銀河太平記・073
「……それは残念だったなあ」
社長の説明が終わると、いかにも残念そうに肩を落とすナバホ村村長。
「お互いの鉱区に跨っているようなら、共同で採掘とも思っていたんですけどね……」
ホログラム表示された島の立体地図には南の氷室カンパニーと東のナバホ村の鉱区が重なっているのが窺えた。
こういう場合は、双方が権利を主張して、もめ事の種になるのが常だ。
そういうややこしいというか、微妙なところで発見されたものは南(氷室カンパニー)と東(ナバホ村)と西(フートン)で情報交換を行うことになっているのだ。それも、双方の代表者が顔を合わせて。
「火山の深層部にあったものの一部が吹き飛ばされて出てきたものだと、うちの技術者の見立てなんだ」
「それについては、ワシが」
シゲさんが前に出る。
「じゃ、うちもザブに引き継ごう、おい、ザブ!」
「ザブは、まだ坑内です」
ヘルメットの若者が坑道の入り口を差す。
「だれか、ザブを呼んできてくれ、ヒムロ社長も忙しい体なんだからな」
「なんなら、ワシの方が足を運ぶが」
「いや、万事、お互い対等にいかなくちゃ、なあ社長」
「ああ、待たせてもらいましょう、シゲ」
「うい」
「そちらは、新人さんかな?」
村長がわたしに注目した。
「ああ、一昨日からね。メグミって云うんです。こう見えて、メカニックの腕はななかですよ」
『メグミにバージョンアップしてもらいましたあ(^▽^)/』
「おお、ニッパチ、リアルハンドを付けてもらったのか!?」
『はい! 夕べの宴会じゃ、この手で酒の肴をいっぱいつくりました!』
「それは、すごい。うちのサンパチにも付けてもらえないかなあ」
「サンパチ?」
「ああ、ニッパチの兄弟だ、サンパチは?」
「西のフートンに行ってまーす」
「手が空いていたらいつでもやらせてもらいますから」
「そうか、じゃ、また都合のいいときに……おお、上がってきた」
ウィンチの音がしたかと思うと、坑口のゲートが開いて、他の村民よりも煤けた二人連れが現れた」
「急いでほしいが、取りあえず顔と手を洗ってこい!」
一人はペコリと頭を下げて、もう一人はノッソリと手を挙げて洗い場に向かった。
「仕事熱心が取り柄なんだ、もう少し待ってやってくれ」
「ああ、こちらこそ急かせるようで済まない」
「そうだ、あのペコリと頭を下げた方も、うちの新人なんだ。火星で宮仕えをしていたらしいんだが、なかなかの働き者だ」
「ほう、火星から」
社長が興味を持った。西ノ島は人の素性の詮索をしないところだからな。
「西のフートン、ちかごろは、どうです?」
「ちょっと手を伸ばし過ぎているかな……周も腕の見せ所と言ったところだろう。少しだが、ピリピリしている。うちの新人が進んで素性を明らかにしたのは、そういう空気を西ノ島全体のものと考えていたみたいだしな」
「狭い島だ、仲良くやっていけるといいねえ」
「明日にはフートンの方にも伺おうと思ってます、周さんともお話しできるといいんですが」
「ぜひとも頼むよ。ヒムロ社長は俺と違って人あたりもいい。あと、五年もがんばれば、西ノ島の未来も開けてくるはずだからな」
「いえいえ、とても僕なんか、村長の『いざとなったら、このナバホが!』っていう後ろ盾があっての事です」
「おたがい、良き隣人というところだな」
お待たせしました!
洗い場の方から元気な声、振り向くと、先ほどの火星人がザブを急き立てながらやってくる。
その汚れが取れて綺麗になった顔……見覚えがある。
※ この章の主な登場人物
- 大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
- 穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
- 緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
- 平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
- 加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
- 姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
- 扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
- 本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
- 胡蝶 小姓頭
- 児玉元帥 地球に帰還してからは越萌マイ
- 森ノ宮親王
- ヨイチ 児玉元帥の副官
- マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
- アルルカン 太陽系一の賞金首
- 氷室 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
※ 事項
- 扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
- カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
- グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
- 扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
- 西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地