大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・238『爾霊山幻想・2』

2021-10-11 12:45:29 | 小説

魔法少女マヂカ・238

『爾霊山幻想・2語り手:マヂカ  

 

 

 

 蠅の数が増えるに比例して死臭と腐臭が鼻についてくる。

 

 耐えかねた霧子がハンカチを出して鼻を押えると同時に銃弾の形を模した忠魂碑が姿を消した。

 ウ!?

 蠅に囚われていた目線を戻すと、爾霊山の山頂も斜面も日露双方の戦死者で埋め尽くされている。

 人の形をしている者は、四半分ほどしかなく、多くは、体の一部、あるいはまき散らされた臓器や骨だ。

 そのことごとくが腐臭を放って、変色している。それらには、無数の蛆が湧いて、蛆はどんどん蛹になって、蛹からは次々に成虫がかえって、203高地の斜面や頂上に蟠っている。

「ちょっと、これ幻ぃ!?」

 準魔法少女のノンコは鼻を押えながらも文句が言える余裕だが、霧子は真っ青になって息も停まりそうだ。

「マヂカ、二人でバリアを張るぞ!」

「分かった!」

「「エイ!」」

 日本式と米式の印を結んでバリアを張る。これで臭いはもちろんのこと機関銃の弾が飛んできても平気だ。

 ウオオオオオオオ!

 折から起こる吶喊の声、麓に目を向けると、蟻の群れのように一個連隊ほどの日本兵が軍旗を先頭に突撃してくるところだ。

「あんな旗かかげて、まるで目標にしてくれ言うてるみたいなもんやんか」

「この時代の作法だ、最前線の最前列には軍旗を翻すものだ」

「まるで、死亡フラグや」

 突撃をかけた日本兵の群れ目がけて、銃砲弾が飛び交う。

 フライパンの中で煎られるポップコーンのように爆ぜる日本兵、頂上からの砲弾が炸裂したところでは、新旧の戦死者がまとめてミンチにされていく。

「ここにいたんじゃ、神経がもたない!」

 わたしやブリンダには慣れた戦場だが、生身の霧子や準魔法少女のノンコは壊れてしまうだろう。

「どこでもいい、移動しよう!」

 打ち合わせる間もなく、二人でテレポの印を結ぶ。運が良ければ、元の爾霊山、ダメでも、この地獄のような戦場からは逃れられるだろう。

「「セイ!」」

 ワープした時のように、風景が暴風雨の中のようにスパークして飛び去る。風景が飛ぶということは次元は超えていない。物理的に移動しただけだ。

 砲声が遠雷のように轟いている……とりあえず、最前線からは離脱したようだ。

「え、運動会?」

 ノンコがスカタンを言う。

 運動会で使うようなテントが幾張も建てられたところに移動したのだ。令和JKの感覚では運動会のテント群にも見えるのだろう。

「……野戦軍司令部?」

 霧子には分かっているようだ。

 黒とカーキの軍服が入り混じっている。

 日本の軍服は日露戦争中に更新された。カーキ色の軍服が旧式の黒の軍服たちの中に混じっている。

 カーキ色は満州軍総司令部から督戦のために送られてきた児玉元帥と、その副官や従卒たちだろう。

 乃木軍は、頑迷な伊地知参謀長のために、正面攻撃しかしてこず、おびただしい戦死者を出してきた。児玉はいち早く203高地の有用性を発見して、攻撃目標の変更を乃木に進言し、この時期、ほとんど乃木の指揮権を奪うようにして、実質的な作戦指揮をしている。

 その真っ最中の野戦軍司令部にテレポしてきてしまったようだ。

 最前線の203高地も悲惨だが、乃木軍司令部の無能さを見るのも耐えがたい。

「ここに居るのも精神衛生に悪い」

 そう言うと、ブリンダも理解したようで、もう一度バリアごとテレポする。

 ドゴーーーーン!

 テレポした瞬間、斜面に張り付いた一個中隊ほどの日本兵が吹き飛んだ。

 ビシャビシャ

 爆砕された兵士の内臓や体の一部がバリアに打ち付けられ、すごいことになる。

 ヒイイイイ( ゚皿゚)!

 霧子が引きつったような悲鳴を上げ、ノンコは口を開けたままフリーズしてしまう。

「くそ、ここか、司令部以外には行かせてくれないようだ」

「仕方ない、司令部の方に……」

 言い終わらないうちに、再び司令部にテレポする。

 

 タタタタ タタタタ タタタタ

 

 砲声に混じって、乾いた連続音がする。

「あれ、機関銃の音ね」

 つい今しがたまで203高地の斜面にいたので、霧子でも想像がつく。距離の離れた司令部から聞こえるそれは、田んぼの耕運機のように長閑に聞こえる。

「あの音は何だ?」

 参謀飾緒を着けた中佐が同僚の少佐に聞く。

「さあ、なんでしょうなあ……それより、あの斜面の部隊は、なぜ伏せのまま起き上がらない?」

「あんなところに張り付いていては攻撃目標になってしまうのになあ……」

「様子を見に行かせましょうか?」

「そうだな、あれではらちが明かんしな……」

 草野球の観戦のように長閑だ。

「ひどい、あの参謀たちは、前線で起こっていることを何も知らない……」

 霧子がショックを受けている。

 タタタタ タタタタ タタタタ

「あ、また、あの音ですなあ」

「なんに、怯えているんだ、あの部隊は?」

「貴様らあ!」

 参謀たちの後ろで、小柄な将官が怒鳴り声をあげる。

「あ、児玉閣下!」

 参謀たちが直立不動の敬礼をする。

「あれは、機関砲(日露戦争のころは、機関銃を機関砲と呼称していた)だ! 引き金を引けば一秒間に十発ほどの弾が出る、あの部隊は機関砲の十字砲火を受けて、とっくに全滅しておるのだ!」

「え、そんな」

 急いで双眼鏡を構え直すのはましな方で、半分以上はゲシュタルト崩壊して、突っ立っているだけだ。

「貴様ら、それでも軍参謀か! なんで、こんな後方に居て前線に出ようとはせん!?」

「は、参謀長が、見るべきは大局であり、個々の戦闘状況に振り回される前線に出るべきではないと……」

「貴様ら……」

 このやり取りを聞いて、霧子は動揺する。父の高坂侯から聞いていた軍の様子からかけ離れすぎているのだ。

「なんで、参謀のみなさんは動こうとしないの……」

「児玉さんは満州軍の参謀長で、乃木軍の兵士には指揮権が無いのよ」

「陸軍中将なのに……」

「軍隊とは、指揮命令系統が命だ、直属の上官の命令でなければ、たとえ相手が元帥でも指図はできない。アメリカでもいっしょだ」

「乃木に談判する! 乃木はどこだ!?」

「は、閣下は……あちらの丘におられます」

 児玉は中佐参謀の双眼鏡をふんだくって、丘を望んだ。つられて、我々も目を向ける。

 バリアはよくできていて、指向した先を拡大して見せてくれる。

 一目でわかった、丘の上に白馬に跨った白髭の乃木将軍が見える。

「乃木さんて、オシャレやなあ……」

 ノンコが感心する。

 乃木は上は旧式の黒軍服、下は純白の乗馬ズボン、乗っている馬は国産馬ではあるが、サラブレッドの血が入っていて、姿がいい。ノンコがオシャレに感ずるのももっともだが、非常に目立つ。

「馬鹿か! あんな目立つ格好で立たせおって!」

「ハ、しかし、乃木閣下が進んで……」

「乃木は死ぬ気だ、見てわからんか!」

 児玉は自分の副官を呼ぶと、乃木のそれよりは数段落ちる自分の馬を曳かせて跨ると、乃木のいる丘目がけて駆けだした。

「児玉閣下、お待ちください、我々も……おい、馬を曳け!」

 さすがに乃木の参謀たちも従卒に馬を曳かせて、児玉の後を追って行く。

 あまりのお粗末さに、我々も声が出ず、背後に寄ってきた者に気付くのが遅れてしまった。

 

「ワハハ、見たか諸君、これが旅順における日本軍の実態だったのだよ」

 

 振り返ると、白い法衣を翻して十字架を掲げたラスプーチンが立っていた。

 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • 孫悟空嬢       中国一の魔法少女

 

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ライトノベルベスト・〔年賀状を書こう!〕

2021-10-11 05:58:02 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

〔年賀状を書こう!〕  




 年賀状を書こう!

 朝目が覚めて、一番に思った。

 毎年思っては書きそびれ、ひどいときは紅白を聞きながら書いている。
 佳世の年賀状は、正月明けのサインだね。と、友達に言われてきた。去年は開き直って七草粥のイラスト付けて出したら、結構受けた。

 せり、なずな、ごぎょう、はこべら、すずな、すずしろ、(   )

 にして、カッコの中に入るのは何でしょう? というクイズ付。七日に着いて、ちょうど七番目を抜いておく。
 苦肉の策だったけど「こんな手があったか!」と評判だった。
 でも、同じ手は二度とは使えない。それに「七番目はなに?」といっぱいメールが来たのにも閉口。七草ぐらい調べろよな。といって、書いた本人がなにが入るのか忘れている。まあ、思い付きだからしようがない。

 テスト明けだというのに、きちんと目を通し、柄物のフリースにジーパンといういでたちで顔を洗いにいく。誰かが朝風呂に入ったんだろう、洗面台の鏡は見事に曇って、自分の顔が判然としない。ま、長年付き合ってきた顔なので、多少曇っていても歯磨きに支障はない。

 トースト焼いて、ハムエッグこさえて乗っける。以前はマヨネーズを塗ってからトーストにしていた。美味しいんだけどカロリーが高いので、マーガリンだけで済ませる。冷蔵庫を開けると、古いのが切れていたので、新しいバター風味のマーガリンを開ける。何事も新しいものを開けるというのは気持ちのいいもんだ。スープもインスタントだけど、コーンポタージュ。コーンの粒々が嬉しい。こいつもの四袋入りのが切れていたので、新しいものを開ける。

 バコ

 今日はなにごとも新鮮な感じで「オーシ、やるぞ!」という気になる。

 去年みたいにアイデアを期待していては、いつまでたっても書けないので、パソコンから適当なのを選んで、まあ、ごく普通なのにしよう。ただ、下1/4ぐらいは空けておいて、一人一人コメントが書けるようにしておく。
 完全にパソコンとプリンターに頼ったのは、なんだかダイレクトメールじみていて味気ない。

 そうだ!

 パソコンのスイッチ入れてから思いつく。お父さんが九州に出張したときに買ってきたお土産の志賀島の金印のレプリカ。「漢倭奴国王」と、一見意味は分からないけどかっこいい。部屋に取に戻って、リビングへ……。

 パソコンが、まだ起動していない。いわゆる「立ち上がっていない」状態。この夏に買い換えたばかり。一分もあれば立ち上がるのに……おかしいなあ。
 あたしは、こういうものには弱いので、兄貴を呼ぶ「おーい、にいちゃん!」

 ……返事が無い。

 お兄ちゃんだけじゃなくて、お母さんもお父さんも居ない。

「え、今日なんかあったっけ?」

 リビングのテーブルにハガキの束があるのに気付く。喪中葉書だ……。

 娘、瀬田佳代が、この十二月十一日に……そこまで読んで、頭がくらりとした。

「うそ、あたし死んだの!?」

 冷蔵庫を開ける。マーガリンは新品が箱に入ったまま。カップスープも未開封だった。置いたと思った食器はシンクのどこにもない。

 洗面所の鏡は曇っていなかった……自分の姿が見えないだけだ。部屋に戻ったら着たと思ったフリースもジーパンもそのまま、クローゼットの中にある。あたしは、なぜか制服姿のままだ。

 そして、記憶が戻って来た。

 期末テストが終わって、嬉しさのあまり校門を出たらトラックが迫ってきた。あとの記憶は、さっき目覚めたところまで空白。

 もう一つ思い出した。

 春の七草の最後は……仏の座だ。

 

 

 

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