大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・104『チカコが……』

2021-10-02 09:16:47 | ライトノベルセレクト

やく物語・104

『チカコが……』   

 

 

 学校に行きたくない。

 

 普通の子が言ったら登校拒否の前兆。

 でも、言ったのはチカコだから登校拒否にはならない。

 だって、チカコはうちの中学の生徒じゃない。

 生徒じゃないけど、家に残しておくと寂しそうだし、1/12スケールなんでカバンとかポケットに忍ばせて連れて行く。

 カバンの隙間や目から上だけ出してポケットから、あれこれ見聞きしては喜んでいるからね。

「うん、たまにはいいんじゃない」

 そう言って机の上に残してきた。

 部屋には、他のフィギュアも居るし、黒電話もアノマロカリスも居るから、寂しいこともないしね。

 

 図書当番でカウンターに座っている。

 

 相棒の小桜さんが職員室に呼ばれているので、しばらく一人だ。

 小桜さんは、わたしより大人で、進路のことを真剣に考えている。きっと、その件で呼ばれてるんだ。

 ちょっと長引くかも。

「ごめんね」を二回も言って、図書室を出る時には手まで合わせていった。

「いいよいいよ、気にしないで(^_^;)」

 どうせ誰も来ないから……これは、図書委員としてはどうかと思うので、両手をパーにしてハタハタと振っておいた。

 

 シーーーーン

 

 図書室に一人だけ。

 図書委員になりたてのころは、この静かさは苦手だったけど、このごろは好き。

 現代社会で全き静寂というのは最高の贅沢だ。なにかで読んだエッセイに、そういうのが書いてあった。

 わたしは、その贅沢を堪能しているんだ……そう思うと、ちょっとニマニマしてくる。

――むかしはゼンマイ時計が掛かっていたから、静かだと時計のコチコチいう音がすごく大きく聞こえた——

 図書室のゾクゾクするような静寂を話したら、学校のOGでもあるお母さんは、そう言ってた。

 今は、電子時計だから時計も寡黙だ。

 ゲ ゲ ゲゲゲノゲ♪

 チカコのリクエストで変えたスマホのコールが鳴った。ビックリして、座ったまま三センチぐらい飛び上がった!

「もしもし」

『よかった、黒電話です』

 電話の主はわたしの黒電話。正確には電話の中か向こうに居る電話の交換手さん。

 いつも、電話を取り次いでくれるだけなのが、自分で電話してきたんだから、よっぽどのことだ。

「なにかあったの?」

 すぐに頭に浮かんだのは、お祖父ちゃんお婆ちゃん。二人とも歳だし、昼間はお母さんも居ないし。

 ひょっとして、どっちかが倒れた!? どうしよう、救急車って、学校からでも呼べたっけ? 緊急だから、メモだけ残して帰ればいいかな、先生とか小桜さん待ってたら間に合わないし!

『チカコが……』

「チカコ?」

 別の意味で心配だ。

「チカコが、どうかした?」

 できるだけ冷静に聞く。まずは、わたしが落ち着かなきゃ。

『一番下の引き出しに鬼の手を入れてますよね』

「う、うん」

 悪い予感、二丁目地蔵さえ、メイド地蔵になって文句を……心配していたよ。

『引き出しを開けて、自分は椅子の上に座って、ずっと鬼の手を見つめているんです……もう、かれこれ三時間になります』

 そうだ、チカコも本性は人の左手首だ。左手同士……ひょっとして、チカコが取り込まれてしまう!?

 これは、一刻も早く帰らなくっちゃ。

 でも、人がいないからと言って勝手に帰れない、いよいよメモ残して帰るか?

「分かった、できるだけ早く帰る!」

 電話は切ったけど、メモだけ残して帰っていいものか……家の者が急病で……って、チカコのこと人には説明できないし。小桜さん、早く帰ってこないかなあ……

 ガラ

 その瞬間ドアが開いて、小桜さんが帰ってきた。

「ごめん、やっと先生に話し終わったから」

 え、ひょっとして、これも鬼の手の効能?

 考えてる暇もないので「ごめん、家で急用ができて!」。それだけ言って、わたしは学校を出た。

 校門を出る時、愛さんと染井さん(銅像と桜の精)の心配そうな視線を感じたけど、返事をする余裕もなかった。

 家まで飛んで帰れたら……思いかけたけど、胸にしまい込む。

 下手に望みが叶ってしまうと、とんでもないことが起こりそうな気がしたからね。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手
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ライトノベルベスト『あかずの踏切』

2021-10-02 06:13:33 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『開かずの踏切』  

 

       

 開かずの踏切……と、人は言う。

 それほどでもない。と、あたしは思う。

 五分に一度くらいは開いている。う~ん……はっきり計ったわけじゃないけど、長くても七八分かな?
 直ぐ横が、駅の改札への通路と歩道橋を兼ねたのがあって、急ぐ人は、その階段を駆け上がる。
 あたしの学校は、このJRの路線と並行して走っているKO線で通ってる子が半分くらい。

 ゆうゆう間に合う時間なら、踏切で立って待っている。

 あたしは、演劇部のせいか、人を見ていたら飽きない。

 若い人、お年寄り、子ども……年齢や性格によって様子が違う。ガキンチョは、無駄に体を動かしているのが多い。これは体が大人になるために、無意識に体を動かして、体や、体の感覚を鍛えているんだと思う。
 中坊くらいになると、無駄に喋っている。オバチャンたちもそうだ。あれは喋ることによって、互いが無害な存在であることを確認し合っている。このお喋りに加われない中坊やオバチャンは、地域やクラスで孤立しかけていると思って間違いない。
 話している最中に目線が逃げる奴がいる。これはウソを言う前兆で、まず八割方当たる。

 高校以上になると、もうケータイ、スマホとにらめっこ。中には隣同士並んでるのにメールのやりとりしてるバカもいる。このバカが、なんで分かったかと言うと、踏切を渡っている最中にこう言ったからだ。

「そりゃ、やめとけよ!」
「なんで!?」
「だって、おまえがコクって上手くいくわけ……」

 バカだけど、ちょっと微笑ましい。
 
 世の中、変わったやつが多い……って、人のこと言えないけどね。
 こうやって、踏切で、向こう側の人間をシゲシゲ観察してるやつも珍しい部類だからだ。

 時にはいいこともある。年頃にも似合わず、スマホもいじらず、意識は完全に他のところに行ってる小柄なオネーサンを見つけた。
 帽子とグラサンで、最初は分からなかったけど、AKRの高橋まなみって分かっちゃった!
 そのときは、思わず写真撮って彼女が横断してくるのを待って、密やかに聞いた。

「AKRの高橋まなみさんですよね?」

 で、カバンの裏側に修正ペンでサインしてもらっちゃった♪
 それからは、会うたびにって、まだ三回だけど、ニッコリとチラ見してくれる。あたしだけの秘密。

 昨日はやばかった。

 ここの踏切は、五分くらいで、たいてい開くけど、開いてる時間が十秒そこそこってこともある。
 七十半ばのオバアチャンがゴロゴロとカート押して渡っていたんだけど、途中で遮断機が降りてきちゃった。

――危ないなあ――

 そんな気持ちは、みんな持っているんだけども(その証拠に、心配げなチラ見は、ほぼ全員がする)これだけ大勢いると――だれかが助けるだろう――そういう気持ちが働いて、結果、誰も助けない。

 もう、上りも下りも、通過列車が見えてきた。警笛が鳴る。どうしていいか分からずに、オロオロするオバアチャン。

 体が先に動いた。

 遮断機を押し上げると、全力で走って、オバアチャンを抱え、踏切のこっち側に引っ張ってきた。カートは、残念ながら急行にはね飛ばされ、急行は急ブレーキの音をきしませながら百メートル以上行って止まった。みんな、さすがに踏切に注目している。オバアチャンは、何がなにか分からずボンヤリしている。

「よくやったぜオネエチャン!」

 そんな声も聞こえたけど、晴れがましいのは苦手なんで、あたしは、そのまま学校に行った。

 正直、学校はウザイ。

 だからもう半分寝たふり。うちは都立の真ん中……ちょい下。だから、寝たふりなら先生もなんにも言わない。
 で、その日はクラブもなかったので直帰。

 また踏切でひっかかった。で、例の如く人間観察……されてしまった。

 小三ぐらいの、女の子がじっと、あたしを見つめている……怖いくらいの目つき。「なんかやったかなあ?」と、我が行いを振り返ったくらいだった。

 遮断機が上がって、向こうへ渡ると、その女の子は、あたしの顔を見ながら言った。

「オネエチャン、あたしのこと見えてんの?」
「う、うん、見えてるよ」
「だったら、オネエチャンも死んでるんだよ」
「え……?」

 カンカンカンカン……遮断機の降りる気配。

「おれが、説明するよ」

 聞き覚えのある声がした……あ、よくやったぜ! のオジサンだ。

「オバアチャンは助かったけど、あんたは撥ねられっちまってさ。オレ、感動のあまり声かけちまったんだ」

 それから、あたしは、自分の死が理解できるのに一週間ほどかかった。

 今は、やっぱ人間観察。オジサンと、女の子と。

 もう、高橋まなみさんは気が付いてくれない。
 でも七日目の日、まなみさんは、踏切にお花を供えて、手を合わせてくださった。

 そこに一瞬だけ立ち止まって、おへそのあたりで手を合わす男子高校生。連れの男子は知らん顔。

 あ、あの時の二人連れ……コクルって……わたしにだったの?

 バカに思えた男子が、ちょっぴりいい男に思えた。

 ちょっと、この界隈の幽霊仲間のいい話になった……。

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