せやさかい・251
酒井先輩、榊原先輩、申し訳ありません。
父の仕事の都合で突然転校することになってしまいました。
きちんとご挨拶しなくてはいけなかったのですが、その暇もありませんでした。
せめて高校生なら、一人で大阪に残ることもできたのかもしれませんが、まだ小学生の妹を沖縄で鍵っ子にするのも憚られ、中学二年では親に付いて行かざるを得ませんでした。
四五年は沖縄からは出られないと思います。僕は、文学関係の勉強をして、将来は、その方向の進路に進みたいと思っていますので、大学は大阪か京都と決めています。まあ、それも父の仕事と家の事情次第ということになるでしょうか。
二年に満たない部活、それも今年に入ってからはコロナのために十分な活動ができなくて残念でしたが、楽しく有意義な部活でした。
夕陽丘先輩とは入れ違いでしたが、運よく部活でご一緒させていただいて、文学への造詣の深さだけではなく、美しい好奇心に大いに触発されました。お会いになったら、よろしくお伝えください。
夏目銀之助
那覇郵便局の消印が押してある手紙は、きちんと万年筆で書かれてた。
「ふん、大人ぶって……」
留美ちゃんは口をとがらせてるけど、寂しそうで、残念そうで、何回も手紙を読み返した。
「お礼言われるほどの部活はしてあげられへんかったね」
「仕方ないわよ、コロナだったんだから」
「せやね……」
うちも留美ちゃんも口にはせえへんけど、銀之助の家も片親の家庭やったみたい。
妹がおったのも知らんかった。
「きっと、家の事とか、かなり銀ちゃんがやってたんだろうね……」
わが身と重ね合わせてため息をつく留美ちゃん。
「しかし、同じ学校なんだから、スマホなくても、せめて電話ぐらいしてくれば良かったのに」
固定電話で先輩とはいえ女子の家に電話するのは敷居が高かったと思う……けど、留美ちゃんも分かってて言うてるさかいね。
さて、頼子先輩にも伝えならあかんやろなあ……と思てたら、その頼子さんから電話がかかってきた(^_^;)。
『もしもし、ちょっと調べてみたんだけどね、防衛施設庁の辺野古基地担当の偉いポジションに夏目って人が今月付で任命されてる。たぶん、夏目君のお父さん。コロナも収まって、新内閣になって、そっち方面は大変みたいだよ……ま、夏目君が大変だったってことの説明にしかならないんだけどね。まあ、理解してあげよう』
「はい、分かってます、大丈夫ですよ、うちも留美ちゃんも」
『そっか、そだよね。ね、コロナも下火になってきたし、また、なにか楽しいこと企画しようよ!』
「はい、そうですね。言うても、スグには思い浮かばへんけど、心がけときます」
『うん。あっと、留美ちゃん居たら替わってくれないかなあ』
「ああ、ええですよ。留美ちゃん、頼子先輩」
「あ、わたし?」
「はい」
スマホを渡すと、ちょっと緊張の留美ちゃん。
でも、頼子さんがいろいろ喋ってくれてるうちに、目に見えて元気になっていく。
まだ、高校二年生やけど、頼子さんの気配りの力はなかなかや。
頼子さんにはプレッシャーかもしれへんけど、ええ王女様になると思う。
電話の邪魔したらあかんので、本堂の縁側に出る。
朝のうち残ってた雨も上がって、堺の空に日差しが戻ってきた。
クチュン!
Tシャツ一枚では、ちょっと涼しすぎでした。