大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル『ケータイとコンタクトレンズ・1』

2018-05-15 06:54:30 | ライトノベルベスト

高校ライトノベル
『ケータイとコンタクトレンズ・1』
       


「コンタクトレンズにすればいいのに……」

 美優の、呟きのような一言で決まった。

 会社の終業時間近くにパソコンを覗いている姿、それを斜め向かいのビルの五階から美優は見ていた。
 近頃のスマホのシャメは、実に良くできていて、とても二十メートル以上離れた、それも、こっちとあっちのガラスを通してとは思えない鮮明な画像が、メール付きで送られてきた。

――まるで、ヘンクツジジイだぞ――

 なるほど、そう見えなくもない。しかしオレは、年相応に苦み走ったいい男に思っている。だから、その時はコンタクトにはしなかった。

 美優とつきあい始めて……二年に近い。

 横断歩道を渡っていて、軽くぶつかったのが馴れ初めである。ぶつかっただけでは縁は生まれない。
 たまたま、オレは出張の帰りだった。向こうの社を出るときには確認したんだが、ブリ-フケースのロックが甘く、ぶつかった拍子に地面に落ちて書類やらなにやらをぶちまけてしまった。
「あ、ごめんなさい!」
 美優は、そう言って手際よく落ちたものを拾い集めてくれた。
「ほんとにすみませんでした」
 信号がギリギリで赤になる前に、歩道を渡り終え、美優は、もう一度頭を下げた。

 ペキ!

 横断歩道の真ん中で、何かが潰れる音がした。
「あ……!」
 美優は、今度は自分の不幸に声を上げた。
 ケータイが歩道の真ん中で、車に踏みつぶされていた。
 最初の車は不可抗力なんだろうけど、あとの車は「どうせ踏みつぶされたもんだ」と、次々に踏んでいき、信号が変わって拾いに行ったときは、もう、数十秒前までケータイであったことが分からないくらい粉砕されていた。
「ごめん、かえって大変なことになっちゃったねえ、申し訳ない、謝らなきゃならないのはオレの方だ」
「いいえ、いいんです。チョー古いやつだったし、そろそろスマホに買い換えようと思っていたところなんです」
「でも、アドレスとか、大事なデータが入っていたんじゃないの?」
「ううん、どうでもいいってか、もう縁を切りたいようなのも入ってましたから。かえってせいせいです」
「あ、せめてお昼でもご馳走させてもらえないかな。オレの気が済まない」
「うう、残念。今そこで天丼食べたところなんです」
「そう、じゃ、迷惑じゃなかったら晩ご飯でも……あ、こりゃ、まるでナンパだな。スマホプレゼントするよ」
「いいですいいです、晩ご飯にしましょう。今の事故は、その程度の物です」
 美優は、目の前で、手でイラナイイラナイをした。
「ア、ハハハ……」
「あ、なにかおかしいですか?」
「いや、君のイラナイイラナイは首まで一緒に動くんだ」
「え、やだ、そうなんですか!?」
「いいじゃん、かわいくて。じゃ、オレ今日は定時退社にするから、五時半にここってことで」
「はい、分かりました。お言葉にあまえます」
 
 そして、五時半になって、会社のビルを出ると、美優が斜め前のビルから出てくるのが、ちょうどだった。

「きみ、あのビルの?」
「はい、六階のS物産です。派遣社員ですけど。あなたはM興産の……多分、杉山さんですよね」
「え、なんで知ってんの?」
 と、ここまでが、タクシーの中の会話であった。なぜゆえオレのことを知っているのかは、タクシーの中では言ってくれなかった。

「うちの会社から、おたくのビル丸見えなんですよ。特に五階は」
 中トロを美味そうに食べながら、美優が言った。
「うちからは、なにも見えないぜ」
「ああ、角度のせいです。杉山さんとこは日中丸見えです。窓から四メートルぐらいのとこまでは」
「そうか、うちの会社北向きだもんな、道理で、そっちは見えないわけだ。でも、どうやってオレの名前分かったの。別に看板出してるわけでもないのに」
「ああ、隣に発音のはっきりした女の人いるでしょ」
「あ、ああ、山名君か」
「あの人が、あなたを呼ぶときの口、ウイヤマってとこまでは分かるんです。口のカタチはっきりしてるから」
「彼女、放送局の女子アナ志望だったからな……あ、そのウイヤマから?」
「そう、普通に連想したら杉山しかないでしょ!?」
「こりゃ、まいった、まるで名探偵コナンだ」
「あ……せめて、それに出てくる榛原ぐらいに。いちおう女ですので」

 そんな風に、二人の関係が始まった。

 知り合いが、友だちになり、体の関係になるのに一カ月もかからなかった。互いに子どもというわけでもなし、相手が独り者であることは、二度目に唇を合わせたときの感触で分かった。お互い適度な異性関係が過去にはあったことも。

 お互い、隙間を埋め合うのには、ちょうどいい相手だと感じた……。

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高校ライトノベル・『メタモルフォーゼ・2』

2018-05-15 06:48:05 | 小説3

高校ライトノベル
『メタモルフォーゼ・2』
        


 

 秋の日はつるべ落とし。駅までは、そう気にせずに歩けた。

 でも、駅の明るい照明が見えてくると足がすくんだ。女装の男子高校生なんて、へたすれば変態扱いで通報されるかもしれない。
 それよりも、このラッシュ時、満員のエスカレーター、ホーム、車両。ただでも人間関係を超えた距離で人が接する。

 絶対バレル!

 家の最寄り駅まで三駅。歩けば一時間近くかかる……。

 ボクは歩くことにした。

 近くに、このあたりの地名の元になった受売(うずめ)神社がある。その境内を通れば百メートルほど近道になる。鳥居を潜って、拝殿の脇を通れば人目にもつかない。

「あ……!」

 石畳の僅かな段差に躓いて転倒してしまった。
「気いつけや……」
「すみません」
 とっさの事に返事したが、まわりに人の気配は無く、常夜灯だけが細々と点いていた。幻聴だったのか……こういうことには気の弱いぼくは、真っ直ぐ神社を駆け抜けた。

 神社を抜けると、このあたりの旧集落。そして団地を抜けると人通りの多い隣り駅に続く。カーブミラーや店のショ-ウィンドウに映る自分をチラ見して、なるべく女子高生に見えるようにして歩いた。
 演劇部なので、基礎練習で歩き方の練習がある。その中で、女の歩き方というのがある。
 全ての女性が、そうであるわけではないけど、一般に一本の線を踏むように歩く。足先は少し開くぐらいで、歩幅が広いほどハツラツとして明るい女性に見える。思わず春の講習会のワークショップを思い出し、それをやってみる。スピードは速いけど、人目に付く。かといって、縮こまって歩くと逆の意味で目立ってしまう。

 役の典型化という言葉が、頭に浮かぶ。

 その役に最も相応しい身のこなしや、歩き方、しゃべり方等を言う。今は一人で歩いているので、歩き方だけに気を付ける。過不足のない歩幅、つま先の角度。胸は少しだけ張って、五十メートルほど先を見て歩く。一駅過ぎたあたりで、なんとなく感じが掴めた。二駅目では、そう意識しないでも女らしく歩いている自分がおかしく感じる。
 この内股が擦れ合う感覚というのは発見だった。最初は違和感だったけど、気が付いた。

 女というのは、こんなふうに、いつも自分を感じながらってか、意識しながら生きてるんだ。

 クラブの女子や、三人の姉の基本的に自己中な生き方が少し理解出来たような気がした。
「ヒヤー!」
 思わず裏声で悲鳴が出た。
 通りすがりの自転車のオッサンが、お尻を撫でていった。無性に腹が立って追いかけた。
 オッサンは、まさか中身が男子で、追いかけてくるとは思わなかったんだろう。急にスピードを上げ始めた。
「待て~!」
 裏返った声のまま叫んだ。オッサンはハンドルがふらついて転倒した。
「ざまー見ろ!」
「怖え女子高生だな……イテテ」
 オッサンは少し怪我をしたようだけど、自業自得。気味が良かった。ヨッコや姉ちゃんたちの嗜虐性が分かったような気がした。

 やっと三つ目の最寄りの駅が見えてきた。

 ケツ触りのオッサンを凹ましたこととウォーキングハイで、なんだか気持ちが高揚してきた。
 最寄りの駅は、準急が止まり、それなりの駅前の規模がある。人や車の行き来も頻繁。ここはサッサと行ってしまわなくっちゃ。そう思って駅に近づくと、中央分離帯で、大きな荷物を持ってへばっているオバアチャンがいた。信号が変わって、荷物を持とうとするんだけど、気力体力もつきたのか動くのを諦めてしまった。こんな町でも小都会、この程度のお年寄りの不幸には見向きもしない……って、普段の自分もそうかもしれないが、駅前全体が見えている自分には、オバアチャンの不幸が際だって見えてしまう。

「オバアチャン、向こうに渡るのよね?」
「え、ああ、そうなんだけど……」
 
 しまった、オバアチャンが至近距離で自分のことを見てる……ええい、乗りかかった船。オバアチャンの荷物を持って手を引いた。
「どうもありがとう。タクシーが反対方向なもんでね」
「あ、そうなんだ」
 タクシーは、すぐに来た。で、タクシーに乗りながらオバアチャンが言った。
「ありがとねえ、あんたならAKBのセンターが勤まるわよ!」

 AKBのセンター……サッシーか!?

 まあ、オバアチャン一人バレテも仕方ない。感謝もしてくれたんだし。
 そして、早くも身に付いた女子高生歩きで我が家に向かった。

 で、我が家の玄関。

 せめてウィッグぐらいは取らなきゃな。カチューシャ外してウィッグを掴むと……痛い。まるで地毛だ。

「あなた、進二の学校の子?」

 上の留美アネキが会社帰りの姿で近寄ってきた……。

 つづく 

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