大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・135『救助!?』

2020-04-02 15:53:33 | ノベル

せやさかい・135

『救助!?』         

 

 

「あかんやろ」と「そやろなあ」が重なった。

 

「あかんやろ」がテイ兄ちゃん、「そやろなあ」がおっちゃん。

 間に座ってるお祖父ちゃんは知らん顔してお茶飲んでる。詩(ことは)ちゃんとおばちゃんは朝食後の洗い物をやってて、うちは洗濯機の終了を待ってる。

 テイ兄ちゃんとおっちゃんの意見が分かれたのはテレビのニュース。

 石川県の知事さんが『どうか、症状のない方は石川県にお運びください』とアピールしてる。

「こんな時期に旅行なんかいったら、感染のリスクあがりまくりやろ」

「せやけど、観光地はどこも閑古鳥や。温泉旅館なんか、一か月も客が無くなったら潰れるでえ」

「まあ、国が非常事態宣言もよう出さんと煮え切らんからなあ、そら、地方は、自分とこの事情でウロウロするわなあ」

 ズズーッとお茶を飲むお祖父ちゃんと目ぇが合うてしもた。

「さくらの学校は、どないやねん?」

「え、うん。今のとこ例年通り八日に始業式」

 うちも、心の中ではどないやねんやろと思てる。

 大阪は、東京に次いで感染者が多い。もう二百人を超えてるんちゃうんかなあ。

 まあ、毎日びっくりするようなことが起ってるから、まあ、少々の事では驚かへんよ。

 うちの男たちは「しかしなあ」「せやけどなあ」と次々に問題を重ねては議論が収まれへん。

 お祖父ちゃんは「どっこいしょ」と、朝食後二回目のトイレに立つ。

「世間の心配もいいですけど、お花まつりの結論も出してくださいね。もう一週間しかないんだから」

 おばちゃんがプンプンしてリビングに入ってきた。

 

 せや、四月八日は俗に『お花まつり』いう灌仏会なんや。そんで、うちの誕生日でもある。

 この話題に乗ると、誕生日のお祝いを催促してるみたいやから、ダミアを連れて境内で遊ぼ……と思たら、ダミアがおらへん。

 ダミア~

 ダミアを呼びながら境内へ、たいていは本堂の縁側とかに居るんやけど……姿が見えへん。車のボンネットにも、日当たりのええ山門の脇にも気配が無い。

 ダミア~

「ネコやったら、あそこ……」

 まだ名前憶えてない近所の小学生が、上の方を指さしてる。

「え……え……あ!?」

 ダミアは、山門の桜の木の張り出した枝の上で固まってる。

「上がって、下りてこられへんみたい」

「しゃあないなあ……」

「え、ねえちゃん、登るん?」

「このくらい、軽いもんよ」

 サンダルを脱ぐと、山門の縁に足をかけて、スルスル……とはいけへんけど、桜の木に登った。

 もう七分咲きになってる桜は、濃厚な春の匂いがした。ネコは、人間の何十倍も嗅覚がいい。この匂いに誘われて、ダミアは上がっていったのかもしれへんなあ。

「ダミア~、こっちおいでえ~」

「ニャーー」

 助けに来てくれたんが分かってるみたい……やねんけど、このビビりネコは、うちのとこまでようこうへん。

「しゃ、しゃあないなあ……」

 枝に沿って腹ばいになって腕を伸ばす。

「フニャ~」

「ちょ、ダミア!」

 ダミアは、ピョンとジャンプすると、あたしの背中に乗ってきよった。み、身動きがとれへん!

 

 ピー ピー ピー

 

 なんのアラームや? せや、洗濯機や!

 そこで、下を向いてしもた。 めっちゃ高い!

「う、動いたらあかんでえ」

 そろ~っと、枝の上を後ろ向きに戻る。

 ズリ……え?

 枝に引っかかって、ジャージの上が胸のとこまでずり上がってしもた。

 フグッ!

 うろたえた拍子に、重心が崩れて落ちそうになる。反射神経で、隣の枝に足を掛ける。

 地上の小学生に声をかけよう……と思たら、居らへん。

 フググ……!

 やばい、足かけた枝がしなって、あたしは『へ』の字を逆さにした感じになってしもた!

 ジャージが、さらに上下方向にめくれ上がって……もうアカン!

「こっちこっち!」

 そう思たときに声がした。

 さっきの小学生が、近所で電話線工事してた男の人を連れてきた。

「じっとしとりや!」

 男の人は、すぐにアルミのハシゴをかけて、救助の態勢にはいってくれるんやけど、めっちゃハズイ!

 ジャージは、胸元とへその下までズレてしもて、メッチャみっともない(;'∀')。

 

 とりあえず、無事に助かったとだけ言うときます。

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乙女と栞と小姫山・03『桜の枝』

2020-04-02 08:03:09 | 小説6

乙女と小姫山・3  
『桜の枝』     
      

 

 

 職会のあと、社会科の教官室に行った。主任の前田から六人の同僚を紹介された。

――まあ、この人達となら、なんとか波風立てずにやっていけそう。

 乙女先生は少し安心した。次に受け持ちの教科のほうが気になった。

「日本史A」これはいい。しかし、「映画から見た世界都市」には驚いた。この小姫山青春高校は総合学科の学校であるので、社会科以外の教科も覚悟はしてきたが「映画から見た世界都市」 これはまるで、映画か観光の専門学校の科目である。新転任者に教科を選ぶ権限などない。取りあえずはアテガイブチと納得。

 職員室は管理職のお達しであろう、みんなの机の上は、昔の学校のように雑然とはしておらず。パソコンと小さな本立てのようなものがあるだけで、民間会社のオフィスを思わせたが、教官室は……地震のあとをとりあえず片づけました。と言う感じ。

 各自の机の上は、カラーボックスや本立てが二階建てや三階建てに。それだけで机の上1/3は占められ、残った2/3の半分も、うず高く、書類やプリントの山になっている。まあ、社会科の教師の机とはこんなものであるが、ここの乱雑さには、すさんだものを感じた。すさみようは六人の教師で微妙な差があるが、互いに干渉しないでおこうという、社会科独特の相互不干渉主義が生きているようで、取りあえず安心。

 社会科というのは、数ある教科の中で、最も個人の政治・社会に対する主観が出やすく、教授内容の統一などはとても出来るものではない。

 で、たいていの学校で社会(地歴公民などという長ったらしい名前は、現場では、まず使わない。会議などで教科予算などの利害が絡むときは別)の教師は個人商店のようなものである。乙女先生といっしょに日本史Aを担当する東野も、「よろしく」とだけしか言わなかった。
「じゃ、わたし、一年の生指主担やりますんで、ホームベースは生指の部屋に置きますので」
「でしょうね、あとで、教科の歓送迎会の日取りの打ち合わせだけ確認させていただきます」
 主任の前田の声を、聞いたとき、各分掌の会議が始まる放送が入った。

――ああ、このせいか……。

 乙女先生は、生指の部屋に入ったとたんに理解した。
 生指部員のだれもが、部長の梅田と微妙な距離をとって座っている。
 どうやら梅田は、部長として浮いている様子である。十二人の部員が揃って、学年当初の生指のスケジュ-ルを確認している間も、だれも梅田の顔を見ようとはしない。血の巡りのいい生指なら、学年の主担同士の情報交換や、最低でも挨拶があってしかるべきなのだが、それも「職会でやりましたから」の梅田の一言で省略された。連休前までのスケジュ-ルが確認されたところで、生指の電話が鳴った。

「はい、生活指導です」

 電話をとったのは、三年の生指主担の山本であった。

 あやうく電話で言い争いになるところであった。

「それは、生活指導の仕事ではありませんので、係りのものに繋ぎます」

 山本は、電話相手の話が終わるやいなや、そう答えた。応対の内容から、学校外部からのクレームであることはすぐに分かった。で、今の山本の一言で、相手の頭の線が切れたであろうことも、乙女先生には容易に想像できた。山本が、相手が再び喋り始めたとき、有無を言わせず内線電話を切り替えようとした。

「ちょっとかして」

 乙女先生は山本から受話器をふんだくった。
「はい、お電話代わりました。生活指導部の佐藤でございます……」
 相手は、すでに頭にきていた。生指に繋がるまで、いささか待たされ、そのあげくが山本の木で鼻を括ったような応対で線が切れたことは明らかであった。

 乙女先生は、丁重に電話の主に詫び、すぐに技術員室へ向かった。その背中を見送る生指部員の目は冷たかった。

「すんません。ノコギリと、ホウキと大きいゴミ袋三枚ほどお願いします」
「なんに使いはりまんねん?」
 技師のボスらしきオッサンがウロンゲに乙女先生に聞いた。乙女先生は簡単に事情を説明して、必要なものを受け取った。
――最初は、このオッサンのとこに電話があったはずやろ。と、思った。しかし転勤初日。イザコザは避けようと思った。
 玄関まで行くと、真美ちゃんが所在なげに立っていた。
「乙女先生、何か仕事ですか?」
「ちょっとね」
「わたしも、いっしょに行きます。新任指導は午後からなんで、ヒマなんです」
「いいわよ」
 乙女先生のにこやかな返事は、真美ちゃんには逆の意味にとられたようで、正門に向かう乙女先生の後を、おニューのパンプスの足音が追いかけてきた。

 どうやら、道を逆に回ってしまったようだ。切り通しの石垣にぶつかって、回れ右をして再び正門前に戻り、学校の外周を時計回りにそって歩いた。東の角を曲がると、それがドデンと転がり、数名のオッサンとオバハンが待ちかまえていた。

 ドデンと転がっていたのは、学校の校庭から、折れて道に落ちた桜の枝だった。

 ただし、それは枝などというカワユゲなものではなく。幹と言ったほうがいいシロモノで。四メートルほどの生活道路を完全に塞いでいた。で、その桜の向こうで軽自動車が立ち往生していた。

 軽自動車のフロントグリルは、なんだか怒った小型犬のように見えた……。
 

 

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連載戯曲・エピソード 二十四の瞳・2

2020-04-02 06:43:03 | 戯曲
連載戯曲
改訂版 エピソード 二十四の瞳・2  


 
 
 
時  現代
所  東京の西郊

登場人物

瞳   松山高校常勤講師
由香  山手高校教諭
美保  松山高校一年生


 
 
由香: それでは、大石瞳の一日早い二十五歳の誕生日を祝って……(クラッカーを取り出す)
瞳: ちょ、写真撮るから(カメラと三脚を取り出す)
由香: え、カメラ用意してんの?
瞳: これ用意するのに時間かかったんよ。
由香: おお! プロ用のデジカメじゃん!
瞳: 理科の先生にマニアがいてね……よし、いくよ。
 五、四、三、二、チーズ(クラッカーの音とシャッターの音が同時にする。
 クラッカーの中身といっしょに枯葉がチラホラと舞う。間)
瞳: ……なんか一抹の淋しさを感じるね。
由香: なにぜいたく言ってんのよ。世の中には誰にも祝ってもらえないで誕生日迎える女が山ほどいるんだぞ。
瞳: わかっておりますわよ、友だちのありがたみは。
由香: んなら、もっとありがたがりなさいよ!
瞳: ヘヘ~!……(袋を開ける)うっわあ……手編みのセーターじゃん!
由香: たっぷり一ヶ月はかけさせてもらいました。
瞳: いやあ、ありがとーーーーーー手間暇かかっちゃったでしょ。いやーーーーー襟とか袖まわりとか難しいんでしょ、よく編めてる(セーターを着る)
由香: でしょ!
瞳: ちょっと複雑な気持ちだなあ……。
由香: え?
瞳: これ、ほんとうは自分のために編んだんじゃない?
由香: え……。
瞳: 丈が、微妙に長い……。
由香: 今年は、そういう微妙にザクッとしたのが流行なのよ。
 指先がチョコッとだけ出るようなのが萌えーっちゅう感じで男心をくすぐるんよ!
瞳: いまさら萌えーっちゅう齢でもないでしょ、あたしたち。
由香: 嫌だったら返してよ。
瞳: ありがたいと思ってるわよ。ほんとはペアルックで、色違いのを編んで彼にあげようと思って。
 思うだけであげられなかったせつない女心……その宙に浮いたペアルックの自分の分をあたしに……。
由香: 瞳いいいいい!
瞳: かまわないわよ、たとえ流用にしろ由香の情熱のこもったセーター。
 ありがたく着せてもらう、この編み目一つ一つに由香の想いを感じながら……。
由香: あのねーーーーー手芸はわたしの趣味とストレスの解消なの!
瞳: それはそれは……じゃ、ついでにあたしの写真撮ってくれる?
由香: え、一人だけで?
瞳: うん、写りがよかったら見合い写真とかにしようかなって、こういう萌え系もいいんじゃない?(ささっとセーターを着る)
由香: そういう齢じゃないって言っといて。
瞳: はいはい、チーズ。
由香: オ……や、やっぱ……い、意外に萌~じゃ~ん(^▽^)/
瞳: 本気で萌言うなあ~!
由香: いいよいいよ、プチギャップって感じ! 本気で見合い写真に使えるかも。あ、やっぱ、セーター脱いで一枚……(シャッターを切る。三脚の脚が一本縮んでカックンとなる)……なんか、本気の見合い写真は拒絶しとるぜ。
瞳: んなこと……ちょっとコツがね、よし、これでいいと思うよ。
由香: じゃ、いくよ。こっちも仕事でストレスたまってんだからね(シャッターを切る)
瞳: 仕事のストレスってあんの、山手みたいないい学校で?
由香: あるわよ。そりゃ、担任やってるといろいろと。
瞳: たとえば?
由香: 教師同士の人間関係とか、生徒の無気力さとか、縮まらない距離とか……。
瞳: ふうん……。
由香: こんなこと言っちゃあなんだけど、瞳は常勤講師で、担任もないから気楽なもんなんでしょうねえ(シャッターを切る)
瞳: それがねえ……。
由香: なんかあるの?
瞳: あたしが副担やってるクラスの担任、倒れちゃって、あたしが担任の代行やってんのよ。
 隣の担任も休みがちで、ほとんど二クラスの担任代行。
由香: ええ! それって、瞳は常勤講師でしょ?
瞳: ウ、そーなんだけどね……。
由香: 学年主任とかいるんでしょ?
瞳: それが、頼りないオッサンたちで。
 たてまえは学年主任と主席が代行っていうことになってんだけど、現実は日々の指導から、先月は懇談まで。
 今も、家庭訪問にいくついでに……。
由香: え、この自動車大好き女が自転車で通勤してんの?
瞳: ちゃんと自動車で通ってるわよ。これ、セコの折りたたみ。車に積んでんの。
由香: え、自動車通勤ってヤバいんじゃないの?
瞳: 三年もやってりゃ開き直り。車は知り合いの駐車場に預けてっから。
由香: んじゃ……。
瞳: 家庭訪問は自転車。小回りが効くし、駐車する場所気にしなくていいでしょ。
 それに汗水たらして自転車で行くと、いかにも先生が苦労してますって感じで、演出効果もばっちり。
由香: だけど、そんな担任みたいな仕事、常勤講師なんだから、
 学校もいつまでもほうっておかないっしょ、常勤講師は常勤講師なんだから。
瞳: 常勤講師常勤講師言うな!
由香: ごめん。
瞳: 現役一発で通った由香と違って、三回も試験に落ちてる身だよ。好きこのんで常勤でいるわけじゃないもん。
由香: そんなつもりで言ったんじゃないわよ。
 わたしだって、初めての担任で、クラスは苦しいし、もう二人も退学させてんだぞ。
 そのたんびに親には泣きつかれるし、子供は拗ねるし……。
瞳: ウーーーーあたしなんか二十四の瞳なんだぞ。
由香: え?
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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・88「ジャングルジムのてっぺん」

2020-04-02 06:26:01 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)88

『ジャングルジムのてっぺん』              


 

 ペダルが軽い。

 パンクの修理だけじゃなくて、あちこち油をさしてくれたようだ。

 やっぱり、基本的にミッキーはいいやつなんだ。

「どうもありがとう、とっても快調になった!」

「いやあ、ついでだよ、ついで」


 そう言うとミッキーはジャングルジムに上っていく。
 つけあがらせることなく誉めながら話そうと思っていたら、さっさと公園で一番高いところに上っていくわけ。
 女の子にもよるけど、ジャングルジムのテッペンなんてところで男の子と並んだら少しドキドキする。
 家の二階ほどの高さもないんだけど、お尻の下がスケルトンなためのムズムズドキドキ。
 この状況で恋を語られたら、自分の胸の高鳴りを誤解してしまいそう。

 もっとも、そんな『吊り橋効果』的なことを企んで上ったわけではない。

 単にこういう場所が好きなだけなんだろう。
 自転車の修理といいジャングルジムといい、ハックルベリーのようなところがあるみたい。
 ハックルベリーには直球がいい。
「ミッキー、清美のこと誤解してるのよ」
「なにを!?」
 直球過ぎて目を剥いている。
「I can cook pretty って言ったのよね」
「そうだよ。グループで自己紹介しあってるときに、清美のことをみんながprettyだとかcuteだとか騒いでる時に、彼女言ったんだ」
「though I can only cook……pretty でしょ」
「うん『お料理が上手いだけ……けっこうね』だよ。日本人て変な謙遜ばっかりするけど、あの言い回しは上手いと思ったよ、控えめに自分の長所をアピールしてるしね」
「清美はんぱに英語出来るから、ちょっと言い間違えたのよ」
「言い間違い?」
「ほんとは、こう言いたかったのよ。though I can only cook……little. ユーアンダスタン?」
「though I can only cook……little?」
「そ、prettyって単語が出たんで、うまいこと返そうと思って、とっさに間違えたのよね。でも、みんなが感心してくれるし、旅先だし『ま、いっか』にしちゃったわけ。まさか、あんたが日本に来て自分ちにホームステイするなんて思いもしないもんね」
「……そっか」
「だから、あの料理は、あたしのレクチャーと演劇部のアシストでやったってわけ」
 ここまで言うと、ミッキーは黙り込んだ。
 やっぱ直球はまずかった……フォローしようと思ったら、いきなりジャングルジムを飛び降りた。

 体操選手みたいに着地すると、クルッと振り返った。

「かわいいじゃないか! なんだかアニメの萌えキャラだ! ちょっとツンデレだけど!」

 いや、ツンはあるけど、デレは無いから……。

 こいつを野放しにしてはいけない! そう思って、わたしも飛び降りた!

「ミッキー、あんた演劇部に入んなさい!」
「演劇部?」
「そう、そして……」
「ミリー、ちょっと目が怖いよ……」
「い、いま、足を……く、くじいたの(-_-;)……家まで送ってちょーーー」

 ちょーー痛いいいいいいいいいいいいっ!!
 
 

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坂の上のアリスー38ー『深夜の売り切れ』

2020-04-02 06:16:51 | 不思議の国のアリス

アリスー38ー
『深夜の売り切れ』
    

 

 

 夜中に目が覚めた。

 

 無性に喉が渇くので、財布を掴んでロビーの自販機を目指した。

 階段を下りようとすると、踊り場の窓から庭が見える。

 宿舎の庭は、けっこうな広さの回遊式日本庭園で、ほぼ中央に池があって、姿のいい橋が架かっている。

 その橋の真ん中に二人の人影。一人は半身をこちらに向けたすぴか、もう一人はすぴかの方を向いた後姿の放出さん。

 なにか話している様子で、控えめなジェスチャーで、ときおり頷いたりしている。

 月明かりの中、二人の姿はちょっと神さびてさえ見える。

 眠れぬままに庭に出たすぴかが、仕事を終えて退出する放出さんと出くわして、企まず二人だけの女子会が始まった感じだ。

 

 やがて、すぴかが小さく頷くと、放出さんは天皇陛下にするような礼をした。

 すぴかは、自分の事を聖天使ガブリエルと名乗るほど電波なやつだけど、鷹揚に頷く姿は妙にしっくりいっている。

 

 そして、橋の上で交差すると、すぴかはこちら側、放出さんは向こう側に進んだ。

 そして、橋を渡り切る寸前で放出さんの姿は朧になって……消えてしまった!?

 

 え、え………………?

 

 オレは、なんだか見てはならないものを見てしまったような気がして、思わず柱の陰に身を寄せてしまった。

 あるわけないんだけど、すぴかの視線がガラスを通して突き抜けてきたような気がした。

 あのままあそこに居たら、メドゥーサに睨まれたように石になっていたような気がした。

 

 気を取り直してロビーに下りると、エレベータから綾香が出てくるところだ。

 

 綾香は起き抜けの機嫌が悪い、へたに声をかけない方がいい。家に居てこういうシュチュエーションではお互い無視する。

 で、予定通り自販機の前に立つと、綾香も斜め後ろに立ちやがる。

 なんのことはない、似た者兄妹で、綾香も飲み物を買いに来たらしい。

 さっさとしよう、グズグズしていると後ろからケリが入って来る。

 オレはお金を入れるとあやまたずカフォレのボタンを押す。

 ガタゴットンと音がして、取り出し口にカフォレの缶が現れる。そいつを取ってノタクラと自販機を離れ、階段を目指す。

 背中に殺気を感じる。

 ヤバイと思って振り返ると、自販機の前で鬼の形相の綾香。

 

 ヒッ

 

 ひきつった喉が空気だけの悲鳴を上げる。

 恐怖を堪えてよく見ると、オレが買ったカフェオレのところが売り切れを示す赤ランプになっている。そうか、綾香もカフェオレが飲みたかったのか、オレタチってなんて気の合う兄妹なんだ!

 こんな時にカフェオレを譲ってやったりするとかえって逆効果になる。オレは――仕方ねえだろ――という顔だけして引き上げることにしたが、自販機前の愚妹も――ヒッ――と悲鳴を上げる。

 愚が付いても妹だ、イレギュラーな悲鳴を放っておくわけにもいかない。

「どうかしたか?」

 声をかけると、妹は自販機の一点を指さして凍り付いている。

「これは……」

 なんと、サンプル缶の一番端っこ、喉が渇いたくらいではだれも手を出さないであろうトマトジュースにも売り切れを示す赤ランプが灯っているではないか。

 オレは十七年の人生でトマトジュースに赤ランプが灯っているのを見たことが無い。そもそもトマトジュースが並んでいる自販機そのものがレアな存在なのだ。

 パタパタとスリッパの音がした、綾香が逃げ出したのだ。

 まあ、それはいいんだけど、オレの手からカフェオレが消えてしまったのが忌々しかった。

 

♡主な登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

 

 

 

 

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ここは世田谷豪徳寺・59《大阪府立真田山学院高校》

2020-04-02 06:05:27 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・59(さくら編)
《大阪府立真田山学院高校》   



 

 連休の後半は大阪だ。

 三日はH市のホールを借り切ってコンクールのシーンを撮った。そして、四日からは大阪に飛んで、舞台となる大阪府立真田山学院高校を丸三日間借りての撮影。現場近辺のシーンも含めると五十シーンを超える。
 撮りやすいモブシーンから入った。
 テスト中の教室、昼休みの中庭、演劇部の部室になっているプレゼンテーション教室、休み時間の廊下、下足室、職員室。そのほとんどにはるかさんは出ている。自分自身の役とは言え、映画はお芝居だ。現実にいた友達とは違うエキストラのクラスメートを相手に、春、夏、秋のシーンを撮る。当然クラスメートとの距離感が違ってくる。

「カット! はるかとの距離の取り方がウソっぽい。興味はあるけど、近寄りがたい。でもってそれぞれの生活感。夕べ見たテレビの話とか、新しく開店した駅前のお店とか、宿題大急ぎでやってるとか……そういう各人の生活出して」
 監督の抽象的なダメを助監督の田子さんが、一人ずつつけていく。はるかが転校してきたころの教室のシーンだけでも半日かかってしまった。

 いや、半日ですんだというべきか……。

「そこさ、目だけ教科書見て、目の端っこで、はるかを見るの。まず顔ね。そいで上半身、下半身、そいで全体の印象。でもって自分やクラスの人間と引き比べて距離感つかむの」

 そうアドバイスしてくれたのは、東亜美役の一ノ瀬さんの従姉さん。

 H市のロケだけで終わるはずのエキストラだったけど、意外な演技力があるので大阪まで来てもらった。

 で、これを直接頼み込んだのが、はるかさん。やっぱり見る目と行動力が違うと思った。一ノ瀬薫さんて言うんだけど、人の心を掴むのも上手い。休憩時間には自然に、他のエキストラと会話して、すぐに本物のクラスメートのようにしてしまった。

「シーン増やすよ」

 監督の言葉で、薫さんと、はるかさんのちょっとした絡みが増えた。

「あの……」
「あ……?」

 最初のよそよそしさから、テスト終了後、目だけで「できた?」「ううん」までやってのけた。で、昼には学級委員長という「役」になり、モブシーンを教室やら廊下で撮った。とりあえず場面のブリッジになるようなシーンばかりで、その多くは編集の段階で切られてしまう。

「薫さん。なんで、そんなに勘いいの?」

 思わず聞いてしまった。

「よくないですよ。ただ、学校じゃ頭打ちながら生きてきたから、いろんなパターンが頭の中にあるだけです」
 気楽にロケ弁代わりに食堂ランチを食べながら、なんだか昔からの友だちのように話した。
「このカラマヨドンての、いけますね!」
 あたしも同感だった。丼ごはんの上に唐揚げとマヨネーズと、薄目の出汁がかかっていて、東京じゃ絶対考えられないメニューだった。
「これ、連休明けから十円上がるんです」
 エキストラで、保健委員の役を演っている三好清海さんがグチった。彼女は真田山学院高校演劇部の現役部長。ちょうどはるかさんと入れ替わりに、この学校に来た人で、たった二人になった真田山学院高校演劇部を一人で支えている。しょぼくれるのが嫌なんで、「大阪府立真田山学院高校演劇部公式ブログ」をネットで流して、内と外からクラブを守ろうとしている。同じ高校生でも、あたしなんかより立派な子がいる……のは、分かったが、こんなに集まるのは、やっぱはるかさんの人徳だろう。

 昼からは、一番むつかしいシーンを撮った。

 あたしの演ずる由香が、はるかに張り倒されるシーン。二人ともバイオレンスには縁がない(はるかさんは、昔現実にやったシーンだけど、自分が演技で演るのは別物のようだ)殺陣師の人が入るときれいになるんだけど、高校生らしさが抜けてしまう。

 テイク5で救世主が現れた……。

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