まさか、ここまで豹変しているとは思わなかった……!
「オハ、兄ちゃんワルイ。朝飯は自分でやってねえ。で、会場だけどさ……それウケる! ガールズバーで同窓会なんて、男ドモの反応が楽しみだね!」
「アハハ!」
「ウハハ!」
と、トコとマコもノリが良い。
「あたし、いっしょにシェ-カー振るわよ! たしか、オヤジがシャレで持ってんのがあるから、やってみよ!」
で、キッチンでゴソゴソやってるうちに、山路が風呂から上がってきた。
「あ、このイケメンが山路、兄ちゃんの後輩。で、水も滴るいいオトコ。朝ご飯テキトーにね」
「いいっすよ。いつも自炊だから」
「ごめんなさいね、同窓会の打ち合わせやってるもんで……ほんと、いいオトコ。あたしやります! ナナ、トコと話しつめといて!」
マコが、朝ご飯を作り始めた。
「あのう、ナナセさんは?」
「ああ、あいつドジだから、そこで指切っちゃって、休日診療に行っちゃった」
「え、大丈夫なんですか?」
「あ、大げさなのナナセは。マコ、キッチン血が飛び散ってたら、拭いといてね。で、中山センセだけど……」
キッチンへ行くと、シンクや壁にリアルな血痕が付いていた。
「ナナセさん、一人で大丈夫ですか!?」
「大丈夫よ。大げさに騒ぎまくるから、血が飛び散っちゃって。あんなの縫合もなし。テープ貼っておしまい。ほら!」
ナナは、偽造したメールとテープを貼った指のシャメまで見せた。
「貧血になったんで、しばらく横になって帰るって」
「だったら、やっぱり誰か……」
「ダメ! 甘やかしちゃ、本人の為にならない。ガキじゃないんだから、突き放してやって!」
「ナナ、壁の血とれないよ」
マコが、赤く染まったダスターを広げて見せた。
「アルコ-ルで拭けばいいわよ」
「あとあと、それより、そこのハラペコに餌やって、早く戻ってきてよ。で、会費は……」
「包丁にも……」
「大丈夫、ナナセは病気は持ってないから。処女の生き血混じりのサラダなんておいしゅうございますよ」
「おい、ナナ……」
オレは、なにか言おうとしたが、女子三人の馬力と妖しさに、次ぐ言葉がなかった……いや、半分ほど、この猿芝居に付き合ってみようかという気にさえなってきた。どうも我が家の血のようである。
マコと山路が朝飯作って、食後の会話で飛躍した。
「へー、山路って、山が好きなんだ!」
「うん、オレの生き甲斐だね。こないだも剣に登ってきたとこ。次は通い慣れた穂高だな」
「国内ばっか?」
「海外は金がね……でもさ、山岳会がテレビとタイアップして、チョモランマに挑戦するパーティーに応募してんだ!」
「じゃ、体とか鍛えとかなきゃ!」
「そりゃ、鍛えてあるさ、ホラ!」
山路が、腕の筋肉をカチンカチンにして見せた。で、調子にのって、割れた腹筋を見せたとき、これまた、調子に乗ったナナが、ルーズブラウスをたくし上げて、自分の腹筋を見せた。
「おお、こりゃ、並の鍛え方じゃないな!」
「あたぼうよ。これでも数少ない女レンジャーなんだから!」
「じゃ、一発、勝負だ!」
で、庭で10メートルダッシュをやった。これはナナの勝ち。
アームレスリングは、3:2で山路の勝ち。
腹筋は、時間がかかるので、60秒で何度やれるかで勝負。ナナが98回で勝利。
匍匐前進は、むろんナナ。
跳躍。指の高さは山路だが、足の高さではナナの勝ち。
シメは、近所の公園まで行って、木登り競争。ナナが勝って、もう一回やろうとしたら、警官に注意され、お流れ。
最初は、山路に嫌われるために、始めたのだが、双方本気になるに及び、事態がおかしくなった。
どうやら、山路はナナが気に入ってしまったようなのだ。
「ナナちゃん。君は素敵だ!」
「ウソ?」
「本気だ!」
「ナ、ナナ、ナンチャッテ……!」