大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・076『フートン飲み会』

2021-10-29 09:32:01 | 小説4

・076

『フートン飲み会』 加藤 恵    

 

 

 大ざっぱに、人間、ロボット、ロボット的人間、人間的ロボット、そんなのがウロチョロしてる。

 それが『西』であるフートン。

 構成は『南』のヒムロカンパニーや『東』のナバホ村と変わらないけど、ウロチョロというところが独特。

 昼間から麻雀杯の音がするし、小鳥をかごに入れて、その鳴き声を聞き比べながらお茶をしている。

 ゆっくり太極拳をやってるグループ、中には和式の花札に興じている者や、チェスをやっている者も少数いて、その間を子どもたちが黄色い声をあげながら走り回っている。

 所どころには、屋台やくたびれたキッチンカーが、パッと見には分からないジャンクフードや飲み物を売っていたりして、子どものころにラボで見た『九龍城』の無秩序を思わせるが、けして不潔とか不健康な感じがしない。

「クスリを厳しく禁止しているせいかもしれないなあ」

 主席の周温雷がにこやかに無精ひげを撫でる。

 社長が、ざっとメンバーを紹介すると、もう十年来の知古のように接してくれる。

「母体が漢明だからね、中華風になってしまう。別に強制はしないんだけど、みんな、これがいいらしくて、まあ、緩いのは、西ノ島共通の空気だね」

「今日、村長といっしょに伺ったというのは……」

「ああ、B鉱区のパルスガ鉱床のことでしょ、いや、残念でしたね」

 もう事情を知ってる、油断がならない。

「ハハハ、目が怖いよメグミさん。別にスパイを送り込んでるわけじゃないんだけどね、西ノ島は、みんなフランクでね、たいていの噂は半日もあれば島中に伝わるんですよ」

「それでも、筋は筋だから、ヒムロ社長は仁義を切る。そういうところが、俺も主席も、島のみんなも好きだからな」

 村長が老酒をあおりながら、目をへの字にしている。

「いやあ、僕は、本当はコミュ障なんですよ。だからね、こうやって、直接顔を合わせることで、なんとか分かってもらえるように、心がけて……おかげで、こうやって、みんなと美味しい酒がいただけますし(n*´ω`*n)」

 まだ十分ほどしかたっていないのに、社長の前には、老酒の徳利が空になって転がっている。

「あ、メグミは呆れたでしょ、西ノ島の男は飲兵衛だって」

「あ、いえ、見た目とお酒の飲み方にギャップがあったもので」

「アハハ、メグミも遠慮なくやってください」

「はい」

 わたしは義体率七割を超えているのでアルコールなどいくら飲んでも平気なんだけど、飲んでも社長のような自然なフランクさは出せない。こういう海千山千の中に居ては、自分でも一番自然と思われる風にしているのがいい。

「シゲ老人は、社長とはトイレが縁の付き合いと聞いてますが?」

 主席は、みんなにちゃんと話題を振っていく。単に人好きなのか、気配りなのか、はたまた手練手管であるのか……おっと、こういうのは表情に出てしまう。老酒を半分だけ飲む。

「社長とは、金剛基地からのクサイ付き合いってやつでなあ」

 金剛基地?

「ああ、金剛山にあった、大阪ローカルの研究施設だった?」

「はい、主体は東大阪のオッサンの地味な研究所だったんですがね」

「わしも知ってる、OS基地が正式名称。Operating Systemの開発ベースだろ」

 村長が膝を向ける。

「アハハ、オッサンのOとSだ」

「なんだ、アハハ」

「尾籠な話だが、社長はションベンの仕方がきれいでねえ」

「あ、そういう恥ずかしい話は……アワワ」

「かまわん、シゲ、話せ!」

 嫌がる社長にヘッドロックをかませ、シゲさんを急かせる村長。いやあ、袖からはみ出る二の腕は赤松の根っこみたいだ。

「アサガオに打ち込む放物線が実に綺麗で『そんなに几帳面にやってちゃ、肩がこるだろ』って言ったら『あ、これが普通なんで』って頭を掻きやがる。変わった奴だと思ったけど、付き合ってると、この人の地だって分かって、分かった時には子分になってた」

「あ、僕はシゲさんを子分だなんて、思ってないから(;'∀')」

「いやあ、アハハ、みんな自発的に子分になっちまう」

「いやあ、そうだそうだ、そういうのが西ノ島全体にいい雰囲気を醸し出してると、主席としても感服してますよ」

「よしてください、照れます」

 顔を赤くして、壁を塗るように手を振る。

「いちど、聞こうと思っていたんだが」

「はい、なんですか、村長?」

「ヒムロ社長、おまえの体には、日本のインペリアルの血が流れてるって、ほんとうか?」

 村長が切り出すと、主席も口のところまで持ってきていた杯を卓の上に戻した。

 兵二もサブも、この話題は初めてなのか、ちょっと真顔になって社長に注目した。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
  • 村長                西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

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はるか・15『写真の意外な波紋・1』

2021-10-29 05:40:53 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト はるか・15

『写真の意外な波紋・1』   





 あっけなく、のぞみはホームを離れていった。

 見えなくなるまで見送って、ため息一つ。

 父と、父の新しい奥さんを見送って、はるかの『親の離婚から……』は幕が下りてしまった。

 この四カ月、無意識に大人ぶって、親の離婚から目を背け、割り切ったように、ZOOMERに乗ることと、演劇部にのめり込むことで逃げてきた。それに気づき、家族の復活を果たそうともがいて傷ついて……その間に大人たちは、新しい道を歩み出していた。

 父も母も、新しい父の奥さんも。

 その、大人道の三叉路で、いつまでも立ち止まっていたのは自分一人だけなんだ。

 寂しさと、安心と、寄る辺ない孤独がいっぺんにやってきた。

 

 え!?

 振り返ると、ケータイを構えたオネーサンが二人、スマホでわたしの写真を撮っている。

「ごめんなさい、あんまり可愛かったから……あ、ダメだったら消去するから!」

「あ、いえ……」

「よかったら、この写真送ろうか。ケータイ持ってるでしょ」

「はい、ありがとうございます」

 送ってもらった写真は、とてもよく撮れていた。

 一枚は、ちょっと寂しげに、のぞみを見送る全身像。

 もう一枚は、振り向いた刹那。ポニーテールがなびいて、群青のシュシュがいいワンポイントになって、少し驚いたようなバストアップ。

「このままJRのコマーシャルに使えるわよ」
 
 と、オネーサン。聞くと写真学校の学生さんだった。

 いつもだったら、すぐに「消して!」と拒絶した。でも、寂しさと、安心と、寄る辺ない孤独にやられて鈍くなってたのか、オネーサンたちの目がまっすぐだったからか、受け入れてしまった。

 オネーサンたちと別れてしばらく写真を見つめて……ひらめいた!

――これだ、『おわかれだけど、さよならじゃない』

 わたしは、ベンチに腰を下ろし、写真を見ながら、そのときの物理的記憶を部活ノートにメモった。

 
 この写真が、後に大きな波紋を呼ぶとは想像もしなかった。


 文化祭がやってきた。

 うかつにも気がついたのは、一週間前。

 わたしが、お父さんを新大阪に見送りに行ったその日。

 演劇部は、それくらい『すみれの花さくころ』に集中していたってことなんだけど、うかつは、うかつだった。

 逆に言えば、真田山は、それほど行事に関心がない。

 一部のクラブやサークルを除いて、みんなの関心は、三年生を中心にまず進路。就職や、推薦入試がこの時期に集中する。そしてバイトのことであったり、趣味や検定とか、要するに自分のことにしかいかない。

 しかし、迫ってきたものは仕方ない。

 クラスの取り組みも、そのころにやっと動きだした。

 でも「演劇部だから」を免罪符にして、クラスの取り組みからは抜け出せた。

 一応、クラブに集中はできる。 

 そして、これはいいニュースなんだけど、三年生の人たち、みんな揃って進路が決まったこと。

 タロくん先輩は念願かなって(なんせ幼稚園のころからの夢)大手私鉄に。

 タマちゃん先輩は、保育系のT短大。

 山中先輩はO音大に。

 当然ここにいたるまでには、稽古日程の調整が大変だったけど(わたしもお父さんの看護で二日ほど抜けた)タロくん先輩が、臨時ダイヤを組むように、その都度改訂してくれて、稽古場のモチベーションは下がることが無かった。

 しかし、先生の間で一悶着あった。

 乙女先生は、リハを兼ねて『すみれ』を演ろうという。

 大橋先生は、文化祭で、本格的な芝居をやっても観てくれる者などいなく。雑然とした空気の中で演っても勘が狂うだけだし、演劇部はカタイと思われるだけと反対。

「文化祭というのんは文字通り『祭り』やねんさかい、短時間でエンタティメントなものを演ろ」

 と、アドバイスってか、決めちゃった。

 わたしは、どっちかっていうと乙女先生に賛成だった。部活って神聖でグレードの高いものだと思っていたから。

 出し物は、基礎練でやったことを組み直して、ショートコント。そしてAKB48の物まね。

 こんなもの一日でマスター……できなかった。

 コントは、間の取り方や、デフォルメの仕方。意外に難しい。

 物まねの方は、大橋先生が知り合いのプロダクションからコスを借りてきたんで、その点では盛り上がった。ただ、タロくん先輩のは補正が必要だったけど。

 振り付けはすぐにマスターできた。しかし先生のダメは厳しかった。

「もっとハジケなあかん、笑顔が作りもんや、いまだに歯痛堪えてるような顔になっとる」

 パソコンを使って、本物と物まねを比較された。

 一目瞭然。わたしたちのは、宴会芸の域にも達していなかった。


 当日の開会式は体育館に生徒全員が集まって行われた。

 

 校長先生の硬っくるしく長ったらしい訓話の後、実行委員でもあり、生徒会長でもある吉川先輩の、これも硬っくるしい挨拶……。
 と思っていたら、短い挨拶の後、やにわに制服を脱ぎだした! 同時に割り幕が開くと、軽音の諸君がスタンバイしていて、五秒でライブになった!

 ホリゾントを七色に染め、ピンスポが、先輩にシュート。

 先輩のイデタチは、ブラウンのTシャツの上にラフな白のジャケット。袖を七部までまくり、手にはキラキラとアルトサックス。

 軽音のイントロでリズムを作りながら、「カリフォルニア シャワー」

 わたしでも知っている、ナベサダの名曲(って、慶沢園の後で覚えたんだけど)を奏でる。

 みんな魅せられて、スタンディングオベーション!

 でも、わたしには違和感があった。

――まるで自分のライブじゃない、軽音がかすんじゃってる。

 会議室で、簡単なリハをやったあと、昼一番の出までヒマになった。

 中庭で、三年生の模擬店で買ったタコ焼きをホロホロさせていると、由香と吉川先輩のカップルがやってきた。

「おう、はるか、なかなかタコ焼きの食い方もサマになってきたじゃんか」

「先輩こそ、サックスすごかったじゃないですか。まるで先輩のコンサートみたいでしたよ」

「そうやろ、こないだのコンサートよりずっとよかったもん!」

 綿アメを口のはしっこにくっつけたまま、由香が賞賛した。もう皮肉も通じない。

「なにか、一言ありげだな」

 さすがに先輩はひっかかったようだ。

「あれじゃ、まるで軽音が、バックバンドみたいじゃないですか」

「でも、あいつらも喜んでたし、こういうイベントは(つかみ)が大事」

「そうそう、大橋先生もそない言うてたやないの。はい先輩」

 由香は綿アメの芯の割り箸二人分を捨てに行った。

「わたし、やっぱ、しっくりこない……」

「まあ、そういう論争になりそうな話はよそうよ」

「ですね」

「こないだの、新大阪の写真、なかなかよかったじゃん」

「え、なんで先輩が?」

「あたしが送ってん……あかんかった」

 由香が、スキップしながらもどってきた。

「そんなことないけど、ちょっとびっくり」

 由香にだけは、あの写真を送っていた。しかしまさか、人に、よりにもよって吉川先輩に送るとは思ってなかった。でもここで言い立ててもしかたがない。今日は文化祭だ。

「あれ、人に送ってもいいか?」

「それはカンベンしてください」

「悪い相手じゃないんだ。たった一人だけだし、その人は、ほかには絶対流用なんかしないから」

「でも、困ります」

「でも、もう送っちゃった」

「え……?」

「「アハハハ……」」

 と、お気楽に笑うカップルでありました……。

『はるか 真田山学院高校演劇部物語・第18章』より

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