大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ジジ・ラモローゾ:030『サービスエリア』

2020-04-19 12:54:24 | 小説5

ジジ・ラモローゾ:030

『サービスエリア』  

 

 

 ジジ、こんなのがあるぞ。

 

 ぬるくなったお茶を飲み干して、マスクに手を伸ばしたところで声がかかる。

 ツケッパのパソコンを見ていたおづねだ。

「え、なに?」

 返事をして振り返ったら、高速道路のサービスエリアになった。

 おっと。

 観光バスが、わたしを掠るように進入してきて、一発で定位置に停めた。

 続いて、もう一台が隣りに侵入して、これまた一発で停止させ、わたしはバスの谷間に挟まれる。

 プシュー

 バスのドアが開いて、私服の生徒たちがゾロゾロと降りてくる。

 流れに乗ってバスの前に出ると、同じ観光バスがずらりと駐車していて、フロントガラスには『○○高校2年〇組』とお品書きみたいなのが貼ってある。

 そうか、修学旅行に行く途中なんだ、トイレ休憩だな。

 察しの通り、半分以上の生徒がトイレに向かい、残りの生徒はお土産コーナーやフードコートのあたりを目指している。

『あれはジージ殿ではないか?』

 二台向こうのバスから三十代半ばのジージが下りてきて、駆け足で駆けていく。

 他にもバスからは、先生たちが下りてきて、サービスエリアのあちこちに散っていく。

「なにしに行くんだろ?」

 中学や小学校の経験から言っても、こういう時は、先生たちは生徒と行動を共にする。

 先生たちもトイレに行ったり、お土産コーナーに行ったりして、ゆったりと監督している。

 そうだ、小学校の時は、下りるたんびに先生も交えて写真撮ったよ。

『ジージ殿を追ってみよう』

 おづねを追って行った先は、サービスエリアの変電室の裏だ。

 

「こんなとこに来る生徒いるんですかねえ」

 連れの若い先生が、ちょっぴり不足そうにジージに話しかける。

「いるかもしれません、ほら」

 二人連れの男子が横っちょから顔を出して、ジージは二人にサムズアップして見せた。

「お、おう」

 ハンパに挨拶すると、フラフラとよそに行く。

「偵察隊ですよ」

「喫煙ですか?」

「クスリの受け渡しかも?」

「え!?」

「関西の学校であったからね」

「そんな、真顔で言わないでくださいよ屯倉先生(;^_^」

「まあ、一本どうぞ」

「仕事中ですから」

「タバコ型の駄菓子です」

 そう言うと、呆気にとられている先生を横目にポリポリ齧った。

 

『修学旅行というのは、なにかと面白そうな』

「ジージの学校って、大変だったんだあ」

『他にも、修学旅行では面白そうなのあるみたいだぞ』

 おづねが、次のファイルを指さすと音がした。

 

 コンコン コンコン

 

 慣れっこになったので、視野の端っこに捉えてみる。

 やっぱり。

 チカコが怒ったような顔で窓ガラスを叩いていた。

 

 

 

 

 

 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・105「―昼休みに体育館集合 敷島―」

2020-04-19 06:47:41 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)

105『―昼休みに体育館集合 敷島―』  



 ――昼休みに体育館集合 敷島――

 敷島? あ、ああ。

 一瞬誰だか分からなかったが、敷島というのは八重桜のリアルネームだと思い至る。

 ようは八重桜のメールで演劇部全員が体育館に集められた。

 体育館に行ってみると、演劇部の他に生徒会執行部と、文化祭で『夕鶴』のアシスタントをしてくれるボランティアの面々が集まっていた。
「何事なの?」
 うっかり素の自分で聞いてしまった。
 演劇部と執行部の瀬戸内さんを除いて目線を避けられる。
 登下校は素の自分を出さないように心掛けているが、校内では気を付けていないとこうなる。
 なんたって二十三歳の三年生。あたりまえの三年生よりも五歳も年上。自分では意識してないけど面構えも目つきも尋常ではない……らしい。
「詳細は分からないけど、どうもマスコミの取材があるらしいですよ」
 美晴が自然体で答えてくれる。演劇部に答えさせたら、なんだか演劇部自身がわたし色に見えてしまうし、生徒会の会長なんかにオズオズ答えられたら、わたしはもう空堀高校に巣くう化け物のように思われてしまう。
 そのへんの機微を心得ているのか、美晴の自然な言い方は垣根を低くしてくれた。

 先生来ましたよーー!

 体育館のギャラリーから声がする。
 どうやらギャラリーの窓から本館を見張る斥候を出していたようだ。
 パタパタパタと斥候が下りてきて、男子の何人かが外出しのシャツをズボンの中にしまい込む。ふだんだらしのない子たちなんで、かえって取って付けたみたい。
「ほら、シャツがよれてる。あーー分かんないかなあ、こうだよ!」
 一瞬でベルトを外してズボンをくつろげ、きちんとシャツを収めてやる。
「え、あ、先輩(#´ω`#)」
「ナヨってすんじゃないよ」
「そ、そやかて(#´0`#)」
「あーーーそういうのヤメ! それから、わたしのこと先輩なんて呼んじゃダメ!」
 ダメ押しして、登下校モードに切り替える。

 なんとかカッコが付いたところでA新聞と思しきクルーを従えて八重桜がやってきた。

「やあみんな、A新聞の人たちが、今度の『夕鶴』の取り組みの取材に見えたわよ。硬くならずに自然にね」
 演劇部は程よいよそ行きの表情、ほかは、ま、それなりに。
「A新聞文化部の望月です、すてきな取り組みだそうで、お話を伺いにきました」
 そのまんまリベラル政党のマスコットになれそうな女性記者が選挙ポスターのような笑みを振りまく。
「あ、そちらのお二人が交換留学生でキャストをやられる……」
 ビジュアル的に目立つミッキーとミリーのインタビューから始める。
 こういうときのアメリカ人というのはプレゼンテーション能力が高い。
 二人とも日本人の倍ほど表情筋を動かして、すばらしい機会に恵まれたことを英語と日本語で喋りまくった。
「お芝居も楽しみですけど、楽しそうにプレゼンするのは見ていても気持ちいいですね」
「ハハ、アメリカは多民族の国ですから、しっかり表現しないと伝わらないからです。気持ちはほかのメンバーもいっしょですよ」
 さすがミリーはソツがない。
「ヤー、イッツ、アメイジング!」
 ミッキーは厚切りジェイソンを彷彿とさせるものがある。
 それから、話題は千歳に及んだ。やっぱ、脚の不自由な千歳は広告塔になるようだ。ほんとうは、そういう注目のされ方は嫌なんだろうけど、もともと性格のいい千歳はニコニコと、少し恥じらいながら答える。
「ほー、じゃ、このステージだといろいろ大変なんですね」
「ええ、そうなんです」

 八重桜の指示で、一昨日のステージを再現する。

 千歳はミッキーのお姫様ダッコで舞台に上がり、鬼ごっこではヒヤヒヤの車いす。
「ほかにもあるんですよ」
 八重桜は舞台の照明と音響についてもひとくさり。
「前からの灯りが乏しいので表情が出ません、音響は(パーーンと手を打った)こういう具合に音が吸い込まれたり拡散してしまう構造なので、ピンマイクが無いと後ろ三分の二は届きません」
「なるほど……」
「かくも、教育の現場では視聴覚教育の、それこそメインステージの整備は遅れているんです」

 なるほど、わたしらの『夕鶴』のPRよりも、ハコものである施設の不備を訴えたかったのかと、ちょっと感心した。

 今日は、この秋一番の冷え込み。
 取材が終わると、みんなトイレに急行したのだった。

 

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ここは世田谷豪徳寺・76『S駐屯地の非常事態』

2020-04-19 06:37:04 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・76(さつき編)
『S駐屯地の非常事態』    



「申し訳ありませんが、今日は駐屯地から出ないでください」

 いつも冷静な柿崎一曹が慌てて言うと、すぐ部屋を出ていった。
 理由は分かっている。C国が日本に宣戦布告してきたのだ。佐世保沖に現れたC国の艦隊と自衛艦が戦闘、日本側の一方的な勝利に終わったからだ。
 戦闘の理由は、C国艦隊が日本の再三の警告にもかかわらず領海侵犯しかけた。それもS諸島のような最果ての島ではなく、自衛隊やアメリカ海軍の基地がある佐世保にである。C国は射撃管制レーダーを照射するだけでなく、自衛艦艦隊に主砲の砲口を向けた。
 これは、人間に例えると、拳を上げた状態ではなく、顔面目がけて振り下ろした状態と言っていい。二か国を除いて世界中が、日本の個別的自衛権の行使の正当性を認めた。なんせ戦闘そのものが日本の領海内で行われている。C国は、これも自衛隊によって領海内に誘われて戦闘になったと強弁しているが、これを鵜呑みにするのは世界中に二か国だけでしかない。

 C国政府も、宣戦布告はしてみたものの、こんな無茶な状況で、自分の海軍が戦闘を起こしたとは思っていなかったようである。要は軍の独走による日本への挑発が度を越したのである。抑留されたC国の司令も「威嚇しつつ領海に入る寸前で引き返すつもりだった」と供述している。衛星写真の解析を見るまでもなく、佐世保沖十数キロで行われた海戦は、米軍、自衛隊にとどまらず、何万という単位のスマホやマスコミのビデオに撮られている。子供が見てもC国が言い訳できる状況ではなかった。

 しかし、宣戦布告されたのであるから戦争状態であることには変わりはない。わたしが居るS駐屯地も、マニュアル通りの警戒態勢をとっている。

「しかし、なんかチグハグですね」
 やっと昼前に部屋から解放されて、食堂でお昼を食べながら柿崎さんに聞いた。
「え、なにが?」
「C国からは宣戦布告されたのに日本はしないんですね」
「やったら、本物の戦争になっちゃう」
「え、戦争しないんですか?」
 あたしは、お味噌汁が横っちょに入ってむせかえりそうになった。
「C国には何千という日本の企業と何万という日本人がいるのよ。その人たちの身を守るためにも戦争はできない。それに憲法が宣戦布告を認めていないわ」
 食堂のテレビでは、C国に在留邦人の保護を求めていること、在日C国人の保護、C国への渡航禁止を政府が発表していた。
「あたしたちも、在阪のC国人の保護準備の命令が出てるの」
「そこまでやるんですか!?」
「ああ、日本は平和憲法の国だからね」そう言いながらかつ丼を乗せたトレーをテーブルに置いて前に座った人がいた。
「タ、タクミ君……!」

 目の前に座ったのは、東京にいるはずのタクミ・レオタール三曹だった……どうして!?

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乙女と栞と小姫山・20『栞のイマジネーション』

2020-04-19 06:24:46 | 小説6

乙女小姫山・20

『栞のイマジネーション』    
 

 

 

 予想通り『栞のビビットブログ』は炎上した。
 

 タイトルがいけない。ブログ名の下に《小姫山ほどの問題》とあり、栞が疑問に思った学校のカリキュラムが全て載っている。

 単元毎に実際に行われた授業の内容がまとめられている。一見して総花的な、良く言えば「浅く広く」 栞の言葉では、体系のない「その場しのぎ」の授業内容がよく分かる。

 また、教師が、この準備のためにどれだけ時間を取られているかにも触れてあり、生徒も教師も、総合的に無駄なことに時間と労力が取られていることも分かる。コメントは、あえて管理者の承認を外してあるので、生の反応がそのまま返ってきていた。 おおむね「賛成」が2/3、「反対」が1/3というところである。

 気になるのは、「あなたのお陰で、学校は晒し者です」「評判落とした責任取れ!」「あんたねえ、うちら三年のこと考えてへんやろ。進路にどれだけ影響ある思てるのん!」 「そうや、あんたみたいな気楽な二年生とはちゃうねんからね!」という、明らかに学校関係者のものがあることである。
 
 駅前で、栞が三年生の女子に絡まれていた。

 駅前の登校指導に出ていた乙女先生と真美ちゃん先生が、これに出くわした。 「……止めんと、あかんのんちゃいます?」 「もうちょっと様子みてからね……こら、そこの一年、団子になって歩くんやない! 自転車は一列で行け!」と、本務のほうに忙しい。

「大学は、推薦の場合、調査書と面接が基本。一般入試は、センター試験と大学の入試で決まります。不安にさせたことは謝ります。でも、わたしの主張に問題がないのはブログでも、You Tubeでも分かります。できたら、それに沿って理性的に話してください。うさばらしなら、なんでも書き込みしてください。事前承認とかの検閲はやってませんし、匿名も大歓迎です。これ以上は通行の妨げになります。放課後、中庭で、お待ちしています。話のある人は来てください。じゃ、失礼します」
 

 栞はスタスタと行ってしまった。
 

「な、様子見て正解やろ。あとはウチやるさかい、真美ちゃん生指にもどっといて。今日は栞のことで、まだまだ起こると思うよってに……ほら、そこの三年、いつまで溜まっとんねん。便秘になるぞ!」
 

 生指に戻ると、案の定だった。
 

「こういうことは、予測できたはずです。なんで立ち番を立てるとかして、学校の姿勢を示さないんですか!」

 謹慎中の梅田に代わり、首席の桑田が栞に詰め寄られていた。部長の机の上には、嫌がらせらしいメモなどが、小さな段ボール箱に一杯になっていた。

「原因は自分にもあるとは思わへんのんか?」

「思いません。わたしは三ヵ月も中谷先生を通じて申し入れをしてきました」

「中谷先生だけやろ」

「それが正規のルートだからです。桑田先生、中谷先生とは背中合わせですね。申し入れしたときは三回とも席にいらっしゃいました。ご存じなかったんですか」

「知らん」 「パソコンで、トランプゲームやってらっしゃいましたよね」 「アホぬかせ」 「三回目に、思いあまってシャメったとき、偶然ですが、先生のパソコンの画面も写りこんでいます。職務専念上問題があると思われますが。また、首席という立場にありながら、直接わたしから聞いていないということで、シラを切るのは問題ありませんか?」 「手島……!」 「ご注意しておきますが、ここに入室してからの発言は、全て録音してあります」

 ――録音をやめなさい――

 桑田は、メモに書いて示した。栞はシャ-ペンを取りだしノックした。

「これ、シャーペン型のデジカメです。日時こみで記録させていただきました」

 桑田の顔が赤黒くなった。

「申し入れについては、善処する」

「善処とは?」

「関係教職員で協議の上、対応するということです!」

「いささか遅きには失しますが、了解します。失礼しました」  

 栞は、さっそうと生指の部屋を出ていった……。

 乙女先生は、改めて桑田に向き直った。

「下足室は、出水先生に二十分間見てもらって、嫌がらせのメモを入れた生徒は記録してもろてます」

「そんな話は……」

「夕べしました。人の話はちゃんと聞こうね、桑田クン……記録は、公表しません。情報管理にも問題無いとはいえへんようやし。ほんなら、一年のオリエンテーションに行ってきます」

 桑田は忌々しそうにノートパソコンを閉じた。

 

 放課後、十名ほどの、主に三年生の生徒が栞を取り巻いた。
 

「いま、何時だと思ってるんですか!?」

「なんやて?」

「いえ、先輩のみなさんを責めてるんじゃないんです。ただ今四時四十分。もう時間が押しているんで始めさせていただきますが、ほんとうは、ここに来るつもりだったのに来られない方もいらっしゃると思います」

「せや、リノッチら来たがってたけど、進路説明あるさかいな」

「変だと思いませんか、希望、自主、独立が我が校の校是です。こんな放課後の時間、極端に短く、また、定見のない指導で時間をとられ、この憎き手島栞にも会いにこられないのは、おかしいと思われませんか?」 
「そら、たまたま……」

「たまたまなんでしょうか。去年一年、わたしは演劇部にいました。ろくに稽古時間もとれず、予選敗退でした。で、今は部員はわたし一人です。なぜでしょう。つまらない総合の授業に縛られ、縦割りの指導を受け、二年生の場合、放課後の1/3、三年生は2/3が食われてしまいます」

「そら、分からんことないけど、三年は進路かかってるさかいなあ」

「これを、見てください」 
「ん?」

「演劇部の三年生が、どんなことで放課後の時間が取られたかということの一覧です」

 エクセルを使って見事な一覧にしたものを皆に配った。栞は出席者を見込んでいたのだろうか、手許には自分の分しか残っていなかった。

「全部について分析しているヒマはありません。面接指導、論文指導に注目してください。面接指導は、文字通りの面接の練習と、進路先決定のための面接に別れます。実に三年生は、これに半分以上が取られています。他に各種行事や、そのための委員会とダブルブッキングしているものもあります」

「……ほんまや」

「で、言うもはばかられますが、面接指導のA先生、集会でのお話、いかがですか? くどく長いだけで、中身が生徒に伝わりません。論文指導のB先生、定期考査で問題の論旨が分からないと苦情が出たことがあります……」

 栞の演説は30分の間に簡潔にまとめられていた。資料を配ったこと、主張することに統計資料の裏付けがあること、挙げる例が的確、かつ典型的で説得力があることで、十名の抗議者を賛同者に変えてしまった。
 

 蘇鉄の陰の乙女先生は感心した。

「あの子の演説は勉強になるなあ」

「ほんとですね。先生みたい」

 本物だけど、成り立ての真美ちゃん先生は正直に感心した。
 

 そして、栞の話を、それと知られずに聞いていた一年生が一人いた……。 

 

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