ジジ・ラモローゾ:026
もう幻視はせんのか?
朝ごはんのあと、庭掃除を終わってぼんやりしているとおづねが囁いた。
「あ、うん。ジージは真面目な先生だったんだ」
『そのようだな、検尿の件などなかなかできるもんじゃないからな』
ジージは『締め切り時間を過ぎたからダメだ!』という保健部長を押し切って業者に持って行ったんだ。
なかなかできるもんじゃない。
真面目でエライとは思うんだけど、しんどかったと思うんだ。
自分が正しくても、もめ事とかギスギスするのはヤダ。血の繋がりのあるジージが、そんなギスギスの中にいたんだなんて、自分が、そこに居たみたいで、心がチクチクしてやだ。
『なるほどな、では、こんなのはどうだ……』
「二人も休みか……」
点呼を撮り終ったジージが呆然としている。
―― クラス対抗リレーに出場する生徒は、直ぐに入場門のところに集合してください ――
午後の部一番『クラス対抗リレー』呼び出しが掛かっている。
リレーは(50・100・150・200m)の順番なんだけど、100mと200mの選手が休んでいるんだ。
「ふつう棄権だよね?」
本番に選手が居なければ、たとえ運動会の競技だろうと、参加資格が無くなって、棄権になるのが普通だ。
「屯倉先生、棄権は困る。みんな真似して棄権するから(;゚Д゚)」
ジージの学校は、アナーキーな困難校だ。運動会などの行事はブッチする生徒が多い。午前中は居たはずの生徒がリレーを嫌がって逃げてしまったのだ。
このままでは……このままでは、詰まらなくなる!
「グヌヌ……わたしが走ります!」
えええええええええええええ!?
クラスの生徒も集合係りの生徒もリレー担当の先生もビックリしている。
ビックリはしているが止める者は誰も居ない。
ジージは、キリリと鉢巻と靴の紐を締め直して、第二走者の位置に着く。
三番で入ってきた第一走者からバトンを渡されると、100メートルを全力疾走して二番に食い込んでバトンを渡す! 渡すと直ぐにトラックを横断して200mのアンカーのポジションに! 三位に落ちた第三走者からバトンを受けると、必死の形相でトラック二周の200をダッシュ!
第四コーナーを過ぎて、ゴオオオオオオオオオオル!
ドテ
寸前にこけて、ドンべになる。
ドッと笑いが起こる中、ビッコを引いて無念の形相もすさまじくラストでゴールイン!
アチャーー
ドンクサイ……思わず、わたしは目を伏せてしまった。
『最後までみるのだ』
肩の上のおづねに蹴飛ばされて顔をあげると、あくる日のホームルーム。
痛む足を引きずって教室に入るジージ。
ワハハハハハハハハハハ!
教室はみんなの爆笑に包まれるではないか!?
「え? え? えええ?」
気配に気づいて、振り返ると、黒板いっぱいにジージがこけた瞬間のマンガが描いてある。
「ああ……アハ、アハハハ」
あまりに面白く描いてあるので、ジージも頭を掻きながら笑ってしまう。
「よし、消さなきゃ授業できないけど、せっかくの作品だ。消す前に、みんなで記念写真撮ろう!」
みんな教壇の所に集まって、昨日ブッチした二人も恥ずかしそうに加わって、みんなの携帯で記念撮影をした。
『愛されておったのだなあ、そなたのジージは』
思い出した、ジージの右膝には傷跡があった。きっと、この時の怪我をこじらせたんだ。
い、痛いのはダメだ。
今度は、おづねが大笑いした。