大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル『ケータイとコンタクトレンズ・2』

2018-05-16 07:07:32 | ライトノベルベスト

高校ライトノベル
『ケータイとコンタクトレンズ・2』
              

 

――まるで、ヘンクツジジイだぞ――

 なるほど、美優のメール通り、そう見えなくもない。しかしオレは、年相応に苦み走ったいい男に思えた。だから、その時はコンタクトにはしなかった。

 しかし、ある日パソコンの数字一つを読み間違い、九割方まとまっていた注文をフイにしてしまった。
「今度やったら、北海道の営業所に行ってもらうからな……」
 課長が、横を向いたまま、そう言ったときにヤバイと思った。

「コンタクトレンズにすればいいのに……」

 ベッドでの事が済んだあと、それまでオレの髪をかきむしりながらあえいでいた女とは思えない静かさで美優が言った。
 その美優の呟きのような一言は、オレをそのまま眼鏡屋に足を運ばせるのに十分な力があった。

「こんなところに眼鏡屋があるのか?」

 そこは、センター街から外れた脇道の突き当たりだった。心なしか道は下っていた。小さなショウウインドウには、こういうことには素人のオレが見ても、時代遅れの眼鏡や腕時計が並べられていた。

『眼鏡 時計 機械小物の服部商店』の看板が、切れかかった電球にチラチラ照らされていた。

 店の奥には人影もなく、ボンヤリ蛍光灯の豆球が点いているだけじゃないかと思うほど、陰気で、薄暗かった。
「おい、こりゃ、もう店閉めちまったんじゃないか」
 もう、午前0時に近い、センター街でも開いているのは、飲み屋と風俗ぐらいの時間帯である。
「ううん、この店変なお店だから、これぐらいが開店時間なの。オジサン……オジサン、あたし」
 美優が、そう言いながら、店の入り口をホタホタと叩くと、店の灯りが灯り、奥からオヤジがノッソリ出てくるのが分かった。

「こりゃ、かなりの重症だな」

 検眼鏡でオレの目を覗き込んだオヤジが言った。
「よせよ、脅かして、ぼったくろうったって、オレそんなに金持ってないからな」
「それぐらい、見りゃ分かるさ。わしは、こう見えても、ちゃんと眼科医の資格も持ってる。この目は、ほうっときゃ、三年と持たないよ」
「よ、よせよ……」
「オジサン、なんとかならない?」
「なんとかしたいから、うちに連れてきたんだろ?」
「う……うん」
「覚悟はいいな?」
「うん……」
 美優が頷くので、オレも覚悟を決めた。どうやら、自覚している以上に美優に惹かれているのかもしれない。
「このコンタクトは、そこらへんのコンタクトとは違う。つけて三十分以上すると、もう外せなくなる」
「外せない?」
「ああ、これは眼球に同化するタイプでね、なあに、試しに着けて、イヤなら止せばいい」
 オヤジのぶっきらぼうな言い方は、並の店の慇懃さより新鮮で、営業慣れしたオレを、その気にさせた。
「あ、あの……値段は? 気にいっちまって、外せなくなってからじゃ、たまらないから」
「代金は、もう美優からもらってる。あとは、おまえさんが気に入るかどうかだけだ」
「美優、いつのまに……?」
「いいの、杉山さんの目が良くなるんなら」
 美優の有無を言わせぬ笑顔に負けて、成り行きに任せた。

 コンタクトを着けるのは簡単というか、強引だった。美優が、オレの頭を固定して、オヤジが左手で、おれの目玉をひん剥き、ペタンと装着したあと目蓋を閉じさせ、馴染ませるように目蓋の上からスリスリ撫でる。これが痛くはないが無性にかゆい。例えて言うなら目玉が水虫になったような感触だ。
「目玉が水虫い……!」
 オヤジと美優が笑った。
 片方が終わると、目が開かないように目蓋が絆創膏のようなもので塞がれ、もう片方にうつった。同じようにかゆかったが、二度目は機嫌よく笑うことができた。

「よし、もういいだろう」

 両方が終わって、オヤジは静かに絆創膏を外した。
 目の前にジジイがいた。
「わ……!」
「ハハ、思ったよりジジイなんでビックリしたか」
 美優を見て、さらに驚いた。目鼻立ちの整った、そこそこのやつだとは思っていた。しかし、それは誤解だった。
「美優……こんなに美人だったんだ!」 
「もう、人をからかって!」
 美優は照れかくしに、ぶつマネをした。
「まあ、三十分考えるんだな」
「いや、考えることなんかないよ。今までのオレはなにを見てたんだって感じ。こいつに決めたよ」
「そうか、じゃあ、そうしな。気に入ってもらって何よりだ。ただ、今夜一晩目はこするんじゃないぞ。一応かゆみ止めはコンタクトに付けておいてやったがな」
「大丈夫、今夜は、わたしが付いているから」
「それは、けっこうだが、あっちの方はひかえてな。興奮するのも半日は……」
「今日のぶんは、十分に興奮したもんね」
「ハハ、若い奴は、アケスケだな」
「じゃ、オジサン、これで」
「どうも、お世話さま」
 店を出ようとすると、ショーケ-スに二台のケータイが並べられているのに気づいた。
「オジサン、ケ-タイも扱ってんの?」
「古いタイプだけだがな。スマホは、もうわしの手には負えん」
「これ、オジサンが作ったの?」
「ああ、だから不細工でね、もうほとんど売れないよ。ほら……」
 ショーケースの下の段の布をめくると、レトロなケータイがズラッと並んでいた。
「この二台は?」
「ああ、修理を頼まれたんだが、持ち主が亡くなっちまってな」
「そうなんだ」
「わしも、歳だ、いつまでやってられるかね……」
 オヤジが顔をツルリと撫でると、意外な愛嬌で手を振った。

「今夜は、わたしんちに来てね。同じ服で会社いったら泊まったの丸わかりだから」
「ああ、いいよ」

 階段を上がってセンター街に出ると、その脇道の奥は、眼鏡屋のチラチラする看板以外闇に沈んでいた……。

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高校ライトノベル・『メタモルフォーゼ・3』

2018-05-16 07:01:18 | 小説3

高校ライトノベル
『メタモルフォーゼ・3』
        


 留美アネキが会社帰りの姿で近寄ってきた……。

「ボ、ボクだよ。進二だよ……!」

 押し殺した小さな声でルミネエに言った。

「え、なんの冗談……?」
 少し間があってルミネエがドッキリカメラに引っかけられたような顔で言った。ボクは引き続き、ここに至った事情を説明した。
「……だから、なんかの冗談なのよね?」
「冗談なんかじゃないよ。ここまで帰ってくるのに、どれだけ苦労したか!?」
「ねえ、進二は? あなた進二のなんなの?

 ボクは疲れも忘れて、怖くなってきた。実の姉にも信じてもらえないなんて。

「だから、ボクは進二。ルミネエこそ、ボクをからかってない。どこからどう見ても女装だろ?」
「……どこからどう見ても女子高生だわよ……」
「もう、上着脱ぐから、よく見てよ、これが女の……」

 体だった……ブラウスだけになると、自分の胸に二つの膨らみがあることに気づいた!

 ルミネエには、小五までいっしょに風呂に入っていたことや、ルミネエが六年生になったときデベソの手術をしたこと、そして趣味でよく手相を見てもらっていたので、門灯の下で手相を見せ、ようやく信じてもらった。

「進二、下の方は?」
「え、舌?」
「バカ、オチンチンだよ!」
 ボクはハッとして、自分のを確認した。
「この状況に怯えて萎縮してる」
 すると、やわらルミネエの手がのびてきて、あそこをユビパッチンされた。小さい頃、男の子は、今は就職して家を出てる進一アニキしかいなかったので、油断していると三人の姉に、よくこのユビパッチンをされて悶絶した。それが……痛くない。

「よく見れば、進二の面影ある……」
 
 お母さんが、しみじみ眺め、やっと一言言った。ミレネエとレミネエは、ポカンとしたまま。

 その真剣な状況で、ボクのお腹が鳴った。

「ま、難しいことは、ご飯たべてからにしよう!」
 お母さんが宣言して、晩ご飯になった。お母さんには、こういうところがある。困ったら、取りあえず腹ごしらえ、それから、やれることを決めようって。それで回ってきた女が強い家なんだ。

「進二、学校から歩いて帰ってきたから、汗かいてるだろ。ちょっと臭うよ」
「ほんと? う、女臭え……!」
 我ながらオゾケが走った。この汗の半分は冷や汗だ。
「進二、食べたら、すぐにお風呂入ってきな。それからゆっくり相談しよう」
「お風呂、お姉ちゃんがいっしょに入ってあげるから」
「え、やだよ!」
「あんた、髪の洗い方も分かんないでしょう!」
「わ、分かってるよ。昔いっしょに入ってたから」
「子どもとは、違うんだから。お姉ちゃんの言うこと聞きなさい!」
 矛盾することを言っていると思ったが、入ってみて分かった。女の風呂って大変。
「バカね、髪まとめないで湯船に入ったりして!」
 ルミネエが短パンにタンクトップで風呂に入ってきた。後ろでミレネエとレミネエの気配。
「バカ、覗くなよ!」
「着替え、置いとくからね」
「下着は、麗美のおニューだから」
「え、あたしの!?」
「だって……」
 モメながらミレネエとレミネエの気配が消えた。お母さんの叱る声もする。

「進二……完全に女の子になっちゃったんだね」
 シャンプー教えてくれながら、ルミネエがため息混じりに言った。ボクは、慌てて膝を閉じた。

「明日は、取りあえず学校休もう。で、お医者さんに行く!」
 風呂から上がると、お母さんが宣告した。
 寝る前が一騒動だった。ご近所の人との対応は? お父さん進一兄ちゃんへ報告は? 急に男に戻ったときはどうするか? 症状が続くようならどうするか? などなど……。
「ボク、もう寝るから。テキトーに決めといて」
 眠いのと、末っ子の依頼心の強さで、下駄を預けることにした。

 朝起きると、みんな朝の支度でてんてこ舞い。まあ、いつものことだけど。

「なによ美優、その頭は?」
「美優?」
「ここ当分の、あんたの名前。じゃ、行ってきまーす!」
 レミネエが、真っ先に家を飛び出す。0時間目がある進学校の三年。
「あたし二講時目からだから、少し手伝う。髪……よりトイレ先だな、行っといで」
 トイレで、パジャマの前を探って再認識。ボクは男じゃないんだ。
 歯を磨いて、歯並びがボクのまんまなので少し嬉しい。で、笑うとカワイイ……こともなく、歯磨きの泡を口に付けた大爆発頭「まぬけ」という言葉が一番しっくりくる。

「じゃ、がんばるんだよ美優!」
「え、なにがんばるのさ?」
「とにかく前向いて、希望を持って。じゃいってきまーす!」
 ルミネエが出かけた。

「ちょっと痛いよ」
 朝ご飯食べながら、ミレネエにブラッシングされる。
「こりゃ、一回トリートメントしたほうがいいね」
「……ということで、休ませますので」
 ボクはどうやら風をこじらせて休むことになったようだ。
「ああ、眠いのに、なんだかドキドキしてきた」
「その割に、よく食べるね」
「それって、アレのまえじゃない?」
「え……?」
「ちょっとむくみもきてんじゃない?」
 そりゃ、体が変わったんだから……ぐらいに思っていた。
「あんた、前はいつだった?」
「おかあさん、この子昨日女の子になったばかりよ」
「でも、念のために……」

 お母さんと、ミレネエが襲ってきた。で、ここでは言えないような目にあった。

 ただ、女って面倒で大変だと身にしみた朝ではあった。

 つづく 

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