大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・249『お祖父ちゃんのクイズ』

2021-10-08 12:13:13 | ノベル

・249

『お祖父ちゃんのクイズ』さくら      

 

 

 スマートやってんなあ!

 

 お祖父ちゃんが感心した。

 感心したというても、うちがスマートになって、それに感心したというわけやない。

 ほんなら、詩(ことは)ちゃんか? 今さら感心せんでも、詩ちゃんはスマートのナイスボディーや。

 まさかテイ兄ちゃん?

 いえいえ、坊主としてはまあまあやと思うけど、男としてスマート……ちゃうなあ。

 留美ちゃん? 清楚とかケナゲという形容詞がしっくりくる。

 では、お祖父ちゃんは、何に感動して「スマートやってんなあ!」と感動したのか?

「テレビやがな、テレビ、スマートテレビとは思わんかった!」

 リビングのテレビはプレステ4がカマシタあるから、ユーチューブとか動画サイトは見られるんやけど、そういう操作は難しいんで、動画を見る時は自分の部屋ということが多いお祖父ちゃん。

「それが、このテレビでも観られるんや!」

 ヒマにあかしてリモコンを弄ってるうちに発見した。

「これで、わし一人の時も、大きいテレビで動画が観られる!」

 なんか時めいてる。

 お祖父ちゃんは住職家業の第一線から引いてからは、暇を持て余してる。

 元来が人恋しいジジイやさかい、大人しい自分の部屋に籠ってるのはきらい。用もないのにリビングに居って、家族の気配を感じながら、本を読んだりテレビを観たり。

 ところが、最近のテレビは面白ないということに思い至って、ユーチューブとか観ることに喜びを見出したというわけ。

「よかったね、お祖父ちゃん(^▽^)」

 孫としては、やっぱり喜びを共有したげなあかん……けなげな孫やなあ(^_^;)。

 で、その日は、横に座ったげて、いっしょに動画を観てあげたたんやけど、二日目には飽きて、そのあくる日。

 

「ちょっと、これ見てみい」

 

 留美ちゃんと学校から帰って来ると、お祖父ちゃんに呼び止められる。

 これは、ちょっと優しいしたげたのに調子づいて、わたしらの貴重な時間を浪費させる気ぃらしい。

「またあとで」と逃げたいねんけど、留美ちゃんに怒られそうなんで「なになに?」と、お祖父ちゃんの横に座る。

 ちなみに、ほんまに興味がある時は「え、なになにぃ?」になる(留美ちゃんの説)。「なになに?」いうのは、ほんの付き合いで言うときらしい。ほんなら、いつでも「え、なになにぃ?」と言うとけばええねんけど、それは、たいへんわざとらしいので逆効果やと言われてる。

「NHKの昔の番組、第一回目の冒頭やねんけどな、なにか分かるか?」

 そう言うて、リモコンのボタンを押すと、それが始まった。

 白黒やから、めちゃくちゃ昔やねんけど、映ってるのは線路の真ん中のコンクリート製の枕木から、真っ直ぐ先を映した画面。

「……新幹線かな?」

 留美ちゃんが呟く。

 すると、彼方に白い点のようなものが現れて、みるみる大きくなってきて、数秒で新幹線やと分かる。

 パオーーーーーン! ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン!

 カメラの真上を通って、新幹線は轟音と共に過ぎ去っていくところで画面が停まってしまう。

「さ、この第一回目の番組はなんやろ?」

 ちょっと意地悪な、それでも面白そうに、うちと留美ちゃんに振ってくる。

「あ、プロジェクトX! 新幹線はゼロ系だったし、レールも、高架も真っ新で、これは試験運転か、開業間もないころの映像だと思います!」

 留美ちゃんが博識ぶりを発揮する。うちは、皆目わかりませ~ん(^_^;)

「う~ん、ええ線ついてるけど、違うねんなあ」

 不正解になってお祖父ちゃんは嬉しそう。

「ええ、じゃあ、なんだろ?」

「ヒント、大河ドラマの第一回目や」

「大河ドラマ……新幹線ということは現代劇ですね!」

「あ、そない言うたら、勘九郎が出てたオリンピックのん、あったやん!」

「ああ……でも、あれは最近のだから、カラーでハイビジョンだよ」

「あ、そうか……」

「ヒント2、これが放送された時はNHKの中で大騒ぎになってなあ」」

「え、なんでえ?」

「大河ドラマの冒頭に教育テレビのビデオが流れてしもたいうて、技術系の職員はひっくり返ったらしいで」

 お祖父ちゃんは、なんや、嬉しそう。

「う~ん……降参です」

「降参かあ(^▽^)/」

「あ、お祖父ちゃん、うちにも聞いてえやあ」

「なんや、さくら、分かるんか?」

「さくらには分からへんやろて、スルーされるのは傷つくしい」

「そうか、ほな、なんや?」

「わっかりませ~ん!」

「ハハハ、いっちょかみしよいう気概はええと思うで」

「で、正解はなんなんですか?」

「『太閤記』や」

「太閤記って……豊臣秀吉の一代記ですよね?」

「そうや、あんまり斬新な始まり方で、教育テレビのビデオが紛れ込んだ言うて、ちょっとした騒ぎになったんや。それで、教育テレビの方から大河ドラマの制作に『こういう紛らわしい演出をするときは、事前に知らせて欲しい』て異例の抗議がされたんや」

「アハハ、面白いですね(^▽^)」

「ハハ、ほんまや、で、教育テレビてなに?」

「教育テレビ知らんか?」

「いまのEテレビだよ」

「ああ、観たことないやつや」

「それで、なんで新幹線が出てきたか言うとなあ……」

「あ、ちょっと待ってください」

「どないしたん?」

「面白そうだから、自分で調べます!」

「おお、さすが留美ちゃん、偉いなあ(^_^;)」

 お祖父ちゃんは褒めたけど、ほんまは、自分で種明かしをしたいのが見え見え。

 まあ、こんなことでコミニケーションがとれる我が家は、けっこういい線いってると思ったよ。

 せや、この話、頼子さんにも振ってみよ。

 

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ライトノベルベスト・『ゴスロリスニーカー』

2021-10-08 04:12:16 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『ゴスロリスニーカー』  

 




 あれ……と思った、母校の青山学院から、渋谷に向かおうとして。

 一見ゴスロリなんだけど、なんとなくの違和感。美和子は、視界の端にとらえてやり過ごそうとした。

「あ、青山先生!」
「あ……………優香?」
「うん、ユウカだよ!」

 違和感は二種類であることが分かった。

 ゴスロリなのに、上が着物のような黒い打ち合わせになっており、真っ赤な帯風の、リボン付きのベルト、下は、色も質感も揃えた五段ほどのヒラヒラ付きのスカートに赤いペチコートを覗かせている。そして、なによりも足許がスニーカーなのだ。この妙な格好が違和感、その一。

 美和子は、生徒がオフのとき、ゴスロリを着ていても、年輩の先生のように叱ったりはしない。この年齢でなければできないファッションというものがあるのだ。下校時に制服を着替えてというのは困るが、休日や、帰宅したあとの生徒達は自由であるべきだと思っている。

 しかし、ゴスロリならゴスロリに徹して欲しい。こういうバラバラには違和感を覚える。

 第二の違和感は、長欠で、留年=退学がほぼほぼ確定している矢崎優香が、ニコニコと、この違和感だらけのかっこうで声をかけてきたことである。今の自分の状況を考えれば、こんな違和感たっぷりなニコニコ顔でいられるわけがない。

「斬新なファッションね、優香」
「へへ、好きなものと、機能的なもの合わせたら、こんなのになっちゃった。気分はアゲアゲ!」

 優香は、演劇部でも目立たない子だった。自己解放の練習で、舞台の上で、他の子と絡ませたことがある。
 最初は、ぎこちなくとも、相手を観察し、いろいろ聞いているうちに、うち解ける瞬間というものがある。
 青山で、演劇をやっていた美和子は、そうやって、うち解ける瞬間、つまり、自分の感情が解放された瞬間を指摘してやることで、演劇において、いかに自分をリラックスさせるか、感情を解放するかを教えてきた。

 しかし、この優香だけは、最後まで、それが出来ず、クラブも間遠になってしまい、そのうち学校にも来なくなった。
 クラブの歓迎会でも、優香には気を遣い、飲み物が配られたとき、優香のコーラが抜けていたので、こう言った。
「乾杯するの待って、矢崎さんのコーラがまだだから」
 副顧問の井上先生から「よく覚えていたわね」と誉められるくらい気をかけていた。
 二三度、担任とも相談したが、ほぼ留年が確定してからは意識の外の子だった。二度ほどメールしたが、返事はなかった。今の世の中、目上から二回メールをもらって、返事をよこさないのは絶縁したに等しい。

 その子が、なんで、こんなに自由そうにニコニコと……美和子は不快感を得意の笑顔でやっと隠した。

 優香は、思った。なんで、この不自然さを感じてくれないんだろ。こんなオモチャ箱みたいなゴスロリ良いわけないじゃん。これは、あたしのバラバラと絶望の表現なんだ。先生が教えてくれた自己解放をやったら、こうなっちゃったんだよ。

 優香は、演劇部に入って三日で失望していた。

 新入生が、8人入ったので歓迎会があった。お菓子やソフトドリンクが回された。先輩の加藤さんがみんなの注文を聞いて、飲み物を用意した。でも、コーラが一つ足りなかった。コーラを注文したのは、美和子先生と優香だけだった。どうして、それが、こうなる?

「乾杯するの待って、矢崎さんのコーラがまだだから」

 みんなは、美和子先生の優しさに感心したが、優香は傷ついた。コーラのカップに名前が書いてある分けじゃない。現実は「コーラが一つ足りない」であるはずなのだ。だけど美和子先生は、足りないのは優香の分だと決めつけていた。そのことに誰も気づかない。

 どうしてメールだったの? せめて手紙だったら、ううん、せめて電話だったら。あたしは返事ができた。と、優香は思った。

 それになにより、あたしが、なんで渋谷から青山の方に歩いているか。美和子先生は、土曜の午後は、後輩の指導に、渋谷から青山まで歩いていくって、歓迎会で言っていたじゃない。

 それに、それに……美和子先生は、田中っていうんだ。青山出身だから、あたしは青山先生って呼んだんだよ。

 でも、もういい。あたしはゴスロリスニーカーなんだ。

 そう思って、優香は永遠に美和子先生には会わなかった。

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