大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・071『新入りの仕事』

2021-10-04 09:20:37 | 小説4

・071

『新入りの仕事』 加藤 恵  

 

 

 氷室カンパニーの新入りの仕事はトイレ掃除だ。

 

 ウ……

 臭い……という言葉は、辛うじて呑み込んだ。二日続きの酒盛りで、トイレの臭気は、ちょっとスゴイ(^_^;)。

『清掃中』の札は出しているけど、出物腫物ところ選ばずだから、いつ誰が入ってくか分からない。

 ニオイに関する言葉が最も簡単に人を傷つけるということを天狗党で学んだ。天狗党には年寄りが多いからね、そういう点は決まりになっていなくても自然に気を付ける。

 掃除は、男女トイレの両方をやる。

 ガラッパチな採掘現場なので、トイレの状況は覚悟していたんだけど、臭いはともかく、汚れはひどくない。

 男用の小便器など、天狗党のそれよりも、うんとましだ。

「それはね、社長がきちんとしているからさ」

 表情に出ていたんだ、点検に来たハナが、ちょっと自慢気に言う。

「社長がうるさく言うの?」

「ううん、自然と見習っちゃうんだ。社長には、そういうところがある」

「へえ……」

「へへ、メグミも感じてるんだ」

「あ、うん。最初は頼りないと思わないでもなかったけどね」

「いい人だよ。みなしごのハナのことも、実の妹みたいに接してくれるしね」

「そうなんだ」

「ここに拾われたころは、まだ、ほんの幼児でさ。最初は泣いてばかりだった。そんなハナにね、社長は、ずっと添い寝をしてくれたんだ」

「ほう」

「十日ほどだったけどね、それがさ、こないだ、十年ぶりくらいで添い寝しにきたんだよ」

「え、それって(*°∀°)?」

 思わずブラシをかける手が停まってしまった。

「あ、は、そんなんじゃないよ!」

 ハタハタと手を振りながらも、頬を染めている。分かりやすい子だ。

「東のやつらと、ちょっとこじれて、向こうにもこっちにもケガ人が出てさ、その原因がハナだったから、ちょっと落ち込んで……そういうとこも、社長はちゃんと見てくれてるんだ」

「ハハ、そうなんだ。いい社長なんだな」

「そうだよ、ハナには……」

「ハナには、お父さん的な?」

「ううん……年の離れたお兄ちゃん!」

 そうか、お兄ちゃんに例えておくところが、ハナの夢なんだな。

「あ、ハナ、なんでこんな話したんだろ!? い、いまの内緒だからな」

「分かってる分かってる、掃除は、こんなものかな、チェックしてくれる?」

「お、おう」

 分かってるよ、掃除のチェックは、ほんとうはお岩さんだ。お岩さんが二日酔いの面倒を看ていることをいいことに、買って出たんだ。

 わたしが社長に手を出さないようにチェックするためにね。

 

「おい、東に鉱床の説明に行くから、メグミも付いてこい」

 

 トイレの外でシゲさんの声がした。

「え、なに、それ?」

 清掃道具をまとめて、ハナと外に出る。

「パルスガが見込みがないことを説明に行くんだ。仁義だからな。ついでに新入りのお披露目も兼ねている」

「ハナも行きたい」

「おまえは仕事だ。今日はA鉱区。行け」

「チェ」

 舌を鳴らして、それでも素直にA鉱区の方に行ってしまった。

「社長は、仕事に関する限り付き合いとか情報の共有を大事にする人だ」

「うん、そんな気がしてた。ちょっと掃除道具片づけてくる。駐車場に行けばいいんでしょ?」

「いや、A鉱区の坑口だ」

「そうか、分かった」

 清掃道具をしまってA鉱区の坑口に向かう。

 ちょうどニッパチが坑内作業から終わって上がってきたところだ。

 ギッコンギッコン

 機械じみた音をさせると、ニッパチは採掘機モードからジープモードに切り替わる。

 ニッパチに乗っていくというわけか。ニッパチも働き者だ。

 シゲのおっさんと二人だが、まあ、ニッパチがいれば、そう息の詰まることもないだろう。

 そう思っていると、事務所の方から声がした。

「すまん、遅くなってしまった(^_^;)」

 え、社長も行くのか?

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ライトノベルベスト『炊飯器の起動音に驚いて』

2021-10-04 05:47:07 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『炊飯器の起動音に驚いて』  



 急に音がしてびっくりした。

 危うく食べかけのアイスクリームのカップを落とすところだった。
 大げさだけど、死神が来たのかと思った。

 ジー……ゴー……てな感じ。ダースベーダーが隣の部屋に入ってきたぐらいな、うん、我ながらいい例え。

 大きな音なら、ここまで驚かない。自動車、飛行機、バイク、隣のおばちゃんがお皿を割る音。学校帰りの小学生の嬌声。筋向いのベスの吠える声。
 そういうのは突然でもびっくりしない。したと同時になんの音だか分かるから。

 で、今のは炊飯器が起動した音。

 こないだ買い換えたばかりで、この子の起動音を聞くのは初めてだった。前の炊飯器は小学校の6年の時に来た。安物だったせいもあって、起動音が大きく、いかにも「今からご飯炊きます!」って感じだったので驚くどころか、不器用で一途なお台所の仲間って感じだった。

 今度の子は、お父さんの稼ぎも増えたので、ナントカ釜の高級品で、前の子とはケタが一つ違う値段。
 むろん、この子のご飯は美味しい。だけど、今の音はいただけない。小さな音でも正体が分からないから、一瞬死神なんて思ってしまう。

 で、こんなご飯を炊き始める時間にアイスクリームを食べているかと言うと、昼抜きだったけど食欲がないから。

 このまま晩御飯を食べても、そんなには食べられない。お昼も抜いているから、体に良くない。だから、少しお腹に刺激を与えておく。
 テスト後の短縮授業なのに、なんで、こんなに遅くなったかというと、補習を受けていたからだ。

 勉強は嫌い……
特に理数は。

 英語は好きだけど、授業は嫌い。[I think therfor i am]は英語のままの方がいい。「われ思う故に我あり」なんて言うと、政治家の演説みたいだ。こないだの英作文で[I love u!]と書いたらペケにされた。[You]を[u]としたのがいけないそうだ。
 だけど、アメリカの若者はYouをuと略して書く。Youと書くと日本語で「おめえ」と言いたいのを「あなた」とあらたまるようなものだ。言葉は生きてこその言葉だ。エイミーはいつも[u]で済ませてくるし、それで通じてる。最初に[You]って打ったら[lazy]と返ってきた。ま、カッタルイてな意味。

 で、今日の補習は英語じゃない。英語はカツカツで50点だったからね。

 補習は情報。

 エクセルとパワーポイントの使い方の実習。パソコンなんて、文字が打てて、ブログ書いたり動画サイトにアクセスできたり、チャットができたら、それでいい。数学なんて、買い物に行って、お釣りの計算ができたらいい。飛行機の最短コースや燃費の計算なんて、航空料金表見りゃ値段で分かるっつーの。安いのが一番。エイミーもあたしも、そのへんは知ってるから、お互い平気で行き来できる。

 もっと訳わかんないのはCO2の計算。マジだけど、地球の温暖化なんてクソまじめに考えてんのは日本だけ。CO2の排出なんて、とっくに利権化してて、日本はいいカモになってるだけなのにね。ま、いいや。アイスクリームの美味しさが炊飯器の音でびっくりして、驚きとともに、頭と舌に焼き付いたから。炊飯器の起動音でアイスの美味しさ実感した人間は、そんなにはいないだろうから。

 今夜は、昨日思いついた詩を広げて短編の小説にすんの。エイミーにも送って、向こうの日系の先生に翻訳してもらう。ちょっと聞いてくれる。その元になった詩。

≪恋の三段跳び≫

 ホップ、あなたに恋をして。ステップ、あなたに近づいて。ジャンプ……しても届かなかった。


 短編を10個ぐらい書いて、中編が3本、長編が1本書けたら、人生、それでいい。

 あたしは、長く生きても20歳ぐらいまで。炊飯器が前の子だったころに分かった。お父さん頑張って一桁上の炊飯器が買えるくらいがんばってくれた。だから、あの子があたしを嚇かしたことは黙っていよう。アイスも美味しくしてくれたし。こうやってブログにも書けたし。

 なんの病気かって?

 それは内緒。コメントもトラックバックもいいです。あなたなりに、そうなんだ。と思ってもらえたらいいです。

 ではエンターキーを押します。読んでくれてありがとう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする