大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルベスト[お姉ちゃんは未来人・3]

2018-05-06 06:57:25 | ライトノベルベスト

ライトノベルベスト
[お姉ちゃんは未来人・3]



 松子が、あたしの上に覆いかぶさってきた……!

 松子は、あたしのおでこに手をかざして、こう言った。
「やっぱ、ダウンロードはされてるけど、インストールされてない……どうもインストールできない特殊な体質のようね」
「で……あんた、なんなのよ!?」
「シー、世間で、あたしのこと松子だと思ってないのは、あんただけだから、騒いだら、おかしいのは竹子になっちゃうわよ」

 あたしは、それまでの状況からその通りだと思って、ビビりながら頷いた。

「あたしは、150年ほど未来からやってきたの。事情は、あたしの記憶もブロックされているからよく分からない。でも必要があってのことよ。けして悪いことをするためじゃないから安心して。そして協力して」
「記憶が無いのに、どうして悪いことじゃないって、言いきれるのよ?」
「さあ……でも、本人が言うんだから、そうじゃない?」

 それが、半年前の始業式。それから松子はお姉ちゃんとして、ごく自然に家にも世間にも通用してしまった。

 じっさい悪いことは何もなかった。ただ普通の蟹江家としての半年が過ぎた。
「松子、こんなのが来てたよ」
 夕食が終わった後、お母さんが、お姉ちゃんに封筒を渡した。封筒の下のロゴがAKR48になっていることを目ざとく発見。ちょっと胸がときめく。
「やったあ、AKRのライブのペアチケットが当たった!」
「え、ペアチケット!?」
 家族全員の視線が集まった。うちは家族全員がAKRのファンだ。
「お姉ちゃん、彼とかといっしょに行くんでしょ?」
 妬みと願望を隠し切れない声で、あたしは尋ねた。
「来週の金曜の夜……」
 お姉ちゃんは、壁のカレンダーを見に行った。我が家は、でかいカレンダーにそれぞれの予定を書いておく習わしがある。お母さんが食事の段取りなどに狂いが出ないようにと、ガキンチョのころからの習慣。
「あ……これは竹子で決まりだ。来週の金曜、お母さんたち結婚記念日でお出かけだよ」
「あ、そうだった。ホテルのフレンチ予約してあるんだった」

 というわけで、お姉ちゃんと武道館に行くことになった。

 二人とも学校が終わると真っ直ぐ家に帰って、私服に着替え、駅前のマックで燃料補給して、開場時間ピッタリに間に合った。

 マコとヨッコが偶然いっしょだったのにはびっくり。会場に入ってから、さらにビックリ。あたしたちの席は、真ん中の前から三列目。マコとヨッコは、ずっと後ろ。ちょっと優越感。
 オシメンの萌絵や、ヤエちゃんなんかが至近距離で見られて大興奮! 楽しい時間はあっという間に過ぎて行った。卒業した大石クララが特別ゲストで出てきたときなんか、もう失神しそう。クララの横には週刊誌のネタ通りの男性ボーカリストが付いていて評判だった交際を発表。会場は興奮のルツボ。
「おめでとう!」
 汗みずくで駆け寄る萌絵ちゃんの汗が飛んできて、お姉ちゃんのハンカチに付いた。
「ラッキー!」
 とお姉ちゃんは喜んだ。

 そのあとは、お決まりの握手会。

 オシメンの萌絵ちゃんかヤエちゃんかで悩んだけど、結局ヤエちゃんにした。なんでかっていうと、ヤエちゃんには年内卒業の噂がたっていて、ひょっとしたら……と思った。今日クララさんが来たのなんて、その伏線みたいに思えたから。

 でも、これが悲劇の選択だった……。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする