大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ボクとボクの妹

2018-05-29 06:43:27 | ボクの妹

ボクとボクの        


 ボクの妹は、自分のことを「あたし」という。気持ちの悪い奴だ。

 といって、ボクは男ではない。れっきとした十八歳に成り立ての女子高生だ。
 世間ではボクのようなのを『ボク少女』などとカテゴライズされていて、ネットで検索すると以下のようである。

 ボク少女(ボクしょうじょ)、またはボクっ子(ボクっこ)、ボクっ娘(ボクっこ)、僕女(ぼくおんな)は、男性用一人称の「ボク」などを使う少女のこと。 Wikipediaより

 生まれて気づいたら、自分のことを「ボク」と呼んでいた。
 ボクは、いわゆる「女の子」というのを拒絶している。悔しいことにWikipediaでも同じように書いてある。あれとは、ちょっとニュアンスが違うんだけど、文字にすると同じようになる。

「お姉ちゃんは否定形でなければ、自己規定ができないんだ。そんなの太宰治みたいに若死にするよ」
 とニベもない。
 ボクだって、社会常識はある。「ボク」と言っていけないシュチエーションでは「私」という中性的な一人称を使う。そう、例えば職員室とか、面接の練習とか、お巡りさんに道を聞くとき(まだ聞いたことはないけど)とか。

「春奈なに編んでんのさ?」
「見りゃわかるでしょ」
「分からないから聞いている」
「ミサンガよ」
「やっぱし……」
 風呂上がりの髪を乾かしながらため息が出た。
「なによ、ため息つくことないでしょ」
「なんで、ニサンガぐらいの名称にしないんだ……」
「ニサンガ……なに、それ?」
「六だ、二三が六。九九も知らないの?」
「じゃ、ミサンガは?」
 そう言いながら、赤糸と金糸を器用に編み込みにしていく。
「六にならん。ロクでもない。しいて言えば九だ。苦を編み出しているようなもんだ」
「お姉ちゃん、シャレになんないよ。これ、吉野先輩にあげるんだからね!」
「ああ、あの野球部のタソガレエースか」
「エースはいいけど、タソガレは侮辱だよ」
「事実だ。今年も三回戦で敗退。プロはおろか実業団とか大学の野球部からも引きがない。あいつの野球人生も、今度の引退試合が花道だろ……それも勝ってこそだけどな」
「怒るよ、お姉ちゃん!」
「勝手に怒れ。ボクは真実を言ってるんだ」
「いいもん。あたしは、こういう女の子らしい道を選ぶんだから。行かず後家まっしぐらのボク少女とはちがうのよ!」
「行かず後家ってのは、ちょっち差別だぞ。一生シングルで生きても立派な女の人生だ」
「田嶋陽子みたくなっちゃうぞ!」
「田嶋さんをバカにするな。尊敬する必要もないけどな」
「なによ、十八にもなって、彼氏もいないくせして!」
「春奈は、ボクのことを、そんなに浅い認識でしか見ていなかったのか?」
「だって、吉野先輩のこととか、メチャクチャに言うから」

 ボクは、無言のまま押入から紙袋を出してぶちまけた。

「なに、これ……?」
「こないだの誕生日に男どもが、ボクに寄こしたプレゼント。よーく見なさい!」
 妹は、プレゼントの一つから目が離せなかった。
「こ、これは……」
「そう、春奈のタソガレエースからの」
「くそ……よりにもよって、お姉ちゃんに!」

 妹は、発作的にハサミを持ち出して、編みかけのミサンガを切ろうとした。

 パシーン!

 派手な音をさせて、妹を張り倒した。加減はしている。鼓膜を破ることも口の中をきるようなタイミングでもない。春奈が歯を食いしばったのを狙って張り倒している。

「バカ、春奈は、そういうアプローチの道を選んだんだろう。だったら、そのやり方でやりきってみろ。意地でも、あの野球バカを自分に振り向かせてみろ。運良く、ボクはあんな男には興味ないからな」
「く、悔しい……!」
「休憩して、風呂入ってこい。そいで続き編んで、明日野球バカに渡せ」
「試合は、今度の日曜……」
「だからバカなの!」
「なによ!」
「あげるんなら、早い方がいい。あの野球バカは、ボクにプレゼントするのに一カ月かけて欲しいモノ調べやがったんだよ。赤のシープスキンの手袋……やってくれたね。あやうくウルってくるとこだったよ。がんばれ妹!」
「でも、これじゃ勝負になんないよ」
「バカ春奈。戦う前に負けてどーすんだよ。さ、風呂だ。こうやってる間にも給湯器クンは懸命に風呂の追い炊きやってくれてるんだ……じれったいなあ!」

 あたしは、タンスからパジャマとパンツを出して妹の胸に押しつけ、部屋から追い出した。

 妹は、ほとんど忘れているけど、ボクたちには兄がいた。ボクが四つのとき亡くなった。ボクは、ボクの記憶の中でもおぼろになりかけている兄のためにも生きていかなければと思っている。

 だから「ボク」……バカ言っちゃいけない。ボクたちに、ちゃんとしたアイデンティティーを示してくれなかった大人が……学校が、国が……よそう、これもグチだ。

 あの震災で、パッシブなアイデンティティーと忍耐は学んだ。でも、人間って、もっとアクティブでなきゃいけないと思う。
 あのとき、そのアクティブを見せてくれた兄。うまく言えないけど、自衛隊の人たちにも、それを感じた。
 だから、ボクは自衛隊の曹候補生の試験をうけて合格した。

 入学式は、お父さんと妹と、妹のカレになった野球バカも来てくれた。それから妹はAKBの研究生のオーディションに受かった。妹は、慰問に来てくれたAKBに自分を見つけたようだ。

 神さまは、いつか「ボク」に変わる一人称……言えるようにしてくれると信じて。

 2025年  三島春香 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・秋野七草 その七『ナナとナナセのそれから』

2018-05-29 06:36:06 | ボクの妹

秋野草 その七
『ナナとナナセのそれから』
       

 そのニュースは、30分後には動画サイトに載り、夕刊は三面のトップになった。

『休日のOLとサラリーマン、半グレを撃沈!』『アベック、機転で子供たちを救う!』などの見出しが踊った。

「ナナとナナセさんて、同一人物だったんだ!?」
 山路は事件直後の現場で大感激。ナナが正体がばれてシドロモドロになっているところに、パトカーが到着。ナナは、演習の報告をするように、テキパキと説明。コンビニの防犯カメラや、通りがかりの通行人がスマホで撮った動画もあり、二時間余りで現場検証は終わった。

 帰ってからは、マスコミの取材攻勢。最後に自衛隊の広報がやってきて、ナナはいちいち丁寧に説明をした。
 
「山路君、驚いたでしょ……」
「うん、最初はね……」

 事件から一週間後、山路に済まないと思ったナナに頼まれ、山路にメガネとカツラで変装させて、我が家に呼んだ。

「最初は、酔った勢いで、ナナセって双子がいることにしちゃって、明くる朝、完全に山路君が誤解してるもんで、調子に乗って、ナナとナナセを使い分けてたの……ごめんなさい」
「いいよ、僕も面白かったし。そもそも誤解したのは僕なんだから。あの事件で思ったんだけど、ナナちゃん、ほんとは自衛隊に残りたかったんじゃないのかい?」
「うん、自衛隊こそ究極の男女平等社会だと思ったから……でも、女ってほとんど後方勤務。戦車なんか絶対乗せてくれないもんね。レンジャーはムリクリ言ってやらせてもらったけどね。昇任試験勧められたけど、先の見えてることやっててもね。レンジャーやって配属は会計科だもんね。で、除隊後は信金勤務。で、クサっているわけよ」
「ナナちゃんなら、半沢直樹にだってなれるさ」
 そう言いながら、山路はナナのグラスを満たした。
「こんなに飲んじゃったら、また大トラのナナになっちゃうわよ。もうナナセにはならないから」
 そう言いながら、二口ほどでグラスを空にした。
「まあ、ここで潰れたって自分の家だもんな」
「またまた、あたしのグチは、こんなもんじゃ済まないわよ」

 ナナは、家事をやらせても、自衛隊のレンジャーをやらせても、金融業務でも人並み外れた力を持っていた。ただ世間の受容体制が追いつかず、ナナはどこへ行っても、その力を十分に発揮できはしなかった。
「僕は、ナナちゃんのことは、よーく分かっている。いっしょにいろいろ競争したもんな。お兄さんだって分かってくれている。人生は長いんだ、じっくり自分の道を進んでいけばいいさ!」
「……そんなことを言ってくれるのは、山路だけだよ。ありがとね!」
 ナナは、握手しようとしてそのまま前のめりにテーブルに突っ伏し、つぶれてしまった。

 そうやって、ナナと山路の付き合いが始まった。

 いっしょに山に行ったり泳ぎに行ったり。二人の面白いところは、いつのまにか仲間を増やしていくところだった。三月もすると仲間が20人ほどになり、自衛隊の体験入隊までやり、自ら阿佐ヶ谷の駐屯地の障害走路の新記録をいっぺんで書き換えた。歴代一位がナナで二位が山路。民間人が新記録を書き換えたというので、広報やマスコミがとりあげ、一時テレビのワイドショ-などにも出まくり、アイドルユニットが、ナナをテーマに新曲を作った。ヒットチャートでAKBと並び、ナナは、山路とともに歌謡番組にゲストで呼ばれ、飛び入りでいっしょに歌って踊った。
「ナナさん凄い。よかったらうちのユニットに入ってやりませんか!?」
 リーダーが、半分本気で言った。ナナはテレビの画面でも栄えた。
「ハハ、嬉しいけど、あたし平均年齢ぐっと上げそうだから。でも、よかったら、そこのゲスト席でオスマシしてる山路、ヨイショしてやってくれる。あいつ、明後日からチョモランマに行くんだ!」
 ナナは、あっと言う間に、山路の壮行会にしてしまった。

 そして、山路が死んだ……。

 チョモランマで、滑落しかけた仲間を助け、自分は落ちてしまった。
「リポピタンDのCMのようにはいかないんだ……」
 ナナの言葉はそれだけだった。

 一晩、動物のように部屋で泣いていた。オレは深夜に酒を勧めた。だがナナは飲まなかった。
「この悲しみと不条理を、お酒なんかで誤魔化したくない。山路とは、そんなヤワな関係じゃない。正面から受け止めるんだ……」
 それだけ言うと、また泣き続けた。

 明くる日にはケロッとし、職場にも行き、マスコミの取材にも気丈に答えていた。

 山路の葬儀の日は、あいつらしいピーカンだった。ナナは、涙一つ見せないで山路を見送った。

 そして、三日後南西諸島で、C国と武力衝突がおこり、半日で局地戦になった。

 阿佐ヶ谷の連隊にも動員が係り、ナナは予備自衛官として召集され、強く志願して、石垣島の前線基地まで飛んだ。
 さすがに、実戦には出してもらえなかったが、最前線の後方勤務という予備自衛官限界の任務についた。

 この局地戦争は、五日間で日本の勝利で終わりかけ、アメリカが介入の意思を示すとC国は手が出せなくなり、誰もが、これで終わったと思った。

 敵は、第三国の船を拿捕同然に借り上げ、上陸舟艇と特殊部隊を積み込み、折からの悪天候を利用し、石垣島に接近すると、上陸を開始した。

 不意を突かれた石垣の部隊は混乱した。海岸の監視部隊は「敵上陸、オクレ!」の一言を残して、連絡が途絶えた。ナナは意見具申をした。携帯できる武器だけを持って、背後の林に部隊全員が隠れた。
 結果、敵はおびただしい遺棄死体と負傷兵を残し、本船にたどりついた残存部隊も、翌朝には、自衛艦により拿捕された。

 日本側にも、若干の犠牲者が出た。林を怪しいと睨んだ敵の小隊の迂回攻撃を受けた。ナナは味方を守りながら戦死した。

 詳述はしない。

 ただ、ナナは、山路を追うようにして死んだ。兄として言えるのは、この事実だけだ。

 秋野七草  完 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

高校ライトノベル・『メタモルフォーゼ・16』

2018-05-29 06:28:00 | 小説3

高校ライトノベル
『メタモルフォーゼ・16』
        


 火事場のバカ力だと思った!

 歌も、ダンスも、自己アピールもガンガンできた。
 なんたって、ほんの一分前までは、自分はただの付き添いだと思っていた。
 それが、だまし討ちで、あたしも受けることになっていたとは、指の先ほども思っていなかった。

―― 一人だと、とても受ける勇気がでなくって――

 あとで、ミキが言った言い訳。言われなくても試験会場に入る前の、ミキのゴメンナサイで分かってしまった。
 で、受験生五人が並ぶと、やっぱ張り切ってしまう。美優が……って、自分自身のことだけど、こんなに張り切っちゃう子だとは思わなかった。
 コンクールは、学校の看板をしょっていた。直前にS高のAたちに道具を壊された悔しさがバネになっていた。
 でも、この神楽坂46のオーディションは、ミキにハメラレたということはあるけど、しょっている物も、悔しさもない。ただ自然に湧いてくる「負けられるか根性」だけ。
「25番の人。アピールするところは?」
「あ、負けられるかって根性です。競争には勝たなきゃ。根拠ないですけど」
 我ながら、正直な答え。でも、やっぱ火事場のバカ力のガンガンだから、ダメだとは思った。

「ごめんね、美優、言わなくって……!」
 会場を出たとたんに、ミキが抱きついてきた。
「いいよ、いいよ、でもよく決心したね……」
 なんだか前田敦子の卒業宣言のあとの大島優子との感動シーンのようになってしまった。
「美優道連れにしてでも、受かりたかったの。美優すごかったよ! うかったら、いっしょにやろうね!」

「うん!」

 元気に、返事したのが良くなかった……オーディションに受かってしまった!
 で、ネットや、マスコミで流れたので、学校では大騒ぎになった。なんちゅうーか……演劇部のときよりもすごいお祭り騒ぎになってしまった。
 地元の新聞社、ローカルテレビ、受売商店街のミニコミ誌も、受売神社とコラボして、町おこしの種として神社の宮司さんを連れてやってきた。
「日本各地に、受売命(ウズメノミコト)を祀った神社がありますが、うちは年回りもあるんでしょうか、ことのほか霊験あらたかなようです」
 と、宮司さんは鷹揚にに答えた。ま、確かに、あたしを進二から美優にしたのにも、ここの神さまがいっちょう噛んでるよーな気もするし、コンクールも次々に最優秀を取らせてくれた。

 テレビ局の演出で、出演者のタレントさんといっしょに神社にお参りに行った。

――ねえ、神さま。これって、いったいなんなんですか?――
 あたしはダメモトで、柏手打ちながら、神さまに聞いた。
――美優 そなたは人の倍の運……を持って生まれてきた。心して生きよ――
 思わぬ声が頭に響いた。三度目なので、声に出して驚くことは無かったけど、表情に出た。
「あ、美優ちゃん、なにかビビッと来たのかな!?」
 MCのお笑いさんが、すかさず聞いてきた。
「あ、なんだか、その頑張りなさいって……聞こえたような」
 で、ごまかしておいた。
 運のあとに間が空いたのが気になった。でも、言わなかった。だって、思わせぶりすぎるもん!

 その日の帰りは夕方になった。

 テレビのロケ隊も来てるし、あたしのことを知ってる人も居そうだったので、久方ぶりに家まで歩くことにした。

「あ、美優」

 旧集落のあたりを歩いていたら、後ろから声を掛けられた。この声の主は剣持健介だ。
「こないだのDVDありがとうございました」
「そんな改まるなよ、ただでも、今日の美優は声掛けづらかったんだから」
「え、そんな……」
「取り巻きいっぱいいるしさ、なんだか、美優のオーラが、すごくなっていくんだもん……声かけようと思って、こんなとこまで……おれも気が小さい」
「え、神社から、ず……」
「あ、聞こえにくいんだけど」
 あたしは、顔隠しのマスクをしているのに気がついた。急いで、マスク取ると、溜まっていた息が口からホンワカ出てきて健介の顔にもろに被ってしまった。
 健介の顔が真剣になった……なによ、このマジさは……。

「美優、好きだ……!」

 のしかかるようにハグされ、唇が重なってしまった。数秒そのままで、健介は離れた。
「ごめん……」
「謝るぐらいなら、こんなことしないで……」
「帰り道危ないから……送っていくよ」
「もう、危ない目に遭っちゃったけど」
「いや、もっと危ない奴もいるかもな」
 あたしは、前回のお尻タッチのオッサンのことを思い出して、おかしくなった。

 あたしは、唇が重なっても、それほどにはときめかなかった。

 心のどこかが、まだ女子に成りきっていないのか、神さまの「運……」が、ひっかかっているのか。

 満月と、宵の明星が、そんなあたしの何かを暗示するように輝いていた……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする