大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・239『爾霊山幻想・3』

2021-10-16 11:23:12 | 小説

魔法少女マヂカ・239

『爾霊山幻想・3語り手:マヂカ  

 

 

 

 ラスプーチン…………

 

 ひとこと呟いたまま霧子はフリーズしてしまった。

 時間が停まったわけでも、魔法をかけられたわけでもない。

 霧子ほどの女学生なら国史で習って知っているのだ、ロマノフ王朝に憑りついて滅びの原因を作った破戒僧。

 ロマノフ王朝最後の皇帝、ニコライ二世の皇后アレクサンドラを篭絡し、帝室の内側から帝政の溶解を計り、なかば成功させた僧衣の怪物。

 第一次大戦中の1916年、モイカ宮殿の新築祝いのパーティーに呼ばれて暗殺されている。

「そうだよ、魔法少女。肉体は滅びたが、この通り魂は生きている。しかし、魂というのは、なんとも頼りなくてね、こうやってかりそめの姿を現わすだけでも、この203高地のように幾千幾万の魂が必要なんだ。しかし、君たちの時代の言葉を借りれば3Dホログラムのようなもので、実に頼りない……」

 フッと音もなく地上に降りると、203高地の斜面に散らばる骸や残骸の上を素通しで通り抜けていく。

「ね、この時代のものは触ることもできない。まして、危害を加えるなんてできるもんじゃない」

 ホワ~ン

「ほら、君たちのバリアに当っても、まるでポリゴン抜けだ」

「ポリゴン抜け?」

 霧子には21世紀のCG用語は分からない。

「真夏の逃げ水、蜃気楼のような幻さ」

 ホワ~ン

「こっちに来るな!」

 ブリンダの眉がつり上がる。

「邪険にしないでくれ、ヤンキー魔法少女よ。こうやって、ちょっかいを出していなければ、この幻さえ持ちこたえられないんだ」

「このわたしに、何の用があるのかしら」

「霧子、あまり関わらない方がいい、何を企んでいるか分からないよ」

「わたしはね、君たちが日本の行く末を思うように、ひたすらロシアの行く末が心配なだけなんだ。いまのロシアにはロクな者が居ない。このままでは、滅びを待つだけになってしまう」

「何を言うの、アレクサンドラ皇后に憑りついてロシア帝室を倒したくせに」

「それは誤解だ、ロマノフ朝はロシアにとってはただの頸木だったのだよ。日本の帝室とは訳が違う。ロシア皇帝は、けして民の竈の心配などはしない、民を大御宝(おおみたから)などと思ったりもしない」

 こいつ、わりと本質的なところをついてくる。

 しかし……

「心配は分かるが魔法少女よ、もう少し語らせてはくれないか」

「止した方がいいよ、霧子」

「もう少しだけ、聞いてみよう」

「ありがとう、日本皇帝の藩屏たる高坂の姫よ……先の明治大帝が崩御される前に言われていたギャグをご存知か?」

「ギャグだと?」

「明治天皇が?」

「ああ、すぐれた皇帝であられたね……明治の元勲山形有朋が皇太子の為に造営した赤坂離宮をご覧になって『贅沢すぎる』と一蹴されて、使用を禁じられた」

「そうだったの? なかなか東宮様もお入りにならないから、お父様に聞いても要領を得なかった……」

「ああ、大使館でも聞いたぞ。完成と同時にモスボールされてしまったとか」

「そうだよ、アメリカの魔法少女。いま使えば莫大な維持費がかかる。かといって政府が作ったものを取り壊しもできず、将来、日本がふさわしい財政規模をもてば迎賓館にでもお使いになるおつもりだった」

「不要の戦艦をモスボール保存するのと同じだな」

 そうだ、赤坂離宮は、オリンピックのころに迎賓館として整備されて、令和の時代に至っている。

「さあ、そんな明治大帝が、晩年おっしゃられたギャグとはいかに?」

 わたしは知ってる。だが、ここは、霧子のためにも黙っていよう……ん? なにか乗せられていないか?

「分かりません……」

 霧子のやつ、言葉が改まった。

「大帝も傍近くに仕える者たちも、奥ゆかしいのだね……外にはもらしていないんだ」

「どんなことなんですか?」

「『比叡山か本願寺の偉い坊主になりたい』とおっしゃっていたんだよ」

「え、陛下がお坊さんに?」

「ハハ、その聞き方は昭憲皇太后と同じだね……霧子くん、きみにも皇太后と同じ優しさがあるのかもしれないね」

 こいつ、ツボを心得ている……というのは警戒のし過ぎか?

「どんな意味があるんですか?」

「日本のえらい坊さんはね、托鉢に出ると、たくさん喜捨してもらえるんだよ」

「キシャって?」

 ノンコは分かっていない。

「お金を寄付してもらうことだよ、いちどで何千円(大正時代の貨幣価値)も集まると新聞に出ていた。それを大帝はお読みになっていたんだね。皇太后……そのころは、まだ皇后であられたが、ご存知ないのでお聞きになったんだよ『お坊様に憧れておられるんですか?』とね」

 くそ、これは泣かせる話なんだ……

「大帝は、こうおっしゃった『そうじゃないか、あれだけの喜捨がもらえたら、京都に行幸できるじゃないか』とな」

「ま……」

 霧子が感動を発して、涙を浮かべている。

 そうなんだ、明治天皇は、日露戦後の日本の財政を知悉されていた、だから念願であった『死ぬまでに、もう一度故郷である京都の土を踏んでおきたい』という願いを控えておられた。天皇の行幸ともなれば、国民に負担をかけすぎると、ずっと遠慮されてきたんだ。

「それで、君たち日本人は、大帝が崩御された後、せめて、お望みのところへと陵を作って差し上げたね……その名も『桃山御陵』……なんと、密やかでおとぎ話めいた名前であることか……」

「そ、そうだったんですね……」

「そういう日本の心の片りんでも受け止めて、ロシアの糧としたいんだよ。魂魄となったわたしがロシアのためにできるのは、これくらいのことだからね。少々むさくるしいが、護国の鬼というところさ」

「ラスプーチンさん、あなたは良い人だったんですね」

「不器用なだけだよ、共感できて嬉しい」

 霧子は自然に手を伸ばしてきたラスプーチンと握手する。

 わたしたちも、しみじみしてしまって、自然に、それを見守ってしまった。

「スパシーボ、日本の少女! スパシーボ魔法少女! それでは、また会える日を楽しみに……」

 ごく自然にラスプーチンは霧子をハグして、祝福を与えるように額にキスすると、フワリと浮かび上がり、祝福するように十字を切りながら爾霊山の空に消えて行った。

 

 …………ちょっと待て!

 

 幻だったラスプーチンが、実体として霧子に触れていたではないか!?

「マヂカ、やられたかも知れんぞ!」

 ブリンダが吠えた。

「くそ!」

 霧子もノンコも、呆けたように幻が消えた空を見上げるばかりだった。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • 孫悟空嬢       中国一の魔法少女

 

 

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はるか・2『離婚から一週間』

2021-10-16 05:42:49 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト はるか・2

『離婚から一週間』   




 引っ越しして最初にやったことは、ネットの環境をソフト面でもハードってか、アナログな部分でも整えること。

 お母さんのメシの種だからしかたがない。

 つまり生活環境的には、テーブル、机、ベッドが整ったくらい。他のものはほとんど整理されていない。かなりの家財を荷ほどきしてないし、東京の家に残したままのものも多い。

 この未整理ぶりには、かすかな期待があった。

 離婚は衝動的なもので意外と簡単に元の鞘に収まるんじゃないかって……。

 しかし、そんなハカナイ期待を抱き続けていては、いつまでもゴミ箱のようなところで暮らさなくてはならない。

 仕方なくわたしは、オレンジ色の愛車で、ホームセンターと我が家を三往復した。

 ほんとうは、ゲンチャリが欲しかった。免許は、去年の誕生日がきて、すぐに取っている。

 でも、前の学校は、ゲンチャリに乗ることを禁止していたし、買うお金もなかった。


 自転車に乗れたのは四歳の時。

 小学四年の時に『サイドカーに犬』という映画を観た。その映画の中で、押しかけお母さんのヨーコさんが、押しかけられた薫(小学四年になっても自転車に乗れない)に言う。

「自転車に乗れると世界が変わるよ、大げさじゃなく、ほんとに」

 そう、ほんとに変わるはずだった。父さんの会社が倒産しなければ……。

 ハハ、おやじギャグだ。トウサンの会社がトウサンしなければ。
 
 なんて笑った拍子にペダルを踏み外しカクンとなって、車道にはみ出し、クラクションを鳴らされた。

 車のお尻に思い切りイーダをしてやろうと思ったけど、スモークガラスのベンツなので止めた。


 だいたい一回に自転車で運べる量はたかがしれている。仕方のない話なんだけど、三往復目の帰りにはくたびれ果てて、玉串川のほとりで小休止という状態。

 玉串川。良くわかんないけど、いいとこだ。

 川幅四メートルほどの小川ではあるが、川とその沿道はよく整備されている。川の両岸には、それこそ「視界没」の桜並木。今は葉桜だけど、満開の時はスンバラシイだろうなあと思って、川面に目を落とす。

 ゆるゆると流れる川には、鯉だとか鮒だとかが、流れに逆らってかわいく群れている。
 
 川面に映るわたし。

 セミロングの髪がタラーっと顔を覆って、お化けみたい。

 ポッケからゴム(シュシュなどというカワユゲなものではありません)を出してヒッツメにしてみた。

 いくぶん明るくなるが、やはり暗い印象……。

「しっかりしろ、はるか!」

 小声で自分を励ました……。


はるか 真田山学院高校演劇部物語』より

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