大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・142『神田明神の頼み』

2020-04-03 15:45:03 | 小説

魔法少女マヂカ・142

『神田明神の頼み』語り手:マヂカ   

 

 

 今度は男坂の階段を上って神田明神を目指した。

 念のため、角を曲がるたびにエンガチョを切る。

 

 お待ちしていました!

 

 最後の一段を上がると、随神門から見覚えのある巫女さんが飛んで出てきた。

「あ、わたしは本物です。東の巫女アオ、あ、これがIDです!」

 襟をくつろげて、アタフタとIDを見せてくれる。慌てているものだから胸の上半分が露わになって、ちょっとドキッとする。着やせするタイプのようで、上半分だけでも、わたしよりツーサイズ上はありそう(;^_^A

「さあ、こちらへ」

 随神門をくぐったところに、三人の巫女さん、本物のアカ・シロ・クロの巫女たちだ。

「こちらに、お進みください」

 本物のアカ巫女さんが、本殿の階に誘ってくれる。

 

 おな――――り!

 

 シロ巫女が警蹕の声をあげると、正面の御簾がするすると上がり。脇息に半身を預けた神田明神が現れた。

 脇息の横にはポールには点滴のパックがぶら下げてあり、鼻には酸素のチューブが入っていて、頭には紫の病鉢巻を締め、尋常な姿ではない。

「ゴホゴホ……すまん、足労であったな」

「お上(おかみ)、用件は、このアカが申し伝えます」

「ゴホ、いや、大事なことだから、わしから直々に……ゴホゴホ」

 もう、声を出すのも苦しい様子だ。

「では、わたし達の方から、お傍に寄りましょうか」

「いや、近寄ってはならぬ、病がうつる……ゴホ」

「お上、これをお使いください」

 アカ巫女が紙コップのようなものを二つ取り出した。いや、紙コップそのもの……なめくじ巴の御紋があって、底の方に糸が付いていて、二つの紙コップを繋いでいる。

 糸電話?

「神器『ひそか』でございます。糸を弛ませないようにしてお話しください」

「だから、糸電話?」

「神器でございます!」

「わ、わかった」

 

 友里と身を寄せ合うようにして糸電話、いや、神器『ひそか』を構える。

 

『見ての通り、わしは病じゃ。不覚にも唐土からの流行り病に罹ってしまった……その弱みに付け込んで、関八州のみならず、さまざまな妖どもが跋扈し始めておる。先ほど、そなたたちをたぶらかしたのも、その一つ。どうか、そなたたちの力で、かの者どもを懲らしめて欲しい』

「でも、明神さま」

 友里が、さえぎった。

「わたしは『北斗』のクルーですけど、魔法少女じゃありません。とても妖退治などは……」

『友里、そなたの姓は〔要海〕であろう。要海は、その昔、妖怪どもの束ねをした熊野行者の家系なのじゃ。潜在的に力を秘めているだけでなく、特務師団に身を置くことに寄って、その力は目覚めつつある。それに〔ひそか〕を通して、ワシはそなたらに力を与えておる。そなたは〔ひそか〕を通じて労ってくれておるので……ほら、わしは普通に喋れておるであろうが』

 ほんとうだ、糸電話で話し始めて、明神は咳一つしていない。

『これが〔ひそか〕の力なのじゃ。カオスやダークメイドも気がかりではあろうが、この妖どもも、どこかで繋がっておる。もとより来栖にも話は通してあるゆえ、しかと頼んだぞ』

 プツン

 糸電話、いや『ひそか』の糸が切れた。同時に明神は姿がおぼろになっていく。

「切れちゃった!」

 友里が怯えたような顔になる。

「大丈夫です、話も力も伝え終わったので切れたのです。『ひそか』はお持ちください。これからも役に立ちます。そして、お重はお返しいたします」

 あ!?

 いつの間にかジャーマンポテトは平らげられて、お重は空になっている。

「お陰様で、お上も、少し回復されたご様子です」

「それでは、こちらからお進みください」

 アカ巫女に誘われたのは本殿北の裏参道だ、小振りな鳥居の向こうは茫漠とし光に照らされた一本道が続いている。

「これよりは、妾(わらわ)が力になります」

 初めてクロ巫女が口をきいた。北門である裏参道の守護らしく、どこか孤独を感じさせる声だ。

「そうか、それは、よろしくな」

「はい、我が命にかけて」

 静かだが、凛として頼りになる返事……と思ったら、鳥居を潜ったところで姿が消えた。

「お、おい、クロ巫女!」

『御用の際は〔ひそか〕に呼びかけてください、ずっと姿を現しておく力は妾にはありませぬゆえ……』

 

 ハーーーーーーーーー

 

 験がいいのか悪いのか、友里と揃ってため息をついて道を進み始めた。

 

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乙女と栞と小姫山・04『学校のご近所づきあい』

2020-04-03 06:44:41 | 小説6

乙女と小姫山・4
『学校のご近所づきあい』             

 

 


「申し訳ありません、すぐになんとかいたします」

 乙女先生は、集まっていた近所の住人にまず頭を下げた。

「早よ来てくれはったんはええけど、そんなノコギリやったら、間にあわへんよ」
 近所のボスらしきオバチャンが、下げた頭を押さえ込むように言った。
「でも、とにかく、なんとかします」
 真美ちゃんがノコギリをひき始めた。オバチャンたちの失笑。乙女先生は真美ちゃんを目で制止して、すぐに携帯をかけた。学校の事務に技術員室につないでくれるように頼んだ……待つこと数十秒。

――誰も出はりません。

 主査の答えに、乙女先生は事態を簡潔に説明した。
「そんなら、教頭さんと相談しますわ」
 気のない主査の答え。凡才教頭の暗い顔が浮かんだ。
「女の先生二人じゃ無理でしょ。消防署に電話しますわ」
 学校の対応の悪さに業を煮やしたボスが携帯を出した。
「ちょっと待ってください。なんとかしますから」
 そう言うと、乙女先生は空手の構えになった。
「ちょ、ちょっと先生……」
 ご近所さんたちが一斉に身を引いた。乙女先生は空手三段ではある。
 が、久しく使っていない。

――岸和田でダンジリ引き回してんねんや。これくらいのもん……。

 と、思いつつもこめかみから汗が伝い落ちた。

 キエーーーーーーーーーーーッ!!

 バキッ

 横綱の太ももほどの幹が二つに割れた。
「ヒエー……」
 アウェーな観衆から、驚きの声が上がった。乙女先生の汗は脂汗になった。
 桜の幹は二つになっただけだが、自分の右手の骨はバラバラになった気がした……。

「先生、あとは任せてください!」
 技師の立川さんが、リヤカーにチェ-ンソーを乗せてやってきた。
「やあ、青春高校にしては対応ええね」
「ええ気合いやったわ」
「モモレンジャーみたいやった!」
 ご近所が姦しくなってきた。
「先生ら、あんまり見かけへん顔やけど、転勤してきた人ら?」
 ボスがトドメの質問。
「あ、はい。今日赴任してきました。わたしが天野真美、こちらが佐藤乙女先生。で、こちらが技師の立川談吾さんです」
 真美ちゃんが元気に答えた。立川さんは手際よく、桜の幹を解体していった。
 乙女先生は小枝を拾うふりをして、石垣の下の側溝を流れる水で手を冷やした。ご近所さんたちも好感をもって手伝ってくれだしたので、痛みを気取られることはなかった。

「いやあ、お世話になりました」

 校長は自ら紅茶を入れながら、乙女先生をねぎらった。真美ちゃんは新任研修。立川さんは「職務上、当然のことですから」と、この場にはいない。乙女先生も好きこのんでブリトラにつき合う気は無かったが、こう見えても職場の人間関係には気を遣うほうなのだ。

 校長は本格的に紅茶を入れている。ティーポットに三杯の紅茶の葉を入れた。

「ワン、フォー、ユー。ワン、フォー、ミィー。アンド、ワン、フォー、ザポットですね」
「ほう、お詳しい。さっきの桜の件といい、かなり学校経営に良い勘をなさっておられる」
「年相応の程度です」
「こんな言い方をしてはいけないんでしょうが、佐藤先生はお歳より、ずっと若く見えますね」
「わたし、若い頃から老けて見られたんです。二十歳で三十くらいに見られて、で、ずっとそのまんま。どこか抜けてるんでしょうね」
「いやいや、うちの家内なんか子どもを生んだとたんに大変身でしたよ」
「女って、そういうもんです。大変身は勲章ですよ」
「佐藤先生は?」
「亭主はいますが、子どもは……個人情報ってことで」
「ああ、これは申し訳ない」
 乙女先生は、亭主の娘である茜のことが頭をよぎった。しかし仕事中なので、すぐに頭を切り換えた。
「この学校は、人間関係がむつかしい……」
「そのようですね」
「わたしは、いわゆる民間校長です。元は銀行に勤めていましたが、思うところがあって応募したんです。さ、どうぞ」
「ダージリンですね……」
 乙女先生は、香りを楽しんだ後、用意されたミルクも砂糖も入れずに口に含んだ。
「ストレートでいかれるとは、紅茶にも通じておられるようだ」
「学生のころ紅茶屋さんでバイトしてたんで、ほんの入り口だけですけど」
「この学校も、やっと入り口です。統廃合から四年目、そろそろ中味を変えませんとね」
「総合選択制では、むつかしいですね」
「ま、鋭意努力中です。今年から、文理特推の教科を増やしました。良い結果が出ると確信しています。あとは……」

「校内のチームワーク、ヒュマンリレーションの問題ですね」

「いかにも。佐藤先生は、そのへんの平衡感覚も良いとお見受けいたしました」
「買いかぶりですよ。以前おった学校ではいろいろ……やらかしてきましたから」
「だいたいのところは承知しております。で、前任校の校長さんに無理を言って来て頂いたんです」
「あとは、ご近所との関係ですね。あまり良くないことは桜の一件でも、よう分かりましたから」
「地区の交流には、気を付けてはいるんですがね。先生方のご協力が、もう少し頂ければ」
「先生、この地区の一番の神社は、どこですか?」
「神社?」

 というわけで、乙女先生はこの地の鎮守伊邪那美(イザナミ)神社の鳥居の前に立っている。

 桜事件から三日がたっていた。

 乙女先生は岸和田の出身。だんじりで有名な岸城神社が、地元の要であることをよく分かっている。青春高校のある地区は旧集落と、新興住宅地に分かれているが、全体への影響力という点では旧集落の地区との繋がりが第一。
 で、その要である伊邪那美神社に御神酒(おみき)と玉串料を持ってやってきたのである。
 地元の人たちの心を掴むため、ほんの第一歩であるつもりであった。
 しかし、乙女先生は、ここで本物の神さまに出会うことになる……とは、夢にも思わなかった。

 

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連載戯曲・改訂版 エピソード 二十四の瞳・3

2020-04-03 06:32:03 | 戯曲
連載戯曲
エピソード 二十四の瞳・3       
 

時   現代
所   東京の西郊

登場人物

瞳   松山高校常勤講師
由香  山手高校教諭
美保  松山高校一年生


 
瞳: 洒落が通じないんだからあ。あたし、大石瞳が二十四歳……今日までだけどね。
 その瞳と生徒の瞳が二十四個だって洒落。
由香: え……ということは、二クラスで十二人しかいないの!?
瞳: ううん、四十八人。
由香: ……それじゃ四十八の瞳じゃないの?
瞳: 生徒たちの目は、半分学校の外に向いてる。だから二十四個のお目々……わかる?
由香: ああ……なるほど。で、最初は何人いたの?
瞳: 留年生をいれて、二クラス七十一人。
由香: 二十三人も消えたの!?
瞳: うん、そいつらはお目々が二つとも学校の外に向いていた。
 それでも無事に退学にもっていくのはなかなかよ。
 信じられる、二十三人中、二十人まではあたしが始末したんだよ。
由香: たいがいなんだねぇ……。
瞳: 学年だと、卒業までに百人は消える。それが、今年の一年生は百人に迫る勢いだよ……。
由香: ということは……。
瞳: 学校の外向いてる瞳が、まだ三つ四つは消えるんだろうね。
 そのためのアリバイってゆーか、伏線ための家庭訪問……いわば営業だね。営業目標は無事な退学……。
由香: でもー、瞳は講師なんだから、そこまで責任持たなくてもさ。それに、来年の試験に受かったら、別の学校に……。
瞳: 由香はたまたまいい学校にあたったのよ、山手高校っていう……。
由香: それでも……。
瞳: それでも二人退学、生徒との距離はひらく一方……でしょ。ちょっとぉ写真忘れてるよ。
由香: え、ああいくよ。
瞳: 東京の……(ニッコリ、シャッター音)いや、多分日本中の学校が多かれ少なかれ……
 (ニッコリ、シャッター音)中味のないカラだけの卵になりつつあるんじゃないかと(ニッコリ)思う(ニッコリ)……。
由香: いくよ(シャッター音)だから色々やろうとしてるんじゃない。
 特色ある学校づくりとか、総合学習とか……ハイ(ニッコリ、シャッター音)
瞳: そんな新任研修のお題目みたいなの本気で信じてるの?
由香: だって(ニッコリ、シャッター音)何か信じることからしか始まらないじゃない。
 自分の言葉でうまく言えないから、つい都教委の看板持ち出しちゃったけど、ハイ(シャッター音)
瞳: 教育ってさ、そのカメラの三脚と同じだと思うんだ。
由香: (ファインダーから目を離して)三脚?
瞳: 学校と家庭と社会、その三つがしっかりしていないと教育なんて成り立たないと思うんだ。
 一本でも欠けたら、カメラも教育もこけちまう……それ分かってて学校ばかりいじって注文つけてくるんだ。
 立場弱いからさー学校って、文句つけやすいじゃん……学校って卵、人間を人間らしく育むためのね。
 でももう中味はとっくに無くなったカラだけ、それ分かっててポーズとってるだけ……(シャッター音)あ、今のだめ!
由香: ちょっとした憂い顔、よかったよ。
瞳: そう……あたしのアリバイの家庭訪問と五十歩百歩。
由香: だから、だからこそ、カラの中味を埋めていく努力をしなくちゃならないんじゃない。
瞳: 由香だって、ついさっきまではグチってたじゃんよう。
由香: グチはグチだよ。
 現実は前に向かって、カラの卵に白身も黄身も入れるようにしなくちゃならないし、そう信じていこうよ。
瞳: 信じられないよ……そうやって信じて中味をつめこんだ卵って、きっとヒヨコにはかえらない無精卵だと思う。
由香: 瞳……たそがれちゃってるぞ。
瞳: ハハ、由香の前だから油断しちゃったな。オーシ、営業用の空元気!
由香: よーし、じゃ、その空元気が出たところでもう一枚!
瞳: ヘーイ!(とびきりのニッコリ、シャッター音)ありがと、それぐらいでいいや。そろそろ三脚あぶなそうだし。
由香: (カメラのモニターを見ながら)おー、けっこういけてんじゃん。
瞳: ほんとだ、いっそこの写真でどっかのオーディションでも受けに行こうか。歳ごまかして!
由香: 案外いけるかもね。
瞳: ビジュアル系のモデルさんみたいね。
由香: お笑い系のモグラさん!
瞳: なに!?
由香: アハハ……。
瞳: この!……あ!?

 瞳は公園の外を歩く人物に気づき、下手に駆け去る。

由香: 瞳……!?。


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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・89「新部室にお引越し」

2020-04-03 06:21:54 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)89

『新部室にお引越し』               



 

 車いすはかさ張るもんだ。

 自分も車いすなのに、そう感じるのは申し訳ないんだけど、実際そうなのよ!

「ご、ごめん!」

 これで三回目。


 ミリーの車いすのデッパリが、またわたしのスカートを引っかける。
 その都度十センチほど裾が持ち上がり、斜め前の啓介先輩にわたしの太ももが露わになってしまう。
「い、いや、見えてないから……あ、あ、また……」
 啓介先輩は上を向いて、ティッシュを詰めた鼻を押える。
「これで見えてないって、説得力ないわよ、ほれ、わたしがやったげるから」
「いて! 先輩、やさしくして!」
 須磨先輩が狭くなった部室をものともせずに啓介先輩の鼻血ティッシュを取り換える。
 ミリー先輩と新入部員が並んで小さくなる。
「じっとしてないと換えられないでしょ!」
「い、いや、せ、先輩の胸が……」
「も、もー! 啓介はエロゲのやり過ぎ!」
「「「「ハ、ハハハハ……」」」」
「も、もうやってらんないわ! ちょっと掛け合ってくる!」
 須磨先輩は机を乗り越えて部室を出ると二階に駆け上がった。
 二階には生徒会室と職員室がある。業を煮やして掛け合いに行ったんだ。

 今日から交換留学生のミッキーが演劇部に加わったのだ。

 なんでも、休日の昨日、ホームステイ先の瀬戸内美晴先輩の家にまで行って決めてきたらしい。
 近所の公園で話をまとめたらしいけど、ミリー先輩は両足をくじくという不運に見舞われて挫いて車いす。

 でもって、タコ部屋を兼ねている狭い部室は、かさ高い交換留学生とミリー先輩の車いすが入って身動きもできない。
 暫定的に小さい方の机を廊下に出したんだけど、あんまし効果なし。
 交換留学生のミッキーは、なんとか身をよじって邪魔にならないようにしてくれるんだけど、車いす自体にに人格が無いもんだから、ミリー先輩が動くたびに、わたしのとぶつかって、二回に一回は、こうして悲劇になる。

「みんなー、引っ越しするよ!」

 五分ほどすると、意気揚々と須磨先輩が戻って来て引っ越しを宣言した。
「引っ越しって、どこへですか?」
「二階の角部屋、さ、あんたたちも手伝って!」
 廊下の方へ声を掛けると、生徒会執行部の人たちと副顧問の朝倉先生までがドヤドヤとやってきた。

 演劇部という看板を出しているけど、演劇なんてちっともやらない。

 放課後にウダウダしてる場所が欲しいだけが、我ら空堀高校演劇部なのです。
 ほんとは五人の部員が居ないと部活とは認めてもらえないんだけど、我らが須磨先輩ががんばって四人でも部活として認めてもらえるようになった。
 だけど、演劇をやってないという事実があるので「もっと広い部屋に替えて!」とはなかなか言い出せなかったし、生徒会も、わたしたちに広い部室をあてがう気持ちは全然無かった。

 それが、須磨先輩が掛け合ったとはいえ、ものの五分で引っ越しが決まったのは、ミッキーが入部したから。

「「「「うわーーー!」」」」

 ミッキーのことだけでは説明がつかないほどに、今度の部室は豪華だったのよ!

 そして、いろんな意味ですごかった!
 

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坂の上のアリスー39ー『放出さんのいない朝・1』

2020-04-03 06:12:25 | 不思議の国のアリス

の上のアリスー39ー
『放出さんのいない朝・1』   
 

 

 

 いつもなら朝食の最中にやってくる。

 

「お早うございます、今日の予定ですが……」

 そう言って、一日のスケジュールを言ってくれる放出さんがやってこなかった。

――とりあえず部屋で待機していてください――

 お茶をすすっているとメールがやってきたので、大人しく部屋に戻ることにした。

 廊下まで冷房の効いた屋内なんだけど、それでも窓の傍を通るとムッと暑気を感じる。外に出たらいかばかりかと、ちょっとばかり嫌になったりする。

 二階に上がると、掃除のスタッフが各部屋を掃除の真っ最中。

 いつもならスケジュールの説明で、もっと時間がかかる。そのぶん早く上がって来たのだからスタッフに落ち度があっての事じゃない。

 すぴかの部屋の前にはトマトジュースの空き缶でいっぱいになったゴミ袋が出されている。やっぱ、買い占めたのはすぴかのようだ。

 とりあえず廊下を曲がったところのレストスペースに……すでに三人の先客。なによりも夕べのカフェオレの恨みの籠った綾香の目が鬱陶しい。

「掛けなさいよ」

「ちょっと館内探訪」

 一子のお誘いも断って、そのまま階段を下りて一階に戻る。

 

 下りたところに小さなテーブルセットがあって、お人形さんのようにすぴかが座っている。

 

「前、いいか?」

「うん、いいわよ、あっちいくとこだから」

 そう言われては座れない、座りかけの尻を持ち上げてすぴかの後に続く。

「アマノジャク」

「どっちがだよ」

 けっきょく、廊下を進んでロビーまで出てきたので、並んで……といっても一人分空けてソファーに座る。

 チ……聖天使の舌打ちにもめげず、座り続ける。てか、ここを立ったら行くところがない。宿題忘れた小学生じゃあるまいし、廊下で突っ立っているのも変だもんな。

 

 バサリ

 

 すぴかが新聞を投げてよこす。

「んだよ」

「オッサンは新聞でも読んでなきゃ間が持たないでしょ」

 ちょっとムカついた。

「おまえ、ホテルのトマトジュース買い占めたんだな」

「いいでしょ、売ってるんだから……それに、ほかに飲む人もいないわ」

「っていうことじゃなくてだな」

「話のきっかけだとしたら、地獄の底のように最低の前振りよ。そんなことだから、世界の半分は女なのに、いまだにボッチ男でいなきゃならないのよ」

「おまえなあ」

「それとも、真夏の寂しさを妹の親友で紛らわせようという浅ましさなのかしら」

「もうちょっと普通に喋れないのか、夕べは違っただろう」

 

「え、夕べ?」

 ヤバイ、墓穴を掘りかけている……。

「ひょっとして、自販機のトマトジュースになにか仕込んで、わたしが眠りに落ちた後忍び込んで」

「なんちゅう妄想だ!」

「だって、この春、この聖体に、あろうことかマウストゥーマウスの蘇生術を施して、聖天使の魅力に目覚めたのはだれかしら」

「め、目覚めてねーし! ただの人命救助だったし! じゃなくて、放出さんと庭の橋の上で話してたじゃねえか!」

 

「え、なんのこと…………?」

 

 ちょっと時間が停まったような、地獄の釜の蓋が開いたような気がした……。

 

 

♡主な登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

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ここは世田谷豪徳寺・60《お姉ちゃん!?》

2020-04-03 06:01:35 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・60(さくら編)
《お姉ちゃん!?》   



 

 テイク5で救世主が現れた……。

「あたしが、やってみましょうか?」
 

 なんと、東亜美役の一ノ瀬薫さんが名乗り出た。
 
「ふだん人に手を上げたことがない人ならそんなものでいいと思います。変に腰が入っちゃうと、ちょっとケンカ慣れした人間に見えますから……問題は受け身の方ですね。一発張り倒してくれます。思い切りでいいです」
「ほ、ほんとにいいの?」
「ええ、慣れてますから」

 なんせ、このシーンは、はるかが、たまたまアメチャンを握って張り倒すところなので、下手をすると怪我をする。で、どうしても、あたしもはるかさんもわざとらしくなってしまう。そこを本気でやれと涼しい顔で言うもんだから、なんだか、お気楽な流れで、やってみることになった。

 微かにドンという音がして、薫さんは派手に吹っ飛んだ。コンクリの中庭に叩きつけられ、ゴロゴロと転がった。
「大丈夫!?」
 はるかさんが、駆け寄る。
「ウ……イテー……なんて言ったら、それらしく見えるでしょ?」
 薫さんはニコニコと立ち上がった。
「キミ、すごいね、スタントマンやれるよ!」
 殺陣師のおじさんのお墨付き。
「ケンカで、最初やられたフリするのに、よくこの手使ったんです」
 清楚な顔でシラっと言う。

 で、バックと顔の見えないアングルは、薫さんが演ることになった。

 張り倒すシーンは、2テイクであっさりOKが出た。
「じゃ、由香の張り倒され顔取りまーす!」
 あたしはカメラに向かう。でカチンコの音で痛い顔をしてひっくり返る。当然地面にはマットが沢山敷いてあって痛くはありません。
 このシーンと薫さんのスタントを繋ぎ合わせ、CGであたしの顔を変形させて仕上がりのようだ。

 それにしても薫さんというのはなかなかの人だ。詳しく知りたい人は『俺の従妹がこんなに可愛いわけがない』を読んでください。

 で、明くる日は大阪駅でロケ。

 ピノキオホールでの帰り道、吉川裕也役の勝呂さんと仲良くホームを歩くシーン。

 簡単なシーンなんだけど、芽生え始めた裕也への抑制した愛情表現に苦労。なんとかOKが出て。今度は、はるかが、あたしたち二人を見て複雑な気分になるアップ。その後、コーヒーショップでのはるかと裕也の会話のシーン。ここは側で見学。演技の勉強。
 
 すると、ロケ現場の向こうの雑踏、一番線のホームから上がってきた人物を見て、あたしはタマゲタ。

 フランスに居るはずのお姉ちゃんが、珍しそうにロケを見ていた……。

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