大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・237『爾霊山幻想・1』

2021-10-06 13:45:37 | 小説

魔法少女マヂカ・237

『爾霊山幻想・1語り手:マヂカ  

 

 

 旅順は大連と隣りあって遼東半島の先っぽにある。

 遼東半島は朝鮮半島の付け根にあって、黄海に突き出した親指のような形をしている。

 親指の爪の当たりが旅順、第一関節あたりが大連の街にあたる。

 

 すぐる日露の戦争では旅順と、旅順を取り巻く丘陵地が大激戦地になり、日露双方ともにおびただしい戦死者を出している。なかんずく、203高地は、旅順港のロシア艦隊を一望に見渡せる位置にあって、旅順艦隊の撃滅を戦略目標とする日本軍には陥すべからざる戦術目標であった。

 説明板には、そういう意味の事が書いてあるのだが、ノンコにはいまいちピンとこない。

 四人のうちでノンコだけが100%令和の女子高生なのだ。日常生活に困らない程度には大正時代の知識がインプットされているが、こういうところまでは分からない。

「あ、爾霊山(にれいさん)いうのんは203高地の203に掛けたあるねんね!」

 陰陽道を司る野村家の娘ということになっているので、爾霊山という難しい字でも読むことには問題は無いようだ。

「汝の霊の山という意味やね……名前見ただけで、ぎょうさん人が死んだことが分かるねえ」

 自然にノンコが手を合わせる、それに倣って、わたしも、ブリンダと霧子といっしょに手を合わせる。

「203いうのは203番地いう意味?」

 プ

 三人そろって吹き出してしまう。

「ちがうわよ、標高が203メートルだったからよ。他の山やら丘は、ちゃんと名前が付いていたんだけど、あまりにありふれた丘なんで、標高でしか呼ばれなかったのよ」

 さすがに、霧子は知っているようだ。

 大正12年は、日露戦争から二十年足らず、学校で習う以外にも、周囲の大人たちからも、リアル日露戦争を聞いているのだろう。

 

 孫悟嬢の勧めもあったのだが、試合までには三日ある。体力や技術的に準備できることは知れているが、メンタルを強化するためには、こういうこともいいだろうとブリンダと話したのだ。

 孫悟嬢はロシアの怪物ラスプーチンのこともほのめかしていた。やつが来ているとしたら、本番の試合前に、なにかしら仕掛けてくる。大和ホテルでじっとしているよりは、青い空の下に身を晒している方が対応がしやすい。

 おそらくは、強行偵察程度の実力行使には出てくるだろうからな。

「ね、203高地の戦いって、どんなんやったん?」

 ノンコが真っ直ぐな質問を投げかける。

 瞬間、ノンコの頭に浮かんだ景色は笑ってしまう。

 兎のロシアと、亀の日本が203高地の頂上を目指して駆けっこをする。展開は『兎と亀』そのもので、途中亀の日本を見くびったロシア兎が昼寝をして、ゴールの山頂間際で兎に抜かされるというものだ。

 まあ、令和のほのぼの系JKなら、そんなものだろう。

 しかし、意外なことに、霧子の頭に浮かんだ203高地、さすがに、兎と亀ではなかったが、実際の戦闘とはかけ離れている。

 まるで、映画か芝居のような吶喊の声が上がり、数百の日本兵が弾雨の中を203高地の頂上目指して突撃していく様である。あちこちで、ロシアの弾に当って倒れ伏す日本兵はいるが、それは、まるでゲームの中のNPCのように、現実感が無い。弾雨の中で、ともすれば怯んでしまう兵を叱咤し、軍刀を煌めかせているのは、若き日の高坂侯爵、つまり霧子の父親だ。

 高坂侯爵は日露戦争には出ていたが旅順戦には参加はしていない。

―― 日露戦争の英雄となると、父親の姿が浮かんでくるんだろう、霧子の精神は健康で微笑ましいな ――

 ブリンダが、心で語り掛けてくる。

 ブゥゥゥン…………

 その時、目の前を一匹の蠅が横切った。

 そうだ、戦場と言うのは、蠅がたかっているものなんだ……思い至ると、瞬くうちに、蠅は、その数を増していった……。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • 孫悟空嬢       中国一の魔法少女
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ライトノベルベスト・『駅前書店のアルバイト』

2021-10-06 06:32:30 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『駅前書店のアルバイト』    



 
 ライトノベルの定義がよく分からなくなってきた。

 などの書き込みや質問がネットなどに見かけるようになって長いんじゃないだろうか。
 
 実際文章に挿絵が付いていればラノベだという説明なんかでいくと、源氏物語なんか、日本最古のラノベということになってしまう。
 なんとなく出版社のレーベルや日本図書コードの分類に頼っているのが書店の現状だ。

 四月は新刊書の季節で、書店の分類担当は時に頭を悩ます。分類の仕方や書架の配置によって売り上げが相当変わってくるからだ。『涼宮ハルヒの憂鬱』などは岩波文庫にもなっていて、そこそこ売れていたりするけど、もし、ハナから岩波文庫なら、あんなミリオンセラーにはならなかっただろう。

 以上は、あたしがバイトの身でありながら、閉店後のミーティングで感じたボンヤリした感想。
 
 あたしがバイトしてる駅前書店は名前の通り駅前……にはない。
 
 店のオーナーが駅前という珍しい苗字なので、そうなっている。
 
 で、皮肉なことに実際の立地は駅前商店街の一番外れ、アーケードの端っこギリギリのところにある。

 昔は良かったらしい。

 人々も鷹揚で、駅前商店街にあるんだから「駅前、当たり前」と言ってくれた。また、近くに私立の中学と高校の併設校もあったので三階建ての店では狭いくらいのお客さんがあったそうだ。今は、その私学も移転して、三階建てというハンパな書店は経営が苦しい。
 
 そして、21世紀になって「駅前」という、いかにも昭和じみた名称はジジムサク感じられた。実際商店街の売り上げは年々落ちていき、2001年からは、バザール・イーストエンドになった。名前の由来は、街の東部の大規模マンションとタイアップしている。
 日本語にすれば、ただの「東の外れ」なんだけど、イーストエンドと呼ぶとなんだかカッコイイ。
 おかげで、商店街としては、そこそこの売り上げを維持しているが、一人「駅前書店」だけが時代に取り残されている。
「取り次ぎも、うちみたいな外れの店には、いい新刊は回してくれないし、近頃はネットで買う人も多いしな……」

 分類担当ってか、支配人の西島さんも、どこか諦めムードの投げやりだ。
「いっそサクちゃんに任せてみようか」
 西島さんが投げやりに言った一言が、なんと駅前書店の陳列方針になっちゃった!

 高校から始めた駅前書店のバイトも、今年で5年目。バイトとは言え、それなりに店に愛着もある。

「ねえ、オジサン、なにか良い方法ないかしら」
 帰りに、お総菜を買いに寄った店の主に聞いてみた。
「まあ、今の出版不況じゃなあ」
「そんな一般論で逃げないでくださいよ。来年あたりは、商店会の会長なんでしょ。商店街から一軒でもシャッターの店出したら、広がっていくわよ」
「脅かすなよ。それでなくても隣町のショッピングモールに客取られてるんだから」
「でもさ、オジサン、青年部長だったころ、商店街を『駅前』から『イーストエンド』に変えて、商店街を蘇らせたって聞いてるわよ」
「あれはな……実は、神さまのお告げなんだよ」
「神さま!?」

 というわけで、商店街裏の栄恵神社にやってきた。
 
 神主さんもいない祠に毛の生えたようなお社。普段の管理は商店会の回り持ちでやっている。
 
「南無栄恵大明神さま、どうか、この佐久間絵里香に名案を授けたまえ!」
 
 お賽銭も500円と奮発した……が、なんの御告げも無かった。
 
 あんまり残念なので、お神籤の自販機に100円入れた。考えたらばかばかしい。こないだ清掃当番で、この境内を掃除したのは、わが駅前書店。このお神籤自販機にお神籤を補充したのはほかならぬわたしなのだ。

 開いて見ると、中吉(内緒だけど、お神籤の半分は中吉。入れた本人が言うんだからほんと)で、「果報は寝て待て」だった。

 その夜、夢枕に神さまが現れた。

「絵里香、お告げにきたよ♪」
 
 なんとも軽いノリで、女子高生みたいな神さまが現れた。見ようによっては、万年選抜の圏外になっちゃうAKBの子みたいでもある。
「え、あなた神さまなの?」
「そうよ。ま、居候だけどね」
 そう言えば、あそこの祭神は大国主命=大黒さま。こんなアイドルグル-プの研究生みたいなヤツじゃない。
「でも……」
「ああ、このナリ?」
「あ、いや、その……」
「あたし、あたし木花咲耶姫(このはなのさくやひめ)。ま、全国に祀られてるから、KSH48とでも呼んでもらおうかしら」
「あの、それはいいから、お告げを……」
 このままでは、仲間を呼んでライブになりそうだったので、恐る恐る聞いてみた。
「わかんないかなあ、このノリで。軽さよ、軽さ!」

 それだけ言うと、神さまは消えてしまった。

「軽さ……英語でライト、ライトノベル!?」
 
 そこまで思いついたが、最初に書いたようにライトノベルの範疇は広くてあいまいだ。

 で、あたしも開き直った。ライトノベルとおぼしき本をライト=軽い順に店頭の前に置いた。

『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』という四六判ではもっとも軽い本が前に来た。

 顧客のニーズに合ったんだろう、とかくスマホやらタブレットやら小物が多い現代人。軽い本は当たった。

 倍増とはいかなかったが、前年の二割り増し。あの木花咲耶姫とあたしには似つかわしい(^_^;)。
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