大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ジジ・ラモローゾ:026『運動会』

2020-04-05 16:02:34 | 小説5

ジジ・ラモローゾ:026

『運動会』  

 

 

 もう幻視はせんのか?

 

 朝ごはんのあと、庭掃除を終わってぼんやりしているとおづねが囁いた。

「あ、うん。ジージは真面目な先生だったんだ」

『そのようだな、検尿の件などなかなかできるもんじゃないからな』

 ジージは『締め切り時間を過ぎたからダメだ!』という保健部長を押し切って業者に持って行ったんだ。

 なかなかできるもんじゃない。

 真面目でエライとは思うんだけど、しんどかったと思うんだ。

 自分が正しくても、もめ事とかギスギスするのはヤダ。血の繋がりのあるジージが、そんなギスギスの中にいたんだなんて、自分が、そこに居たみたいで、心がチクチクしてやだ。

『なるほどな、では、こんなのはどうだ……』

 

「二人も休みか……」

 

 点呼を撮り終ったジージが呆然としている。

―― クラス対抗リレーに出場する生徒は、直ぐに入場門のところに集合してください ――

 午後の部一番『クラス対抗リレー』呼び出しが掛かっている。

 リレーは(50・100・150・200m)の順番なんだけど、100mと200mの選手が休んでいるんだ。

「ふつう棄権だよね?」

 本番に選手が居なければ、たとえ運動会の競技だろうと、参加資格が無くなって、棄権になるのが普通だ。

「屯倉先生、棄権は困る。みんな真似して棄権するから(;゚Д゚)」

 ジージの学校は、アナーキーな困難校だ。運動会などの行事はブッチする生徒が多い。午前中は居たはずの生徒がリレーを嫌がって逃げてしまったのだ。

 このままでは……このままでは、詰まらなくなる!

「グヌヌ……わたしが走ります!」

 

 えええええええええええええ!?

 

 クラスの生徒も集合係りの生徒もリレー担当の先生もビックリしている。

 ビックリはしているが止める者は誰も居ない。

 ジージは、キリリと鉢巻と靴の紐を締め直して、第二走者の位置に着く。

 三番で入ってきた第一走者からバトンを渡されると、100メートルを全力疾走して二番に食い込んでバトンを渡す! 渡すと直ぐにトラックを横断して200mのアンカーのポジションに! 三位に落ちた第三走者からバトンを受けると、必死の形相でトラック二周の200をダッシュ!

 第四コーナーを過ぎて、ゴオオオオオオオオオオル!

 ドテ

 寸前にこけて、ドンべになる。

 ドッと笑いが起こる中、ビッコを引いて無念の形相もすさまじくラストでゴールイン!

 

 アチャーー

 

 ドンクサイ……思わず、わたしは目を伏せてしまった。

『最後までみるのだ』

 肩の上のおづねに蹴飛ばされて顔をあげると、あくる日のホームルーム。

 痛む足を引きずって教室に入るジージ。

 ワハハハハハハハハハハ!

 教室はみんなの爆笑に包まれるではないか!?

「え? え? えええ?」

 気配に気づいて、振り返ると、黒板いっぱいにジージがこけた瞬間のマンガが描いてある。

「ああ……アハ、アハハハ」

 あまりに面白く描いてあるので、ジージも頭を掻きながら笑ってしまう。

「よし、消さなきゃ授業できないけど、せっかくの作品だ。消す前に、みんなで記念写真撮ろう!」

 みんな教壇の所に集まって、昨日ブッチした二人も恥ずかしそうに加わって、みんなの携帯で記念撮影をした。

 

『愛されておったのだなあ、そなたのジージは』

 思い出した、ジージの右膝には傷跡があった。きっと、この時の怪我をこじらせたんだ。

 

 い、痛いのはダメだ。

 

 今度は、おづねが大笑いした。

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連載戯曲・改訂版 エピソード 二十四の瞳・5

2020-04-05 06:59:31 | 戯曲
連載戯曲
エピソード 二十四の瞳・5   

時  現代
所  東京の西郊

登場人物

瞳   松山高校常勤講師
由香  山手高校教諭
美保  松山高校一年生



 
瞳: 言っただろ、教育は掛け算だって!
 先生が十のこと教えて、あんたたちが十なら答えは百、一だったら十。
 そんで、ゼロだったら答えはゼロだよゼロ。覚えてる?
美保: あたしゼロ?
瞳: ゼロだ!
美保: はあ……。
瞳: だけどなあ、美保はマイナスじゃない。
美保: え?
瞳:マイナスの数字は、どんな正数を掛けても答えはマイナス。そういう奴は、今の美保みたいに素直な話もできない。
 だから、そういう正直なとこが美保のプラスのとこだ。さっきも言っただろ。
美保: うん……。
瞳: 先生はな、美保が勉強の面でプラスだろうがマイナスだろうが。
 そんなことで、善し悪しを計ろうなんて思ってないぞ。
美保: ……どういうこと?
瞳: 場所を変えたら、美保の気持ちはプラスに変わる。
美保: え……。
瞳: 違う学校に行ってみるとか、働いてみるとかしたら……きっと美保にもゼロではない、プラスになれる場所があると思うんだ。
美保: それって……。
瞳: こら、詐欺師見るような目で見るんじゃないよ。
美保: だけど、あたし学校にはいたい……先生、あたしのこと辞めさせたいんじゃない?
瞳: バカ、それなら、ちゃんとプラスになって学校に来いよ。ちゃんと授業うけろよ。
 な、そうだろ、先生間違ったこと言ってるか(由香に)ね?
由香: え……うん……。
瞳: だろ?
美保: う、うん……。
瞳: これ、今日家まで行って美保に渡そうと思っていたんだ。
美保: え?
瞳: うち、選択授業が多くって、教室の移動が多いじゃんか。
 美保、あんまり学校来てないから、自分が受ける授業……教室もよくわかってないだろ、迷子の子猫ちゃん。
 辞めさせたかったら、こんなサービスしないよ。
美保: ありがとう先生……。
瞳: これでもう「教室わからないんだも~ん」って、言い訳はさせねーからな。
 数字の上では、ちゃんと学校に来てきちんと授業受けたら、カツカツで道はひらけないこともない。
 そのためには、自分を変えなくっちゃな!
美保: プラスにならなくっちゃだめなんだよね。
瞳: そうだ。難しいぞ、自分を変えるというのは。
美保: うん。
瞳: できるか?
美保: う……うん。
瞳: ちゃんと先生の顔見て!
美保: ……うん。
瞳: ……だめだった時の覚悟も心に置いとくんだぞ。
 その場しのぎにイイコチャンぶっても、問題先延ばしするだけだからな。
美保: うん。
瞳: ……。
美保: じゃ、もういい?……バイトの時間迫ってるから。
瞳: おう。それから……なあ美保。
美保: うん?
瞳: 夜中、バイク乗り回すのはやめときな。
美保: ……どうして?
瞳: 懇談の時、一人一人に聞いた。美保にも聞いたでしょ?
美保: あたし、免許もバイクも持ってないって!
瞳: 反応でね、美保とお母さんの反応で……
 今みたく、ムキになったり、目線が逃げたり……で、こいつは乗ってるなあ……と、あたしの勘。
 それで警察に問い合わせたの。多摩と府中の警察で、一回ずつ世話になってるわね。
美保: ……。
瞳: ほれほれ、また詐欺師見るような目ぇしちゃって。
 今さら問題にして、どうこうしようなんて思ってないよ。
 バイクそのものも悪いとは言わない、あたしも車大好きだから。
 だけど、今はそのバイクとダチとの付き合いが美保の足をひっぱてるんだ。
美保: それとこれとは関係ないよ!
瞳: ある! 夜遅くまでバイク乗って、朝学校に来られるわけないだろ……それに、乗ってるだけでは済まないようなことも……。
美保: 分かってるよ。
瞳: ……そこまでは詮索しないけどなあ、今は、そこんとこ手を切らなかったら進級なんかできねーぞ。
美保: 先生、あたしは……。
瞳: まだ、このうえゴチャゴチャ言わせてーのか!
美保: ……。
瞳: 分かったか? とりあえず進級のメドがつくまでは……いいな……そうでないと、またコブラツイストかけっぞ!
美保: う、うん。がんばるよ……じゃ……先生。
瞳: うん?
美保: 何でもない(駆け去る)
瞳: いいか、バイクはやめとくんだぞ!
由香: ……瞳、あんたすごいね……。
瞳: もうちょっと待っててね……(携帯をかける)……ああ美保のお母さんですか?
 はい、松山の大石です。いま、お家まで行こうと思ったら東公園のとこで美保に出会いまして……ええ、説教しときました。
 今日で音楽が切れてしまって、残りの日数も十六日です……
 はい、本人もがんばるって言ってますけど、最悪アウトになる覚悟は……恐縮です。
 今度落ちたら二度目。二回落ちて卒業した子はいませんから、ええ……それとバイクのこと……
 ハハハ、申しわけありません、勘で……ええ、ピンときて、警察のほうにも照会させてもらいました……
 いや、特に問題にして処分しようとは考えてません。ただ、美保の足をひっぱってるのは確実にバイクと、その仲間です……
 ええ、本人にもメドのたつまでは縁切れって……ええ、本人も飲み込んだ様子ですので……
 お家の方でも、そのへんよろしく……性根までは腐った子じゃありませんから、まだ信じてやりたいと思います……
 じゃ、どうぞよろしく(切る)おまたせ、家庭訪問なくなっちゃった。どっか行こっか?
由香: え?
瞳: 由香の希望どおり、あたしのバースデイ・イブってことで。もち由香のおごりでね。
 フランス料理にしようかな……イタメシもいいし……あ、自転車のうしろ乗って。立ち乗りでいいよ。
 近くの駐車場までだから……いくよ!
由香: あ、ちょ、ちょっと……。

 由香が瞳の自転車を追いつつ去る。黒子による明転。 

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乙女と栞と小姫山・6『木花開耶小姫』

2020-04-05 06:41:21 | 小説6

乙女と小姫山・6
『木花開耶小姫』
    


 

「お待ち申し上げておりました……」
「よう、おいでくださいました……」


 二人の巫女さんが、ゆかしく丁寧なあいさつをした。乙女先生も頭を下げたが、二人のゆったりとしたテンポに合わず、顔を上げたときには、まだ二人の巫女さんは頭を下げたままで、慌てて頭を下げなおした。すると、桜の香りがあたりに満ち始めた。
「あ……」
 顔を上げると、思わず声に出てしまった。
「これ、急に、こないなことしたら、先生びっくりしやはる……」
「すいません。せめてものお持てなしのつもりやったんです……」

 拝殿は床だけになり、奥に本殿は見えるものの、まわりは一面満開の桜であった。はらはらと桜の花びらが、芳醇な香りとともに舞っている。
 クマリン(C9H6O2)という、桜の香りの成分が頭に浮かんでくる。
「ほほ、先生は、成分で桜の香りを感じはるんですね」
――なんで、わかったの……?
「これ、人の心を読んだりしたら、あきまへんえ」
 年上と思われる巫女さんがたしなめた。
「すいません。素直なお心してはるさかいに、つい……」
 年若の方の巫女さんが、いたずらっぽく言った。
 桜の香り成分は、五年ほど前の春に、前任校の理科の教師が不器用に、乙女先生を口説いたときの切り出しの言葉であった。クマリンというかわいい名前が、その理科の先生のイメージにぴったりなので、乙女先生は今でも、そのおかしさと共に覚えている。
「でも、わたし、クマリンより十歳ほど年上やよ」
「え、ええ……!?」
 クマリンは、正直に驚いていた。でも憎めない驚きようだった。
「と、年の差なんて!」
 頬を桜色に染めてクマリンは言った。桜色がバラ色になる前に、乙女先生は釘を刺した。
「わたしは、これでも既婚者やのん。今は佐藤やけど旧姓は岡目。分かってくれた?」
 クマリンは、息をするのも忘れて驚いていた。
「もしもーし、息しないと窒息して死んでしまうわよ」
 クマリンは息をするのを思い出した。そして乙女先生も、今、思い出した。
――あのころは、まだうまくいっていた。亭主に隠し子がいることは、まだ知らなかったから。茜……思い出は桜色やバラ色を通り越し、鮮やかな、その子の名前の茜色になってしまった。目頭が熱くなる。
「堪忍してくださいね、茜ちゃんのことまで思い出させて……」
「これ……」
 年上の巫女さんが、再びたしなめた。
「あ、あなた達って……?」

 はらはら舞っていた花びらたちがフリーズしたように、空中で静止した。

「わたし……伊邪那美(いざなみ)と申します。この子は木花開耶小姫(このはなのさくやこひめ)」
「え……ええ!?」
 乙女先生は、クマリンと同じ驚き方をした。木花開耶小姫がクスリと笑った。
「これ!」
 木花開耶小姫は、たしなめられっぱなし。伊邪那美の語気も強くなってきた。
「じゃ、お二人は神さま……!?」
「ええ、いちおう……」
 伊邪那美は、きまり悪そうに答えた。
「は、ははー!」
 乙女先生は、深々と頭を下げた。
「あ、そんなかしこまらんといてください」
「どうぞ、お楽に」
 フリーズしていた花びらが、再び舞い始めた。

「……というわけで、この木花開耶小姫をもとにもどしてやっていただけたらなあ……と、思てますのん」

 いつのまにか、桜餅とお茶が出てきて、ちょっとした女子会になってしまった。
「あの、つまり木花開耶小姫さんは、今のうちの学校の敷地においでになっていたんですか?」
「はい。あそこは、もともとは里山で、正式には小姫山言うてました」
「もっと正式には木花開耶小姫山」
「ほほ、そんな長ったらしい名前で呼ぶもんは、ここの神主さんが祝詞あげるときぐらいのもんです。普段は、ただの里山」
「もとは、その里山にお祀りされていらっしゃたんですね」
「ええ、ちょうど校門の脇の桜の横に祠がありましたんどす」
「学校建てるときに、ここに合祀されたんですけど。ここも祭神のわたしさえ忘れかけられてしもて……」
「居候の、わたしのことなんか……ウ、ウウ……」
 木花開耶小姫が涙ぐむ。
「ちょっと、あんた泣かんとってくれる……」
「ええやないですか、人間……神さまやけど、泣きたいときは泣いたほうがよろしい。武田鉄矢も言うてます」
「ウ……なんて?」
「悲しみこらえて、微笑むよりも。涙かれるまで、泣くほうがいい~♪」
「ホンマに……?」
「え、ええ! それ、あきません!」
 乙女先生の教師らしい励ましに、伊邪那美さんは驚き、木花開耶小姫は号泣し始めた。
「ウワーン!!!!」
 とたんに、ダンプカー三台分ぐらいの桜の花びらがいっせいに落ちてきて、乙女先生と二柱の神さまは花びらに生き埋めになってしまった……。
  

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・91「わたしの車いす生活」

2020-04-05 06:27:57 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
91『わたしの車いす生活』 
     




 地震になったらエレベーター停まるんですよ。

 揃って入ったエレベーターの中で、気楽に千歳が言う。


「てことは、閉じ込められるわけ!?」
「そうですよ」
 お尻のあたりがゾクゾクしてきた。高いビルのテッペンから下を覗いたような、あの感じ。
 
 ……………………。

「先輩、ボタン押さなきゃ動きません」
「あ、そか」
 後から乗ったもんだから、ドアの真ん前。狭いエレベーターなので車いすが二台入ると身動きが取れない。
「二階だから押せるけど、上の階だったら手が届かないよ💦」
「左側に車いす用のボタンがありますよ(*^-^*)」
「あ、ほんとだ!」
 車いすなんて初めてなんで、いろいろな発見がある。

 捻挫(両足)をこじらせて車いすに乗ってるのよ。

 松葉杖でも大丈夫なんだけど「知らないうちに負荷をかけるから」というドクターの勧めなんだ。
 世界が変わるよね、車いすに乗ってると。
 視線の高さが子ども並になるので、ちょっとワクワクする。今の車いす用のボタンとかね。
 教室の椅子は取っ払ってもらった。いちいち車いすから普通の椅子に替えるのは冗談かと言うほど煩わしい。
 教室への出入りも考えて、廊下側の一番後ろになった。
 でも、車いすがドデンと来ると、後ろのドアの半分が被ってしまうので、すぐ前の関さんが座席ごと引っ越していった。
 なんだか申し訳ない。

 身障者用のトイレは無駄に広いと思っていたけど、そうでもないことをことを実感。
 一度使っただけで、松葉づえで普通の個室を使うことにした。

 自販機が使いにくくなった。

 だって、一番下のボタンしか手が届かない。
 わたしの好きなデカビタは上の段にしか並んでいないから。

「はい、先輩」

 二階の新部室に着くと飲み物が欲しくなって、どうしようかと思っていると千歳が「任せてください!」と買いに行ってくれた。
 この際だから、なんでもいいやと思っていたら、千歳はきっちりデカビタを買ってきてくれた。
 自分用に買ってきたのも上の段にしかないペットボトルのお茶だ。
「え、どうやって?」
「伊達に三年も車いすに乗ってませんよ」
「千歳は魔法が使えるの……?」
「へっへー(^▽^)/」
 千歳とは、もう半年の付き合いだけど、こんなに嬉しそうな千歳は初めて。
 やっぱ、ハンディキャップを一時的とはいえ共有していることは大きいんだと思うし、千歳の一面しか見えていなかったとも感じる。
「部室棟がよく見えるわね……」
 工事が中断したままの部室棟。わたしが演劇部に入ったのは、そもそも部室棟の解体修理を見たいからだった。
 まんまになっているのは、やっぱね……。
 気持ちを切り替えて千歳に振る。
「二人も車いすになって、文化祭に演劇って出来るのかなあ?」
「車いすという点では大丈夫ですよ……ほら」
 スマホを出して動画を見せてくれる。
「お、根性ね!」
「でしょ、ノープロブレムです!」

 スマホには、先週から骨折のため車いすになりながらも元気に舞台に立っている黒柳徹子さんが映っていた。

 新部室はとってもいいんだけど、集まるのが遅くなった。
 前の部室は、生活指導のタコ部屋も兼ねていたので、松井須磨先輩の住み家でもあった。
 須磨先輩の魅力なのか、あの狭い部室になにかあるのか、面白いところだった。

 標準より十分遅れてみんなが揃った。気が付くと午前中残っていた雨が上がって、少しだけ晴れ間が見えてきた。 

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坂の上のアリスー41ー『国際郵便の昼下がり』

2020-04-05 06:19:20 | 不思議の国のアリス

坂の上アリスー41ー
『国際郵便の昼下がり』   

 

 

 唐突に旅行が終わって、俺たちは夏休みを持て余した。

 

 八月も中旬に入って、バイトも見つけにくいし、旅行の予定も立てにくいってか、お金もそんなにはない。

 せいぜい市民プールか近場の水族館、はたまたアキバとかアウトレットとかのイベント、あるいはウィンドショッピング。

 いずれも腰を上げるほどには魅力的ではなく、リビングで愚妹の綾香ともどもゴロゴロしている。

 ともどもと言っても仲がいいわけじゃない。

 

 俺の部屋のエアコンが壊れ、綾香の部屋のエアコンは臭いからだ。

 

 俺の方は、どうやら寿命。綾香の方は去年の夏から手入れを怠って、内部にホコリやらカビやらが異常繁殖したからだ。

 でもって、唯一健常なエアコンのあるリビングに居らざるを得ないという状態なのだ。

「あんたが悪いのよ」

「んだよ、自分で行かないお前が悪いんだろが」

 レンタルDVDの山を挟んでプータレテいる。

 夏休みはレンタルが安い。で、めずらしく兄妹の意見が一致し、綾香がリストを作って、俺が自転車をかっ飛ばしてゲオから帰って来たところだ。

 カミクズウィッチペルル ガルタン ソードマートオンライン ハイフリ ラブライド 等々

 俺でも知っているものからなんじゃこれ? というものまであったが、せっかく妹が目を輝かせて選んだものだから「おう。まかしとけ!」と胸を叩いて借りてきてやった。

「もー、信じらんない!」

 ブツをチェックした綾香の一言がこれだ。

「んなもん、分かるかああああああ!」

 綾香の言うところ、ただのカミクズウィッチペルル ガルタン ソードマートオンライン ハイフリ ラブライド 等々ではないのだ。

 なんでも北米版とか改訂版とかなんたら版とかがあって、いわゆるコンシューマー版では意味がないそうなのだ。

「中身は同じなんだろーが!」

「ちがう! ちがう! ちがう! 描写や動きやらが全然違うのよ! たとえばペルルは、決めポーズの足の組み方が違うし、変身シーンのエフェクトも違うし、ガルタンはプラウド戦の挿入歌が違うの!」

「んなもん、どーでもいいだろーが!」

「よくないいいいい! コンシューマだったらとっくに観てるから意味ないんだってえ!」

「んなこと!」

「もう、おまえなんか死ね! 死んじまえ!」

 

 ということになったわけなのだ。

 

 やっと洗濯物の取り込みの気力が出てきたので「よっこらしょ……」と、だるい掛け声かけてリビングを出る。

 当然廊下は冷房なんかしてないのでモア~っと熱気が絡みついてくる。

「一気に片づけるか!」

 両手でほっぺたをパシパシ気合いを入れて二階への階段に足を掛ける。

 パサリ

 玄関ドアの郵便受けに封書が投げ入れられた。普通のDMとかだったらほっとくんだけど、その封書は四辺が床屋の印みたいに赤青のダンダラになった国際郵便だったのだ。

 俺は、テープの巻き戻しみたくして階段を下りて国際郵便を取りに行った。

 

 

 ♡主な登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

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ここは世田谷豪徳寺・62《眩しいよ、さくら・2》

2020-04-05 06:11:32 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・62(さつき編)
《眩しいよ、さくら・2》   



 

 

 満開の笑顔のまま、さくらが毒づいた。

「嘘は、もっとうまくつかなきゃ」
「え……分かっちゃった?」
「十七年姉妹やってんだよ。それにお姉ちゃん、ウソ下手すぎ。ウソ言う前に目線が逃げるんだもん。これからウソつきますって言ってるようなもんだよ」

 そう、あたしはガキンチョの頃からウソは苦手。だから、あまりウソはついたことがない。バレるから言わないだけなんだけど、おかげで「正直者のさつきちゃん」で通ってきた。

「正直言うと、あたしにもよく分からない。大学から、突然日本での資料収集言われたの。ほんとだよ」
「……それは本当っぽいけど、なにそれ、自分でもよく分かんないって?」
 ルームサービスのコーヒーとフレンチパンケーキが来るまで、妹の質問攻めにあった。

 でも、知らないことは話せない。あたし自身半分も分からない状況で日本に帰ってきた。

 で、分かっている残り半分も話せない。とても信じられない話だから。

「ま、いいや。なんだか言えないようなことに巻き込まれてるような気がするけど。自分でも良く分かんないじゃね。それに家族にも内緒じゃね」
「一つだけ言っとく。行きのエールフランスで、飛行機が墜ちそうになったことは知ってるよね?」
「うんうん。偶然いっしょに乗っていた自衛隊さんが、見よう見まねで操縦したって。で、上官のオジサンとお姉ちゃんが、コクピットで立ち会ったんでしょ?」
「あれから、少しおかしいんだ」
「ハハ、そのカレにホの字なのかなあ~?」
「そんなんじゃないわよ」
「どうだろうね、あれ『オペレーション コイビト』とかってマスコミは言ってたよ」
「あれは、いっしょにいたアメリカの海兵隊のオジサンが適当に言ったのが、マスコミ受けしただけだよ」
「ま、そういうことにしとこう。オネエはやっぱ日本に居たほうがいいってのが、あたしの持論で、それが多少の謎があっても実現したんだから。良しとしとくよ」

 ちょうど、フレンチパンケーキを食べ終わって、さくらは結論づけた。さくらは子どもの頃から、好きなものを食べると、あとはどうでもいいってとこがあるオメデタイやつだ。ま、それにかこつけて話題を切り上げたのかも知れないけど。

「ね、あたしの出番はおわったけど、はるかさんの撮影残ってんの。見ていく?」
「うんうん!」

 やっとミーハー姉妹に戻れた。

 坂東はるかという女優さんは、やはりオーラが違った。連絡橋で吉川裕也というカレに出くわすシーンと、コーヒーショップで、裕也と話すシーンを見学した。
『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』という本の発売に続いて上演される、はるかさん自身の自伝的な映画だ。だから演っている演技は自分自身という特別な映画。映画会社やプロダクションが、彼女にかけている期待の大きさが窺える。

 撮影中も、合間を縫ってはマスコミが出演者のVや写真を撮っている。で、撮られてる方は、ほとんど意識もしていないが、自分が一番素敵に見えるスガタカタチになっている。むろん、我が妹さくらも。

 眩しいよ、さくら……。

「さつきさんでしょ?」

 撮影後、なんと、はるかさんから声がかかった……。

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