大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・248『骨伝導イヤホンマイク』

2021-10-03 14:06:45 | ノベル

・248

『骨伝導イヤホンマイク』頼子      

 

 

 それを言っちゃあお終ぇよ。

 大好きな寅さんの言葉だ。

 人が、メチャクチャなことを言ってしまって、周りの人たちに総スカンを喰らいそうになった時、寅さんは黙って、その人の横に腰を下ろして「それを言っちゃあお終ぇよ」って、ポツリと言う。

 寅さんが居たら、そう言ったと思う。

「国民からの誹謗中傷を受けて○○さまは複雑性PTSDになられ……」

 と、宮内庁の発表。

 よく読むと「国民からの誹謗中傷と感じられるSNSなどの書き込みを受けて○○さまは複雑性PTSDになられ……」とある。

 でも、国民のせいだと言ってるのと何も変わらない。

 

 もし、イギリスやヨーロッパの王族が同じようなことを言ったら、国民から総スカンを食って、王制廃止とかが社会運動として起こりかねない。

 ネットや動画サイトでは、たしかに誹謗中傷めいたものもあるけど、多くの人は「今度の○○さまのご結婚は心配です」と真面目に心を痛めている。読み返せば誹謗中傷を受けたとは書いていないし、発言も○○さまではなくて宮内庁の○○皇嗣大夫になっている。

「ねえ、ソフィー」

「なんでしょうか、殿下?」

「ヨリコでいいわよ」

「もう校門を出ましたから」

「まだ、学校の制服なんだけど」

「人の目があります、耳も……」

 そう言いながら、道の向こうの軽自動車に視線を送る。

「あ、週刊文秋……」

 わたしが気づくと、軽自動車は、ゆっくりと発進して角を曲がっていった。

「聞こえてやしないわよ」

 制服姿のわたしへの取材は、大使館からも学校からも禁じられている。

「指向性の強いマイクを窓の隙間から出していました」

「え、ほんと?」

「はい、いまはA宮家の内親王さまのことで、殿下のコメントを取りたがっていますから」

「わたしのを?」

「ええ、同じような立場ですから」

「そんなに値打ちないわよ、わたしのコメントなんて」

「そこから、ヤマセンブルグの将来が占えます。尾ひれをつければ、けっこうなスクープになります」

「そうなんだ……」

「これを使いましょう」

 サブバッグから、なにやら取り出した。

「チョーカー?」

「骨伝導のイヤホンマイクです。囁き声でで拾えます」

 カチャ カチャカチャ(イヤホンマイクを着ける音)

『聞こえる?』

『聞こえます』

『わたしの感想おかしい?』

『おかしくはありませんが、現時点では不適切です』

『ムー、なんで不適切?』

『ウォールストリートニュースの音声記事を送ります……』

『なになに……』

―― 日本エンペラーの姪であるプリンセス○○は、マスコミやネットの悪意ある情報でPTSDを発症され…… ――

『なに、この歪んだニュースは!?』

『現時点での世界の報道は、もう、これ一色です』

『グヌヌ』

『殿下が歯ぎしりされても、現時点では……』

『分かってるわ、ごまめの歯ぎしりって言いたいんでしょ』

『この件に関する殿下の御発言を情報部のコンピューターにかけてみました』

『いつの間に!?』

『女王陛下の魔法使いですから』

『くそ……』

『お聞きになりますか?』

『いちおう……』

『では……』

 プツっと音がして、CPの人工音声に切り替わる。

『殿下も、本当の恋をしたら真実が分かります』

「ちょ、なによ、これ!?」

『声が漏れてます』

『グヌヌ……』

 もうちょっと文句を言ってやりたかったけど、さっきの軽自動車が戻ってきたので、残念ながら中断。

『阿倍野で、おいしい関東炊きお店を見つけましたので、行きましょう』

『え、コロナあるよ』

『警戒は三日前に解除されましたよ』

『え、あ、そうだった』

 一つの事に囚われると、他の事が見えてこない。

 ちょっとだけ反省……したふり。

 どうせ、このこともお祖母さまには筒抜けなんだろうから……。

 

 

 

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ライトノベルベスト『わたしは必要以外スマホを見ない』

2021-10-03 06:33:01 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『わたしは必要以外スマホを見ない』  




 みんな発声器官が退化して100年たったら喋れなくなるかも……。

 と思うくらい電車の中はスマホだらけ。
 ま、8割がやってるね。中にはモバゲーとかもあるんだろうけど、画面見ながら無言であることはいっしょ。

 あたしは思う。日本人の声を出す時間は20世紀の半分も無いんじゃないだろうか。

 あたしもスマホ持ってるけど、緊急必要なときしか返事しないことを、家族にも友だちにも言っている。で、実践してるもんだから、人の半分もメールが来ない。で、栞ってやつは、そういうやつなんだと思ってくれているから気が楽だ。

 あたしが突っ立ってる前の座席にも男子高校生が座って、チマチマとスマホをいじっている。

 自分で言うのもなんだけど、あたしは平均以上にはイケてると思う。

 街を歩いていて視線を感じることもしばしばある。

 でも、この男子高校生は三日間(偶然なんだろうけど)いっしょになっている。並の神経してたら一瞥ぐらいはくれると思う。

――こいつはゲイか?――

 S駅で隣が空いたんで座ってみた。そいつのスマホが丸見え。どうやらラインをやってるらしい。チラ見すると相手は女の子らしい。T駅につくころ写メが送られてきた。ケバくはないけどパープリンな女子が写っていた。やつは微かにニヤケた。

 ゲイというわけではなさそうだ。

 U駅で、そいつは降りた。

 降りながらもスマホからは目を離さない。当然車内の何人かとはぶつかるってか、こすれ合いながら降りて行った。あたしならムカつくが、こすれ合った人たちもスマホをいじっているので知らん顔。杖ついたお爺さんが一人ムッとした顔をしていた。

 あたしは想像力が豊か……とは言いにくいけど、妄想力は人一倍だと思う。

 あいつの替りに座ったオネエサンは、友だちが昨日食べたスィーツを見比べて感心している。当然あたしを含め車内のことには無関心。
 で、あたしは思った。あのスィーツ、食べる前の姿ではなく、リアルタイムで変化したのが出てきて、ついでに臭いまでついていたら面白いだろうなと思う。
 そう思うと、自然に笑いがこみあげて吹いてしまった。女の勘だろうか、オネーサンは、あたしの妄想が分かったような顔で、一瞬あたしを睨んだ。今日初めて見た人間的な反応。なんだかホッとした。

 あたしがガキンチョのころAKRの『なんとかひらり』てのが流行った。

 通学の駅で、カッコよくスカートひらめかせてすれ違ったのが日ごろ憧れてる男の子だったとかいう歌。

 この歌はスマホがあっては成立しない。ながらスマホでは、すれ違った相手が誰なのか分からないもんね。

 あたしの人生、まだ17年だけど、世の中変わったと実感。

 その日家に帰ると、お祖父ちゃんがきていた。練馬区から来ているから電車を使っている。

 で、聞いてみた。

「ね、お祖父ちゃん。スマホどう思う?」

「須磨帆……源氏の何帖だったかな?」

「朧月夜との仲が発覚したあとだよ」

 どーよ、あたしの機転の効き方と教養の高さ!……てのはさておき、ここまでズレてると清々しい。

 電車の中でスマホいじってるのは8割だって言ったよね。

 それって2割はスマホを見てないってことなんだけど、たいていは寝てる人。たぶん、仕事帰りとか塾帰りでクタクタな人。あるいは、運悪くスマホが電池切れ。

 ネットニュースの片隅に電車の中で亡くなってしまい、終点まで行って車両点検の人に発見されたってのがあった。

 ずっと、シートで寝てるみたいだったんだって。つまり2割の人よ。

 寝てるか死んでるかぐらい、近くに居たら分かるだろと思う。わたしなら、同じ車両に乗ってたら気が付くよ。

 みんな、スマホばっか見てるから気が付かないんだ。

 で、亡くなった人の名前を見て驚いた。

 

 うちのお祖父ちゃんだよ!?

 

 こないだうちに来たのは病院帰りだったって、あとでお母さんに聞いた。

 スマホ見てなくても、ダメなやつはいる。わたしのことだけどね…… 

 

            

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