大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・140『お寺のテレワーク』

2020-04-22 13:12:40 | ノベル

せやさかい・140

『お寺のテレワーク』         

 

 

 境内を掃除してると山門の前に宅配の車が停まった。

 

 箒を階(きざはし、本堂の階段)に立てかけて受け取りに行く。

 ここに置いておきますというジェスチャーをして、宅配さんは、さっさと車を出して行ってしまう。

 武漢ウイルスの非常事態になってからは、宅配も置き配が基本になったんや。

 重たかったら嫌やなあと思て持ち上げると、箱の割には軽い。

「テイ兄ちゃん、宅配来てるよー!」

 玄関で叫ぶと、リビングでゲームしてたテイ兄ちゃんが小走りでやってくる。坊主頭いう以外は腰パンのジャージという姿は、立派なニート。

「ああ、やっと来たか!」

 嬉しそうな顔するから、荷物は売り出されたばっかりのファイナルファンタジー・7・リメイク特装版かと疑う。

「それでは、取り掛かるか!」

 え? 

 テイ兄ちゃんは、ゲームはポーズにして、箱ごと抱えて本堂に行きよった。

 あ、掃除!

 

 やりかけの掃除を思い出す。

 

 桜の花びらが散るのも終わって、ガクて言うんやろか、花の軸やったとこがボトボト落ちてて、ちょっと汚い。去年までは、こんな百坪以上もあるような境内を掃除することなんてなかったから、ちょっと新鮮。

 ごめーーーん(^_^;)

 詩(ことは)ちゃんが箒を持って走って来る。

「あ、いいのに」

「ううん、境内は二人の担当だもん」

 詩ちゃんの学校も休校中やけど、四月からは正式な吹部の部長なんで、学校が再開された時のために、レパートリーの勉強に余念がない。簡単そうなことやけど、先を読んで準備をするというのは、なかなか出来ることやない。

「あー、ほとんど終わってるんだ。じゃ、ゴミ袋……」

「あ、階のとこ」

「とってくるね……あれ、お兄ちゃん、なにやってるんだ?」

 詩ちゃんも、テイ兄ちゃんを見咎めた。

「あれ、ワイファイとかのセットやね?」

「本堂でもワイファイ?」

 手馴れた手つきでセットし終えると、ノーパソを立ち上げて調整し始めた。時々立っては、本堂のあちこちに、いつの間に仕込んだのか、カメラをいじって、パソコンの映り具合を見比べてる。

「お兄ちゃん、なにやってるの?」

「ああ、じぶんら、おったんか」

「境内の掃除してたのよ、わたしは、今からだけど」

「ちょうどええわ、じぶんらも見てくれるか」

「「なにを?」」

 

 テイ兄ちゃんは、阿弥陀さんの前でお経をあげてる姿を四つのカメラで映せるようにしてた。

 

「いや、五つや」

 どこにカメラを仕掛けたのか、真正面からも映せるようにしてる。

「あ、須弥壇にカメラ!」

 なんと、須弥壇の下に目立たんようにマイクロカメラがあった。あっちゃこっちゃから写るようにして、テイ兄ちゃんはナルシストか?

「最近は檀家周りも行きにくいやろ」

「え?」

「自粛要請の中にお寺は入ってないけど、檀家さんはお年寄りも多いしなあ。それで、希望しはる檀家さんにはネットでお参りしてもろたり、月参りさせてもろたりしよか思てなあ」

「あ、それはアイデアやねえ!」

「まあ、一種のテレワークやな」

「御布施はどうするの?」

 さすがはお寺の娘、詩ちゃんは注目するとこがちゃう。

「それは、ほら、動画ブログとかで投げ銭やるシステムがあるやろ。ワンクリックで済むやつ」

「ああ……」

 うちは『テイ兄ちゃん、賢い!』と思たけど、詩ちゃんは、ちょっと微妙な表情。

「心配すんな、希望しはるとこだけや。まあ、比較的お若い檀家さんから始めてみよかと思う」

「まあ、確かにウィルス騒ぎが終わったら世の中変わるっていうもんね」

「ねえ、お兄ちゃん。テレワーク機能の開眼法要やろうよ!」

「開眼法要?」

「ほら、本堂の修理やった時とか、ご本尊のお洗濯終わった時とかやったじゃない」

「あ、せやな。なにごともお目出度くやらなら、あかんなあ。詩、そのアイデアいただき!」

 

 その夜は、テレワークの開眼法要ということで身内だけの宴会になってしまいました(^▽^)/

 

 

 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・108「純白の単衣」

2020-04-22 06:52:13 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
108『純白の単衣』
                 
 ガラスのサイコロを斜めにして滑り台を付けたような駅。     

 その駅前のロータリーで途方に暮れていた。

 なぜって、駅は確認したけど、行き先であるお婆ちゃんの実家は聞かずじまいだったから。

 ロータリーに佇んで、わたしはとっても寒い。歯がカチカチ鳴って、その振動が体中に伝わってガタガタ震えている。
 まるで真冬のミシガン湖のほとりに立ったみたい。
 シカゴと大阪は姉妹都市で、いろいろ共通点はあるけど、人口の多さと真冬の寒さはシカゴの勝ちに間違いない。
 って、立っているのは栗東駅のロータリーなんだけど……きっと、栗東という地名と冬の始まりである今日11月7日が立冬であるという語呂の良さ。
「へー、そうなんだ」
 お婆ちゃんに言われて感心したから、こんなダジャレみたいな運命に翻弄されている。

 で、なぜか千代子とお揃いのスェットパジャマ。
 パジャマなんだけど、セーラー服。
 本来ツーピースのセーラーがスェット地のワンピになっていてクルブシまでのロング、映画で見たスケバンのセーラーみたいで「おっもしろーい!」と意見が一致して通販で買った。
「これやったら、普通に外歩いてても分からへんで!」
 と、夕べは盛り上がった。
「ミリーが言うてた純白の単衣な、田舎の栗東にあるわ」
 お婆ちゃんが、あちこちに手配して、自分の実家である栗東の家から写真付きでメールが送られてきたんだ。

 この純白の単衣は文化祭で着るんだ。

 夕鶴のヒロインつうの役だから純白の小袖なんだ。
 でも、時代劇じゃあるまいし、いまどき小袖なんて無い。
「下に一枚着たら、絹ものの単衣でもいけるなあ」
 お婆ちゃんのアイデア。

 でもって、早手回しにセーラーのパジャマ着て、栗東駅のロータリー。

 ヘクチ!

 かわいくクシャミして目が覚めた。
 あたしは、夕べから使い始めた冬布団を蹴飛ばし、セーラーワンピのパジャマは胸の下まで捲れ上がった姿に愕然とした。
  
 いろいろあって、変な夢みちゃったんだ……。

 いくらなんでも、パジャマで栗東に行くわけないないもんね。

「栗東の従兄弟が届けてくれるて」

 朝ごはん食べてると、お婆ちゃんが伝えてくれる。
「ほんと? めっちゃ嬉しいです(*^-^*)」
 卵をかき混ぜる手に力が入る。わたしは玉子ご飯好きの変なアメリカ人でもある。
「おはよ……」
 悲惨な小声で千代子、珍しく起き抜けの爆発頭。
「あかんわ、風邪ひいてしもたー」
「あ、お腹出して布団蹴飛ばしてたでしょ?」
「……なんで分かるのん?」
「アハハ、ミリーはなんでもお見通し!」

 けっきょく、千代子は学校を休んだ。
 同じ目に遭ってるのに、わたしは大丈夫。
 おそらくは、来週に迫った文化祭の事が楽しみなんだからだと思う。

 衣装の心配が無くなったことで、授業も稽古もルンルンでできた。

 家に帰ると、栗東の従兄弟さんからブツは届いていた。
「さ、さっそく試着してみい」
 お婆ちゃんの勧めで、チャッチャとリビングで着替える。

 で、姿見を見て、わたしは愕然とした……。

 

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ここは世田谷豪徳寺・79『さくら その日その日・1』

2020-04-22 06:41:26 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・79(さくら編)
『さくら その日その日・1』   



 

 鈴奈(りんな)さんが肉じゃがになるためにアメリカに行って十日あまりがたった。

 ちょっと説明。

 鈴奈さんは二つの意味で先輩。帝都女学院の一年上の先輩で人気の女子ユニットおもいろタンポポのメンバーで芸能界の先輩でもある。鈴奈さんは高校生としての自分とアイドルとしての自分を完全に使い分けていた。
 それだけでもすごいのに、アーティストとしての自分を発見するためにアメリカに行ってしまった。自分のやっていることは、人真似のビーフシチューで、これを作り直して肉じゃがになりたいと赤坂見附の東京志忠屋で言っていた。

 これも説明がいるわね。肉じゃがというのは、ビーフシチューを日本人に合うように時間をかけて改良された日本料理。

 鈴奈さんは、おもいろタンポポがビーフシチューであることを分かっていた。でも、それでは五年十年先には持たなくなると思い、アメリカに渡ったんだ。あたしは、学校でタレントとして見られることに悩んでいた。鈴奈さんは、とっくに、そんなことは克服している。
 そのことを、アメリカに渡る前に分からせてくれた。そんなことは、まだまだ入り口の戸惑いに過ぎないことを。

 で、二週間余りで、あたしも不器用ながらもタレントであることと、普通の帝都女学院の生徒であることを使い分けられるようになった。

「いや、まだまだよ」

 お茶をたてながらマクサが言う。

 えと、これも説明がいるわね。あたしの学校での親友は一年の頃から、この佐久間マクサと、バレー部でセッターをやっている山口恵里奈の二人。で、今日は久々にマクサの家に集まって三人で女子会をやっている。
 我ながら信じられないんだけど、マクサにお茶をたててもらうのは、これが初めてだった。
「お作法なんて気にしなくていいからね」
 マクサは、そう言ってくれたけど、やっぱ形を気にして、一年の時家庭科で習ったお茶のお作法を必死で思い出して、ぎこちなくいただく。
「学校で飲んだお茶と、ぜんぜん味も香りも違うのね」
「似たようなお茶よ。お茶って、入れ方で味わいが全然違ってくるの。どうよ、なかなかのもんでしょ?」
 いつものマクサの言い方で、ナリもチノパンにカットソーってラフな格好なんだけど、醸し出される雰囲気は立派なお茶の先生だ。
「マクサのお作法、学校のときとちゃうね」
 恵里奈が、ハンナリと指摘する。
「鋭いね。茶道部は裏千家だけど、うちは表千家なのよ。でも、どうして分かった?」
「なんでやろ……たぶんセッターやってるからかな。バレーは相手と味方の動きをよう見て、次の動きを予想せなあかんよって、自然と人見る習慣がついてんのかもしれへん」
「「ふーん、大したもんだ」」
 マクサとあたしがハモってしまった。

 いつまでも茶室にいては足がしびれるので、そのあとはすぐにリビングに移った。

「たまには、お互いの違う姿見とくのんもええね。学校におったら、マクサは、なんか一本抜けたお嬢ちゃんいうかんじやもんなあ」
「抜けたは余計よ。いや、足りないな。あたしが抜けてるのは一本や二本じゃないもん」
「「アハハハ」」
 今度は恵里奈とハモった。
「さくら、映画の仕事終わって戻ってきたころはガチガチだったもんね」
「そう?」
「うん、悪気はないんやろけど、あたしは女優ですて、顔に書いたったみたいやった」
「やだ、そんなだったの? あたしは、みんなの方が意識して変な目で見てるって思ってた」
「うん、でも、一週間もしないで、さくら、元にもどっちゃったね」
「え、ああ……」
 やっぱ、鈴奈さんと話したことが境目になっているようだ。それから、いろんなおしゃべりやって、マリオで遊んで、お昼は外のお蕎麦屋さんに行った。今日はお稽古日で、お弟子さんたちが来るので、遠慮したのだ。
「お蕎麦食べたら、カラオケでも行こか」
 恵里奈が提案、あたしも乗ったが、マクサはお弟子さんたちに挨拶するのに追われていた。ナリはラフだけど、物腰は佐久間流家元のお嬢さんのそれであった。やっぱ切り替えに慣れている。
「平野さん、宗さんは?」
 平野と呼ばれたお弟子さんは、そっと言った。
「宋さんのお国とややこしなってますでしょ。ご遠慮なさってるみたいで……」
「そうなんだ……」

 唐突に始まった戦争の影が、こんなところにも。と、女子高生なりに気になった……。

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乙女と栞と小姫山・23『フライングゲット!』

2020-04-22 06:31:31 | 小説6

乙女小姫山・23  

『フライングゲット!』     
 

 

「なんでも、心の中にあるもんは話してくれてええねんよ」
 

 その人は、ラフなうすいグリーンのツーピースに、 首には細いチェーンの先に勾玉型の飾りのついたペンダントをアクセントのようにぶらさげ、マシュマロをレンジでチンしたような職業的な優しさ丸出しの顔をして、栞に言った。
 

 府教委が、アリバイのように送ってきたカウンセラーである。数分前に名前を聞いたが、興味のない栞は、すぐに忘れてしまった。
 

「ほんとうに、なんでもいいんですか?」

「ええ、かめへんよ」

「なんで、わたしにカウンセリングが必要なんですか?」

「そら、そういうとこよ。人と話をするのに対立的な話し方するでしょ。それは手島さんが、今まで、どんなに否定的な扱いを受けてきたかが、よう分かるの。いえいえ、別に否定的な話し方でもええねんよ。とにかく話してちょうだい」
 

「根本的な話をしてるんです。カウンセリングが必要なのは、学校……大阪そのものです。カウンセリングする相手を間違えてます」

「そやけど、手島さんは、今度の勇気ある行動に出るのに、えらい神経使こたでしょ。で、ちょっと話したら、気い楽になるんとちゃう?」

「あのですね、先生。わたしは学校に戦いに来てるんです。戦闘中ですので、ダメージは覚悟の上です。それとも、わたしの戦争に参加していただけます?」

「あのね……」

「これ、学校で問題が起こった場合の府教委の対応マニュアルです」

 栞は、A4の紙の束を置いた。

「管理職からの報告→事情聴取→指導主事の派遣→問題の解析・整理→保護者への説明と生徒への対応。これが過去の事象から読み取れる府教委の対応の大まかなマニュアルです。で、先生がやろうとなさっているのは、ここ。生徒への対応の中のカウンセリングに当たります。分かります?」

「はあ……」

「で、問題の解析・整理の段階で間違えているんです。個人としての生徒が、特定の教師から、暴行あるいはイジメを受けたのと同じ対応できているんです。わたしは本校のカリキュラム及び教育姿勢を根本的に問うているんです。その課程で、いささかの軋轢があるのは当然です。いいですか、大事なのは府教委のカテゴライジングなんです。教職員による生徒への暴行・イジメではないんです。むろん精神的な暴行と言っていい事象はありました。だから、父を代理人として告訴もしました。本命の問題は、あくまでカリキュラム、教育姿勢の問題なんです」

「そやけど、手島さん自身傷ついてるのは確かやろし……」

「あなたがやろうとしているのは、心臓が悪い大人を治すために、子供の子守をしているようもんなんですよ。子守をしても親の心臓は治りません!」

「そやかて、手島さん……」

「先生は、硬直化したマニュアルに組み込まれた、意味のない歯車なんです。よく認識なさってください」
 

 そういうと栞は、相談室を飛び出した。カウンセラーは、予定の六時まではこなしたので、記録を整理してさっさと帰ってしまった。
 

「先輩、怖い顔してますよ」

 いつのまにか、さくやが横に並んでいる。

「ゲ、あなた、いつから居たのよ!?」

「校門出たとこから」

「演劇部は無いからね」

「ありますよ。先輩とさくや。顧問に入部願いも出してきましたし」

 駅前近くに来ると、フライドチキンのスタッフがチラシを撒いていた。

「あの、それもらえます?」

「あ、どうぞ。高校生10%割引中!」

「それじゃないんです。胸に付けてらっしゃるチキンのワッペン」

「え、ああ、ええよ。そのかわり店にも来てね」

「はいはい、そこの津久茂屋という団子屋さんもよろしく。わたし、不定期でバイトやってるから」

「そうかいな、お互いよろしゅうに!」
 

「さくやちゃん、あんた体育のハーパン持ってる?」 「あ、じゃまくさいよって穿いたままです」

 さくやがスカートを少しまくり上げると、学年色のハーパンの裾が見えた。

「ちょっと、こっち来てくれる」
「こんちは!」

「あら、栞ちゃん、今日はシフトには入ってへんけど」

 恭子さんが笑顔で言った。

「ちょっと着替えたいんで、門の陰貸してください。花見のときの小道具も貸してください。あ、この子、クラブの後輩で石長さくや(いわなが さくや)です」

「こんにちは、さくやです。よろしゅうに」

「いや、カイラシイ子やね!」
 

「いい、タイミングが大事だからね」 「はい、演劇部最初の試練ですね!」 「いくよ!」
 

 カウンセラーの先生は、バス組のようで、バス停でバスを待っていた。

 向かいの団子屋の前に手島栞がいるのは分かっていたが、気づかないふりをしていた。

「カウンセラーの先生!!」

 バスに乗り込んだとたん、バスのすぐ横から栞と、もう一人の女生徒の無邪気な声がした。

 カウンセラーの先生は、職業的な笑顔になり、窓を開け、声の方角に手を振った。

 とたんに、二人は後ろ向きになり、スカートをまくってお尻を突き出した。むろん体育用のハーパンの上にラバーのお尻を付けていたのだが、一見するとホンモノに見える。そして、二人のお尻には大きなチキンのワッペンが貼ってあった。

 二人並べると「くたばれチキン」「カウンセラー!」と読めた。

 バスの中は大笑いになった。バスが動き出すと、二人は『フライングゲット!』と叫びポーズを決めた。
 

 その日のYou tubeに、この画像が投稿されたのは言うまでもない……。

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