大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・254『お祖母ちゃんとスカイプ』

2021-10-28 09:23:25 | ノベル

・254

『お祖母ちゃんとスカイプ』頼子      

 

 

 記者会見見た?

 

 スカイプが繋がると、お祖母ちゃんの第一声。

「う、うん。ちょっとひどかった」

『ヨリコも、そう思うわよね……』

 そこまで言うと、お祖母ちゃんの目線は上を向いた。

 他の人が見たら、誰かがモニターの向こうから声を掛けたと思うだろうね……これは、お祖母ちゃんが身内にだけ見せるクセ。

 考えをまとめているんだ。

 たとえ身内でも「それを言っちゃあおしまいよ」って言葉がある。

 そうならないように、いったん咀嚼する。でも、この姿勢って、見る人によっては傲岸に見えたりするから身内以外には見せない。

 すごいよ、女王という立場は、そういう身に付いたクセさえコントロールしてしまうんだ。

「応援してくださった全てのみなさんに感謝しますって……間違ってるんだよね、お祖母ちゃん?」

『そうよ、多くの国民が、心配するからこそネットで発言したり、デモをかけたりするのよ……それを『誤った情報による誹謗中傷』と言ったり、無視したり……』

「わたしも未熟だけど、あれは無いと思ったよ」

『うんうん、他に感じたことは?』

「Kのお母さんのこととか、Kが海外に拠点を持つこととか、ぜんぶ自分がかかわったって……」

『そう、あれは、憲法に抵触する。ヤマセンブルグでも、けして許されないことよ』

「うん……似たような立場だから、ショックだった」

『これが、うちやイギリスだったら王制廃止の論議を巻き起こしてしまう』

「うん、ヨリコもそう思うよ。お祖母ちゃん」

『他には?』

「……ジョン・スミスやソフィーを大切にしなくちゃと思った」

『大切にするって、どういう意味かしら?』

「あの二人なら『刺し違えてもお諫めします!』って言いそうだもん」

『そうよ、今度の事で、いちばんショックだったのは、あの方の側近がまるで機能していないことよ……むかしの皇室の側近なら、切腹してでも諫めてるわ。頼子、他山の石よ、これは』

 お祖母ちゃんは難しい日本語を知っているよ(^_^;)。

「分かってる、けして他人事だとは思うなってことよね」

『そうよ、今度の事ではイザベラが、ひどく心配してね日本に行くってきかなかったのよ』

「え、サッチャー……いや、ミス・イザベラ……」

『大丈夫よ、そうやって年寄りが出ていっては若い者が育たないって、思いとどまらせたから』

「そ、そうだよ、コ口ナだってまだまだなんだし(^_^;)」

『12月1日の『ヤマセンブルグ練習艦遭難100周年慰霊式典』のことは大丈夫ね?』

 心配してるんだ、きちんと日付と正式名称まで言って確認してきたよ。

「大丈夫、ちゃんと制服も試着したし」

『あ、その写真は、まだ見てないわよ』

「あ、えと、このあと送るから、アハハ……」

『よろしくね、イザベラが心配しないように』

「う、うん、それからね……」

 慌てて話題を変えた(^_^;)

 

 その後、お祖母ちゃんはジョン・スミスとソフィアにも電話していた。

「ごめんね、わたしとスカイプしていたら、ソフィアたちにも言っておかなくっちゃって思っちゃったんだよね、お祖母ちゃん」

 すると、ソフィアがポーカーフェイスで、こう言った。

「いえ、陛下がお電話くださったんで、サッチャーさんは電話してこないことになりましたから」

 あ、そうか。女王が電話して、さらにダメ押しの電話って、ちょっと不敬になるもんね。

 わが王室は、連携がとれている。

 

 寝ようと思っていたら、さくらからメール。

 さくらも留美ちゃんも、そろって聖真理愛学院を受験することに決めたって!

 

 

 

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はるか・14『離婚から4か月 のぞみ』

2021-10-28 05:49:11 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト はるか・14

『離婚から4か月 のぞみ』 




 その翌週の木曜に、秀美さんは病院に来た。

 正確には、来ていた。

 九月に入って短縮授業の新学期。部活の無い日なので、学校から直行したんだけど、秀美さんの方が先に来ていた。

「お父さん……」

 ノックもせずに病室に入った。

 一瞬フリ-ズした……三人とも。

 秀美さんは、ベッドの脇に腰掛けて、お父さんと話していた。

 仕事の話らしいことは、その場の空気でわかった。

 ただね、距離の取り方が、二人の心の近さとして、チクッとした痛みをともなって、わたしには感じられた。

 距離には人間関係が反映される。かねがね大橋先生から言われていることだ。

 物理的距離が心理的距離を超えると、人は落ち着かなくなる。

 たとえ第三者として見ているだけでも……。

 だから稽古では、状況や人間関係に合った距離に気をつけて演技している。

 そして気をつけなくても、その距離が自然にとれるようになれば、演技としては完成。

 二人は、まさに、その完成された距離を自然にとっていた。

 そして、それは演技ではなく、現実の人間関係……。

「新しい商品、はるかちゃんも見てくれる」

 わたしがホンワカ顔をつくろう前に、秀美さんに先を越された。

「うわー、かわいい!」

 女子高生の常套句しか出てこなかった。

 しかし、その商品見本たちは、ほんとうにイイ線いってた。

 シュシュ(ポニーテールみたく髪をまとめるときの飾りみたいなの)のシリーズだ。

「次の春ものにね、ちょっとチャレンジしてみようと思って」

 水玉、花柄、ハート、チェック柄、といろいろ。

「今の子って、はるかちゃんみたいにセミロングとかが多いじゃない。それって、表情隠れちゃうのよね。あ、悪いってことじゃないのよ。時にはオープンマインドなイメチェンしてもいいんじゃないかって、そういうネライ」

「わたしも、ヒッツメにすることもあるんですよ。稽古のある日はお下げにしてますし」

「そうなんだ。でもさ、そういうのをさ、もっとポジティブにさ……」

 あっという間にポニーテールにされた。シュシュは群青に紙ヒコーキのチェック柄。

「お、いけてるじゃないか。実際身につけてもらうとよく分かるなあ」

「このシュシュ……」

「そう、あのポロシャツがヒント。商標登録されてないの確認できたから作ってみたの。そうだ、はるかちゃんモニターになってくれないかなあ」

「え?」


 転院は平日の昼前だった。

 わたしは担任の竹内先生に、電話で正直に言って新大阪駅まで付き添った。

 お母さんは、やっぱり来なかった。

「はるかちゃん、ほんとうにありがとう」

 車椅子を押しながら、秀美さんが礼を言う。

 静かで、短い言葉だったけど、万感の想いがこもっていた。

 わたしは、群青に紙ヒコーキチェックのシュシュでポニーテール。

「今度のシュシュの企画当たるといいですね」

「もう当たってるわよ。さっきから何人も、はるかちゃんのことを見ている」

「え……車椅子の三人連れだからじゃないんですか?」

「視線の種類の区別くらいはつかなきゃ、この仕事は務まりません。むろん、はるかちゃん自身に魅力が無きゃ、誰も見てくれたりしないけどね」

「はるかの器量は学園祭の準ミスレベル。父親だからよくわかってる」

「それって、どういう意味」

「客観的な事実を言ってるんだ」

――それって、わたしのウィークポイントにつながっちゃうんですけど、父上さま。

「今のはるかちゃんは、東京で会ったときの何倍もステキよ。そのシュシュが無くっても」

――それは、秀美さんの心映えの照り返しですよ。

 発車のアナウンス。車窓を通して、笑顔の交換。発車のチャイム。

 あっけなく、のぞみはホームを離れていった。

 見えなくなるまで見送って、ため息一つ。

 この、あきらめとも安心ともつかないため息一つつくのに、四カ月の月日が流れていた。わたし
には人生の半分のように思われた。

 空には、夏の忘れ物のような、小さな入道雲が一つ、ピリオドのように浮かんでいた。

 

 『はるか 真田山学院高校演劇部物語・第18章』より

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