大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・『夏のおわり・1』

2018-05-18 06:21:23 | 小説4

のおわり・1』      


「夏のおわりも近いでしょう」 この天気予報の決まり文句にはいつもうんざりしていた。

 だって、あたしは吉田夏。

 この言葉を聞くと、自分の人生の終わりが来たような気になる。

 あたりまえだけど、夏が終わると二学期がやってくる。小学校のころ、このオヤジギャグのような常套句で、あたしをいじろうとしたバカがいた。加藤というオチョケた男子で、つまらないことで、人をイジっては喜んでいた。
 雅美って、大人しめの女の子が6年のときいたんだけど、そのこのことを「八重桜」と呼んだときには、あたしも本人も含めてキョトンとしていた。
「わかんねえかなあ、おまえのことだよ長澤まさみ!」
 と言われたが、そのとき教室に居た誰もが分からなかったので、加藤はじれてきた。雅美は国語が良くできる子なんで(なんたって、高校三年の時にはラノベの新人賞を獲ったぐらい)どうやら気が付いたよう。
「あ~」と一言言ったところで先生が入ってきた。で、加藤のやつ「八重桜~」と、またやらかした。さすがに雅美はムッとした顔になった。
「加藤、おまえ意味が分かって、長澤に言ってんのか?」
 先生に言われて、加藤は真っ赤な顔をして立ちつくした。
「先生、わたしが答えます」
「いいのか?」
「はい。これで加藤君の国語能力が高いことを証明してあげます。本人も、半分、それ狙いでしょうから」
「じゃ、長澤、言ってみろ」
「八重桜というのは、遅咲きで、花が咲くよりも先に葉っぱが出ちゃうんです。で、ハナより前にハが出るってことで、わたしが出っ歯だってことを冷やかしてるんです。たしか遠藤周作のエッセーかなんだかにでてるんだよね。で、それと久本雅美の出っ歯とひっかけたかな。同じ雅美だから」
「そうなのか、加藤!?」
「え、ま……」
 涼しい顔で認めたので、先生は、加藤の頭をゴツンとやった。
「イテ!」
 ほんとに痛かったようで、加藤は涙目になった。今みたいに「あ、体罰だ!」なんぞは言わない良き時代だったのよね。
「でも、先生。長澤まさみって、東方シンデレラで選ばれたアイドルもいるよ。NHKの大河ドラマにも出てた」
 雅美も知っていたんだろう。今度は雅美が、赤い顔をしてうつむいてしまった。ちなみに、雅美は、そのころ歯の矯正をやっていて、中学に入った頃は矯正も終わり、けっこうカワイイ子になった。

 その加藤は、三年生の時から同じクラスで、あたしには、最初の頃「夏も終わりだな」と、二学期の最初には決まり文句のように言っていた。
 あたしは、一見大人しそうな優等生に見える。でも実は、その逆なのだ。けっして大人しくない劣等生なのだ。
「るせえんだよ、売れない芸人みたく、ずっと同じイヤミなギャグとばすんじゃねえよ!」
 と、五年生の二学期に張り倒してやったら、それ以来、あたしには言わなくなった。

 でも、

 高校三年の二学期には、本当に「夏のおわり」がやってきたんだよね……。

 くそ!!

 つづく

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高校ライトノベル『メタモルフォーゼ・5』

2018-05-18 06:13:56 | 小説3

『メタモルフォーゼ・5』        


 美優って名前は、あんたが女の子だったら付けようと思っていたんだよ。

 昨日、帰りの電車の中で、お母さんがしみじみと言った。
 半分は同様にしみじみ、半分はいい加減だと感じた。 
 ウチの女姉妹は、上から留美、美麗、麗美。これに美優ときたらまるで尻取りだ。
「一字ずつで、みんなが繋がってるだろ。いつまでも仲の良い姉妹でいてほしくてさ」
「あのう……」
「うん?」
「なんでもない……」
 あたしは(受売神社にお参りしてから、一人称が『あたし』になった)単に呼びやすいからだろうと思った。でも車内にいる受売高校の男子が、こっちを意識しながらヒソヒソ言っているので、視線を除けて俯いてしまった。

 帰りに、当面の衣料とノートを買った。教科書は転校した優香が未使用のまま学校に置いていった奴を、指定されたロッカーに入れてある。体操服はネームが入っているので、業者に発注した。明日は体育が無いので、ノープロブレム。

 家に帰ると、あたしの女性化にいっそうの磨きがかかったので、三人のオネエにオモチャにされた。四回ヘアースタイルを変えられ、けっきょくは元のポニーテールがいいということになり、ルミネエとミレネエがメイクしようと言って迫ってきたが、高三のレミネエが、取りあえずリップの塗り方だけでいいということで収まった。
「お母さん、ミユのブラ、サイズ合ってないよ」
 どうやら、あたしはレミネエより発育が良さそうだ。
「ね、今度の休みにさ、四姉妹で買い物にいこうよ」
 お母さんが買ってくれたのは、取りあえずだったので、キチンとしたのを買おうということで、話がついた。
 さっそくネットで検索したりでおおさわぎ。
 トドメは、お風呂に入るときのむだ毛処理。いくら姉妹でも屈辱的!

 朝は、自分でブラッシング、キッチンで新品の弁当箱を渡された。食器棚の進二の弁当箱が抜け殻のように思えた。
 制服は、優香の保科の苗字が、渡辺に変えられていた。

「ええ、ご家庭のご都合で、今日からうちのクラスの仲間になる渡辺美優さんです。みんなよろしくな」

 ウッスンが、紹介してくれて教壇に。みんなの視線を感じる。みんな知った顔なのに発しているオーラがまるで違うので、とまどった。女子の大半は頭の中で、点数を付け、男子は、女子のランキングを考えている顔だった。
「渡辺美優です。二学期の途中からですけど、よろしくお願いします」
 短い挨拶だったけど、反響は凄かった。この学校に入って、こんなに拍手してもらったことは初めてだ。
 席は、昨日までの進二の机と椅子が窓側の前から三番目に移された。

 進二の転校がウッスンから簡単に説明されたが、これには誰も反応しない。ちょっと寂しいってか、進二が可愛そうになった……で、進二を客体化している自分にも驚いた。

 進二は、成績は中の上ってとこで、授業はノートをきっちりとる程度。で、試験前にちょこっとやってホドホドの成績。ノートを書いて驚いた。字が完全に女の筆跡で、たいていの女子がそうであるように、字がきれい。教科書の図版を見ていろいろ想像している自分にも驚いた。
 例えば、日本史で元寇を見ていると、鎌倉武士の鎧甲の美しさに目を奪われ、資料集の鎧の威し方の違いをメモったりする。紫裾濃(むらさきすそご)なんてオシャレだなあと思う。ワンピでこの配色なら、相当日本的な女子力がないと着こなせないと感じる。
 現代国語の宮沢賢治では挿絵の『畑にいます』という賢治のメモを見て、淡々と春の東北の景色を感じてしまう。あたしって空想家なんだなあと感心したりする。

 授業に来る先生のほとんどが、呼名点呼で、あたしの姿に驚くのはサゲサゲだった。職員朝礼で、あたしの「転校」の話は出ているはずなのに、みんなろくに聞いていないんだ。
 トイレは気を付けていたので男子トイレに行くような失敗は無かった。しかし、休み時間の女子トイレが、こんなに騒がしいとは思わなかった。
 でも、クラスで一番美人の仲間美紀にトイレで声を掛けられたのには驚いた。今まで、口をきいたことがない。噂では中学のときAKBの試験を受け「美人過ぎる」ことで落ちたらしい。

「お昼、いっしょに食べよう」

 ということで、昼は仲間美紀を筆頭に町井由美、勝呂帆真の美人三人組といっしょにお弁当を開いた。これで、あたしの女子の序列がハイソになったことを周りの視線と共に意識した。

――二年A組、渡辺美優さん、保健室まで来て下さい――

「失礼します」

 保健室に入ると、三島先生がにこやかに出迎えてくれた。
「保健の記録書書かなきゃならないから、ちょっと計らせて」
 で、上着を脱いだだけで、身長、座高、体重、視力、聴力の測定をした。
「これ、既往症とか、子どものころの疾患、アレルギーとかあったら家で書いてきて。うん、それだけ……あ、困ったことがあったらいつでも来てね」
 三島先生がウィンクした。三島先生は分かってくれている。先生の味方ができたのは嬉しかった。

 放課後は、自然に部室に足が向いた。で、部室は閉まっていた。
「あたしって、何してんだろう……」
 そう思いながら、職員室の秋元康先生のところに足が向いた。
「秋元先生、二年A組の渡辺です。演劇部に入りたいんです」
 自分ではない自分が喋った。
「演劇部、昨日で解散したよ」
「え……?」
 と、言ったわりには驚いていない。
「浅間って男子が転校。君と入れ違いの男子、目立たないやつだったけど、クラブの要だったんだな。みんな……一年の杉村って男子は残ってるけど、辞めちまった。一人じゃなあ……」
「あたしが入ったら二人になります。やりたい本があるんです」
 え、なに言ってんだろ!?
「『ダウンロード』って一人芝居があります。これならやれます、もう台詞も入ってますし」

 あたしは、こうして急遽演劇部に入ることになった。

 で、気がついた。『ダウンロード』は優香がやりたがっていた芝居だった……。


※『ダウンロード』は実在の戯曲です。頭に「大橋むつお」を付けて検索してください。またYou tubeでも上演作品があります。 https://youtu.be/jkAoSz6Ckks

 つづく

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