う大小の船たち、羽田を発した飛行機も驚くほどの低さで頭上を過ぎていく、その一つ一つが生まれて初めてで、合格発表以来の大感動を発するわたしなのだ。
この一見無表情に見えるわたしに、モナミは落ち着かなかったんだろう、傍らのアケミさんに何か話しかけている。
大感動を発したわたしは金縛りにも似た状態で、瞬間的な反応が出来ない。
アケミさんが小さく頷いたところまでは視界の端で捉えることができたが、その次に起こる風景は……心臓が止まりそうなので、次回お知らせいたします。