ジジ・ラモローゾ:029
マスクを買いに行くためにマスクを作った。
まだ三日分ほど買い置きが残っていたんだけど、お祖母ちゃんが捨ててしまったから。
お祖母ちゃんは、もうパックが空になっていると思ってゴミ箱に放り込んでしまったんだ。
「そういうこともあるよ、大丈夫、わたしが取りあえずの作って買いに行くから(^▽^)/」
ペーパータオルを適当に折って、輪ゴムを通す。
「ほら、本物みたいでしょ!」
「うん、ジジは上手ねえ」
ぜんぜん上手じゃないんだけどね、上と下とじゃ幅が違って、なんか台形を逆さにしたみたいで、横っちょに隙間とかができるんだけどね、お祖母ちゃんは心意気を褒めてくれているんだ。
「じゃ、行ってくるね」
お財布掴んで自転車を出す。
「あら、朝からお買い物?」
お財布持ったままの手でハンドルを握っているので表を掃除している小林さんに気づかれる。
「はい、いろいろ切れてきちゃって(;^_^A」
「うちで間に合うものだったら言ってね、お隣同士なんだから(⌒∇⌒)」
「ありがとうございます。ま、散歩も兼てです。家の中ばかりだったら腐っちゃいますからね」
「そうね、気を付けてね」
「はい!」
マスクを買いに行くと正直に言ったら小林さんは、こう言うだろう「あ、うちに何枚かあるから……」そう言って買い置きを分けてくれる。
このご時世、必需品のマスクを分けてもらうわけにはいかない。
セイ!
魔法少女か女忍者という感じで掛け声かけてグンとペダルを踏み込む。
セイ セイ セイ セ……あ……!
右側の輪ゴムが切れて、マスクが垂れてしまう。左手で押さえようとしたら弾みで左も外れてしまう。
自転車のスピードと向かい風の合わせ技でマスクは軽々と吹き飛ばされ、崖の向こうに飛んで行ってしまう。
ああ…………………………………………
どうしよう、マスクをしてないとお店に入れないよ。
『どうかしたか?』
フリースの胸元からおづねが出てくる。いつの間に入ったんだ?
「マスクが飛んで行った……」
『崖の向こうか……よし、これを貸してやろう』
「え、なに?」
忍者服の下から出したのは、黒いスカーフのようなものだ。
『このように使う』
同じものを取り出して、おづねは自分の顔に巻き付けた。
忍者覆面だ。
「うう……ちょっと恥ずかしいかも」
『朽葉模様にしてやろう』
おづねが一振りすると、枯葉模様のカムフラージュになった。
『巻き方は工夫しろ。セイ』
「ちょっと、どこに行くのよ」
『野暮用だ、放せ』
掴んだ手から離れたかと思うと、おづねの姿は一瞬で消えた。
なんとか鼻から下を西部劇の覆面みたくしてお店に向かう。
多少注目されたけど、並んでいたオバサンたちが「あら、かっこいい」と言ってくれたりしたので、なんとか平気でおひとり様ワンパック限定を買うことができた。
お店を出て角を曲がると、四角いポストの上におづねとチカコが立っている。
「あ、どうしたの?」
『マスクを飛ばしたのはチカコだ』
「え、ええ!?」
『チカコ、謝らんか』
『だって……』
『もう遊んでやらんぞ』
『う……ごめん』
『声が小さい』
『ご、ごめん! もういいだろ!』
「あ!?」
チカコはそのままポストの投函口に飛び込んで、おづねも『待てええええ!』と叫んで飛び込んでしまった。
「あのう、ポストいいかしら?」
「す、すいません(^_^;)」
投函口を除いていたら、封書を持ったオバサンに変な子だと思われてしまった。