大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

坂の上のアリスー53ー『食べきれなかった』

2020-04-17 12:32:13 | 不思議の国のアリス

アリスー53ー
『食べきれなかった』(綾香)    

 

 

 特盛……食べきれなかった。

 

 自己嫌悪でお勘定を払う。

 あいつが居たら食べてくれたかなあ……特盛なんて無理だって。食べる前に言ってくれた?

 うっさい、食べれるもん! ハグハグ ハグハグ……モソモソ……ウップ。

 ……ほれ見ろ、食えないんだろ。よこせ、食ってやるから。

 あ、あんたのために残しておいたげたのよ。

 へいへい。

 消えろ亮介!

 

 気分が悪いんで、自販機を探す。

 ストローハット女の人の次、150円入れてボタンを押そうとしたら、目当てのお茶は売り切れ。

 くそ!

「あ、綾香ちゃん!?」

 え!?

 ストローハットが口をきいた……北村一子!

「これ買おうと思ったんだね、よかったらどうぞ。わたし、他のでもよかったから(o^―^o)」

「い、いらない。き、気が変わったから!」

 一子のお茶なんて飲めるか!

 グウァッシャーン!

 自転車に戻って、跨ろうとしたら、弾みで倒してしまって洗濯グッズをぶちまけてしまう。

 ウ……ウウッ。

 こみ上げてくるものを押えたら、めちゃくちゃ涙があふれてくる。洗濯グッズも拾えないで、ハンドル握ったままみっともなく立ちつくしてしまう。

「綾香ちゃん」

 一子が優しく拾ってくれる。

「……はい、これで全部かな」

「う、うん……」

「亮介がどうかした……?」

「あ、あいつ…………ほんとうの、ほんとうの兄貴じゃないんだ!」

「え?」

「あいつとは血のつながった兄妹じゃなかった!」

「ど、どういうこと?」

 

 ウワアアアアアアアアア!

 

 ふたたび爆発したわたしに一子は寄り添ってくれた。

 気が付いたら、一子のお茶を飲んでしまった。

 

♡主な登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

 

 

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オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・103「八重桜の教育的手腕・1」

2020-04-17 06:26:54 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
103『八重桜の教育的手腕・1』
       




 無い知恵を絞った。

『夕鶴』の登場人物は以下の通り。

 与ひょう(傷ついた鶴を助けてやるお百姓) つう(与ひょうに助けられた鶴の化身のヒロイン)
 そうど(与ひょうをそそのかし、つうに千羽織を織らせる) うんず(そうどの仲間の小悪党)
 こどもたち

 字面で見ると、こどもたちというのはモブキャラで、ほんの添え物。

 だから、どうとでもなる。と、軽く考える。

 軽く考えて、そこいらの知り合いに声をかけて本番だけ舞台に立ってもらおうと思った。

 ところが八重桜に言われ、1/20の舞台図を書いて、1/20の役者を配置してみると……暑苦しい。
 与ひょうやつうと変わらない体格の子どもたちが四人も五人も舞台に出ると、もう、なんちゅうか言葉が無い。

 俺のソウルフードである冷やし中華に例えると、主役である中華麺よりもゆで卵とかキュウリとかが幅を利かせすぎの感じ。
 冷やし中華の上に、丸まるのゆで卵とキュウリ、トマトも焼き豚もマルッポ入ってたら……これは完全にアウト。

 う~ん

 演劇部に入って、こんなに芝居の事を考えたことは無い。
 
 長年歩いた通学路、目をつぶってても歩ける道やのに、事故に遭いかけた。

 わっ!!

 目の前に三輪車に乗ったガキが横の道から飛び出してきよった。
「ビックリするやないか!」
 怒ると、三人のガキはケタケタ笑いながら行ってしまいよった。
 三輪車やと背丈が半分になってしもて、とっさには視野に入れへんのや。
 まあ、近所のガキなんで怒っても効き目は薄い。追いかけてカマシタロとも思たけど、その時思いついた。

 せや、三輪車や!

 子ども役を三輪車で登場させたら背丈は半分、ペダル漕いで動くから、小回りきくしチマチマとした動きは子どもらしいやんけ!
 それに千歳も出せるんちゃうやろか?
 車いすの方が三輪車よりもかさ高いけど、ちょっと大きめのオネエチャンいう感じでええことないやろか!?

「先生、アイデアです!」

 あくる日、さっそく八重桜に提案した。
 ちなみに、八重桜の事を――先生――と呼ぶのは、めっちゃ久しぶり。いつもは――あのう――で済ましてる。
「うん、それはいいアイデアね」
 まず誉めてくれた。八重桜でも褒められると嬉しいもんや。でも、これは教師としての教育的配慮やった。
「ダンス部が小道具の三輪車持ってるから、ちょっと借りてためしてみよう」

 演劇部一同で三輪車三台を持って体育館の舞台を目指した……。

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ここは世田谷豪徳寺・74『C国艦隊との決戦』

2020-04-17 05:56:31 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺・74(惣一編)
『C国艦隊との決戦』   



 

 

 三隻の吉本艦隊が艦隊運動を終えて並走したときには、領海まで1・5海里に接近していた。

「状況報告」
 艦長は、小学生に窓から見える空模様を聞くように確認した。
「警告は10回目。C国艦隊からの応答はありません」
「あと3分で領海に入ります」
 ここまでC国の海上走行艦艇が領海に接近したのは初めてだ。離島周辺では海警の船が短時間領海を侵犯することはあるが、三隻の駆逐艦が揃って本土の領海に接近することはなかった。
「C国艦隊の前に回り込みますか?」
 船務長が、自衛隊としては常識的な提案をしてきた。
「回り込んだときは、もう領海の中や。侵犯されてからダンスするのはボケや。いこま、かつらぎの管制とリンク」
 ボケという非軍事的な言葉を使ったが、艦長は国際的には常識的な行動を暗示する答えをした。
「どうします……」
 船務長が緊張した声で聞いた。いや、声こそ出さないが、わが吉本艦隊は全員が同じ緊張の中にいた。
「C国先頭艦の前方200に警告射……」
 艦長の命令の途中で電測員が叫んだ。
「C国艦隊全艦から射撃管制レーダー照射」
「我が方もATECSレーダー照射」
 自衛隊が訓練以外で射撃管制レーダーを照射するのは初めてだ。
「C国艦全艦、砲門を向けてきました」
「各艦、C国艦の主砲を射撃。ASM-2発射ヨーイ!」
 担当の主砲76ミリ速射砲の砲員が素早く復唱、オート発射の衝撃がCICにまで響いた。
「C国3艦の主砲を撃破」
「各艦反撃に備えよ。オールウエポンズフリー!」
 C国艦は対艦ミサイルを発射直後に発射したミサイルごとミサイル発射装置と速射砲を破壊された。ミサイル一発だけがたかやすに向かってきたが、CIWSで、距離500で破壊された。その残骸が一部たかやすの艦体に当ったが、被害は無かった。
「C国一番艦、傾斜大。まもなく沈没します。残り二艦も炎上中」
「C国艦隊の救助に向かう。海上漂流者を優先。118番通報、救助要請。現在位置確認。C国艦隊発見から現時点までの接触情報を海幕に通報」

 C国艦隊は、一隻沈没。二隻は消火完了の上領海侵犯で拿捕。C国の艦長は公海上であると強弁したが、レーダーの記録を見るまでもなく、10キロの近さに迫った丘の景色をみれば領海侵犯は明らかだった。空には、自衛隊、海上保安庁、米軍、マスコミのヘリコプターが一杯だった。海自は救難艦を派遣し、沈没したC国艦の艦内生存者を海保と共に12名救助。多数の死者を収容した。これに要した時間は12時間余りで、あまりの手際の良さに、C国は、日本によって仕組まれた海戦だと主張したが、非難を通り越して世界中から笑われた。

 タブロイド判などは『佐世保沖海戦』と書いたが、政府の発表は『接触事故』であった。

「報告済んだら、退官願い出すわ」
 飲み会の約束をするような気楽さでたかやすの艦長兼司令が言った。
「吉本艦長に落ち度はありません。的確な戦闘指揮と救難指示でした」
「せや、完璧な正当防衛や。それでも日本は自衛隊に実戦は認めん国や。どうせ、あと二月で定年やった。悔いはない」
 そう言って、吉本艦長は、ラッタルを降りていった。

 佐世保の街が、こんなによそよそしく見えたのは初めてだった。

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乙女と栞と小姫山・18『動画サイトの乱』

2020-04-17 05:45:44 | 小説6

乙女小姫山・18    

『動画サイトの乱』      
 

 

 

 保健室のパソコンには、とんでもないものが映っていた。
 

 動画サイトに、一昨日の栞の事件が5分余りの映像で流れていたのだ。

「今度は逃がせへんぞ!」

 湯浅とおぼしきオッサンの声から始まっている。

 カメラは、湯浅と梅田の背中を追いかけ、戸外に出る。二人の肩越しに、栞がゲンチャで坂道を下って来るのが分かる。驚いて急ブレーキをかけ、姿勢は前傾している。湯浅が前に立ちはだかり、栞のハンドルがぶれ、前輪がスリップして、ゲンチャは旋回しながら倒れていく。

「なに、わざとらしい転けてんねん!」と「おい、大丈夫か!?」の二つの声がした。

 前者は湯浅、後者は、どうやらカメラの持ち主のようである。 微妙ではあるが、梅田の手がハンドルと栞の上半身の両方にかかっている。引き倒したようにも、転倒する新子を助けようとしているようにも見える。

「進行妨害です。現状保存をして警察を呼んでください!」 栞が、ヘルメットを脱いで叫んだ。

「違反ばっかりしくさって、何言うとんじゃ。さっさと立って学校来い! 湯浅先生、ゲンチャ持ってきてください」

 そして、栞はセーラーの襟首を掴まえられて、引き立てられていくところまで映像はとらえていた。

 タイトルは『あなたは、どう思いますか』とだけで、人物の目の所は黒い線で隠されてはいたが、関係者が見ればすぐに分かる。いや、関係者でなくとも、栞の制服やゲンチャに書かれた屋号で、かなりの人が分かるだろう。

「アクセスと、コメント見てください」

 出水先生に促され、そこを見ると、投稿から一時間あまりしかたっていないのに、アクセスは1000件を超え、コメントも数十件入っていた。コメントの全てが、二人の教師を非難していた。

「進行妨害!」「拉致か!?」「証拠隠滅!」「女の子かわいそう」中には、在校生であろうか、具体的に梅田と湯川の名前をあげて非難しているものまであった。
 

 五分後、乙女、出水の両先生は校長室にいた。

 ちょうど入学式の来賓が帰ったところで、校長一人だったのが幸いだった。

「これはまずい……!」

 校長は、すぐに動画サイトの会社に電話をして、削除を依頼した。電話のオペレーターは、学校名と校長名を確認してからかけ直してきた。

「どうにか、なりませんか……は、は、しかし……そうですか」

「どないですのん?」

「警察から、当該生徒及び保護者からの依頼が無い限り保存しておくように依頼があったそうです」

「ちょっと、パソコン貸してください」

 乙女先生は、そう言うと『手島法律事務所』を検索して電話した。

「あ、手島さんのお父さんですか?」

 電話はビンゴだった。

「あ、お父さんも、あの動画ご覧になったんですか……え、分かりました、校長に代わります」

「もしもし、校長の水野です。先日は……ええ、その動画の件なんですが……は、はい、そうですか……そうですね。ご教示感謝いたします。また、いずれお父さんとはお話させてください」

 校長は、言葉少なに、でも納得して電話を切った。

 乙女先生は両者の頭と理解力が優れている証拠だと思った。

「削除をすれば、人の興味をかき立てるだけだとおっしゃいます。それに、例え削除してもコピーがとられて、拡散する一方、それも加工されたものになるんで、何を書かれるか分からないので、オリジナルで放置した方がいいだろうということでした」

「……もう、アクセスが1500を超えました」

「とにかく事情聴取ですなあ、緊急の職員会議も……こりゃ、禁足令だな。ところで、出水先生。学校のパソコンでは動画サイトは見られないはずですが」

「モバイルルーターなんです」

「……あ、なるほど。保健室はいろんな情報がいりますからな。ま、公式にはスマホで発見したことにしといてください」
 

 五分後、校長は、梅田・湯浅に動画を見せながら事情聴取を行い、続いて、手島親子に面談した教師全員にも事情聴取と事実確認を行った。  

 それを30分で済ますと、職員会議を開いた。

 会議は、校長からの一方的な説明と指示に終始した。
 

 マスコミや警察からの問い合わせは、校長に一本化すること。手島栞について懲戒にかかるような問題は無いことの確認。栞が旧担任のところに出した書類を全て、学校長に提出すること。
 さすがに中谷の顔色は変わったが、書類を受け取った記憶はないと、押し通した。

「正直におっしゃっていただかないと、学校長として責務が果たせません。なお、この責務の中には、中谷先生がおっしゃることが正しいことを前提ですが、先生を弁護することも含まれております」

「それは、管理職の越権、恫喝だ!」

――オッサン、アホちゃうか――

 他の教職員も、同意見らしく、沈黙を持ってこれに応えた。
 

 職員会議のあとはマスコミの攻勢であった。校長は、6時から記者会見に応じるとして、手島親子と連絡をとった。事実確認と氏名を伏せることの確認だったが、事実確認のあと、手島親子は記者会見に同席することを要求してきた。

「マスコミは、ちょっとした言葉尻や、ニュアンスの違いを突いてきます。同席して、同時にやった方がいいでしょう」
 

 校長は、最後に、梅田・湯浅・中谷の三人に即刻の自宅待機を命じ、校門前に出た。

「校長、記者会見までには、間がありますが?」 「何か、新しい事実でも?」

 校長は待っていた。そしてマナーモードにしていたスマホが三度振動することを確認した。

「ええ、記者会見の会場のご案内です。会議室では手狭ですので、講堂を使用いたします。30分後開催。それでは、マスコミのみなさんは準備してください」

 各社は、争って入学式のままの講堂に急いだ。本来、入学式が終わると、昼を挟んで、設営したパイプ椅子などの撤去に移るが、乙女先生が気を利かして、そのままにしておくように首席の筋肉アスパラガスの桑田に言い含めておいた。

 そして、校長宛に三回のコールを送り、マスコミが居なくなった裏門から、神社の軽ワゴンを借りて、自宅謹慎組を護送したのである……。

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