大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・251『銀之助からの手紙』

2021-10-17 12:34:58 | ノベル

・251

『銀之助からの手紙』さくら      

      

 


 酒井先輩、榊原先輩、申し訳ありません。

 父の仕事の都合で突然転校することになってしまいました。

 きちんとご挨拶しなくてはいけなかったのですが、その暇もありませんでした。

 せめて高校生なら、一人で大阪に残ることもできたのかもしれませんが、まだ小学生の妹を沖縄で鍵っ子にするのも憚られ、中学二年では親に付いて行かざるを得ませんでした。

 四五年は沖縄からは出られないと思います。僕は、文学関係の勉強をして、将来は、その方向の進路に進みたいと思っていますので、大学は大阪か京都と決めています。まあ、それも父の仕事と家の事情次第ということになるでしょうか。

 二年に満たない部活、それも今年に入ってからはコロナのために十分な活動ができなくて残念でしたが、楽しく有意義な部活でした。

 夕陽丘先輩とは入れ違いでしたが、運よく部活でご一緒させていただいて、文学への造詣の深さだけではなく、美しい好奇心に大いに触発されました。お会いになったら、よろしくお伝えください。

                                  夏目銀之助


 那覇郵便局の消印が押してある手紙は、きちんと万年筆で書かれてた。

「ふん、大人ぶって……」

 留美ちゃんは口をとがらせてるけど、寂しそうで、残念そうで、何回も手紙を読み返した。

「お礼言われるほどの部活はしてあげられへんかったね」

「仕方ないわよ、コロナだったんだから」

「せやね……」

 うちも留美ちゃんも口にはせえへんけど、銀之助の家も片親の家庭やったみたい。

 妹がおったのも知らんかった。

「きっと、家の事とか、かなり銀ちゃんがやってたんだろうね……」

 わが身と重ね合わせてため息をつく留美ちゃん。

「しかし、同じ学校なんだから、スマホなくても、せめて電話ぐらいしてくれば良かったのに」

 固定電話で先輩とはいえ女子の家に電話するのは敷居が高かったと思う……けど、留美ちゃんも分かってて言うてるさかいね。

 さて、頼子先輩にも伝えならあかんやろなあ……と思てたら、その頼子さんから電話がかかってきた(^_^;)。

『もしもし、ちょっと調べてみたんだけどね、防衛施設庁の辺野古基地担当の偉いポジションに夏目って人が今月付で任命されてる。たぶん、夏目君のお父さん。コロナも収まって、新内閣になって、そっち方面は大変みたいだよ……ま、夏目君が大変だったってことの説明にしかならないんだけどね。まあ、理解してあげよう』

「はい、分かってます、大丈夫ですよ、うちも留美ちゃんも」

『そっか、そだよね。ね、コロナも下火になってきたし、また、なにか楽しいこと企画しようよ!』

「はい、そうですね。言うても、スグには思い浮かばへんけど、心がけときます」

『うん。あっと、留美ちゃん居たら替わってくれないかなあ』

「ああ、ええですよ。留美ちゃん、頼子先輩」

「あ、わたし?」

「はい」

 スマホを渡すと、ちょっと緊張の留美ちゃん。

 でも、頼子さんがいろいろ喋ってくれてるうちに、目に見えて元気になっていく。

 まだ、高校二年生やけど、頼子さんの気配りの力はなかなかや。

 頼子さんにはプレッシャーかもしれへんけど、ええ王女様になると思う。

 電話の邪魔したらあかんので、本堂の縁側に出る。

 朝のうち残ってた雨も上がって、堺の空に日差しが戻ってきた。

 クチュン!

 Tシャツ一枚では、ちょっと涼しすぎでした。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

はるか・3『最初のデート』

2021-10-17 06:35:19 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト はるか・3

『最初のデート』  




「あ」

 振り向くと、吉川裕也がニコニコとイケメン顔で立っていた。

「もう、側にいるんだったら直接声かけてくださいよ」
「だって、怖い顔して歩いてんだもん。声かけづらくってさ」
「考え事してたから……ヘヘ」

 急場しのぎのホンワカ顔になる。

「デートしようぜ」
「デート、今から?」
「うん、今から。だって前から言ってただろう」
「う、うん」
「それとも、なんか先約でもあるのか?」
「ないない、ありませんけど……」
「じゃあ、決まり。これから大阪の原点を見にいこう」
「大阪の原点?」


 四天王寺の山門の前、西に向かって四車線の坂が下っている。

 西に傾き始めたお日様が、晩春の空を茜ににじませ、街全体がパステル画のように縁取りを柔らかくしている。

「これが大阪の原点さ」
「ここが?」
「この山門から、向こうの松屋町通り(マッチャマチドーリ)にかけてを逢う坂と書いて、逢坂。それが大阪の地名の元になった。もっとも昔はこんなに広い道じゃなかったけど」
「そうなんだ。大阪って、名前のわりに坂のない街だと思ってました。だって、昔は土偏の坂だったのに」

 乏しい知識を総動員して背伸びする。

「昔はこのあたりが海岸線で、このあたりから見える夕陽がとてもきれいなんで、ここから北の方を夕陽丘っていうんだ。新興開発の分譲地みたいな名前だけど、ナントカヶ丘って地名じゃ、ここが日本一古いんだ」

 博学ぅ、さすが生徒会長……。

「ここから北の方角にかけて、七つの坂があって、天王寺七坂っていうんだ。ちょっと歩くけどいいか?」
「は、はい」

 それから二人で北に向かい、少し行って愛染坂を下る。

 途中に愛染堂。

 かわいい山門をくぐると、境内は意外に広い。

 正面の金堂には愛染明王。「愛」の字がついてるわりには、全身真っ赤。手が六本もあって憤怒のお顔。正直おっかない。解説通り、愛欲を悟りに昇華させるのにはこれくらいのおっかなさがいるんだろうなあ。悟りに昇華できなかった母と元チチが頭をよぎる。

 奥に行くと多宝塔、大阪市で最古の建築物で、秀吉さんが造ったらしい。こんなものが街中に平然とあるとは、大阪もあなどれない。

 金堂の前に戻ると、向かって左に哲学の石。二人で座ってみる……なんだか賢くなったような気がする。
 右に、腰痛封じの石……これは後日お母さんに教えてあげよう。
 クルリと振り返って、吉川先輩が指をさす。

「あれが愛染かつら。桂の木にノウゼンカツラが絡んでいて、恋愛成就のご神木なんだぜ。夏になるとオレンジ色の花がいっぱい咲くんだ」
「へえー、すてき……」

 ちょっとトキメク。

「願掛けしてみようか……」
「え!?」

 おおいにトキメク……同時にとまどった。
 気づくと、周りに三組ほどのカップル。
 オジャマ虫になりそうなので境内を出る。

 さらに坂を下ると右手に大江神社のワッサカした木々が覆いかぶさっている。
 左はS学園。環境いいー……。

 松屋町通りに出て少し北へ、バイク屋さんが並んでいる。思わず陳列されたゲンチャリに目が行く……ホンダのお気にりが目につく。おお……東京じゃ、二十万はする。二割は安い。荒川の土手をホンダのZOOMER走っている自分の姿が浮かび、歩調がゆるむ。

「バイク好きなの?」
「え、ああ、ゲンチャリの免許だけ持ってんの。身分証明用にね」
「乗ってみるといいよ。自転車と同じ。世界が変わるよ」

 見透かされてる……のか、誰でも考えることは同じなのか……。

「わたし、こないだ世界が変わったばかりだから」
「あ、そうだな。東京から来たばっかだよな。大阪にまず慣れなくっちゃな」

 わたしのハグラカシをさらっと受け流す。

 自然な優しさと感じてしまった……。

「こっち、曲がるよ」

 大通りから、東に上る可愛い坂があった。「口縄坂」と石碑が立っている。
 口縄坂は幅二メートルくらい。途中でクニって曲がっていてそれが蛇みたく見える。口縄って、古い大阪弁で蛇のこと……って、今までの分も含めて吉川先輩の説明です。
 淀みなく、過不足なく、七坂とその周辺についてあれこれ解説してくれる吉川先輩。
 なんだかテレビの旅行番組みたい(ヘヘ)

 口縄坂を登り切ったところには『夫婦善哉』で有名な織田作之助の文学碑があった。織田作は、まだ読んだことがない(アセアセ……)

「これ、織田作の文学碑」

 サラっと指さす吉川先輩。
 わたしなんかよりずっと読書家なのかなあ……(もう、冷や汗)

 ゆるりとSの字になった二車線の学園坂を下ると、道沿いの石垣の上にOJ学園。
 ここも環境がいい。Y高校とは雲泥の差。ま、有名私学らしい。公立じゃ勝負になんないよね。
 部活のさんざめきが、かすかに木霊して降ってくる……なんだか青春ドラマの一コマみたい。
 切り通しの石垣の隙間には、早くも紫陽花が、密やかに蕾を付け始めていた。

 ふたたび松屋町通りに出て、少し北上。源聖寺坂を上る……小ぢんまりとしたお寺が続く。

 新幹線で素通りしただけだけど、京都ってこんな感じだろうか。お茶のコマーシャルにこんなシュチエーションがあったっけ……フフフ、黄八丈に桃割れの髪にしたくなってきた(江戸時代の町娘の姿よ♪)

 振り返ると、大阪の街並みに夕陽が美しく落ちていく。
 さすがに、四回も坂の上り下り。うっすらと額に汗、自然に顔が下を向いてしまう。

「少し休もうか」
「うん……」

 と、顔を上げたら……数秒かかった。
 目の前の三階建てが……その種のホテルだってことに(;'∀')。


『はるか 真田山学院高校演劇部物語』第7章より

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする