大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・146『荒川土手道の幻想・1』

2020-04-20 14:43:54 | 小説

魔法少女マヂカ・146

『荒川土手道の幻想・1』語り手:友里   

 

 

 これって、奥の細道?

 

 鳥泣き魚の目に泪……『泣』の字が違うけど、これって、芭蕉が出発するときの俳句だよね?

 その前のは、女の子の誘拐だけど、お雛さんになぞらえてたし。

 草の戸も 住替る代ぞ の家

 旅立ちの句に被ってるような気がする。

「とらわれない方がいい」

「だって、出発したのは神田明神の北からだし、おおよそ、北に向かってるから、千住とかに出るよ。千住って、奥の細道の出発点だよ。国語で習った」

「出発点なら、千住大橋から荒川を渡るんだぞ」

「そうなの?」

「友里のは学校で習った知識だろ。冒頭の旅立ちなんて、すっ飛ばして、直ぐに日光だからな……ほら、友里が考えるから水の匂いがしてきたぞ」

 突然、目の前が開けて大きな川が現れた。

「荒川だ、渡ると日光まで一本道だ」

「千住から日光って、ずいぶんあるよ」

「学校の授業ってすっ飛ばすからな。どうする、立ち止まってるとわたしらが芭蕉と曾良にされてしまいそうだ」

「ツンはどっちだと思う?」

 ワン!

「道は一つだと言ってる」

「もう……」

「悩んでるから、なにか来たぞ」

 

 カラカラカラカラカラ カラカラカラカラカラ カラカラカラカラカラ

 

 のどかな音がしてきたかと思うと、土手道を川下の方から牛車がやってきた。

「わ、大きな牛車!?」

 牛車は二頭の牛で曳かれて、シートで覆われた大きな荷物を載せている。

「興味があるようだな」

「あ、うん、牛が荷物を運んでるのなんて見たことないもん」

 牛車……というか、牛に曳かれた荷車は二台あって、それぞれ四トントラック一杯くらいの荷物を積んでいる。当然、牛だけが曳いているわけではなく、一台につき四人ほどの半纏姿の人が付いている。

 目の前を通り過ぎて、半纏の背中のマークが見える……え、三菱?

「積み荷は分解したゼロ戦だよ」

「ゼロ戦……?」

 女子高生でもゼロ戦くらいは知っている、大戦中の日本の戦闘機だよ。妹がシューティングゲームが好きで、よく戦闘機に乗ってドッグファイトをやった。でも、それが、なんで牛車なんかに載せられてるんだ? 神田明神の壊れかけた世界だから、脈絡なんて無いんだろうけど、ちょっと奇抜過ぎない?

「日本は道路事情が悪いんで、トラックで運ぶと振動で機体を傷めてしまうんだ。それで、完成したゼロ戦は牛車で運んで飛行場で組み立てて飛ばしたんだよ」

「アナログなんだ……」

 最先端技術の戦闘機が、チョーアナログの牛車に曳かれているのが面白くて、ついつい見入ってしまう。

「あんまり見てると、引きずり込まれ……」

 マヂカの忠告は最後まで聞けなかった。

 

 ウウーーーー! ウウーーーーーウウーーーー! ウウーーーーー!

 

 サイレンが鳴り響いて、川向こうの空にゴマ粒を撒いたような大編隊が現れた。

 敵機来襲! 総員退避! 総員退避!

 輸送隊の指揮を取っていた技術将校が退避を呼びかけた。

「くそ、せっかく完成したゼロ戦が!」

「むざむざ、敵に食われるのか!」

「操縦士が居れば、立ち向かえるのに!」

 半纏さんたちは、悔しくて、退避命令が出ているのにも関わらず、空に向かって拳を振り上げる。

「あ、そこに居られるのは要海中尉!?」

「え、あたし?」

「いま、ゼロ戦を組み立てますので、敵機に立ち向かってください!」

「「「「「中尉!」」」」」

 半纏さんたちが声をあげると、CGの早回しのように荷解きがされて、あっという間に土手道の上にゼロ戦が組み上がった。

 そして、わたしのコスは日本海軍の飛行服に変わってしまった! 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・106「再びの真田山高校」

2020-04-20 06:20:33 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
106『再びの真田山高校』
           



 今日は『夕鶴』の稽古が無い。

 明後日から始まる第六地区のコンクール予選、その打ち合わせがあるので、部員全員で会場の真田山高校に向かう。


 地区総会に来たのは暑い盛りの七月だった。
 車いすというのは姿勢が低い。
 座っているんだから当たり前なんだけど、頭の位置は地上から一メートルも無くて、幼稚園児が歩いている頭の高さぐらいしかない。
 わずか四五十センチの違いなんだけど、アスファルトの照り返しが尋常じゃなく、健常者よりもうんと暑い。
 背もたれやシートが邪魔で、すっごい熱がこもるんだよ。背中もお尻も汗びちゃになった。

 それが懐かしく思えるくらいに、今日は寒い!

 健常者は歩いているから、ホコホコと温かい。
 でも、わたしって座りっぱなしだから歩行によって温まるということが無いので本当に寒い!
 寒いとトイレが近くなるので、昼ご飯のあと水分を摂っていない。
 内緒だけど五分丈のスパッツを穿いている。うっかりすると見えてしまうので、今日のわたしは大変お行儀がいい。
「ホットのお茶あるけど、少しだけ飲む?」
 介助をしてくれているミリー先輩が保温水筒を差し出してくれる。
「あ、かわいい」
 水筒はトトロの形をしていて、首を外すとコップになる。
「はい、どうぞ」
 トトロの形をしていなかったら、しなくていい遠慮をしてしまっただろう。「かわいい」と反応することで先輩は「でしょ」とお茶を注いでくれる。普通の水筒だったら「あ、いいです」と返してしまう。
 元々の性格なのか、小六で車いすになってからかは分からないけど、人が勧めてくれたことには一歩引いてしまう臆病なところがある。
 むろん、こんな体なので、いざという時には見ず知らずの人にもお願いしたり頼りにしたりしなくちゃならないので、差し迫った時でなければ、つい遠慮してしまうのだ。

 ミリー先輩は、ついこないだまでは車いすだった。
 捻挫をこじらせての短期間だったけど、いっしょにゴロゴロと車いすを転がして、ずいぶん距離が縮まった。
 七月は、須磨先輩が解除してくれていたけど、今日は自然な流れで付き添いの朝倉先生と喋りながら、わたしたちの最後尾を歩いている。その声が聞こえてくるんだけど、なんだか友だち同士みたいなノリだ。噂では、二人は同級生同士だったらしいんだけど、どうなんだろ?

 真田山の会議室。

 みんな「こんにちわ!」と明るく挨拶してくれる。こちらも「こんにちわ!」と返すんだけど、七月の時のようにキャーキャー言われることは無い。
 七月は部室棟のことで演劇部は有名になった。
 YouTubeだけじゃなくテレビのニュースなんかにも出たので、なんだかアイドルの握手会みたくなってしまった。
 まあ、一種のノリだったんだろうなと納得。
 でも、ミッキーは新顔のアメリカ人、でもって、演劇部というのはどこの学校も女ばっかなので、チラチラとチラ見されている。
「『日本の学校って、みんなきれいだね……校舎も生徒も』って言ってる」
 ミッキーの独り言をミリー先輩が同時通訳。
「how about KARAHORI?」
 空堀高校はどうよ? とミリー先輩が聞き返す。この程度の英語は分かる。
「オフコース!」
 分かりやすいカタカナ英語で答えるミッキー。ことの優劣や美醜に関しては、たとえ誉める言葉であってもハラスメントに繋がることを知っているんだろう。ミッキーはきっと民主党の支持者だ。

 会議の終わりに受付業務の説明を受ける。

 空堀は出場はしないけど、受付の仕事をすることになっている。
「これをPRして売って欲しいねん」
 役員校の先生が、ドサリと紙包みを置いた。
 中身は週刊誌大の立派なパンフレットだった。ざっと百部ほど、これを五百円で売る。売り上げはコンクールの運営費用の一部にあてられるそうだ。

 バカにできない売り上げになるそうで、頑張らなくっちゃと思った。

「で、空堀高校の部員は何人?」
「五人です」
「じゃ五冊、どうぞ。代金は今日でなくてもいいけど2500円ね」

 え、わたしたちからも取るの~~?
 

 

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ここは世田谷豪徳寺・77『さざれ石・1』

2020-04-20 06:11:28 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・77(さつき編)
『さざれ石・1』   

 

 

 目の前に座ったのは、東京にいるはずのタクミ・レオタール三曹だった。

 どうして!?

「非常事態になったんでね、立川から追い出されてきた」
「追い出された!?」
「もうあり得ないと思うんだけど、君を通してボクの情報が外に漏れないための用心なんだ」
「あたし、ここにいるから、タクミくんのことは分からないのに」
「なんだけどね、こういう事態のときは、リスクを最小にしておくのが自衛隊なんだ。ボクと君がいっしょなら管理にかかる費用も人員も半分で済むしね……やっぱ、大阪の部隊は飯もうまいしね」
「え、自衛隊って、どこにいても一緒じゃないの?」
「装備はともかく、食い物は部隊で相当な違いがある。ダシの取り方から、ご飯の炊き方まで。ここのカツ丼はカツのパン粉の立ち方から違う」
 そう言われて、ダシに浸っていないカツを一口かじってみると確かに歯触りも、カツの味わいも学食などとは段違いだった。もう、ここにきて一か月余りになるというのに、食べ物の美味しさも分からなかった。
「このS駐屯地の烹炊で除隊したら、ミナミの食べ物屋さんで包丁が握れるっていいますよ」
 デザートのきつねうどんを食べながら柿崎さんが言った。
――可愛い人だな――
 急にタクミ君の想念が飛び込んできて、吹き出しそうになった。
「どうかした?」
「レオタール三曹が柿崎さんのこと可愛いって」
「言ったの?」
「ううん、思った気持ちが伝わってきたの」
「え、まだ心が読めるの? もうとっくに、その能力はなくなったと思ったのに。今だって、ボクが声かけるまで気づかなかったじゃないか」
「強い想念は感じるみたい」
「ハハ、光栄ね」
「柿崎さん、一曹だから僕よりは年上だと思うんだけど、いくつなんですか?」
「防衛機密よ」
「柿崎さん、最初に会った時は女子高生のナリだったのよ。あたしも分からなかった」
「そういう仕事だからね。でも、佐倉さんの能力がまだ残っているとは、正直なとこ、あたしも思ってなかった」
「ええ、思ってないのに、あたし幽閉されてたんですか!?」
「穏やかに言ってよね。一応佐倉さんも合意の上なんだから」
「自衛隊は念には念をだからね」
「転属申告は済んでるんでしょうね?」
「してなきゃ、こんなとこで気楽にカツ丼食ってないっすよ」
「よし、じゃ、あたしが営内案内したげよう」
「あ、あたしも連れてってください。あたし、この駐屯地で知ってるのは、自分の部屋がある建物と営門までだから」
「あ、案内してなかったっけ?」

 というわけで、あたしとタクミ君は柿崎さんに営内を案内してもらった。駐屯地の周辺には六つの学校があるけど、駐屯地の敷地はその全部を合わせた倍以上の広さがある……らしい。

 いっしょに歩いているとタクミ君の想念が次第に強く感じられるようになってきた。

――立川の方が広いかな……女の子は、こっちの方がいけてるか……食い物もいいし、しばらく居候やるのもいいか……柿崎さん小柄だけど、いいプロポーションだな……――
「ハハハ……」
 思わず笑ってしまった。
「なにか可笑しい?」
 柿崎さんが振り返る。
「職務熱心なレオタール三曹が研究熱心に……駐屯地を観察していて」
「職務熱心で、結構です」
 タクミ君が「ありがとう」というような目配せをした。

 そこに着いた時、急にタクミ君の心が読めなくなった……。

「これが駐屯地の宝物。さざれ石よ」

 そこには、しめ縄と立て看板がなければ、ただの建築廃材のコンクリートの塊にしか見えない苔むした石があった……。

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乙女と栞と小姫山・21『新入部員さくや・1』

2020-04-20 05:58:44 | 小説6

乙女小姫山・21  

『新入部員さくや・1』    

 

 

「て、手島さん!」
 

 三年生への演説が終わって、校門に向かうと、いきなり校門脇の桜が声をかけてきた。

 桜が喋るわけがない、正確には桜の木のあたりから人の声がしているのだが、不意を突かれた感じで、なんだかおとぎ話めいた気分になった。

「演劇部に入りたいんです!」

『けいおん』のキャラに似たツインテール、見るからにピカピカの一年生が立っている。

「入部届です!」

「ウッ」

 いきなり、鼻の高さに入部届が突きつけられ、栞は珍しくたじろいだ。

「これで、演劇部は二人になります! がんばります!」
「あ、えと……」
「桜は満開です! 演劇部は、これから満開にしましょう!」

 ちょっと調子が外れているのだが、その外し加減が小気味よく意表を突いてくる。栞は体勢を立て直すのに数秒かかった。

「珍しい、毛筆だね。石長さん。あなたが書いたの?」

「えと、保護者の名前以外はわたしです。それから、イシナガじゃなくてイワナガです、石長さくや」

「でも、わたし、今年はやる気ないよ」

「えーーどーしてですかあ!? やっぱ、時間のせいですか?」

「もあるけど、なんか去年一年やって、冷めちゃった」

「冷めたのなら、暖かくしましょう。大丈夫、暖かくなります!」

「ハハ、どうやって暖かくするの?」

「わたしと居れば、きっと暖かくなります、絶対です! じゃ、明日から、よろしくお願いします!」

 それだけ言うと、さくやは、さっさと行ってしまった。

「……ま、いいか。年下のお友だちぐらいにしとこうか」
 

 角を曲がったところで、テレビのクルーとレポーターのオネエサンが待ちかまえていた。

 

「すみません。ナニワテレビなんですけど、手島栞さんですよね」

「はい、そうですが」

 この手合いは手玉に取りやすい。

「今度の、栞さんのレジストですけど……」

「言葉には注意してください。わたしのはレジストじゃありません。問題提起です」

「失礼、その問題提起ですけど。それに至った心境とか、今日は保護者説明会が行われますが。栞さんは出席なさらないんですか? 夕べの記者会見じゃ、大活躍でしたが」

「ほんとうに失礼ですね。テレビ局の名前だけ言って、もう質問ですか」

「あ、ごめんなさい。わたし、アナウンス部の芹奈って言います。ほら、これIDです」

「お名刺、頂戴できますか?」

「あ、はいどうぞ」

 芹奈は、ホイホイと名刺を出した。栞はいきなりスマホを出した。

「もしもし、ナニワテレビのアナウンス部ですか。わたし、手島栞と申します。部長さんいらっしゃいますか……じゃ、次長さんでけっこうです」

「なんで、ウチの局に……」

「おたくに、芹奈澄香ってアナウンサーいらっしゃいますか……あ、この人です」

 芹奈をシャメって送信した。

「本物、じゃ、どういう社員教育されてるんですか、ただでも狭い通学路。カメラさん、音声さん、ADさんで道が塞がってます。取材のあり方に気を付けてください」

 芹奈はじめ、クルーは道ばたに寄った。

「それから、わたしの問題を取り上げてくださるんなら、一年のスパンで取材して下さい。教育問題を芸能問題と同じような興味本位で取り上げないでください。以上ご検討の上……むろん編成局長レベルでお考え頂かなきゃいけませんが。その上で、学校長を通じて取材を申し込んでください。なお、この通話と、取材の様子は録画、録音してます。このあとYou tubeに投稿します。以上」

「あの、手島さん……」

「以上、次長さんに申し上げた通りです。では、これで失礼します」
 

 万一のことを考え、フェンス越しに見ていた乙女先生は舌を巻いた。
 

 その夜、保護者説明会が開かれたが、校長は低姿勢ながらも、そつなくさばいた。

 謹慎中の教師たちは、警察の捜査と府教委の調査を待ち、校長として対応したいこと。また、外部の有識者を交え学校改革のための委員会をたちあげること。それは府教委の意向もあり、現時点では、規模や構成までは言及できないこと。そして、トドメには、会議発足の暁には、ぜひ保護者の中からも参加してもらいたい旨を、一人一人の目を見ながらお願いした。校長に見つめられ二秒とは目を合わせられない者達ばかりであった。
 

 父から保護者会の様子を聞いて、栞は半ば諦めた。

 校長の対応は「学校を守る」という点では満点だったが、本気で問題を解決しようという意思が欠けているように思えた。真面目で真剣な話しぶり、筋の通った論理展開。ドラマで校長役が要るとしたら、この人ほどの適役はいないだろうと思った。 ただ、刀に例えれば「良く切れる」ことを宣伝しているようにしか見えない。栞の好きな言葉は、こうである。


――良く切れる刀は、鞘の中に収まっているものだ――


 その日の『栞のビビットブログ』はアクセスが二万を超えた。ナニワテレビの件は動画サイトにも流れ、電話に出た次長がニセモノの平のディレクターであったこともバレて、新子が投げたボールはテレビの報道のあり方にまでストライクゾーンを広げた……。

 

 

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