大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・秋野七草 その五『わたしは、ナナ……セ』

2018-05-27 06:31:05 | ボクの妹

秋野草 その五
『わたしは、ナナ……セ』
        


 秋野七草と書いて「アキノナナ」と読む、元陸自レンジャーの我が妹の名前である。

 今日は、真面目な話があったので後輩の山路をうちに泊めてやると家に電話した。山路は、こないだも終電に間に合わず泊めてやった。

「すみません。今夜もご厄介になります」

 で、不幸なことに、妹のナナが直ぐあとに帰ってきた。「「あ」」と二人同時に声が出た。

「あ、ナナセさんの方ですね?」と、山路が誤解した。

 無理もない。そのときのナナは会社で指を怪我をしてテープを貼ってきていたのである。指を怪我したのは、先日のイタズラでおしとやかな(しかし架空の)双子の姉のナナセだと思いこんでいる。とっさに、ナナも気づき、ナナセに化けた。
「先日は、不調法なことで失礼をいたしました」
「いいえ、お怪我の方は……」
「あ、もうだいぶいいんですが、お医者様が、跡が残ると生けないとおっしゃって、こんな大げさなことをしております」
「そりゃ、あんなに血が流れたんですから、お大事になさらなきゃ」

 まさか、あの時の血が食紅だったとは言えない。

「今夜は、またお世話になります」
「いいえ、先日はまともにお話も出来ませんでしたから、ゆっくりお話ができれば嬉しいです」
 心にもないことを言う。

 ナナがナナセとして二階へ上がると、携帯が鳴った。アドレスでナナと知れる。

「どうした、なんでオレに電話してくんだ(なんせ二階からかけてきている)え、今夜は泊まり? どうして、せっかく山路も来てんのにさ。あ、ちょっと山路に替わるわ」
「もしもし、山路。どうしたナナ……ちゃん。せっかく今夜は大事な話が出来ると思ったのに。ほら、例のチョモランマ……ええ、そういうこと言うかなあ。男一生の問題だぞ。あ、笑ったな! おまえな、そういうとこデリカシー無さ過ぎ。今度しっかり教育してやっから。それに、勝負もついてないしな。次は絶対勝つからな! そもそもナナはな……」

 これで、今夜はナナはナナセで化け通すことになった。オヤジとオフクロには、この間に、話を合わせてくれるように頼んだ。一家揃って面白いことは大好きだ。

「と言う具合で、チョモランマに登るのには、準備も入れて三か月もかかるんです。うみどりの仕事は、その分みんなにご迷惑……」
「アハハ、そんなこと心配してたのか!?」
「だって、僕も設計スタッフの一員ですから」
「最初の三か月なんて、オモチャ箱ひっくり返すだけみたいなもんだ。アイデアを出すだけ出して、使い物になるかならないかの検討は、そのあと、さらに三か月は十分にかかる。それから参加しても遅くはないじゃないか」
「なんと言っても、オスプレイの日本版ですからね、僕だって……」
「気持ちは分かるけどな、A工業には大戦中からのオモチャ箱があるんだ。それこそ堀越二郎の零戦時代からのな。最初のオモチャ箱選びは、オレだって触らせちゃもらえない。オモチャの整理係なんだぞ」
「負けません。整理係でもなんでも」
「そんなこと言ってたら、チョモランマなんて一生登れねえぞ」
「すごいですね、若いのに二つも大きな夢があって」
「あって当然ですよ。僕にとっては、山と仕事は二本の足なんです。両方しっかり前に出さないと、僕って男は立ってさえいられないんです」
「焦ることはない。お前は帰ってきてから、広げて整理したオモチャの感想を言ってくれ。三か月もやってると、好みのオモチャしか目に入らなくなる。新しい目でそれを見るのが山路の仕事だ。うちの年寄りは、そういう点、キャリアも年齢も気にはしない。自分たちも、そうやって育ってきたんだからな」

 ここでナナが化けたナナセが割り込んできた。

「戦艦大和の装甲板を付けるとき、クレーンの操作がとてもむつかしくて、ベテランの技師もオペレーターもお手上げだったんです、俯角の付いた取り付けは世界で初めてでしたから。それを、ハンガーそのものに角度を付けるってコロンブスの玉子みたいなことを考えついたのは、一番若い技師の人だったんです……きっと山路さんにも、そんな仕事が待ってます!」
「ナナセさん。いいお話ですね……でも、そんな話し、どうしてご存じなんですか?」
「あ、これは……父が小さな頃に教えて、ねえ、お父さん……寝ちゃってる」

 それから、オレたち三人は技術や、夢について二時過ぎまで語り合った。山路はナナが化けたナナセの話しに大いに感激していた。ナナは、陸自に居たときも、実戦でも、技術面でも卓越したものを持っていた。だから、女では出来ないことにも挑戦しようとし、挫折して退役してきた。民間と陸自の違いはあるが、熱い思いは同じようだ。

 そして、オレは気づいてしまった。自分の罪の深さに……。

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高校ライトノベル・『メタモルフォーゼ・14』

2018-05-27 06:20:54 | 小説3

『メタモルフォーゼ・14』


「中央大会のビデオ、You tubeに流してもいいかな……」

 これが始まりだった。
 特に断る理由もないし、実際よく撮れていて、単なる上演記録というのではなく、撮影作品になっていた。
 でも、それだけが理由じゃない。今や、あたしの心の核になってしまった美優には、よく分かっていた。

 思った通り、次には、こう出てきた。

「今度、店のメニューの一新をするんで、試食に来ないか。自分で言うのもなんだけど、けっこういけるよ」
 そう、倉持健介の家は、洋食屋さんで、食べ物屋が少ない街では、割に名前の通った店だ。試食会なら、相手に負担させるお金も気持ちも軽い。うまいアプローチの仕方だと思った。

 さすがに、大正時代から続く洋食屋さんで、何を食べてもおいしかった。進二だったころは、食べ物に執着心はなかった。お母さんやルミネエの水準以下の料理でも満足していた。
 でも、女子になってしまうと、俄然食べ物にうるさくなってきて、下のレミネエとプータレるようになった。
「お家で、こんなの食べてたら、学校の食堂なんて食べられないでしょ?」
「食堂なんて、デカイ物はたべられないよ」
「アハハ、座布団一枚!」
 進二だったころは、この程度のギャグでは笑わなかった。美優になってから、よく笑う。この反応の良さが、単なるミテクレでは無く、クラスのベッピン組のミキたちが友だちにしてくれている理由だと思った。
 でも、相手が男子の場合は、注意しないと、間違ったメッセージを送ることになる。かといって、ツンツンもしていられない。どうも美優というのは人あしらいがうまいようだ。

 そうしているうちに、スライドショーが始まった。

 お店の90年に近い歴史が要領よくまとめられ、ナレーターも倉持先輩自身がやって、二十人ほどの身内とお得意さん達を感動させた。
「こうして、この店は、兄、健太が四代目の店主になることになりました」
 暖かい拍手が起こる。同時に『ボクは気軽な次男坊』とアピールしているように取るのは、気の回しすぎだろうか……と、思っていたら、それは唐突に始まった。

『ダウンロード』受売(うずめ)高校演劇部 主演:渡辺美優

 中央大会の作品が5分ほどにまとめられ、画質がいいので部分的には、かなりのアップもあり、コマワリもよく、実際よりも数段上手く見えた。
「この芝居の主演をやったのが、ボクの横にいる渡辺美優さんです」
 前に増した拍手が起こった。

「あんなサプライズがあるなんて、思いもよらなかった」
 健介は、駅まで送ってくれた。
「ああいう演出も、勉強のうち。それに美優は咲き始めた花だ。見てもらうことで、もっと伸びるし、きれいにもなる」
「きれい、あたしが?」
「うん、ミテクレだけじゃない。内面……ほら、今みたいに、驚いたことや嬉しいことに素直に、敏感に反応する。居るようで居ないよ。そういうのって、ボクは好きだ。今日はありがとう。良い勉強になった」
「勉強だけ?」

 なんてこと言うんだ!?

「美優に喜んでもらって、とっても嬉しい。美優は、そのままでもステキだけど、驚いたり喜んだりしたとき……その……」
「ありがとう。そんな風に言ってもらえたのは初めて(なんせ進二だったころは影が薄かった)」
 だめだ、雰囲気作っちゃ……と思っても、自然に反応してしまう。
「じゃ、これからもよろしくな」
 駅の改札前で手を出され、自然な握手になった。
「あ、うん。ほんとう、今日はありがとう」

 かろうじて、無難な挨拶をして改札を潜った。背中の視線に耐えられずに振り返ると、健介が笑顔で手を振った。反射的に、健介と同じくらいの笑顔で小さく手を振る。
 ホームの鏡で顔を見ると、ポッと上気して、頬が赤らんでいる。

 なんだ、この反応は。絶対健介は誤解する。美優がとても性悪に思えてきた。あたしは、いったいどこへ行ってしまうんだろう……。

 そして、家へ帰ってお風呂に入る。

「美優、なにかいいことあったでしょう?」
 ミレネエが、入れ違いに言った。姉ながら、女の感覚は怖ろしいと思った。

 寝る前に、メールのチェック。

――明日、大事な相談したいの。放課後よろしく。他の人には言わないでね――

 デコメも何にもない、ぶっきらぼうにさえ見えるそれは、ミキからだった……。

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