大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・250『校内放送で呼び出される』

2021-10-13 14:01:59 | ノベル

・250

『校内放送で呼び出される』さくら      

 

 

 ピンポンパ~ン 3年3組の酒井さん3年3組の酒井さん 至急職員室まで来なさい

 

 チャイムが鳴って、起立、礼が終わって数学の先生が教室を出ると同時に校内放送がかかった。

 一瞬、教室中の注目が集まる。

 休み時間になったのを待って放送したという切迫感がある――なんやろ?――なにをしよったんやろ?――そんな空気が漂うんやけど、次は理科室の移動授業やから、大半のクラスメートは理科の教科書ノートを持って教室を出ていく。

「教科書とノート持って行っておこうか?」

 留美ちゃんが聞いてくれる。

 教科書とノートの心配というよりは、それを種に心配を共感してくれるような響き。

「ううん、だいじょうぶ」

 返事はするんやけど、うち自身――なんやろ?――と、小さく驚いてる。

 放送の声は担任のペコちゃん(月島先生)。

 ふつうは『月島のところまで来なさい』と言うんやけど、抜けてた。落ち着いた声やったけど、先生も、ちょっと慌ててる感じ。

 

 失礼しま……

 

 失礼しますの『す』は呑み込んでしもた。

 すぐにペコちゃん先生と目が合って――ちょっと大変なこと――という思いが伝わった。

 先生の横には、丸椅子が二つ。たった今まで、先生は誰か二人と話ししてた感じ。

「ごめん、呼び出して……」

 言いながら、丸椅子の一つを勧める。

 思い込みかもしれへんけど、丸椅子には、たった今まで人が座ってた温もりがした。

「な、なんでしょうか?」

 雰囲気で、ちょっと声がうわずってしまう。

「急なことなんだけど、夏目君が転校したの」

「ええ!?」

「たった今まで、ここに座っていたんだけど、飛行機の時間が迫ってるって……」

「なんでですか?」

「お父さんの仕事の都合で沖縄にお引越しなんだって」

「沖縄……」

「以前から決まってたらしんだけど、コロナで移動できなくって、緊急事態宣言が解除されたことで、急に決まったみたい」

「そうなんですか」

「文芸部には挨拶していきたいって、ほんと、今の今までいたんだけどね。詳しく聞きたかったら、担任の先生が御存じだから聞いてみる?」

「あ、いや、いいです。聞いても銀之助が戻って来るわけやないですから」

 電話ぐらいしてこいよ……思たけど、銀之助は、まだスマホを持たされてなかったのを思い出す。

 コロナで、この一年は満足に部活できてへん。

 学校やら街で会うたら声はかけるんやけど、それでも、学年が違うと、何日も姿を見いひんこともあった。

 留美ちゃんとは一つ屋根の下で住んでるから、ノープロブレムやった。

 銀之助の事は、知らず知らずのうちに意識の外にしてへんかったやろか……。

 

 で、思た。

 

 留美ちゃんでなくてうちを呼んだのは、先生も思うとこがあったんや。

 留美ちゃんは、真面目やさかい、きっとうち以上に気に病む。

 せやさかい……。

 う……ちゅうことは、先生はうちに下駄を預けた?

 留美ちゃんに、どない伝えよか……思いながら、理科室のある南館校舎に急いだ。

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やくもあやかし物語・106『そいつについての桃ノ木のアドバイス』

2021-10-13 08:57:37 | ライトノベルセレクト

やく物語・106

『そいつについての桃ノ木のアドバイス』   

 

 

 

 六条御息所

 

 六条通にある休憩所みたいな名前は、とても気の休まるようなものではないんだ。

 まず、どこか場所の名前だと思うよね。京都とか奈良とか。

「女の人の名前だよ」

 チカコが指を立てる。

 六条というのは、都の六条に住んでるって意味らしい。

「じゃ、御息所は?」

「東宮……えと、皇太子殿下のことね」

「ああ、秋篠宮さまみたいな?」

「あれは皇嗣子よ」

 秋篠宮さまを「あれ」って言った。聞き返すといらないスイッチが入りそうなので「どうちがうの?」とだけ聞く。

「跡継ぎだから、どちらも東宮なんだけど、六条御息所の場合は皇太子を意味するの」

「皇太子……男の人だよね?」

「ちがうちがう、親王や内親王を産んだ女の人を『御息所』って言うの」

「なるほど、上皇后陛下ね、美智子さま的な?」

「ちがうちがう、皇后の身分ではなくって親王や内親王を産んだ女官のこと」

「あ、そか(^_^;)」

 昔の皇室とか難しいよ。

「その一人が六条に住んでいたので六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)って呼ばれてたの、分かった?」

「うん、分かった」

「以前は宮中に住んでいたんだけどね、東宮がお亡くなりになってからは、六条にお屋敷をもらって住んでいたのね」

「未亡人?」

「違うわよ、子どもを亡くした母親」

「あ、そかそか」

「ある日、光源氏が見染めちゃってね、いい仲になったのよ」

 え、光源氏……って源氏物語、お話ってかフィクション。

「あ、お話だってバカにした」

「だって」

「お話だって、千年以上も読まれてきたら、命やら実体を持ったりするものなのよ」

「そ、そう(^_^;)」

「そして、実体化して歩いていたら鬼に食べられちゃったってわけ」

 

 ゴトゴト

 

 引き出しでゴトゴト音がしてびっくり。

「聞こえてるみたい」

「ちょっと庭に出るわよ、ポケットに入れて」

 チカコをポケットに入れて、チカコが指図するまま桃の木の下にいく。

 ホワホワ~

 実も付けていないのに、桃の香りが漂った気がした。

「六条御息所は生霊(いきりょう)なのよ」

「え!?」

「光源氏が、好きになった女の人を次々に呪い殺していくのよ……それも、寝ているうちに魂だけが飛んで行って、相手をとり殺してしまうの。御息所はぐっすり寝ている間のことだから自覚が無いの」

「そ、そうなの(@_@;)」

「あとで、自分が生霊となって取り殺したことを知って恐ろしいやら後悔するはで、娘が斎宮になって伊勢にいくのについて行って都を去るんだけどね……恋の恨みというのは、そんなことぐらいで解れるものじゃなくって、都に帰ってからも、死んでからも、源氏に恨みを言いに行ったり、人の恋を邪魔したりって、とんでもない女なのよ」

「どうするのぉ!? とんでもないもの引き受けちゃったよぉ!」

「あの手が鬼の体に付いている間は大人しくしていたみたいだけど、鬼から切り落とされて自由になったと分かってきたから……引き出しが開いて、危うく、わたしも引き込まれるところだったわ」

「どうしよう……」

 俊徳丸も、ここまでは思い至らなかったんだ、単にラッキーアイテムだと思って……いや、いまさら思っても仕方ないよね。

 

 もしもし

 ヒャ!?

 

 声が聞こえてびっくり! 

 チカコは慌ててポケットに潜り込んで、わたしは、キョロキョロとあたりを見渡す。

『わたしは、桃の木ですぅ……』

 振り向くと、桃の木がワサっと身震いで返事。

「桃の木さん?」

『はい、六条御息所さんが怖いのは、実体がないからです。あの人が祟るのは、体から抜け出た時です。新たに体に入ってしまえば、普通に話もできるんじゃないでしようか』

 そう言って、桃の木さんは枝の先で、わたしのポケットを指さした。

「あ、そうか! そうだよ……!」

「ちょっと、なによ、この黒猫の体はわたしのだからね!」

 上半身を出し、胸を抱えるようにしてチカコが抗議する。

「違うよ、他にもフィギュアがあるじゃない!」

『そうですよ、いまは、庭の木や花たちが押さえています。はやくお部屋に戻って、六条御息所さんに体を与えてやってください』

「うん、分かった!」

 部屋に戻りながら考えた。話を聞いた御息所のイメージはヤンデレさんだ……ヤンデレさんといえば、あのキャラしかない!

 

 というわけで、1/12のコタツにチカコの向かいに『あやせ』が座っている。

 

「どう、その体気に入った?」

 尋ねると、眉を吊り上げて睨み上げ、あたしを指さして吠えた。

「つ、通報しますよ!」

 机の上に新しい仲間が増えた。

「勝手に仲間言うなあ!」

 ちょっとてこずりそう……(^_^;)

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライトノベルベスト・『イケメーン!』

2021-10-13 05:14:27 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『イケメーン!』   


        

 わたしが剣道部に入ったのは、弟を鍛えるためだった。

 弟は、姉のあたしから見てもたよりない。
 
 体裁よく言えば草食系なんだけど。ようはヘラっとして、いつも半端な微笑みをうかべ、意見をすると目線が逃げる。
 それになにより、不男だ……と、決めつけるには、まだまだ早い小六なんだけど、来年は中学だ。
 いまでも少しハミられているような気配がある。勉強こそは真ん中だけど、こと人間関係に関してはダメだ。けなされようが褒められようが不器用にニヤケることしかできない。そのニヤニヤは姉のあたしがみても苛立つほどに醜い。
 
 あれでは中学でイジメに合うのは確実だ。

 あたしも、運動部に入ったことは無い。中学でちょっとだけ演劇部にいたが、やってることが学芸会並なので、直ぐに辞めた。
 体育の成績は4で、授業でやる程度のことなら、人並みにはやれる。
 だから、高校では声のかかった演劇部をソデにして運動部を目指した。

 格闘技がいいと思った。で、柔道部と剣道部に見学に行った。

 柔道部は女子もいるんだけど、胴着の下のTシャツを見ないと性別の分からないような子たちばかり。男子は言うに及ばない。
 あたしは、ただの体育会系は好きじゃない。体だけできていても、その分脳みそとかハートを落っことしたようなやつはごめんだ。
 柔道は、体を密着させる競技だ、寝技なんか、道着を着ていなきゃ動物的なカラミに過ぎない。そういうとこがどうもねえ……それ
と、柔道って、組み合うと息のかかりそうなくらい身を寄せる。そういうのがね……メンツを見ただけで却下。

 で、剣道部に入った。

 剣道部も似たりよったりの顔ぶれだけど、防具をつけると、完全に体はおろか、顔もはっきりとは分からない。第一体が密着することが無い。
 最初は素振りとすり足で、手はマメだらけ、足の皮は剥がれるんじゃないかと思うくらいだった。

「ようし寛奈、素振りの切っ先もぶれなくなった。明日から防具つけて打ちあい稽古だ」
「あの、明日からは連休ですけど……」
「あ、そうだな。じゃ連休明けからだ」
「遠足挟んで代休ですけど」
「あ、じゃ、その次」
 
 ダハハハハ
 
 さりげないツッコミがおもしろかったのか、部員みんなが笑った。やはり、しまりのない笑顔だ……。

 立ち合い稽古が出来ると言うので、あたしは近所の八幡様にお参りに行った。
 
――まあ、気いつけてがんばりや――
 
 本殿の奥から、そんな声がしたような気がした。でも弟には聞こえないようなので、空耳だったのだろう。

「初心者にしては筋がいい」
 最初に立ち会った二年の副部長が誉めてくれた。
「ただな、面のときに『イケメーン!』ていうのはよせ、ただの『メーン!』でいい」
「うそ、そんなふうに言ってました!?」
「言ってた」
「すみません、気を付けます」

 それから、何人かと立ち会ったけど、あたしの「イケメーン!」は直らないらしい。
 
「たぶん、気合いのイエー!がイケー!に聞こえるんだろう。まあ、気にするな」
 
 顧問の立川先生が慰めてくれた。

 あれから、一か月近くたって剣道部に異変が現れた。

 男子部員のルックスがアドバンテージになってきたのだ。
 
 あたしは、部員の中でも部長だけは買っていた。見るからに運動バカだけど、自分を諦観したところがあって「オレは女にモテなくても剣道できれば、それでいい」というところがあって、表情が澄んで屈託がない。も少し顔の造作が……と思っていた。

 立ち合いは、この一か月近くで百回ほどになった。

 すると、心なしか、男子部員のルックスが確実に向上。中にはコクられ、生まれて初めて彼女ができた者も現れた。
 一学期の終わりには、すっかりイケメンの剣道部で通るようになり、女子部員も増えた。

 部長は、その中でも一番変化が大きかった。

 あたしは、正直に嬉しかった……が、技量は目に見えて落ちてきた。試合に出ても負けがこんできた。

 部長は、ただ一人言い寄る女生徒も相手にせずに稽古に励んでいた。いつのまにか、あたしが部長の立ち合いの専門になっている。
 
 で、気づいてしまった。
 
 防具の面越しに見える目が、あたしを異性として見ていることに。凛々しい目の底にいやらしさを感じる。

――引退するときにコクりよるで~――

 八幡様の声が聞こえた。あたしの「イケメーン!」は、どうやら、男をイケメンにはするが堕落させることに気づいた。

 これでは弟を鍛えることなど出来はしない。
 
 あたしは次の部活を探している……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする