通学道中膝栗毛・52
『東京湾大海戦!』
東京湾というのは渋谷の交差点に似ている。
駅から出る人向かう人、はたまた横切ったり斜めに行ったりして通勤通学ショッピングする人や、仕事やバイトに向かう人。
そんな雑多な人たちが、ほとんど事故もトラブルも起こさずに行き交う日本を代表する交差点。
東京湾は、交差点が海になって、行き交う人々が船に置き換わったそれだ。
船は漁船のような小さなものから都庁ビルとか東京駅を横倒しにしたくらいのビッグな船までまでが、ほとんどぶつかることも行き交う姿が圧巻だ。
もちろん海だから潮の香りや潮風で十分海を満喫できるんだけど、わたしがぶったまげたのは、東京湾がビッグ過ぎる交差点みたいだと言うことだ。
十万トンを超えるであろうタンカーとかコンテナ船が対向でやってくるとスゴイ圧。
ノタクラ走っているようでもニ十キロほどは出ているらしい。こちらも同じくらいのスピードだから、すれ違う時は四十キロほどになる。四十キロで横倒しの都庁がすれ違ったらすごいよ!
日ごろ、大きな乗り物ってバスとかダンプくらいしか見たことが無いわたしには、もう動物的って言っていい感動なのよ。
あっち見て!
モナミが指差した方角を見ると、都庁の横倒しが煙をモクモク吐いている。煙突なんかからじゃなくてドテッパラから!
煙だけかと思ったら、チロチロと赤い炎まで立ち上り始める。
「こ、これって……事故!?」
「うん、第十雄洋丸ってタンカー。さっき衝突したとこ、アケミさん、もうちょっと寄せて」
「これ以上は危険です」
感じ的には百メートルほどの近さなんだけど、実際は一キロ以上離れているらしい。陸上で一キロ先の事故なんてよそ事に見えるんだけど、船の事故は凄い!
「もう消防艇なんかじゃ消せないから海上自衛隊がやってくる」
「え、自衛隊が消防をやるの?」
「ううん、消すのは不可能って判断されて、これから撃沈されるの」
撃沈……
撃沈なんて『艦これ』とか『ハイフリ』でしか見たことが無い。
やがて右っかわに四隻の護衛艦が現れて、しきりに大砲を撃つ……撃つんだけども、笑っちゃうくらいにショボイ。
ぜんぜん効き目はないんだけど、それでも正確な射撃をする四隻が、ひどく健気に見えてくる。
「あそこ見て!」
モナミが指差した上空には双発の飛行機が現れた。胴体には日の丸と海上自衛隊のロゴ。
それがゆっくり接近してきたかと思うとロケット弾をぶっ放し爆弾を投下した!
「わ、わ、わ…………外すうううう?」
半分ちょっとは命中したが、かなりの爆弾がむなしく水柱を上げた。
「あちらに潜水艦が」
「え、どこに?」
アケミさんが指差した方角には何も見えない。
「潜望鏡が……いま、潜航しました。たぶん、魚雷攻撃をやるはずです」
数十秒後、第十雄洋丸のドテッパラに水柱が二本上がった。
「四本発射されたはずなんですが……」
「あんな大きな目標を外す~~~~~?」
それでも二本は命中したというのに、沈むどころか傾きもしない。
自衛隊って、こんなにショボイの~~~~?
それでも反転してきた護衛艦隊が懸命に射撃を再開し始めた。
わたしは巨人阪神戦を見た時のように手に汗を握るのであった。