大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・秋野七草 その一『そんなつもりは無かった』

2018-05-23 06:58:06 | ボクの妹

秋野七草 その一
『そんなつもりは無かった』
       


 そんなつもりは無かった。

 ハナ金とは言え、アキバにある男同士肩の凝らない国籍不明の酒屋一件で終わるはずだった。

 ところが、二つの理由で、こうなってしまった。繰り返しになるが、そんなつもりは無かった。

 理由の一つは仕事である。

 防衛省から、ごく内々ではあるが、オスプレイの日本版を作る内示があった。オスプレイの採用は、調査費もついて、ライセンス生産が決まっている。しかしアメリカ的なデカブツで、海上自衛隊で、艦載機として使えるのは、ひゅうが、いせ、いずも、かがなどの空母型護衛艦に限られる。そこで、骨董品になりつつあるSH-60 シーホークの後継機を国産する方針になり、その仕事が、わがA工業に回ってきたのである。むろん他社にも競争させ、基本設計とコストを比較したうえ入札になる。
 で、その研究と概念設計の仕事が、わが設計部に回ってきたのである。正式に採用されれば、この三十年ぐらいは、この仕事、タクスネーム「うみどり」で、会社は安泰になる。

 で、近場のアキバというオヤジギャグのようなノリで、設計部の若い者達で繰り出した。

 もう一つの理由は、話の中で、オレ、秋野大作(あきのだいさく)が、南千住で四代続いた職工の家であると言ったことである。

 後輩の山路隆造が感激し、もう一軒行きたいと言い出し、調子にのったオレも「よーし、それなら!」と、上野の老舗のわりに安い牛飯屋に行こうと言ってしまった。

 山路と言う奴は、名前の通り山が好きな男で、連休や長期休暇には、必ず休みの長さと天気に見合った山を見つけて登っていた。ウチは爺ちゃんが元気な頃、暇を見つけては山に登りに行っていたので話が合って、気が付けば看板になっていた。山路は、終電車を逃してしまったので、自然に口に出た。

「じゃあ、オレの家に泊まれよ」

 かくして、深夜のご帰還とあいなった。

「「ただ今あ!」」

 という元気な声が二つ重なった。山路は、酒が入っているとは言え客であるので、神妙にしている。
「ちょ、そこ邪魔!」
 と、玄関のドアを叩いて、もう一度の凱歌あげようとする妹の拳を握り、口を押さえた。
「ちょ、なにすんのよ兄ちゃん。妹を手込めにしようってか!?」
「もう、遅いんだ。ただ今は一言でいい。ほら、近所の犬が吠え出した……」
「うっせえんだよ、犬!……あら、いい男じゃん」
 そう言うと、酔っぱらいなりに、身だしなみを整え始めた。髪は仕事中とは違うサイドポニーテールというヘンテコな頭に、ルーズな、多分帰り道、酔った勢いで買った、派手なオータムマフラー。それを申し訳程度にいじっておしまい。
「妹さんですか」
「ああ、七草と書いて、ナナって言うんだ。ああ、酒臭えなあ」
 酒の入ったオレが言うのだから、相当なものである。

 ここまでは、まだ取り返しの付く展開であった。

「どーも、あ、あたし妹の方の七草です」
「あん?」
 と、オレ。
「通称ナナちゃん。姉が七瀬って書いてナナセってのがいます。からっきしシャレも冗談も通じない子なんで。兄ちゃん、もうご両親も姉上もお休みのご様子。ここは、あたしの鍵で……あれ、鍵?」
「いや、オレの鍵で……」
「いや、あたしが……」
 ナナは、スカートのポケットに手を突っこんだ。その時プツンというスカートのホックが外れる音を聞き逃したのは、失敗。

 ここでも、まだ取り返しがついた。とにかく近所の犬が何匹も吠えるので、家に入るのが先決だと思った。

「ここが、お兄ちゃんの部屋。で、こちが、あたしの部屋。その隣が姉上ナナセの部屋。両方とも覗いちゃあいけません! おトイレは、その廊下の突き当たり。では、お休みなさいませ!」
 と、この春除隊したばかりの、自衛隊の敬礼をして、その拍子に落ちかけたスカートをたくし上げ、ゲップを二つと高笑いを残して、七草は部屋に入ってしまった。

 この時誤解を解いておかなかったのが、この後の大展開とドラマになっていく。

 そんなつもりは無かった……。

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高校ライトノベル・『夏のおわり・6』

2018-05-23 06:44:32 | 小説4

のおわり・6』      

 

 日本人なら90%は知っているテーマ曲が流れて、それは始まってしまった。

「えー、今日は、いまコジャレたオネエで売り出し中のコイトさんと、今週から急速売り出し中の女子高生の吉田夏子さんです」
「あ、タダの夏です」
「あら、心配しなくても、事務所がついてるから、ちゃんとギャラ出るわよ」
「アハハハ」

 さっそくかみ合わない二人の話にコイトが大笑い、スタッフまで笑って、マイクで拾われて増幅する。

「ああ、そうなんだ。ごめんなさい。そそっかしくて。じゃ、ナッチャンだ」
「それ、OKです。なんか、もうあちこちで夏の終わりって言うじゃないですか。あたし成績悪くって、もう自分が終わるって言われてるみたいで」
「ハハ、でも、お名前が夏だから、毎年思わない?」
「あ、冷やかされたことはありますけど、こんなに感じたの初めてです」
「で、新学期早々、電車の中でついてなくて、コイトちゃんと出会っちゃったって?」
「ああ、もう、それ何遍話してもおっかしくって!」
 コイトが拾って、出会いの話をする。もう四回目ぐらいなんで、持ちネタみたくなってて、所々デフォルメしてきた。
「……で、『ナニすんのよ!』って言ったら『ナニすんの!』って。もう、こんな女子高生みたことない」
「ハハ、まるでテレビの演出みたいね」
「あ、ちょっと誤解です。コイトさんが、トイレまで付いてきて、で、個室入るの確認しちゃって」
「ハハ、確認しちゃうんだ。でも、どうして、その、ナニの方だって分かるわけ?」
「そりゃあ、徹子さん……」
「コイト……さん!」
「で、ナッチャン。お婆ちゃんが、こだわりのある人なんですって?」
「ってか、面白い人なんです。だいたい、あたしに『夏』って名前つけたの、お婆ちゃんですし」
「なんか、こだわりがあって?」
「単に、夏が好きだから。むかし、学校の先生って、夏休みはお休みだったでしょ?」
「え、それで、”夏”!?」
 と、驚いたのがコイトで、お腹よじって笑ってたのが徹子さん。

 で、お婆ちゃんの話で、もりあがっちゃった。

「へえ、お婆ちゃん、先生やってたくせに、勉強こだわらないんだ!」
「うちの担任の先生なんか直の後輩なんで誉めるんですけど、お婆ちゃん、高校四年行ってるんです」
「え、お身体悪くなさったとか?」
「じゃなくって、勉強しなかったから。で、同様に大学五年、ニート三年」
「わあ、すごいんだ!」
「先生になったとき、東京大学出て先生やってた人がいるんです」
「ああ、二学期になって隣の先生が同級生だって気づいた!?」
「あは、そんな人いるんだ。それで!?」
「その先生は、都立乃木坂から東大。あたしは、南麻布から御手鞠って三流大学。で、結果、就職したのは同じ都立高校。本人の前で平気で言っちゃうんです」
「この孫にして、お婆ちゃん有りね!」

 コイトが、エールだかチャチャだか分かんないのを入れる。

「へえ、お婆ちゃんて、言葉にこだわるのね?」
「はい、いまだに看護婦、婦人警官です」
「今は、看護師に、女性警官よね」
「婦って、女偏に箒だっていわれてますけど、実際は神さまの祭具だった帚なんです。竹冠ないでしょ。で、婦って字には、明治このかた、言葉に秘められた女の尊厳があるんだそうです。婦人解放運動とか、婦人参政権とか。第一、婦のチャンピオンである主婦は、変わってないでしょ。これは、あたしも思うんです。病院いっても看護婦さんて呼ぶ人いっぱいいます。お母さんは字を書く仕事なんですけど、看護師じゃ性別分かんない。女性看護師って書くと、言葉として不細工だって」
「ナッチャン、あなたって劣等生じゃないわよ。そういう感性大事だし、それを自然に持ってるって、とってもいいことだと思う」
「うん、あたしもさ。出会いの時、電車の窓枠に手ついたじゃない。あれを『守ってくれようとしてる』って感じてくれたこと、時間がたつにしたがって、とっても自然な誉め言葉だと思っちゃったもん」

 この『徹子の小部屋』のあと、単独の仕事も増えてきた……そう、秋の終わり頃には、ラジオやテレビに出ることを、ごく自然に「仕事」だと思えるようになってきた。

 でも秋のその頃までは、ちょっと変わった女子高生タレントで、タレントとしては喋ることしかできない。
 仁和明宏さんとの対談で、こう言われた。
「ノンベンダラリと居る世界じゃないわよ。もし『仕事』だと思ったら、この世界一通り回ってみることね。そうだ、AKRなんか良いんじゃない。わたし、ここから秋本君に電話してあげる!」

 で、AKRのドラフトで入って、年の変わる頃には歌とダンスに絞られながら、ラジオやテレビで喋りまくっていた。

 すみません、渋谷先生。

 夏は終わりましたけど、新しい夏が始まってしまいました……。

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高校ライトノベル・『メタモルフォーゼ・10』

2018-05-23 06:34:57 | 小説3

『メタモルフォーゼ・10』   

★……フォーチュンクッキー


『ダウンロード』という芝居は、メタモルフォーゼ(変身)するところが面白い!


 そう思って稽古を重ねてきたが、どうやら違うところに魅力があると感じだした。

 ノラというアンドロイドは、いろんな人格をダウンロ-ドしては、オーナーによって派遣され、大昔のコギャルになったり、清楚なミッションスクールの女生徒になったり、五歳の幼児三人の早変わりをしたりして、オーナーと持ちつ持たれつの毎日。
 そんな日々の中で「自分の本来のパーソナリティーはなんだろう?」、その自己発見の要求が内面でどんどん膨らんでいくところに本当の面白さがあると思うようになってきた。

 You tubeで、他の学校が演っているのを見て思った。https://youtu.be/2Y5kAoZjgxU

 ダウンロードされたキャラを精密にやっていく間に、時々「本当の自分」を気にする瞬間がある。

「キッチン作ってよ。あたし自分で料理するから!」という欲求で現される。

 そこにこだわってみて、誇張していくと俄然芝居が面白くなってきた。

 コンクールの三日前ぐらいになると、信じられないけど、稽古場にギャラリーが出来るようになった。いわゆる入部希望の見学ではなく、美優の稽古そのものが面白く、純粋な見学者なのである。
 クラブを辞めたヨッコ達には、少し抵抗があったけど、ヨッコ達は、良くも悪くもクラブに戻る気はなく、他のギャラリーと同じように楽しんでいる。他にも、ミキや、その仲間。ヒマのある帰宅部の子なんかが見に来るようになり、最後の二日間はゲネプロ(本番通りの稽古)をやっているようなものだった。

 最終日の稽古には、受売(うずめ)神社の巫女さんと神主さんまで来た。
「神さまのお告げでした」
 巫女さんは、口の重い父親の神主に代わってケロリと言った。
 そして、芸事成就の祝詞まであげてくださった。

「三十分だけ、祝賀会やろう!」

 ミキの提案で、稽古場が宴会場になった。

 あらかじめいろいろ用意していたようで、ソフトドリンクやらスナック菓子。コンビニのプチケーキまで並んだ。なんだか、もうコンクールで優勝したような気分。一番人気は受売神社の巫女さん手作りのフォーチュンクッキー!
「え、神社がこんなの……いいんですか?」
 意外にヨッコが心配顔。
「元々日本のものなのよ。辻占煎餅(つじうらせんべい)で、神社で売ってたの。それが万博でアメリカに伝わって、チャイナタウンの中華料理屋で出すようになったのよ」

「へー」と、みんな。

「神社でも出せば、ヒットすると思いますよ」
 ユミが、提案した。
「うん、でも保健所がウルサクって。中にお神籤が入るでしょ。それで許可がね」
 世の中ウルサイモンだと思った。
 巫女さんが、頭数を数え人数分だけ紙皿に盛った。
「さあ、みんなとって!」
 あちこちで「大吉だ!」「中吉よ!」などの声が上がった。ちなみに、あたしは末吉『変化は試練なり、確実に前に進むが肝要。末には望み叶うべし』と、あった。

 素朴な疑問が湧いた。

 あたしの望みってなんだろ?

 コンクールは中央大会も含めて二週間で終わる。そのあと、当たり前なら「進一に戻りたい」なんだろうけど、そう単純にはならない。
 あたしは、死んだ優美の思いを受け継いでいるのかもしれず。下鳥先生の言うように乖離性同一性障害かも知れず、そうなると、統合すべき人格がいるのだけども、いまは美優でいることが自然だ。体だって完全に女子になってしまい、それに順応している。
 そして、頭の片隅にあるのが受売神社の神さまのご託宣。

 ま、末吉なんで、目の前のことをやろう。

 最後は、みんなで『恋するフォーチュンクッキー』を適当なフリでやってお開き。
「すごい、ミユ、カンコピだったわよ!」
 AKBファンのホマが感動した。
「そのままセンターが勤まる!」

 あたしはサッシーか……。

「おれ、凶だった……」
 秋元先生がバツが悪そうに言った。
「凶って、百回に一回ぐらいしかないんですよ」
 巫女さんが感心していた。

 備えあれば憂いなし、道は開ける……と、むすんであった。

 つづく

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