大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・秋野七草 その三『ナナ、ナンチャッテ!』

2018-05-25 06:57:56 | ボクの妹

秋野七草 その三
『ナナ、ナンチャッテ!』
        


 まさか、ここまで豹変しているとは思わなかった……!

「オハ、兄ちゃんワルイ。朝飯は自分でやってねえ。で、会場だけどさ……それウケる! ガールズバーで同窓会なんて、男ドモの反応が楽しみだね!」
「アハハ!」
「ウハハ!」
 と、トコとマコもノリが良い。
「あたし、いっしょにシェ-カー振るわよ! たしか、オヤジがシャレで持ってんのがあるから、やってみよ!」

 で、キッチンでゴソゴソやってるうちに、山路が風呂から上がってきた。

「あ、このイケメンが山路、兄ちゃんの後輩。で、水も滴るいいオトコ。朝ご飯テキトーにね」
「いいっすよ。いつも自炊だから」
「ごめんなさいね、同窓会の打ち合わせやってるもんで……ほんと、いいオトコ。あたしやります! ナナ、トコと話しつめといて!」
 マコが、朝ご飯を作り始めた。
「あのう、ナナセさんは?」
「ああ、あいつドジだから、そこで指切っちゃって、休日診療に行っちゃった」
「え、大丈夫なんですか?」
「あ、大げさなのナナセは。マコ、キッチン血が飛び散ってたら、拭いといてね。で、中山センセだけど……」

 キッチンへ行くと、シンクや壁にリアルな血痕が付いていた。

「ナナセさん、一人で大丈夫ですか!?」
「大丈夫よ。大げさに騒ぎまくるから、血が飛び散っちゃって。あんなの縫合もなし。テープ貼っておしまい。ほら!」
 ナナは、偽造したメールとテープを貼った指のシャメまで見せた。
「貧血になったんで、しばらく横になって帰るって」
「だったら、やっぱり誰か……」
「ダメ! 甘やかしちゃ、本人の為にならない。ガキじゃないんだから、突き放してやって!」
「ナナ、壁の血とれないよ」
 マコが、赤く染まったダスターを広げて見せた。
「アルコ-ルで拭けばいいわよ」
「あとあと、それより、そこのハラペコに餌やって、早く戻ってきてよ。で、会費は……」
「包丁にも……」
「大丈夫、ナナセは病気は持ってないから。処女の生き血混じりのサラダなんておいしゅうございますよ」
「おい、ナナ……」

 オレは、なにか言おうとしたが、女子三人の馬力と妖しさに、次ぐ言葉がなかった……いや、半分ほど、この猿芝居に付き合ってみようかという気にさえなってきた。どうも我が家の血のようである。

 マコと山路が朝飯作って、食後の会話で飛躍した。

「へー、山路って、山が好きなんだ!」
「うん、オレの生き甲斐だね。こないだも剣に登ってきたとこ。次は通い慣れた穂高だな」
「国内ばっか?」
「海外は金がね……でもさ、山岳会がテレビとタイアップして、チョモランマに挑戦するパーティーに応募してんだ!」
「じゃ、体とか鍛えとかなきゃ!」
「そりゃ、鍛えてあるさ、ホラ!」
 山路が、腕の筋肉をカチンカチンにして見せた。で、調子にのって、割れた腹筋を見せたとき、これまた、調子に乗ったナナが、ルーズブラウスをたくし上げて、自分の腹筋を見せた。
「おお、こりゃ、並の鍛え方じゃないな!」
「あたぼうよ。これでも数少ない女レンジャーなんだから!」
「じゃ、一発、勝負だ!」

 で、庭で10メートルダッシュをやった。これはナナの勝ち。
 アームレスリングは、3:2で山路の勝ち。
 腹筋は、時間がかかるので、60秒で何度やれるかで勝負。ナナが98回で勝利。
 匍匐前進は、むろんナナ。
 跳躍。指の高さは山路だが、足の高さではナナの勝ち。
 シメは、近所の公園まで行って、木登り競争。ナナが勝って、もう一回やろうとしたら、警官に注意され、お流れ。

 最初は、山路に嫌われるために、始めたのだが、双方本気になるに及び、事態がおかしくなった。

 どうやら、山路はナナが気に入ってしまったようなのだ。

「ナナちゃん。君は素敵だ!」

「ウソ?」

「本気だ!」

「ナ、ナナ、ナンチャッテ……!」

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高校ライトノベル・『メタモルフォーゼ・12』

2018-05-25 06:48:49 | 小説3

 


『メタモルフォーゼ・12』




「最優秀賞 受売(うずめ)高校 大橋むつお作『ダウンロ-ド』!」

 嬉しいショックのあまり息が止まりそうだった。なぜか下半身がジーンと痺れたような感覚。
 え、なに、この感覚? こんなの初めてだよ……!?

 あ、おしっこをチビルってのは、こんなのか……括約筋にグッと力を入れて我慢した。

 賞状をもらって壇上で振り返ると、秋元先生はじめ、助けてくれた人、心配してくれた人たちの拍手する姿が目に入り、ニッコリしながらも目頭が熱くなった。
 それから閉会式の間、あたしは嬉しい悲鳴をあげながらもみくちゃにされていた。

「あ、剣持さんが来てる……」

 ホマの声で、みんなが一斉にそっちを見た。
 あたしでも知っている三年生で一番と評判の倉持健介……さんが来ていた。ユミがスマホを出してシャメろうとした。
「チッ……!」
 シャメる前に、他校の女子生徒が三人来て取り巻き、その子達がチヤホヤしだした。倉持さんは慣れた笑顔であしらいながら出口に向かった。女の子達が後に続く。
「ま、もてる人だから、オッカケの子たちの義理で来たんだろうね」
 クラス一番モテカワのミキでさえ、倉持さんは別格のようだった……。

 家に帰ると、みんな、それぞれにくつろいでいた。

 お母さんはルミネエといっしょにミカンの皮を剥きながら、テレビドラマを見ていた。
 ミレネエは、お風呂から上がったとこらしく、パジャマ姿にタオルで頭くるんでソファー。やっぱ、テレビが気になるよう。頭を左右に振りながら「見れねえ」とシャレのような、グチを言ってる。親と姉が邪魔でテレビが見づらそう。
 レミネエは、我関せずと自分の部屋でパソコンらしい。キーボ-ド叩く音がしている。
「ただいま。コンクールで最優秀とった……」
「やっぱ、エグザイルはいいわ。犬の娘が結婚するわけだ」
「進一兄ちゃんも、ここまで努力したら、トバされずにすんだのかもね……あ、美優帰ってたんだ。ただ今ぐらい言いなよ」
「言ったよ」
 女子になったころは珍しくて、うるさいほどに面倒みてくれたけど、もう慣れたというか飽きたというか、進二だったころと同じく空気みたいになってしまった。ま、いいけど。
「先にお風呂入っていい?」
「うん」が二つと「どうぞ」が一個聞こえてきた。
「じゃ、お先……」

 着替え持って、脱衣場でほとんど裸になったときにミレネエが、入浴剤の匂いをさせ、なにか喚きながら、あたしをリビングに引き戻した。
「美優の学校大変だったんだね、侵入者に演劇部の道具壊されたって、で、犯人掴まったそうだよ!」

 

――今朝、受売高校に侵入し、演劇部の道具などを壊した容疑で、S高校の少年AとB、それに同校の少年が、侵入と器物破損の容疑で検挙されました――

 

「大変だったんだね、美優……美優、なにおパンツ一丁で。あんた女の子なんだから……」
「ちょ、ちょっと!」
 テレビが、続きを言っていた。

 

――なお、受売高校演劇部は、この御難にもかかわらず、地区大会で見事最優秀を獲得いたしました――

 

「美優、やったじゃん! なんで言わないのさ!?」
「言ったわよ、ただ今といっしょに……あの、寒いんで、お風呂入っていい?」
「さっさと入っといで!」
 と、引っぱり出してきたミレネエが……言うか?
「上がったら、ささやかにお祝いしよう!」
「ほんと!?」
 あたしは、急いでお風呂に入った。しかし女子になってから、お風呂の時間が長くなった。
 お風呂から上がると、祝勝会は、すでに始まっていた。改めて乾杯はしてくれたけど、話題は、いつの間にか、職場、ご近所のうわさ話になった。

 やっぱ、あたしは男でいても女になっても、オトンボのミソッカスに変わりはないようだった。

 つづく

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